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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第97話 揺さぶられる感情

 夢を見た。

 魔王城の乗り込む直前の夜の夢だ。

 鬱蒼とした森の中で焚火の光が周囲を僅かに照らす。


 そこには勇者アイトと回復と支援を得意とする聖女、強固な守りで前衛をサポートする盾騎士(タンク)、強力な魔法攻撃で後衛から攻める賢者、多彩な技と道具で翻弄する盗賊(シーフ)


 所謂勇者パーティと呼ばれる五人だ。

 その五人は各々が明日生きているかわからない未来に不安を抱きながら、人類のために死ぬ覚悟を整えていた。


 散々殺し合ってきたんだ。

 今更和平の交渉など可能性は微塵もないだろう。

 相手は世界最強と呼ばれる魔王。

 倒せなければ世界が終わる。

 それだけは絶対に阻止しなければいけないことだ。


「なぁ、一つ作戦を思いついた。成功率は高いと思う」


 アインがポツリと言った。

 その言葉に残り四人が静かに耳を傾ける。

 魔王討伐という夢を叶えるためなら、可能性が高い方法を選択するのがベター。

 それが思いついたとなれば、願ってもないことだ。


「相手の守りは強固だ。地道に行っても数で潰される可能性がある。

 だったら、俺が先に魔王の所まで行って、お前達は邪魔が入らないように迎撃してくれ」


 その言葉に四人は困惑した。

 当然、彼らは全員で魔王に挑むとばかり思っていたから。

 アイトは言葉を続ける。


「もちろん、一人では勝ち目がないことはわかっている。

 だから、俺の行動は単なる時間稼ぎだと思ってもらっていい。

 つーわけで、雑魚蹴散らしたら助けに来てくんない?」


 それがアイトが仲間達に向けた最後の笑みだった。

 その後、魔王討伐作戦が開始されると、アイトは仲間達の顔を見ることは無かった。


 その時の、アイトは確かに思った。

 これで良かった、と。





 アイトは目を覚ます。

 いや、その言葉は正確ではない。

 目を覚ましても見える世界は暗闇なのだから。

 正しく言うなら、意識を覚醒させたである。


 勇者は体を起こす。

 一先ず魔力を展開させて周囲を探った。

 そして、すぐに違和感を感じ取った。


 自分が目覚めた場所が森の中ではなかった。

 正直、今でも生きていることにびっくりだが、それと同じぐらい周囲は安全だった。


 なぜなら、今いる場所はどこかの民家の中だったからだ。

 黒い世界に白い線が情報を与えるように輪郭を作る。

 それによって理解できたことだ。


 目元を触ってみれば布が巻かれている。

 ダメージを受けてからだいぶ時間が経ったので、回復魔法でももう直せない。

 それでも巻かれているのは気遣いからだろうか。


「おや、起きたかい~。随分とお寝坊さんだね」


 フワッとした優しい声に耳を傾ける。

 少女らしき輪郭が近づいてきた。

 もう少し精度を上げてみよう。


 とろんとした目つきに長いまつ毛、それでいて髪はふわっと二つにまとめて毛先近くで縛っている。

 後、魔族特有の角――彼女は巻角のようだ――とアホ毛がある。


 背丈は百五十センチはあるかというぐらいで、とにかくおっとりとした雰囲気が伝わってきた。


 少女は淡いピンク色の瞳に、髪色は魔王と同じワインレッドだが、そこまでの情報はアインにはわらかなかった。


「君が助けてくれたのか?」


「そうだよ。あんなところで倒れてちゃ見過ごせないって。

 ボクが見つけなければ、今頃こわ~い魔物さん達のご飯になってたところだよ?」


 まるで年下に対して話すような口調。

 見た目からしても明らかにこっちの方が年上だ。

 年齢は今年で二十二歳になる......たぶん。


 アイトは助けられたことに感謝こそ思うも、スッとお礼の言葉が出ることは無かった。

 それは彼自身が本当に生きることを望んでいたか分からなかったからだ。


「名前は? 俺はアイトだ」


「ボクはミュウリン。一人称が変だと思うけど、気にしないでね~」


「ここでは一人で暮らしてるのか?」


 アイトは周囲を探るように顔を左右に動かした。

 今いる場所は小さな集落のような感じらしく、人であろう大小様々な魔力が動いている。


 その人達に少なからず家族らしき似たような魔力を感じるのに、目の前の少女からは似たような魔力を感じることが無い。

 もっとも、魔王並みの魔力の持ち主などそうそういてもらっては困るが。


 ミュウリンは囲炉裏のような場所でぶら下げた鍋を木のお玉でかき混ぜる。

 中身のスープをすくって味をを確かめた。


「うん、美味しい」


 そう言葉を零せば、小さなお椀にスープを取り分けた。

