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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第4章 ヒナリータクエスト

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第95話 戸惑う心

「そういや、ここんとこずっとこの平野にいるが何かあんのか?」


 引き続き、ロートリオ平原のとある花畑。

 ちまちまと作っていた花冠がやっとのことで完成したレイモンドは、気が抜けた意識とともにそんなことをナナシに聞いた。


「そりゃあ色々あるさ! 花畑に湖、そんでもって穏やかな魔物とのふれあいなんかがね!」


「そうじゃねぇ。オレはテメェの行動は大抵意味があると思ってんだ。

 じゃなきゃこの数日こんな場所にいないだろ」


 レイモンドはナナシの本質を知ってる。

 だからこそ、この場に留まり続ける意味があるのだと思っているが、その言葉にナナシは「えぇ~、大の男も花畑でキャッキャウフフしたい~」と言ってのらりくらりとした回答するだけ。


 その後、すぐに道化師は近くにいるヒナリータに「だよね~♪」と同意を求めてみるが、華麗に無視されている。


「ハァ......まぁ、なんにせよオレがそばにいる状態なら問題ねぇか」


 ナナシからまともな回答を貰えることを諦めたレイモンドはそっとため息を吐く。

 この(バカ)がバカな行動をするのを目を光らせて監視すればいいだけ、と。

 そんな男勝りの乙女の心中を知らずに道化師(バカ)はサムズアップした。


「頼りにしてるぜ、親友!」


「肝心なことは頼らないクセによく言うぜ」


「なぁ、大将。ここら辺のやり方がわからないんだが」


 それから、ナナシとレイモンドは未だに苦戦しているゴエモンに指導しながら、他愛もない会話を始めた。


 そんな様子をじーっと見ていたヒナリータはミュウリンの服の裾をクイッと引っ張り、彼女の意識を自分に向けた。


「ん? どうしたの?」


「......少し聞きたいことがある」


 ヒナリータが指をさしたのは近くにある一本の大きな木。

 指の方向に合わせて視線を動かしたミュウリンが「何か内緒で話したいことがあるんだね?」と尋ねれば、少女は小さく頷いた。


 少女は頼りになる姉のような存在であるミュウリンを連れて木陰に移動。

 三角座りして小さくなる少女に、あぐらをかいた姉が話しかける。


「どうしたの~? 何か神妙な顔をしてるけど。ナナシさんがうるさかった?」


「......それは大丈夫。こんな感じかって思えば慣れてきたから。

 それでその......どうやって感謝を伝えたらいいかわからなくて」


 少女が言った言葉に姉はキョトンとする。

 因果関係がわからない姉はまずそこを聞いてみた。


「感謝したいって誰に?」


 少女は伏せがちの目で指を差す。

 その動きに姉が視線を合わせれば、花冠が完成したゴエモンとそれを喜ぶナナシとレイモンドの姿があった。


「あぁ、ナナシさんか。昨日助けてもらったこと?」


「それもあるけど......あの人はヒナを最初に助けてくれた人だから。

 大人の男の人は何を考えてるか分からなくて、視線が怖くて、ヒナの大切なお姉ちゃん達を奪ってきた最悪な存在だと思ってた。

 だけど、あの人は何か考えてるのかわかんないけど、それが怖いとかじゃなくて、視線も合わないから顔は見れるけど......でも、あんまりしゃべれなくて」


 少女が珍しく言葉数が多いことに姉は驚いた。

 少女は相手がミュウリンやレイモンドの場合は少しだけ言葉数が多くなることはあった。

 しかし、ナナシやゴエモンの姿を見れば、途端に殻にこもったように口を閉ざす。

 だから、少女がここまで自分の内心を吐露するのは初めてだった。


「あの人に対してムカつくことも多いけど......それでも、その時はまるで大人の男の人に怖がっていた自分を忘れられた。ヒナは今が少し楽しい。

 だからってわけじゃないけど、最初も昨日も助けられたことに感謝してなかったって思って。

 お母さんに『助けて貰ったらしっかりとお礼を言いなさい』って言われてるし」


