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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第90話 出発の日

 翌朝、バレッツェンの門の前では二台の馬車があった。

 その近くではナナシ達とクレア達がそれぞれ分かれて向かい合っている。


「これでお別れね。昨日も言ったけど、うるさい人達がいなくなったらなったで寂しく感じるよ」


「大丈夫さ。どうも俺のように賑やかになる素質がある連中がいたからね。基本的なことは仕込んである」


「それは随分な置き土産ね」


 微笑みながら答えたクレアは視線をナナシからすぐそばの子供達に向ける。

 そこでもメリスとその他の少女達がヒナリータとの別れを惜しんでいる最中だった。

 そんな光景を見ながら、彼女は昨日の様子を思い出して目の前の男に聞く。


「で、昨日は大丈夫だったの? たまたま外から皆の様子を見てたら、あの子達に話しかけたナナシさん、ヒナちゃんにあご目掛けてジャンピング頭突きされてたじゃん」


「ハハハ、大したことないよ。驚いたけど」とナナシは目線を小さな少女達に向けた。


「きっとアレはヒナちゃんが取った防衛行動だろうからさ。

 後々にメリスちゃんに話を聞いたら、やっぱずっと自分だけ守られてたことに負い目があったみたいで。

 また男の大人に自分の大切な恩人が引き離されると思ったんだろうね」


「まぁ、確かにメリスちゃんから聞いた内容だと大人の男の人に対して人間不信になってもおかしくないね」


 ナナシは「ま、追々頑張るさ」とクレアに答えると、話がひと段落したところで隣からハルが近づいてくる。


「それじゃ、アタシ達もそろそろ出発するよ。

 だけど、その前にナナシ、ちょっと耳を貸して」


「ん? なんだい? 突然のASMRはビックリするなぁ」


 言われた通りナナシがハルに耳を貸す。

 ハルもナナシの耳元に口を近づけたかと思えば、肩に触れた手で横にズラし、襟から露出した肩に噛みついた。


 「痛っ!?」と突然のことにナナシがハルを引き離せば、少女は血の付いた手の甲で拭っていた。

 当然、噛まれたナナシの肩には吸血鬼が血を吸った後のように小さな穴が開いてる。


「な、何事!?」


「気にしなくていい。魅力的な鎖骨だったから噛みついただけ。さっきのはそのための口実」


 ハルは視線をナナシからミュウリンに向ける。

 そして、忠告するように言葉を授ける。


「ミュウリン、アタシが思うにナナシは師匠と同じタイプ。

 つまり、死に際を見せないようにどこかへ去る猫も一緒。

 いつの間にかふらっと消えない様に見張っとくべき」


「なるほど。ナナシさんがハルちゃんに首輪をあげて所有者を示すように、ボクもナナシさんに首輪をつければいいんだね?」


「そういうこと」


「全然そういうことじゃないよ。俺がハルに首輪(それ)あげたの彼女の意志だし、ミュウリンも余計な知識を身につけなくていい」


「ハァ、言い訳する男はモテないよ。まぁ、モテて貰っても困るけど」


「なんで俺が悪いみたいな空気醸し出せるの」


 絶対的なハルのペースにナナシもタジタジな様子。

 そんな男の両肩にはレイモンドとゴエモンのそれぞれ違う手が置かれた。

 振り返れば二人から注がれる生暖かい目線。

 これが普段のお前に対する俺達の気持ちだぞと言わんばかりだ。


「それじゃ、行くよ。皆」


 ハルの一声で瞬光月下団は馬車に乗り込んでいく。


「ハァ、相変わらず親友のアグレッシブさには私もびっくりだよ。

 あ、そういえば、聖王国に行くときは手紙とこのロザリオを見せればいいんだよね?


