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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第78話 城内潜入中

 ヒナリータとメリスのたった二人がいる牢屋の目の前に二人組の男女が現れた。

 一人は白髪と黒髪を合わせたような盲目の男性であり、もう一人は冷静に状況を俯瞰しているかのような目をする女性――ナナシとハルだ。


 自らを「白馬の王子様」と言って自己紹介をしたナナシは、目線を合わせるようにしゃがむと鉄格子越しに小さなお姫様二人に話しかけた。


「君達を助けに来たナナシだ。後ろに立っているクールな少女はハルという。

 状況からも容易に想像できる。きっと酷い目に遭ってきたのだろう」


 威圧しないように、語り掛けるように優しく言葉を綴るナナシ。

 牢屋は二人の少女の囚われの檻でもあるが、同時に自分達を守る唯一の空間なのだ。

 勝手に足を踏み入っていい領域ではない。


「どうか俺達に君達を助けさせてくれないか? そのために牢屋に入る許可が欲しい」


 メリスとヒナリータは互いに顔を見合わせた。

 今までにない状況に困惑していたからだ。

 しかし、目の前の大人が嘘をついてないことは直感的に理解した。


「ん、出る」


 ジャケットにポケットを突っ込んでいたハルは耳をピクッと反応させた。

 ナナシに一言声をかけると一人牢屋から離れ、廊下の方から離れていく。

 直後、何発かの銃声が鳴り響いた。


「ごめんな、驚かせる音を響かせて。でも、これで君達はより安全になった。

 君達はもう怖い目に遭う必要はないんだ」


 慎重に距離感を推し量る言葉。

 その行動がメリスの何かに触れたのようで目の前に現れた最後の希望と思って返答した。


「ヒナだけでも助けてください!」


 ナナシは言葉を受け、立ち上がる。

 牢屋のカギの穴のついた部分を指先でちょんと触れるとたちまち錠を切断した。

 牢屋の中に入れば、再び少女の前で跪く。


「それは出来ないかな」


 ナナシは首にかけていた赤いマフラーをそっとヒナリータの首にかけ、優しく結んであげる。

 さらに頭にかぶっていたニット帽をメリスに被せた。

 牢屋の窓から月明りが差し込み、スポットライトのようにナナシを照らした。


「なぜなら、俺は欲張りだから」


 さらにナナシは魔法袋から二人分の外套を取り出した。

 サイズは大人用であるため大きすぎるが、されど風を遮断するには十分だった。


 その二つをメリスとヒナリータに羽織ってもらう。

 これまで冷たい風が流れ込んでくる牢屋の中でボロい薄着一枚だった二人にとっては、与えられたものはまるで神様からの慈悲のようであった。


 直後、戦闘を戻ってきたハルと一緒にレイモンドとクルミ、とトゥララがやってきた。


「レイ、お姫様達のエスコートを頼むよ」


「わかった。これからテメェらは敵大将のとこに向かうんだな」


「もちろん」


 ナナシは立ち上がり、牢屋から出ていく。

 ハルと一緒に歩きだした彼にクルミが声をかけた。


「どこにいるのかわかってるんですか?」


「少なくともここにはいないだろうね。ここは城の別塔だから。

 でも、どこかにはいるでしょ」


「そりゃそうでしょうけど」


 相変わらずいい加減な返答、とクルミが思うのも無理はない。

 ナナシはスススッと皆から少し離れた位置に立った。


「大丈夫大丈夫なんとかなるって。

 これまでの冒険だってボスまでの最短ルートを見つけた時あったし。

 例えば、そこの壁に敵までの直通ルートの抜け穴があったりするかもしれないじゃん」


「ここですか?」


 クルミは近くの壁に触れた。瞬間、その壁の一部がガコッと動く。

 その如何にも隠し通路に行くような仕掛けで発動したのは足元が無くなる落とし穴。

 加えて、その位置は丁度ナナシが立っていた場所だ。


「あら?――あららららら~~~~~~~!?」


 数秒空中を平泳ぎして粘るナナシだったが、底の見えない穴へと真っ逆さまに落ちていく。

 その突然の光景にハルやレイモンドは唖然とし、クルミはあわわわわと顔を青ざめさせた。


「ごめんなさい! 私またなんかやっちゃいましたー!」


****


―――別サイド、ミュウリン&クレアチーム。


 ミュウリンとクレア、瞬光月下団の数名は現在城内にて戦闘中であった。