「なーるだね~」


 姉は少女が今だ首元に巻いているマフラーの意味に気付いた。

 ここロートリオ平原は穏やかな春のような気候であり、風が吹いても涼しいという程ではない。

 むしろ、少し暖かいというぐらいなので、マフラーといった防寒具は絶対にいらない。


 されど、少女はマフラーを未だに身に付けている。

 今頭の上に乗せている花冠だって同様だ。

 大人の男性に対して恐怖している少女にとってはその人物から貰ったものなどいつまでも身につけたくないはずなのに。


 そんな少女のチグハグとした行動に姉は、困惑しているんだね、と思った。

 実際、少女の言動は色々なところで矛盾が多い。

 貰ったマフラーを今もつけているのも然り、ナナシとまともな会話を交わさないがそれでも近くにいて離れるといった行動はしない。


 そんな少女の言動に対し、姉は一つの答えを導き出した。


「ヒナちゃんはナナシさんを知りたいんだよ、きっとね」


 少女が持つ大人の男の人に対する恐怖と、助けてくれた恩人に対する感謝の気持ち。

 その二つの気持ちがぶつかりあいぐちゃぐちゃに混ざり合ってチグハグとした行動をする原因になってしまっている。


 そんな行動をするのはひとえに少女がナナシさんという人物を知らないからだ、とミュウリンは思ったのだ。


「ヒナちゃんはナナシさんが怖い?」


「......怖くはないと思う。でも、大人の男の人だって思うと閉じ込められた時のことを思い出す」


「そっかそっか。ふふっ、ナナシさんを怖がってなくて良かった。

 焦らなくていいよ。そういう気持ちは簡単に消えるものじゃないし。

 ゆっくりと直していけばいいのさ」


 二人が眼下に見るナナシ達はまるで大学生の休日の集まりかのようにしゃべり続けていた。

 そして、二人の視線に気が付けば、大きく手を振って存在をアピールする。


「どう? ナナシさん相手ぐらいなら感謝の言葉なんてサッと言えそうじゃない?」


「......わからない」


「それじゃ、ナナシさんをもっと知らないとね」


 心地よい風が流れ、少女と姉の髪を優しく撫でる。

 二人の間に会話は無くなり、ただナナシの様子をじーっと観察し始めた。

 すると、少女は一つ気になったことを思い出した。


「そういえば、前にレイ姉があの人のことを『バカ真面目なバカ』って言ってだけどどういうこと?」


 その質問に姉は「あ~それね」と微笑みながら反応する。

 その話題に関してはもはや姉は全てを知っている。

 ナナシが勇者を辞めて道化師となったその生い立ち全てを。


「ヒナちゃんは勇者って存在を知ってる?」


「うん、知ってる。男の子の間でも人気だし、たまに大人の人達が話題に出してたのを聞いたことあったから。だけど、勇者様っていなくなっちゃったんでしょ?」


「ふっふっふ、違うんだな~。勇者は世を忍ぶ姿に変えて今もヒナちゃんの目の前にいるんだよ」


「え......?」


 姉からの突拍子もない発言に少女は目を見開く。

 しかし、その自信ありげな言葉が全く嘘を言っている感じがしないのは見ていて分かった。

 だからこそ、視線は自然と花畑にいる三人に集まる。

 瞬間、目に留まるのはたった一人だ。


「あの人が......勇者様?」


「元だけどね。ナナシさんは勇者だった人さ。

 だけど、今は道化師となって皆に笑顔を作ることを使命としている。

 普段のテンションの高い頑張りもナナシさんが真面目だからさ」


 姉からそんなことを言われても少女は首を傾げるばかり。

 勇者の存在は聞いたことあっても見たことは無い。

 そればかりかあんなふざけた行動を繰り返すばかりの人物が勇者と言われても。

 全く当てはまらないこともないけれど。


「ふっふっふ、それじゃあボクがナナシさんに関するとっておきを話してあげよう。

 ちなみに、これは今まで誰にも話したことないナナシさんがナナシさんになった生い立ちさ」


 そして、姉はナナシについて話し始めた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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