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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第77話 冬夜の希望

「さて、今から作戦を発表するわ。皆、心して聞いてくれる?」


 バレッツェンに到着したその日の夜。

 クレアは明日には実行する作戦を説明し始めた。

 その作戦は簡潔に言えばこうだ。


 まず部隊を四チームに分けていく。

 敵大将を狙う一番槍であるナナシ、ハルのチーム。

 敵城を探索するミュウリン、クレアのチーム。


 ナナシ、ハルチームが無事に辿りつけるように護衛するレイモンド、クルミ、トゥララのチーム。

 逃げ道の確保及び敵城内の道を確保するゴエモン、トム、メスミルのチーム。


 肝心な作戦内容はゴエモンチーム以外が城の中に潜入。

 ゴエモンは城の前で待機し、敵の応援の排除。


 城の中に入れば、ミュウリンチームが城の中の探索を始める。

 捕まっている人やハイバードの悪事の証拠を集めるのが仕事だ。

 

 レイモンドチームはナナシチームを温存したまま敵大将を運ぶことが仕事だ。

 最後に、ナナシチームが敵大将まで行き、勝利を収める。


「その他のことは臨機応変にってことで。それじゃ、早速明日には始めるわよ」


 その言葉にナナシはそっと手を挙げた。

 その行動に全員が注目を集める中、ナナシは告げる。


「明日? いや......今でしょ」



*****


 茶髪の少し鋭い目つきをする猫人族(ワーキャット)の十歳ぐらいの少女。

 その少女の名はヒナリータ。

 しがない一般人の娘である。


 ヒナリータが現在いる場所は鉄格子がついただけの窓と年季の入った石畳の上。

 何日も着たようなボロ布一枚に身を包んでおり、氷のような冷たい床の上で今日も足先を丸めて座る。


 出来るだけ風が直撃しないように壁際に寄りながら三角座りをし、自身から熱が逃げないように体を丸める。


 ヒナリータの周りには同年代の人族や森人族(エルフ)、別の種類の獣人族の少女の姿もある。


 少し年齢が高いぐらいのその少女達は最年少のネコミミ少女を中心として身を寄せ合って過ごしていた。


 ヒナリータがここにやってきたのは唐突の出来事だった。

 ある日、近くの森で他の友達と一緒に戦っていたら、全身を外套で包んだ男達が現れた。


 少女の近くには保護者の大人が数人いたが、その人達はあっという間に殺され、気が付けば僻地のような場所に連れて来られていた。


 これまで平穏に過ごしていた日々はあっという間に一変した。

 ほぼ雪が降るこの街は過ごすにはあまりにも過酷な環境であり、与えられる食事も暖かいものなど一つも無かった。


 ヒナリータがここにやってきた時にはすでに他の少女達が居た。

 頬が痩せこけ、生きているのが不思議なぐらいな様子をした少女ばかりだった。


「あなたは名前をなんて言うの?」


 最年長らしき黒髪の少女が話しかける。

 ヒナリータは目を逸らしながら答えた。


「......ヒナリータ」


「ふふっ、良かった。ずっとムスッとした顔をしてたから気難しい子だと思ったけど、そうじゃなくて。

 私の名はメリスっていうの。よろしくね」


 デフォルトでムスッとした表情のヒナリータに対し、メリスは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。


