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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第83話 復讐の結末

 我に策あり、と得意げな顔をするハルにハイバードは怒りを滲ませたような表情をする。

 その貴族の額にはいくつもの青筋が浮かんでいた。


「よくこの状況で笑えるものだ。君はもう私に攻撃を当てることすら出来ていないのに。

 加えて、ここで最期になるのは私ではない――君だ」


 男の戯言を聞きながらハルはデザートイーグルからマガジンを取り出すと同時に、相棒を小さく空中に振り上げて手放す。


 また、弾丸に<付与>するための練金ルーチンワークの言葉を小さく呟きながら、腰に携えていたマガジンホルダーからマガジンを素早く取り出し投げる。

 先に空中にあるデザートイーグルを手にすると振り下ろす勢いで空中で装填した。

 戦闘準備が整うと二丁の銃口をハイバードに向けた。


「いいや、死ぬのはあんたで決まりだよ!」


 ハルは引き金を引いた。銃口から放たれた二発の弾丸が刹那にハイバードに向かう。

 しかし、それらの弾丸はその男の僅か横を逸れていった。


「ハハッ、どうした? 手元が狂ったか? さすがに先ほどのダメージが効いてるようだな。

 ということは、先ほどは見掛け倒しのハッタリか?」


「残念、完璧。言っとくけど、アタシは師匠より命中率高いんだよ」


「クロム君よりも君の方が優れてる? 優れてるのは種族としての身体能力――ぐっ!?」


 突然、ハイバードの太ももに激痛が走る。

 裏から表に抜けていったようで急激に貫通箇所が熱を帯びていく。


 ハイバードは叫び声こそ上げたなかったものの、初めてまともに食らった銃での攻撃に脂汗を大量に流し始めた。


 目線を太ももの方へ移していけば、お気に入りの白いズボンの裂けた箇所からはドクドクと血が溢れ、赤いシミが広がっていくではないか。

 目線はハルへ移り、ハイバードの目は険しくなる。


「......一体何をした?」


 ハイバードの言葉にハルは一瞬キョトンとする。

 しかしすぐに、それが今の状況に理解できていない言葉であると察するとニヤリと笑った。


「そう、わからないんだ。なら、もう一発くらって確かめてみれば?」


 ハルが再び弾丸を二発放てば、それはそれぞれハイバードの斜め横と足元近くの床に着弾する。

 瞬間、弾丸はそれぞれ壁と床に刺さっていた白王金貨に弾かれ、火花を散らした。


 壁に飛んでいった弾丸の行方を目で追うハイバードにハルが正面から突撃した。

 ハルの右足の飛び蹴りをハイバードが半身になって躱した瞬間、男の左のふくらはぎに激痛が生じた。


「がっ!?」


 ハイバードは着弾の衝撃と痛みの影響でひざカックンされたように片膝を崩す。

 そのタイミングで背後から飛んできたハルの二発目の弾丸を目の端で捉えたハイバードは、右足を軸にして体の捻りを利用して回転。


 刹那のタイミングで剣を振り払い弾丸を弾き飛ばした。

 しかし、その防御行動はすぐ近くにいるハルに隙を与えてるのと同義だ。


「オラァ!」


「がはっ!」


 気合一発。叫ぶハルの回し蹴りがハイバードのわき腹をしっかりと捉える。

 彼女は数本のアバラを折ったような感触を感じながら男を思いっきり吹き飛ばした。


 長椅子に突っ込み、なぎ倒しながら壁に激突してハイバードは止まった。

 男は少し凹んだ壁にもたれかかるようにぐったりとしている。


 ハルがゆっくりとハイバードに近づいていくと、男は姿勢をそのままにゆっくり顔をあげた。


「......がはっ、そうか。今のは......跳弾か」


「どうやら気づいたようね」


 ハルの策は至ってシンプルだ。

 彼女が放つ弾丸に<付与>で目標に当たるまで跳ね返るたびに加速するという魔法術式を組み込んでいたのだ。


 結果、完成したのは閉鎖的空間という限定的な場所であり、かつ弾丸が跳弾するような何かがあるという場合に限り発動する動き回る殺意の塊だ。


 あまりにも特化した策であり、他の場所で使えるものではない。

 しかし、その一度限りでハイバードが倒せるならそれでいい。

 全てはその結果に至る手段でしかないのだから。


「アタシの狙いにかかれば金貨で跳弾させるなんて芸当はわけない。

 ま、獣人族の遠視能力と動体視力によるものは大きいけど」


「......ネタがわかればどうってことないな」


 ハイバードは床に手を付けて立ち上がる。