 今度はそれをアイトの近くに持って来れば、小さいスプーンですくって口に近づける。


「はい、あ~ん」


「え、あ、うん......」


 アイトはミュウリンの行動に戸惑いつつも、お腹が減ってたのでスプーンを口に含んだ。

 熱いスープが喉の奥へ瞬く間に通り抜け、じんわりと体の中に沁み込んでいく。


「美味しい......」


「それは良かったよ~」


「っ!」


 アイトはつい漏れてしまった言葉に恥ずかしがった。

 顔をそっぽ向けるも、気配は少女の反応を確かめていった。


「ボクは一人だよ。もう数か月前からね」


 突然の質問の返答。

 ミュウリンの独特なペースにイマイチ乗り切れない。

 一先ず答えてくれたのだから、話を続けてみよう。


「ミュウリンの両親は戦場に行ったのか?」


「お母様は弟を生んですぐに亡くなっちゃったし、お父様はそうなんじゃないかな。

 だって、『俺は城の王としての役目を果たさなきゃいけない』って言ってたし」


 アイトは急速にのどが渇いた。

 ミュウリンが親を敬称をつけて呼ぶことや、父親が「城の王として」と発言したこと。


 それらと少女の関係性を結びつけることによって生まれる答え。

 想像に難くない。

 この子はまさか――


「魔王の娘なの、か......?」


 震える指先を向けて聞いた。

 その問いに少女はサッと答える。


「そうだよ」


 瞬間、アイトは立ち上がった。

 アイトが戦って勝利した魔王は人類の最大の敵とされた。

 もともと人間よりも素の力が強く、更には圧倒的な魔力を有している。


 攻撃は一番軽い攻撃で威力が大砲以上。

 意図的に力を振るえば、もっと大きな力を出せるだろう。

 一人で大国を滅ぼせるレベルの力を持つ魔王が軍を率いて攻め込んできた。


 魔王が先陣切って戦った訳では無いにしろ、そんな魔王に触発された先鋭魔族の一隊あたり二十人程で街は壊滅できる。


 もちろん、軍で考えればもっと数は多い。

 即ち、魔族に抗うことは現在進行形で襲いかかる天災にその場しのぎで対抗するに等しかったのだ。


 人は理に沿わない運命を感じた時、祈るのは決まって神だ。

 そして、この世界には神がいて、神は天の使いを差し出した。

 それが異世界召喚――勇者アイトである。


 天の使いは世界の脅威を排除した。

 残るのは平和のみか。否、怨恨もまた存在する。


「どうして俺を助けた!?」


 自分が魔王の娘に助けられた。

 その事実がアイトには理解し難かった。


 ここがどこかは分からないが、魔王城からそう遠くない場所だろう。

 となれば、この場所に訪れることが出来る人間がどういう人物かぐらいは予想できるはずだ。


 仮に、自分が魔王を殺した勇者だと断定されなくても、人族というだけで父親を殺した憎き勇者の仲間という判断は出来るはずだ。


 家族を殺された。

 種族的嫌悪を示すには十分すぎる理由だ。

 にもかかわらず、魔王の娘である少女は自分を助けた。

 助ける義理なんてないのに。


 アイトの怒鳴り声に近い言葉に、ミュウリンは何かを考えるように顎に手を当てた。

 そして、吐き出した言葉はまたしてもアイトにとって理解できない言葉だった。


「戦争だったから仕方ないんじゃないかな」


「......は?」


 は? とアイトは脳内でも同じ言葉が浮かんだ。

 数秒の思考停止。

 動き始めたのは、少女の続きの言葉を聞いてからだった。


「『戦争は正義と正義のぶつかり合い』ってお父様は言ってた。

 どんな思想、信条、信念を持っているかはその人次第で、それがその人の正義になる。

 今回の場合は、世界征服を企んだお父様達と、侵略を拒んだ人類側との正義がぶつかりあって、その結果がお父様の正義が潰えただけの話」


「だ......だけの話って、お前の家族の話なんだぞ? なんでそんな平然と話せるんだ!?」


 アイトが問い質せば、ミュウリンは目線を向けた。

 その目が先ほどよりも少し冷たいものだとアイトはなんとなくわかった。


「その感情は押し殺したからね」


「っ!」


 アイトは息を呑む。

 感覚で理解した。

 自分は数個も下の少女に怖気づいている、と。


 おおよそ家族を亡くした少女から聞くとは思えないセリフ。

 あるべき感情の起伏さが無いことにアイトは気味が悪くなった。


 ミュウリンは手に持っていたお椀を床に置いた。

 立ち上がれば、玄関に手をかける。


「少しお散歩しない?」


 少女の問いかけにアイトは頷くことしか出来なかった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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