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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第82話 フィナーレに向けて

 ハル対ハイバードの戦い。

 激しい攻防の中、現在戦いを有利を進めているのはハルだ。


 ハルは何発かハイバードの攻撃を受けているが五体満足。

 対して、ハイバードは左腕を吹き飛ばされた。


 ハイバードに一泡吹かせることが出来て不敵な笑みを浮かべるハルと、自身の肉体の一部を欠損させられて睨むハイバード。

 これから始まるは第二ラウンドである。


 ハルはゆらゆらと立ち上がる。

 テンションがハイになっている表情は悪魔的。

 まるで弱っている野生動物を今か今かと狙う肉食動物のよう。


「左腕が消し飛んだようね。ま、いいでしょ。どうせ使いどころのない左腕なんて」


「ガキが私の左腕の価値を語るな。少なくとも、ゴミのような存在の君より役に立つ」


「なら、そのゴミとの戦いで失ったその左腕の価値はゴミ以下ってことになったわけね」


「「.......」」


 両者、視線を譲らず睨み合う。


「あまり舐めた態度は取らないことだ。君と私では人間的価値が違うのだからな」


「ご忠告どうも」


 ハルの背後に影ハイバードがニュルッと出現する。

 その影が攻撃しようとする前にハルがノールックで背後に銃口を向け、打ち抜く。

 同時に、前方からはハイバードが剣を振るって攻撃してきた。


 ハルは左手のデザートイーグルで剣を弾き、右手のデザートイーグルで射撃。

 刹那で迫りくる弾丸を紙一重で躱すハイバードが左足で回し蹴りをして来れば、ハルは右足で攻撃を受け止め、左足だけの筋力でもってバク宙をする。


 ハルのいた場所には影ハイバードが剣の薙ぎ払い攻撃をしており、影ハイバードに対して射撃していく。


「先ほどから影に攻撃しているようだが、その攻撃は何も意味を為さないぞ」


「知ってるわよ、んなこと。ただあんたの顔が二つもあると目障りなだけ」


「私は君が目障りだ――流麗なる蜂針(アピスソリッド)


 突撃してきたハイバードが最速の突き攻撃を放ってきた。

 ゾゾゾッと感じる獣人の直感から掠ってもいけないと理解したハルは二つのデザートイーグルでもって剣筋を逸らす。

 銃身と剣が激しく擦りあいオレンジ色の火花が激しく散った。


「横ががら空きだぞ」


「がっ!」


 防御に集中しすぎたハルはハイバードに横っ腹にケリを入れられて吹き飛ぶ。

 ゴロゴロと転がった先、仰向けになったハルの頭上からは影ハイバードが剣を突き立てて降ってきた。


 ハルが横に転がって避け、勢いのまま体勢を立て直す。

 しゃがみ状態で正面を向けば、いくつもの火球が迫って来ていた。


練金変換(カスタマイズ)――威力向上(アップグレード)

 弾丸準備(セットアップ)完了(オーケー)――水冷弾(アクアガン)


 ハルは引き金を引きっぱなしにし、銃口だけを素早く対象に向ける。

 水を纏った弾丸は火球に着弾すると攻撃を相殺した。


大突風刺(オオツクボォウシ)