 メリスだけではない。

 周りにいた少女達も最年少のヒナリータを自分の妹のように可愛がった。

 そのことにはヒナリータも嬉しそうに笑った。


 しかし、過ごす環境はあまり過酷だった。

 季節で言えば八月から雪が降り始め、一年の半年は雪というこの街。

 雪の季節が始まれば、少女達は身を寄せ合って体を温めた。


 だが、それだけではいずれ死んでしまう。

 それを回避する方法が一つだけあった。

 それが“奉仕”という仕事だった。


 その内容はまずもってロクでもない内容だ。

 例を挙げるとするなら、汚いデブオヤジの体を舐めて奇麗にするといった仕事。


 当然、そんなことをしたがる少女はいない。

 だが、過酷な雪の季節を迎えたのなら話は変わる。

 なぜなら、その奉仕の時だけ暖かい場所に居れるからだ。


 奉仕の相手はハイバードと懇意にする貴族。

 その貴族のもてなしであるが故に、暖炉のある部屋で過ごせるのだ。

 加えて、奉仕の報酬として温かい食事を取ることができる。


 そんな日々に洗脳じみた行動をする少女が増える中、メリス率いる一部の少女は抗っていた。

 彼女達の意志は一つ――妹分である最年少のヒナリータを守ること。


 仕事は基本一人ずつに与えられる。

 だが、誰かが仕事を肩代わりすることができる。


 本来なら自分が生きるのに必死でそんなことをする少女は少ない。

 しかし、メリス率いる一部の少女達は誰かがヒナリータの代わりを務めていた。


 仕事で得た温かい食事はヒナリータに与える。

 その行動にヒナリータも思う事があったが、助けてくれる少女達の優しさに甘えた。

 そのためヒナリータが汚れることは無かった。


 そんなある日、少女達の絆を試すようにハイバードが現れた。

 その男は言った――「最年少君が犠牲になれば、牢屋にいる全員を解放する」と。


 ヒナリータはこれまでの恩を返すように行動しようとした。

 しかし、相手は年端もいかない少女を喜んで犯す狂った貴族の男。

 そのことにメリス達の誰もがヒナリータの行動を止めた。


 最終的に一人の少女が名乗りを挙げ、その貴族のもとへ奉仕に行った。

 その少女が帰ってくることは無かった。


 後にやってきたハイバードは言った――「最年少君が行かなかったせいで、君の友達は腹上死してしまった」と。


 そう言いなながら、ハイバードはヒナリータに新たにチャンスを与える。

 新たなチャンスとは当然ながらヒナリータに奉仕を迫ることだ。

 だが、そうはさせまいとメリス達が自らを犠牲にして行動する。


 結果は当然同じだ。

 その結果に再びハイバードは笑ってやってくる。

 まるで少女達が積み上げてきた絆を弄びながら、少しずつ心を折っていくように。


 ハイバードは貴族としての仕事があったため、毎回このような試練を与えることは無かった。

 されど、彼がその試練をヒナリータに課した時、必ず一人の少女が帰らぬ人となる。


 自分のせいでずっと守ってくれていた人達が死んでいく。

 そのことがヒナリータには耐えがたかった。

 だからこそ、行動しようとするが、その行動は他の少女達によって止められる。


「ヒナ、行っちゃダメ。行ったらこれまでの子達の頑張りが無駄になる」


「......でも」


「大丈夫、必ずお姉さん達が守るから」


 その言葉が時間の問題であることはヒナリータも分かっていた。

 しかし、それが分かってもなお守られてることは嬉しくて、同時に情けなかった。


 時が経つにつれ、少女達は牢屋から少しずつ数が減る。

 奉仕で帰って来なかったり、体調を崩して亡くなったり。

 新たに少女が入ってきたこともあったが、ヒナリータよりも先に死んだ。

 自ら死んだ少女もいた。


 そんな地獄の日々が経過ある日、ついにヒナリータが知っている人物はメリス一人となった。

 そして、その日はハイバードがやってくる日だ。

 つまり、今度犠牲になるのはメリスの番。


「もう、結局ずっとそんなムスッとした顔だったね。

 女の子なんだからもっと可愛く笑わないと」


「.......」


 ヒナリータは答えることなく目線でメリスに伝えた。

 最年少の少女から送られる寂しげな目にメリスは微笑む。


「相変わらず無口だね。だけど、その目は感情豊かだ。

 あ~あ、これで可愛いヒナと一緒に入れるのは今日で最後か」


 ヒナリータはその言葉を聞いて視線を落とすと、そっとメリスの服を掴んだ。

 その行動にメリスはそっとヒナリータを抱き寄せる。


「甘えんぼさんめ。今日はお姉ちゃんの体温を全部あげるぐらい温めてあげる」


 メリスのギュッとしてくれる行動にヒナリータの心が温まった。

 しかし、それが最後だと思うと守られ続けた自分が情けなくて仕方がなかった。


 そんな姉と最期の時を過ごしていたある日、ヒナリータのネコミミがピクッと異変を捉えた。

 ピクピクと周囲の音を探るように耳が動く。


「どうしたの?」


「......騒がしい」


「騒がしい? 誰かが貴族様を怒らせちゃったのかな」


「......違う」


 ヒナリータの否定の言葉はすぐに現実になった。

 遠くから貴族の男の騒がしい声が聞こえてきたのだ。


「なんだと!? 城内に侵入者!? そんなもんハイバードの手下であるお前らの仕事だろ!

 頭がおかしいぐらいに強い? そんな情報はいらん! 俺はこれからお楽しみで忙し――」


「はいどうも頭のおかしい爆裂男です......なんちゃって。あなたの髪をエクスプロージョン!」


「ギャアアアアア! ワシの髪がああああああ!」


「うるさい」


―――パァン


 女性のような声が聞こえた直後に鳴り響く銃声。

 その音にヒナリータとメリスはいつもと違う雰囲気を感じた。

 貴族が怒ってピリついた空気は前にもあった。

 その時も騒がしかったが、今回は性質が違う。

 言うなれば、そう、どこか怖くない。


「ナナシが来たかった場所ってここ?」


「そうそう。将来有望の可愛らしいお姫様の悲しい雰囲気に誘われてね。

 道化師の仕事はたくさんの笑顔を作ることだから」


 ヒナリータとメリスは互いに体を抱き合わせた。

 牢屋のランプの奥から壁を這うように影が伸びる。

 そして、牢屋の前に現れた二人の男女を見た。


「どうも初めまして、白馬の王子様です。お姫様達をお迎えに参りました」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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