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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第80話 リアル投げ銭

「それじゃ、質問一つ目。どうしてそんなお金が欲しいんですか?」


 ナナシは小銭袋からジャラッと白王金貨を鷲掴みした。

 それを手に持つ右手を大きく振りかぶれば、瞬間ハイバードに向かってぶん投げる。

 いくつもの白王金貨が高速で空中を飛ぶ。


 ハイバードは腰に携えていた剣を引き抜き、飛んで来る白王金貨を弾いたり躱したりと対処していく。

 その上で目の前にいる異質な存在の質問に答えた。


「単純な話だ。この世界はお金で回っている。

 日々の暮らしの中でも、仕事の報酬に対しても、誰かとの繋がりを得るにしてもそう。

 お金はいわば、一番身近でわかりやすい権力の象徴だ」


 ナナシはハイバードのサイドに回り込む。

 陳列された長い椅子の背もたれの上に片足を乗せれば、すぐさま新たな白王金貨をバラまく。

 まだまだ投げ銭(スパチャ)は始まったばかりだ。


「質問二つ目。どうしてこの城には兵士もメイドも一人もいないんですか?」


 再び飛んできたハイバードは剣で金貨を弾く。

 弾かれた白王金貨は椅子や床、壁にガッとめり込んでいく。

 ハイバードの涼し気な顔が目立つ。


「兵士やメイドは扱いづらいからいない。

 無駄に正義漢ぶっていたり、犯行の意志を内部に隠していたり、疑心感を持っていたり。

 ともかく、彼らは私からすれば、制御が面倒なイレギュラー要素なんだ」


「だったら、捨て駒だったおデブちゃん(コマニー)のように洗脳すれば良かったんじゃない?」


「いちいち命令をしないと動けない駒など必要ない。

 私に必要なのは、私の望むままの形を忠実に迅速に正確に提供してくれる者達だ。

 もちろん、そんな者達はまず探してもいないだろう。だから、探したし、作った」


 ハイバードは「いい加減ばら撒かれるのも鬱陶しい」とナナシに接近する。

 ナナシから飛んで来る白王金貨を弾きながら、自身の間合いに入れるやすぐに剣先を突き立てた。


流麗なる蜂針(アピスソリッド)


 ナナシが長椅子の背もたれに着地する瞬間を狙った凶器の一手。

 その攻撃を体を傾け回避した直後、彼の背後からゾゾゾと黒い影が発生した。

 その影は立体的であり、姿形はまるでハイバードそのもの。


生者の影双子(ドッペルヒューマン)


