再会は熱く、返り討ち
まず最初に向かったのは【剣術の修行場】だ。道中にも様々な修行場が建てられており、探すのになかなか手間取ってしまった
「こっちは意外と洋風……というか中華風?」
【魔術の修行場】が和風だったのに対して、【剣術の修行場】は赤などを基調とした建物に紫色の装飾が施された看板に金色の文字で【剣術の修行場】と書かれている。光源が特徴的な提灯のようなものになっているのがより中華感を際立たせている。
「そういえば最近、中華たべてないなぁ~……料理を極めるってのも悪くないかも。これ終わったら【調理の修行場】でもさがしてみよっかな」
この世界に来て、歩くことと同じレベルまで使い慣れてしまった独り言をぼそぼそと口に出す。ミライと話すようになったらこの独り言の量も収まると信じたい。
謎に、ここにいるだろうという確信めいた気持ちと、いなかったらまた探すのめんどくせーという気持ちで胸をいっぱいにしながら扉を開ける。
結論、この広い世界をしらみつぶしに探すことを覚悟したミライ探索の大冒険だったが、一発目でぬるっと終わってしまった。
【魔術の修行場】同様に外から見た時と比べて、あきらかに空間が広くなっている室内にポツンと人影が見える。天井も例にもれずどこまでも高く、床は一面が畳でできている。しかも結構足触りがいい
ちょうど入ってきた扉と反対側を向いてしまっているため顔は確認できない。こちら側からは、後頭部と背中しか見えない。だが、身長的にも雰囲気的にもミライで間違いはない。
ミライが木刀を振り回していた。足元にはどこから持ってきたのかわからないが、おそらく剣術について書かれているであろう本が丁寧に置かれている。
だが、いくらPPWでもミライは素人すぎるようで、物凄く様になってない。
こんなもので戦えばせいぜい注目を集めることしかできないだろう。まるで赤子がおもちゃのカラカラを振り回しているようだ
「にしても行動は早いな~もう木刀持ってるよ…まだ20分くらいしかたってないでしょ…」
行動の速さだけは褒めるべき点だろう僕の場合20分のうちにできたことといえば一日分ののどを使って大声で叫ぶことくらいだ。
さすが、いつでも異世界に飛ばされた時のことを妄想しているだけはある。
そんな関心をしていると、心の中の悪魔が今にも木刀で自分を殴って自滅してしまいそうな弱弱しい太刀筋をしているミライの背中をみて囁いた
(そうだ、ここから火球でも放ってやろうか…フッフッフッ)
そういえば魔法を使えるようになったはいいが、まだ対人らしい戦いも何もやってないのでどこまで人間に通用するのか気になるところだ。
多分、ミライは今この【剣術の修行場】に僕が入っていることに気づいていない。
その証拠に、僕が入ってきたにもかかわらず一度も振り返ろうというそぶりすらしていなかった。
チャンスは今しかない。
お試し感覚でまずは、炎の球をイメージする。
大けがをされては困るのでできるだけ小さめなものを作る。火球放つといっても、本当に驚かすくらいでいいのだ。
イメージがまとまったところで一か所に魔力を集める。
魔法というものは意外と単純で、魔力にイメージを載せるだけである。すると勝手に魔力はイメージ通りに変化してくれる。
炎をイメージしたら炎に、水をイメージしたら水にという具合である。つまるところ魔力というのは『なんでもできる、なんにでもなれる便利な力』をかっこつけて魔力と称しているだけだ
魔力はどんな生き物にも体中を血液のように流れている。
したがって魔力を一番効率的に一か所に集められる場所、、、すなわち『脳』である。
おでこのあたりから熱と光を感じる、うまく火球は作れたようだ。周りから見た時の見栄えは悪いが、ミライの安全のため調整のしやすさ重視で魔法を使うためには仕方がない。
火球ができたらあとはもう簡単だ。大砲でもカタパルトでも何でもいいからとりあえず放つイメージを火球に加えるだけだ。
今回はコントロール重視のため野球選手をイメージする。火球の大きさもちょうど野球ボールほどだったのでイメージがしやすい
そこまでしてやっと、火球を放てる
コントロールも完璧にできたため、当たったと確信した、、、、したのだが、、
急にミライが振り返り、剣をバットのように使い、火球を打ち返してきた。しかも、こちら側に当てる気満々な見事なまでのピッチャー返しだ
「な゛あ゛に゛ぃ゛」
規格外の危機察知能力で行われた予想外の反撃に一文字一文字に濁点が入るような奇妙な声が出る。
(だか、僕の反射神経をなめるんじゃあない‼)
理解が追い付かずに立ち尽くしたまま火球にぶち当たるなんて馬鹿な真似はしない
幸い距離は離れていたので着弾までは4秒くらいかかる。
その間に、魔法を使い自分の体がすっぽりと隠れるほどの壁を立てる。
ちょうど目に入ったものが畳だったため炎に弱そうな畳製の壁になってしまったが、火球くらいは防げるだろう
畳を作りながら同時進行で反撃の準備もする。
というのも、壁を作っている途中にミライ自身がものすごい勢いでこちらに向かってきているのを確認したためだ。
「チッ!返り討ちなんてあったらかっこつかねぇ!」
使いなれない舌打ちを無理やりしようとしたせいで勢いよく「チ」を発音しただけになってしまい、かっこなんてみじんもなくなったが、今できる最大限の反撃をするために思考を加速させる。
「投石ならいけるか?」
頭は今、壁を作るので精一杯なため、比較的血管の多い肝臓あたりから石の塊を放つ。
人の拳ほどの石をかなりの速度で放つ技だ、気絶程度は免れないほどの威力はあるだろう。
弾数も十個ほどにしており、その中の五個は追尾型だ。
突然のことに多少はびっくりしたが、うまくカウンターを決めれただろう。
それに加え、確実に当てるため火球の五倍ほどの速度で放ったため当たらないということは考えられない。
おとりの石を二、三個を打ち落とすのが関の山だろう、本命の追尾弾は必ずあたる!!
「勝ったあああぁ‼」
相手はこの世界に来たばかりの、魔法もろくに勉強もしてなく、剣術も初めてに二十分程度のミライにあの技を防ぎきることができないことは目に見えている。
勝ちは確定した——とおもったが……
確実に当たる位置にいたミライに放った石は、誰にも当たらなかった。
放った先にいたはずのミライがその場から消えていた。
消えたという表現がこれほど適切に使える場面もそうそうないだろう
目の前から音もなく跡形もなく消えたのだ。
目を離した時間は2秒もないはずだ。
唯一確認できるのは、こちら側に高速で向かってくる追尾弾のみ。
「あえ?」
自分でも、間抜けすぎると思うほどの声が出てきて固まっていた。さすがに予想外すぎたため反応も遅れてしまう。
長く短い時間を要し、ミライが瞬間移動のような技を使いどこかへ移動したと悟る。
(どこにいっ―)
だが、悟るのが遅すぎたようだ。
「はい、オレの勝ちですねぇ。」
姿を消したはずのミライがいつの間にか、僕の後ろに立っていた。
後ろに立たれてしまっては、ミライと追尾弾の直線状に僕が入っている状態になる。
つまり、ミライを狙った追尾弾が僕をめがけて飛んでくるということだ。
そこまで思考が至ったころにはもう遅かった。
超がつくほどの威力を誇る石が腹のあたりにクリーンヒットする。
短時間での二度目の気絶に入ろうとする最後の景色は、満面すぎるほど満面の笑顔を浮かべるミライの顔だった。