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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第76話 敵の喉元

 ナナシ達が移動を開始してから二週間と少し。

 長い旅路の中で友好を深め合ったナナシ達が辿り着いた場所は雪原広がる先にそびえる街。

 ハイバード=ロードスターが治める聖王国と帝国の北境にある僻地街バレッツェンだ。


 門の前で馬車から降りたナナシは暖かい冬服コートに、赤いマフラーに身を包みながらも、まだ寒いのか両腕を擦って体を温める。


「うぅ......寒い。この世界は日本と同じ四季だと思ってたのに、九月の時点でもう雪が降ってるとかやべぇよここ。

 だかしかーし、せっかくの雪を楽しまないというのは道化師の名折れ! いざ行かん、積雪ダイブ!」


 ナナシは一人で元気よく叫ぶと近くの雪にダイブした。

 うつ伏せから仰向けに向きを変えれば、両手両足をばたばたさせてスノーエンジェルを作っていく。


「わぁ、凄い! 私もやってみたい!」


「アタイもやるっス!」


 ナナシの行動を見て童心が刺激されたクルミとメスミルは、同じように彼の隣で寝そべりスノーエンジェルを作り始めた。


 そんな彼らの姿を冷めた様子で見るハルの横にミュウリンが並ぶ。

 ニット帽にフワフワしたコートに身を包んだミュウリンはハルに話しかけた。


「ナナシさん、はしゃいじゃってる演技してるの可愛いよね」


「アレは素だと思うけど。ハァ、あの二人もはしゃいで......。

 ともかく、ついにあのクソ野郎の喉元にまで迫ったわけよね」


 ハルは門の方を見ながら、宿敵の顔を脳裏に浮かべて呟く。

 そんな横顔をミュウリンは見つめていた。


 それから、ナナシが男子陣を巻き込み雪合戦を始め、それをレイモンドとクレアに止められるということがありながら無事に入門。


 ナナシはゴエモンが手のひらから出す炎で暖を取りながら、周囲の街並みを見ながら呟いた。


「敵がすぐ近くまで来たってのに随分と警戒が無いね。まるで脅威にすら思ってないようだ」


「それだけの自信があるってことだろ。

 で、大将、いい加減人の炎で暖を取るのやめてくれる?」


「え、いいじゃん。ケチ、タダでしょ」


「俺の魔力を消費してるんだわ。つーか、大将なら自力でどうにかなるだろ」


 ナナシ達はその街で宿を取るとすぐさま情報収集を開始した。

 しかし、その情報は瞬光月下団が集中して行ってくれるということなので、ナナシ達は観光することにした。


 しばらく好き勝手歩き回ると広場に戻ってきたナナシ達一行。

 今もしんしんと降る雪を見ながら、ナナシは感慨深そうに言った。


「こういう雪国に来るとなんだか別世界に来たような感覚になるよね」


「そうだね~。寒いのは苦手なんだけど、こういう景色見れるのは嫌いじゃないんだよね」


 ナナシは地面にしゃがむとせっせと雪をかき集めていく。

 しっかりと水分のある雪なのかすぐに雪玉が作れてしまった。

 おにぎりサイズの大きさが作れると今度はそれをコロコロと転がしていく。


 その横ではミュウリンが手袋を雪まみれにしながら、せっせと雪を集めていた。

 ナナシが雪玉を作りやすいように手助けしているのだ。


「ナナシ、さっきもそうだけどさ。子供じゃねぇんだから雪玉なんて作ってんなよ」


「バカ野郎! 男はいつまで経ってもクソガキのままだ!」


「それは胸を張って言うことじゃないぜ、大将。それに俺も巻き込むな」


 夢中になって雪をかき集めているナナシに肩を諫めるレイモンド。

 はしゃいでる姿は少しばかり可愛く見える彼女だが、仮にも元勇者がこんなんでは示しがつかないだろう。


「ミュウリンも何か言ってくれ」


 レイモンドはミュウリンに助けを求める。

 それに対する彼女の反応はこうだ。


「ん? いいんじゃないかな。ほら、ナナシさんも『可愛ければいい!』って言ってるし」


「それは若干方向性が違うんだよなぁ」


「止めとけ、レイモンド。ミュウリンはダメなことはダメと言える子だ。

 そんな子が言わないってことは、今は母性全開モードなんだよ」


「あぁ、なるほど。普段甘えたりしないタイプだったり、甘えるのが下手なタイプに構うタイプなのか」


「単純に大将を見てて飽きないだけだと思うけどな」


 苦労が絶えないレイモンドとゴエモン。

 ナナシの行動は基本的に制御不可能なのでミュウリンが頼りになる。

 しかし、そのミュウリン(ストッパー)がナナシに甘いので実質的に止めるのは不可能なのだ。