 影ハイバードの持っていた剣が薙ぎ払われる。

 しかし、その攻撃にいち早く気づいたナナシはすぐさま跳躍して回避。


「まだいるぞ。私の優秀な手下がな」


 ハイバードがしたり顔で呟く。

 跳躍したナナシの頭上に物陰に潜んでいた赤い外套の仮面の男が現れたのだ。

 これまで相手していたハイバードのダメ押しとばかりの追撃。


 常人ならハイバードの巧みな連携攻撃に回避する術はないだろう。

 しかし、その攻撃が来ることが予め知っていたのなら話は別。

 なぜなら、ナナシは魔力で視界を補っているのだ。

 つまり、魔力が届く範囲はナナシの視界内だ。


「チップあげるから静かにしてな」


 ナナシは蹴り飛ばそうとしているハイバードの手下よりも早く反応し、右手の親指の上にセットした白王金貨(弾丸)を指で弾き射出する。


 その金貨は手下の仮面を突き破り、頭を弾く。

 額に真っかな白王金貨の女神と剣の描かれた跡がくっきりとついた手下は白目を剥いたまま空中を落下。


「もちろん、ナナシさんは全員に笑顔を振りまくよ。

 さぁ、喜んで受け取ってくれよ! 名付けて受け取るまで逃さない(ホーミングコイン)!」


 ナナシが小銭袋からバラまいて空中に舞ういくつものコイン。

 如何にも弱そうな安直なネーミングセンスとは対照的に、そのコインの追尾性は凄まじかった。


 コインは自動的に標的のもとへと動き出し、それらは教会内に巧みに隠れていたハイバードの手下を追い詰める。


 手下達が逃げても躱してもしつこく追いかけ、弾いても再び向かう姿勢は、まるで病的に恋する乙女のラブアタックのよう。

 その恋の行方は当然、第三者の介入なくば仕留められる(ハッピーエンド)に決まっている。


「私の手下は索敵にも引っかからないエリートの中のエリートだぞ。実力だって申し分ない。

 にもかかわらず、勝手に動いた白王金貨だけで倒されるわけがない!」


 ハイバードは初めて緊張を滲ませた顔をする。

 そんなダンディズムの男の表情変化に着地したナナシはニヤリと笑った。


「ま、伊達に魔力操作の修行をしてないってことだよ」


 <魔力探知>は自身の魔力を周囲に広げ、そのソナーのような魔力内に触れた魔力で人や魔物を探知するという技だ。


 魔力は時折魔力総量が多い人がオーラのようにして放つことで見える場合もあるが、基本は不可視の存在である。


 故に、気づかないことがほとんどなのだが、感覚が鋭い人は“なんだか空気が変”といった感じで違和感を感じる場合がある。


 ハイバードの手下達はその違和感を自在に身に付けた連中であり、ナナシの視界を補う<魔力探知>に気付いていたのなら最初から隠れていない。


 だが、ハイバードの手下達は気が付かなかった。

 その答えは至極単純だ――ナナシの魔力操作の技術力が相手の感知能力を上回った。

 ただそれだけの話だ。


 ナナシの雑な回答にハイバードは「答える義理は無いわけか」と一人で勝手に納得した。

 その男は右手に持つ剣を強く握りしめ、剣先を道化師に向ける。


「君は私の仕立てた手下をいとも容易く倒してしまう実力者。

 冒険者では銀ランク......いいや、余裕で金ランク以上の存在だろう。

 加えて、ハイエス聖王国の王族との繋がりを示す金貨を持っている。

 しかし、それだけの実力と名誉を持ちながら、一切名前を聞いたことがない」


 自ら余裕を崩した表情をして問い立てるハイバード。

 それだけその男にとって異常事態が発生している証だ。


 ハイバード=ロードスターはわがままな男。

 そのわがままが赤子の手をひねるように握りつぶされる理不尽が目の前にいるのだから仕方ない。


「もう一度問おう! 君は一体! 何者だ!」


 ナナシは小銭袋から白王金貨を一つ取り出して。

 親指に乗せた金貨でコイントスをし始めた。

 金貨が空中で高速回転する。


「答えるかどうかこれで決めよう」


 自由落下を始めた金貨がナナシの手のひらの乗る。

 その瞬間、金貨を逃すまいともう片方の手で蓋をした。

 その手をゆっくり空けると――金貨はどこにもない。


「あら、どこに行っちゃったのかな。こういう時はどうしようか。

 う~ん、そうだな......それじゃ、覚えておく必要もない他愛もない存在ってことで」


 小銭袋から手いっぱいに白王金貨を握りしめたナナシはゆっくりハイバードに向かって歩き始める。


 直後、ナナシの両サイドには分身が現れ、さらにその分身からはサイドに分身が現れていく。

 それが何回か繰り返され、やがて出来たのはナナシ包囲網。

 

「一度やってみたかったんだよね、キ〇アの真似。

 んでもって、ここからは無言投げ銭時間(スパチャタイム)といこうか。

 名付けて無言投げ銭機関砲(スパチャマシンガン)!」


 相変わらずダサいネーミングセンスのナナシはハイバードを包囲したまま金貨を投げた。

 金貨が正面から投げられた矢先、四方からも金貨が飛んで来る。


「くっ! 金貨が燃えてしまうが仕方ない! 燃え続ける壁(フレイムウォール)!」


 これまで白王金貨を無事に確保することだけを考えていたハイバードだったが、流石に身の危険を感じたのか炎の壁でもって投げつけられる金貨を防ごうとした。


「なっ!?」


 しかし、燃えつくすほどの火力を持つ炎の壁をやすやすと突破し、金貨がハイバードにぶつけられる。


「ハッハッハ! 残念だったな! 炎上対策してあんだよ! SNSないけどね!」


「くっ!」


 ハイバードは周囲を囲む金貨を剣で弾きながらなんとか耐え凌ぐ。

 しかし、全てを避けられるわけではない。

 金貨の一部がハイバードの体を掠め、生傷を増やしていく。


「相手の血で金貨を真っ赤に染める! これがホントの赤スパってな!

 さぁ、笑えよ! ハイバード! お前が欲しがってた金がこんな簡単に手に入るんだからな!」


「ふざけるな!」


 ハイバードは両手を左右に広げ、同時に発生した空気の壁で投げつけられた金貨を押し返す。

 その男の行動にナナシはすぐに手を止めた。

 相手の怒りに驚いたからではない。

 時間稼ぎをする必要が無くなったからだ。


「そんなキレてみっともないわね」


 雪が降っている外のように冷ややかな言葉が教会内に響く。

 その少女の声にハイバードは振り返って見た。


「......クロムのガキか」


「いやいや、ガキなんて名前じゃありませんよ」


 颯爽とハイバードの横を通り過ぎ、ハルの前に立つナナシは彼女を紹介するように手をかざす。


「本日、あなたを倒す素敵なお嬢様をご紹介いたしましょう。

 日常や家族を愛する穏やかな心を持ちながら、家族を殺された激しい怒りによって目覚めた最強の義賊ハル=ロックウィルです」


「どうもクソ野郎を殺すためにやってきたガキですが何か?」

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