 ハルの火球に向ける意識の隙間を縫って間合いを詰めたハイバードが、風の螺旋を纏わせた剣を勢いよく突き出した。


「練金加工!――ぐっ!」


「がはっ!?」


 同時に攻撃が炸裂した。

 ハイバードの突き攻撃はガードしたハルを勢いよく壁へと吹き飛ばし、そのまま壁を壊して外へと追い出した。


 また、ハルの錬金術は土以外も加工が可能で、石造りで出来た教会の床から作り出した石柱がハイバードの顎を打ち上げる。

 ハイバードにとっては完全に想定外の攻撃になっただろう。


「......ハァハァ」


 しんしんと雪が降る中、積もった雪の上で寝そべるハル。

 ズキンと痛みがする腕で地面を押し上げ、体を上げていく。

 ガードした両腕が斬撃を纏った突風の影響で無数の切り傷が出来ている。

 周囲の雪はハルの血で赤く染まっていた。


「さ、かはっ......さすがにダメージを受け過ぎたな」


 ハルは気合で立ち上がろうとするも、すぐに立ち上がれないのかその場から震えて動かない。

 加えて、戦闘の間にそれなりに魔力を消費したせいで体に鉛の鎖を纏ったような疲労感が襲う。


 決め手に欠ける、とハルは歯を噛み締めた。

 これまでのハイバードとの戦いは何とか食らいついている感じだ。

 左腕を失っているが、実体のある影というのが非常に厄介。


 攻撃自体は非常に単調であはあるが、必ず死角外から襲ってくるのだ。

 獣人の気配感知能力でギリギリ対処出来ているが、その能力をいつ上回れてもおかしくない。


「さっきの練金加工は完全な不意打ち攻撃のために温存してたし。

 手の内を見せてしまった以上、同じ手が通じる相手とは思わない。

 どうにかしてアイツの意識を散らして隙を作らないと」


 ハルは根性で立ち上がれば、今にも痛みで落としそうなデザートイーグルをギュッと握りしめた。

 自分が飛んできた壁を通り抜けて教会に入れば、未だハイバードが床で寝そべっている。


 このまま動かないで倒されてくれればどんなに楽か。

 しかし、実際に戦っているハルは理解している。

 あんな程度の攻撃でやられるような敵ではないことを。


「今のは流石に読めなかった。おかげで私の歯がいくつか欠けてしまった」


 ハイバードはムクッと起き上がる。

 まるで先ほどまでダメージが大したことなかったかのように。

 立ったその男は背中を丸め、両腕をゆらゆらと揺らす。

 上半身を脱力させているかのような姿だ。


「もうこれ以上はうんざりだ。死ね」


「っ!?」


 ハルは咄嗟に横に避ける。直後、彼女がいた場所はザンッと袈裟斬りするハイバードがおり、そのひと振りは壁にまで大きな斬り跡を残していた。


 先ほどまでと違う!? とハルがすぐに思うのも無理はない。

 今のハイバードからは見えるのは漠然とした殺意の塊。

 人の形をした獣のような存在だ。


「くっ!」


 ハイバードが再び消える。

 ハルがガードすれば、剣を振り下ろした宿敵が眼前に現れる。

 そこからのハルは防戦一方であった。


 相手はハイバード一人で影ハイバードが背後を狙ってくる様子はない。

 しかし、左腕を失って右腕だけで剣を振るうだけの男にハルが押されている。

 時折、銃の射程を活かして攻撃を挟むが、避けられて手数で攻められる。


 キンキンキンキンッと金属同士がぶつかり合う音が響く。

 ハルは距離を取る余裕も無く、一歩また一歩と後ずさりを繰り返すのみ。


 男の戦い方は野生のような荒々しさがあるが、同時に帝国式の貴族剣術が体に染みつているのか動きそのものには隙は無い。

 つまり、ハイバードの攻撃力が一方的に上がったような状態だ。


 これまでの戦いで疲労を重ねていたハルは僅かな隙を生んでしまった。

 野生の獣と化したハイバードが逃すはずもなく、前蹴りがハルのお腹にメリメリと刺さった。


「がはッ!!」


 ハルは口から血を拭き零しながら、数メートル後方へ吹き飛んだ。

 ゴロゴロと転がっていく中で武器を決して離さなかったのは復讐者としての意地か。

 歯をギリッとくいしばり、痛みを家族を殺された怒りに変えてなんとか立ち上がる。


―――ジャン♪


 その時、これまで流れていたBGMが大きな音を立てて止まる。

 まるでこちらに注目しろと言わんばかりに鳴らされた音にハルはパイプオルガンの方を見た。


「ハル、もっと周りを上手く使おう。俺はもっと身近にいるぜ。さぁ、フィナーレといこう」


 BGM担当が再びメロディーを奏で始める。

 しかし、その音調は先ほどとは違ったものだった。

 まるで最終局面とばかりにテンションの上がる曲だ。


 ハイバードが歩いてくる。

 猫が自分より弱い獲物を弄ぶように時間をかけてゆっくりと。

 そんな中、ハルはナナシの言った言葉が気になった。


「ナナシが身近にいる......」


 その時、ハルは手元にキランと光るものに気付く。

 目を向ければそれは床に突き刺さった白王金貨だった。

 瞬間、自分がここに来る前にナナシが白王金貨をバラまいていたことを思い出した。


「......あぁ、そういうこと。ふふっ、あんたはずっと見守っててくれたのね。

 だったら、もう少し自己主張しろっての。

 ま、これはアタシが望んだからそうはいかなかったんだろうけど」


 ハルは立ち上がった――不敵な笑みを浮かべて。


「本当に不器用なやつ。んでもって、やっぱあんたは道化師に向いてない」


「何がおかしい?」


「こっちのことよ。それじゃあ、終わらせましょうか。ご要望に応えてね」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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