「よし、出来た! さて、レイ。俺の魔球が捉えられるかな?」


「ハァ? んなもんやるわけねぇ――ぐむっ」


 例の顔面に雪玉がボスッと辺り、砕けた雪がレイモンドの顔を覆った。

 直後に、彼女から放たれるオーラに隣にいたゴエモンは焦りの表情をする。


「待て待て、落ち着けレイモンド! 挑発に乗るな!」


「あぁ、オレは理性的な人間だ。だから――がっ」


 二投目がレイモンドの顔に当たる。

 瞬間、レイモンドの理性が切れた。

 もともと勝気なヤンキー根性がレイモンドだ。

 やられっぱなしは彼女の性に合わない。


「やってやるよ! このバカ道化師がー!」


「だぁーーー! レイモンドが飲まれた――むっ」


 味方が居なくなって一人になったゴエモンの顔にも雪玉がぶつかる。

 その雪玉を投げたのはミュウリンだった。


「どうせこうなったらバカになっちゃおうよ」


「.......ハァ、ホント大将のそばは飽きねぇな」


 ミュウリンの一言でゴエモンも加入。

 街の中心の広場を舞台にナナシ&ミュウリンチームとレイモンド&ゴエモンチームの戦いが始まった。


 壁が作られた本格的な特設ステージにて行われる大人同士。

 それも全員が人外領域の強さを持つ大人四人が戦う雪合戦はすぐさまギャラリーを呼んだ。

 大勢のギャラリーに見守れながら、ナナシ達は汗をかくまで投げ合った。


―――数時間後


「で、誰がこんなことを始めたの?」


 宿屋の一室でベッドに座るクレアの前で正座をさせられる四人。

 クレアの一言にレイモンド、ゴエモンが指を差し、ナナシは自ら堂々と手を挙げた。

 なぜかミュウリンも一緒になって手を挙げて罪を被っていたが。


 クレアは「でしょうね」とため息を吐くと言葉を続けていく。


「全く敵中のど真ん中であんな目立つ行動をするなんて非常識にもほどがあるよ。そう思わないナナシさん?」


「はい、全くその通りです!」


「年下の私も説教とか気分が悪いんですよ。

 ですが、こんなことも言いたくなるってもので.....わかりますよね、ナナシさん?」


「はい、全くその通りです!」


「待って、止めなかったボクも悪いんだ――」


「はい、ミュウリンさんはお口チャック。そんなこと言ったら全員になるから。

 悪いのは主犯のナナシさんでいいんです。そうすよね、ナナシさん?」


「はい、全くその通りです!」


「......ナナシさん、私の名前は?」


「はい、全くその通りです!」


 クレアはbotのように言葉を繰り返すナナシに怪訝な目をする。

 彼女がそっとナナシの頭を押してみると、彼は正座したままガタンと寝そべった。


「あー! やっぱり、これ人形じゃん!」


「土魔法での人形に幻惑魔法を重ね合わせた感じだね~。全然気づかなかった」


 ミュウリンの言葉にクレアは両手の拳をギュッと握り、叫んだ。


「どこに行ったのよーーーー!」


―――同時刻


 宿屋の屋根の上では街から少し離れた城を眺めるナナシがいた。

 そんな彼のそばにハルが近づいてくる。


「下でドタバタやってるけどまたあんたのせい?」


「普段より賑やかだとしたら、俺のせいかもね。悪い事したかな?」


「アタシは別に。クレアはどう思ってるかは知らないけど。

 でもまぁ、変に緊張することは無くなったんじゃない?」


 ハルはナナシの横に立った。

 彼女も同じく城の方を見ながらナナシに話しかける。


「街での情報からだとあそこにいるみたい。

 また、前みたいに堂々と待ち構えてるパターンかも」


「大丈夫さ。今度は一人じゃない、でしょ?」


「......そうね」


 ナナシが微笑みながら問いかけて来る。

 その言葉にハルも釣られて笑った。


 しばらく城を眺め続けた後、ハルは小さく息を吸うとナナシに言った。


「ハイバードとはアタシが戦う。だから、あんたは手を出さないで。例え、アタシが死ぬようなことがあったとしても」


*****


 場所は移って城のとある一室。

 外の冷たい空気が流れ込む牢屋の中では、数人のボロ布一枚を着た女児が身を寄せて暖を取っていた。


 その一人である明るい茶髪をしたネコミミの少女は耳をピクッと動かして、街の方角の壁を見つめる。


「どうかしたの?」


 最年長の少女の言葉にネコミミ少女はそっと首を横に振る。

 そのネコミミ少女に最年長の少女はギュッと抱きしめた。


「大丈夫、私達が必ず守るから」

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