「そうそう。だけど、それはあくまで教会のシスターにだけね」


「わかった。それじゃ、またどこかで」


 クレアは手を振りながらその場を離れると、馬車に乗り込んで先に出発した。

 馬車の姿が小さくなるほど見送っていたミュウリンはふとヒナリータへ目線を向ける。


「ヒナちゃん、別れの挨拶はちゃんと済ませられた?」


 その問いにヒナリータは静かに頷く。

 ミュウリンは満足そうに「そっか」と呟けば、ヒナリータの手を取って馬車に乗り込んだ。


****


―――数日後 ハイエス聖王国マリアトルジュ教会


 その教会の中にある一室では聖女シルヴァニアが頭を抱えながら、手元に届いた手紙を読んでいた。

 全文を読み終えると大きなため息を吐き、椅子の背もたれに寄りかかって天井を見上げる。


「........なんか気づいたらとんでもないことしてる」


 現実逃避がしたくなったシルヴァニア。

 親友から送られた内容は一言で言えば「友好国の貴族を殺しました」である。

 もはや宣戦布告に等しいその言葉に彼女は一時的に思考を放棄したのだ。

 眉間に出来たしわは彼女の苦悩を示している。


「一応、レイちゃんが帝国の貴族だし、勇者パーティの一人だからってことで一考の余地があるのがまだ救いだわ。

 にしても、なんだってそんなことに......まぁ、経緯はしっかりと手紙に書いてあるんだけど」


 シルヴァニアは「それに......」と目線を移動させると、そこには手紙と一緒に送付された小さな袋がある。

 その中にあったのは少しだけ緑の液体が入った注射器だった。


「この前の魔族の少女の保護行動だって一苦労したのに、さらにこの如何にもヤバそうな薬品の残りが入った注射器を送って来るとか......なにこれ嫌がらせ?

 ハァ、やっぱりレイちゃんてば、あのお人好し前科バカの言いなりになってんじゃん。甘いんだから全くもぅ......」


 シルヴァニアは姿勢を戻し、もう一度手紙を手に取って目を通す。

 その手紙に書いてあったことは何もハイバードの一件だけではない。

 その前のアールスロイスに関する話も記載されていた。


「アールスロイス近くの迷宮の奥底にいた魔神モドキと思わしき存在の確認。

 加えて、注射器を刺したハイバードって領主もそれっぽい感じになってたわけだよね」


 それが意味するのは人魔戦争で生き残った魔族による復讐と考えるのが妥当だろう。

 勇者によって大打撃を受けた魔族が人数をかき集めても、魔王がいない今では二の舞を踏むことは必定。


 だから、勇者でも敵わないであろう神代の力に手を染めた。

 辻褄は合う。だがしかし、そんな技術があったのなら、とっくに人魔戦争の時に使われてもおかしくないはず。


 では、一体なぜ今更このような存在が確認された?

 考えられるのは同じ魔族でも、全く違う思想を持っていた連中による行動だけど――


「さすがにこれ以上は情報が足りなさすぎるわね。

 ま、大抵のことはあのバカがなんとかするでしょ。

 だって、アイツは魔王を独力で倒した今世界最強なわけだし」


*****


―――とある地下研究所


 とある部屋には一人の白衣を着た男が手に持ったボードに何かを記入していた。

 目の前にあるのは緑色の液体が詰まったカプセルだ。


―――コンコンコン


「入れ」


「失礼します」


 ドアを開けて赤い外套に身を包み、仮面を被った男が跪く。

 その男のこめかみ辺りからは特異な角が生えていた。


「ご報告します。私が潜入していた貴族ハイバード=ロードスターが死亡しました。加えて、薬品を投与した状態で」


 白衣の男はその言葉に手を止めた。


「あの男は人間の中でもそこそこの手練れだったはずだ。それに力を授けられてなお負けただと? 誰がやった?」


「主に戦っていたのは獣人の少女でしたが、戦闘能力自体はそこまで高くありません。

 変身前の状態で十分に戦えていましたから。万全な状態と油断がなければ負けなかったでしょう」


「ということは、それを手助けした男が危険だと言いたいんだな?」


「はい。その名はナナシ。自らは道化師と名乗っている男です」


「ナナシ......そうか、その男が」


 白衣の男は怒りを滲ませたような低い声で呟くと、持っていたペンをへし折った。

 なぜなら、彼はすでにナナシという男に辛酸を舐めさせられているからだ。


「あの男がいなければ、アールスロイスの迷宮地下に眠っていた魔神ヴァヌスも今頃街を火の海にしていただろう!

 それにオルトロスで目覚めさせたフレイムドラゴニアもなぜか消失していたし、それもきっと奴のせいに違いない!

 クソ、あの男め! 僕の可愛い子供を斬り刻んだ挙句に、わざわざ自慢するように名前まで残しやがって!」


 白衣の男は怒りが収まりきらないのか拳を知覚の壁に叩きつける。

 しかし、すぐに一つ大きく深呼吸すると思考を切り替えた。


「頓挫した計画も今頃考えたって意味がない。

 それよりも見つけたという精霊の園とやらの情報はどうした?」


「聞くところによると順調に瘴気で侵攻しているようです。

 ですが、精霊は基本人の目には触れぬ特別な神の使い。

 場所の完全な特定は難しく、そのため未だ完遂には時間がかかるようです」


「そうか、わかった。精霊が消えれば、女神の力も大きく減るだろうしな。

 そう全ては我らが偉大なる次期魔王様のため!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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