 黒い外套と青い外套を着た仮面が一斉に襲ってきているのだ。


「黒い方は皆に任せるよ! ミュウリンさん、私達は青い方を相手しましょう!」


「りょ~」


 クレアは丸めた鞭を瞬間的に振り回す。

 その行動は敵を攻撃したり、敵からの攻撃を弾くこともあれば、さらには敵の足を掴んで投げ飛ばすなど多種多様。


 鞭のような捉えずらいものから繰り出される選択肢のある攻撃パターンなど敵からしても厄介な攻撃だ。

 その戦闘スタイルは一緒に戦っていたミュウリンも舌を巻いた。


「凄いね~。ボクが戦うこともあまりないかな」


「何を言ってるの。相手も手練れの用だし、段々と見切られ始めている。

 だけど、それでも私の攻防が成功するのはひとえにミュウリンさんのかく乱があってだから」


 実際、クレアが戦う時の最大の弱点は鞭が複数相手に向かないことだ。

 鞭はその性質上打撃武器であり、さらに火力を出すには十分な遠心力が必要。


 敵が複数いればそれだけ鞭を振り回せる空間が無くなり、振り回せないことは火力の激減に繋がる。

 故に、クレアの攻撃は制限された場所や味方の有無など状況に左右されやすいのだ。


 以前、館での半グレ集団の襲撃の際も屋敷の中という人が複数人動くには狭い場所だったから、クレア一人でもどうにかできた。


 しかし、今の舞台は城の中。

 兵士やメイド、客人など基本的に多くの人が行動する城の廊下は広い。

 加えて、今彼女達が居る場所はちょっとした広がりのある空間だ。


 そんな中でもクレアが冷静に対処できているのはミュウリンが床、壁、天井を使ってせわしなく動いてるからだ。


 ミュウリンの戦闘スタイルは超近接戦闘(インファイター)スタイルだ。

 両手両足に魔力で生成した特殊な防具を身に付け、小柄な身長を活かして高速で動き回る。


 それだけでも厄介なのに、ミュウリンは魔王の娘という盛りすぎのバフがある。

 かつて勇者達を一度敗北させたという魔王の血を引く以上、ミュウリンが戦闘能力において遅れを取るのはまずありえない。


 そんなミュウリンがクレアが戦いやすいように一対一(サシ)での戦いを青い外套の仮面に強いているのだ。

 もはや、クレアが楽を出来るのは当然のことである。


「ふぅ、終わったね」


 やがてミュウリンとクレアは戦闘を終えた。

 彼女達の前にはクレアの鞭に仕込まれた痺れ薬によって動けなくなって倒れている青い外套の仮面達の姿があった。


「やったね、クレアちゃん」


「う、うん。そうだね......」


 ぶっちゃけ私要らなくね? と思っているクレアだが、ぶっちゃけその通りである。

 しかし、隣にいるミュウリンが非常に満足そうにしているので、クレアはそっと言葉を飲み込んだ。


「にしても、殺さなくて良かったの?

 たぶんハルちゃんだとバンバン殺っちゃってると思うけど」


「そうだね~。むやみに殺すのは良くないけど、殺してしまうのは仕方ないね。相手も殺しに来てるわけだから」


「その理論だと私達も殺した方がいいことになるけど」


「そこはほら、個人の考えによるものだよ。

 もしくは、場合によるってやつ。

 ボク達の今の目的は別に殺すことじゃない。

 だったら、一時的にでも動けなくさせるで十分じゃない?」


「まぁ、確かに......」


「それに仮にもう一度襲って来ようものなら、その時はまぁボクも相手するよ」


 淡々と吐き捨てたミュウリン言葉に、クレアはゾクッとするものを感じた。

 寒気というべきか、悍ましさというべきか。

 得体の知れない空気のようなものを隣の小さな肉体から感じた。


 しかし、その感覚もナナシがいるからと説明づけるとなんだか不思議と納得してしまう。

 やはり、基本的におかしい行動を取る人にはユニークな人物が集まるものなのだろうか。


 自分もそのうちの一人に含まっているのかと考えると、なんだか頭が痛く感じたクレア。

 とはいえ、こんな答えのない問いを考え過ぎたって意味ないだろう。


「よし、とりあえず先に進みましょう。ミュウリンさん」


「そうだね。そして、隠し財産をガッポリ盗もう~!」


「いや、私達の目的はハイバードの不正の証拠......って、それもあったか。

 よし、皆! 次に進むよー!」


 そして、ミュウリン&クレアチームは城の中を走り続けた。

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