 その行動に「まだ立ち上がるのかよ」とハルは舌打ちした。


「流石にそれは強がりが過ぎるわね。だって、これはあんた程度なら見切れてどうにかなるものじゃないから。

 負けを認めるってのも大切なことよ? ま、そん時にはあんたは死んでるけど」


「ク、ククク......私を舐めるなァ!!」


 ハイバードは思いっきり踏み込みと同時に一歩で間合いを詰めた。

 バックステップで距離を取ろうとするハルを逃さないように素早く攻撃する。


 ―――バンッ


「流麗なる蜂針アピスソリッド


 ハイバードが放てる最速の突き。

 その剣先はハルの傾けた首の数センチ横を通り抜けた。


「チッ」


 ハイバードはすぐに横に薙ぎ払って首ちょんぱを狙う。

 しかし、それよりも先にハルの剣を交わした方とは逆側の首の横から、髪の毛を押しのけて弾丸が跳んできた。


「っ!?」


 ハイバードは咄嗟に体を捻って回避行動を取る。

 男の首筋に擦過傷を作りながらも、直撃せずに避けた。

 小娘に十八番が紙一重で躱され、さらには反撃が来ることは想定外だった。

 しかし、それを避けた今次の攻撃チャンスはこちらだ。

 剣は既に首の横にある。避けられる隙も無い。


「あれ? 一発に聞こえちゃった?」


 ハルのニタリ顔が網膜に焼き付くようにハイバードの瞳に映る。

 直後、男の右腕は強い衝撃と痛みで腕がブレ、攻撃行動に移れなくされた。


 コンマ数秒前、ハルが自身の背後の床に放ったのは()()()の弾丸だ。寸分の狂いもなく引き金を同時に引くことで、破裂音を一発だと誤認させたのだ。


 体勢が崩れたハイバードにハルが回し蹴りで横っ腹、蹴り上げで顎を打ち、後ろ回し蹴りで胴体に当てていく。


「っ!」


 瞬間、ハルは蹴りの当たり感触から両腕を左右に広げた。さらに、引き金を引いてほぼ全ての弾丸を発射させる。


「私が負けるか!」


 ズサーッと一メートルほど後ろに下がりながらも足で踏ん張って耐えたハイバード。

 男は再び左足を前に出し、今度は風を纏わせた剣でもって突きを放つ。


「今度は避けても無駄だ! オオツクボォ――」


「0.3秒遅い」


 ハイバードの腕が伸び切る刹那の時間。

 男の周囲にはハルが半自動で撃ち放ち跳弾した無数の弾丸が取り囲んでいた。


 ハイバードの視界は走馬灯を眺めるようにゆっくりになる。

 しかし、それは確実に自身を襲うという事実を見せつけられているようなものであり、躱す方法を探す思考よりも早く凶弾が肉体を貫いた。


「ガハッ......」


 ハイバードの全身を蜂の巣にするように無数の弾丸が貫通し、衝撃で揺れる男の体はマリオネットのように踊る。

 やがて全ての弾丸を浴びたハイバードは膝から崩れ落ちた。


「どうやらちゃんと生きてるようね。体に防御魔法をしてるようではあったからそれなりの手数で攻撃したんだけど……簡単に死なれると困るから少しヒヤヒヤしたわ」


 ハルはハイバードにゆっくり近づいていく。


「なんでずっと急所を外していたかわかる?」


 ハイバードの眼前になったハルは銃口を男の額に突きつける。


「前にあんたがアタシを殺そうとした時のように殺そうと思ったからよ。意趣返しとしては完璧でしょ」


「ク、ククク、ハハハ......」


「何? やられ過ぎてついに頭がバカになった?」


「いや、まだチャンスがあると思っただけだ」


 ハイバードはポケットから注射器を取り出した。中には緑色の薬液が入っている。

 瞬間、男は首に注射器を刺して薬液を注入した。


 ハルはすぐさま引き金を引いて行動を阻止する。

 弾丸は確実に額を打ち抜き、後頭部から貫通した。


 しかし、なぜかハイバードは死んでおらず、それどころかたちまち額の穴を修復し、体をボコボコと膨張させ始めた。


「何!? なんなの!?」


 ハルは後ずさりしながらどんどん視線を下から上に移動させる。

 やがて目の前に現れたのは四メートルもの藍色をした巨大な怪物だった。


 人型の異形の存在。一言で言い表すのなら、まさにその言葉が一番近い。

 腕から肩にかけて描かれている赤い模様が脈動すると、血管が浮かび上がるように右腕に力が入る。


 巨大な拳が怯んで回避行動が遅れたハルを襲った。

 ドカンと一発、巨大な拳が床に突き刺さる。

 直撃していればたちまちぺしゃんこだろう――そう、直撃していれば。


「お嬢さん、大丈夫でしたかな?」


 ハルをお姫様抱っこして助けたナナシはここぞとばかりにカッコつけた。

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