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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第75話 夜道の談笑

「――それがアタシが復讐を決意した理由。

 だけど、アタシ一人ではきっと成し遂げられない。

 だから、あんた達には力を貸して欲しい」


 パキッと燃える木が高い音を立てる。

 静寂が囲う暗闇の森の中で、唯一の光源となっている焚火を囲いながら、ハルはこれまでの過去を話していた。


 その話を聞いていたナナシは、顔を見上げ夜空を見ながら尋ねる。


「その話、俺だけが聞いて良かったの?」


 彼の周囲には二台の馬車がある。

 それぞれの馬車の中では今頃女子と男子が分かれて雑魚寝している最中だろう。

 二人が起きているのはハルが話すついでの夜番をしていたからだ。


「いいのよ、そんな言いふらす話でもないから。

 あんたに話したのはどこか師匠に似た雰囲気がしたから。

 .......あんたって家族はいるの?」


「いたよ。けど、たぶんもう会えないかな」


 星空が空高く輝きを放つ。

 手を伸ばせば掴めそうな、されど決して届かない。

 そんな場所にナナシの家族はいる。


「そう。アタシと一緒ね」


 焚火をぼんやり見つめながら、ハルは呟いた。

 すると、ナナシは首を傾げて彼女を見る。


「一緒? そうは思わないな。君はもうとっくに新たな家族がいるじゃないか」


「え?」


「だってさ、君の親父さんは血が繋がってなくても君のことを“家族”って言ってくれたんだろ?

 だったらさ、君が今一緒に暮らして過ごしている瞬光月下団ももう家族なんじゃない?」


「っ!」


 ハルは意表を突かれたような顔をした。

 しかし、ナナシの言葉が腑に落ちたのか「そうね」と柔らかく笑みを浮かべる。


 ハルがクスッと笑ったのを見ながら、ナナシは魔法袋から緑色をした芋を取り出した。

 それを魔法でコーティングしながら、焚火の中に放り込む。


「君達、瞬光月下団はただの寄せ集めの集団じゃない。

 だから、突然の遠出にも関わらず全員が文句も言わずについて来てくれたんだろ?」


「全員じゃないわよ。連れてきたのは精鋭だけ。皆もそう思ってくれてたら嬉しいけど」


「嬉しいに決まってるじゃない」


 ナナシとハルの会話に夜番の交代のために起きたクレアが割って入ってきた。

 クレアはハルの横に座ると言葉を続けた。


「いつかの昔に聞いたことあるんだ。この組織をどう思ってるかって。

 そしたら、皆して『家族になったようで楽しい』って答えたんだ。

 スラム街は捨て子や孤児が多いからね。きっと皆家族に憧れてたんだよ。

 そんな皆の居場所になってくれたのがハルなんだから」


「クレア......ありがと」


 そんな尊い百合の波動を感じながらナナシはクレアに質問した。


「さっきハルから聞いたんだけど、クレアは貴族の娘だったみたいだね。

 どうして君が貴族の娘でありながら今のような生活をしてるか聞いてもいいか?」


「簡単な話だよ。ハルのそばに居たかったから。

 私の家族はハルのお父様――クロムさんと懇意にしてたみたいだったから。

 私がハルと一緒に行動することを伝えると快く送り出してくれたよ」


「義賊になったのは?」


「早い話がハルの復讐相手を見つけるため。

 結構な時間が経っちゃったけどな。

 気が付けば人魔戦争だって終わってるし。

 それでも、ようやく手がかりを見つけた。

 だから、ナナシさん達には感謝してる」


 クレアの笑顔を見ながら、ナナシは焚火の中で温めた芋を取り出した。

 それをハルとクレアに渡していく。


「これサツマイモみたいで甘くて美味いんだよ。熱いから気を付けてね」


「サツマイモ?」


 クレアは聞いたことない食べ物の名前に首を傾げながら、熱々の芋を手に取った。

 その後、ハルも同じようにナナシから手渡しされる。


 ハルとクレアは顔を見合わせると、同時に芋に齧りついた。

 直後、二人の口に広がるホロホロと崩れる身と瞬く間に広がる甘味。

 その美味しさに二人は頬を蕩けさせた。


「美味しい......」


「うっまぁ~~~~♡」


「でしょ~」


 夢中で食べていくハルとクレア。

 あっという間に食べ終わるとクレアはハンカチで指を拭きながら、今度は彼女の方からナナシに質問した。


「そういえば、ハルが復讐に力を貸してって言った時にどうして二つ返事で了承してくれたの?

 正直、勇者パーティーのレイモンドさんがいる時点で断られると思ってたけど」


「それは至極単純な話だよ。俺が守りたい方を選択しただけ。

 レイはそれについて来てくれただけさ」


 その言葉にハルが首を傾げた。


「前から思ってたけど、あの中であんたがパーティを仕切ってるよね。何者なの?」


「俺はしがない道化師さ。皆が笑っているところを見るのが大好きなので、今日も今日とて俺が望む平和に邁進中ってね」


「そこまでは答えるつもりはないってことね。ま、別にいいけど。

 怪物みたいなあんたが力を貸してくれるっていうなら、これほど心強いことはない」


「ハルってば、最初からナナシさんを高く買ってるけど何かあった?」


 クレアが疑問に思って質問するが、ハルに答える様子はなかった。

 そんな二人を見つめながら、ナナシは最後の二人の覚悟を尋ねる。


「ここまで来て聞くのも変だけどさ、最後に君達の覚悟を聞かせてくれ。

 出発前にも話したと思うけど、コマニーが聖王国へ護送中に殺された。

 コマニーを殺した刺客は『関われば殺す』という警告文を置いてったという。

 つまり、これは俺達に対する警告と言っても過言ではない。

 その上でまだ君達は――」


「やるわ。絶対に」


「うん、このためのこれまでの生活だったんだから」


「......ま、わかってたけどね」


 ナナシは立ち上がると土埃のついたお尻を手で払い、両腕を伸ばして大きく伸びをした。

 同タイミング、二人の女性が近づいてくる。


「ナナシ、交代だ。必ず寝ろよ」


「寝れないようだったらボクが寝かしてあげようか」


「それはなんと甘美な響き! あ、でも、このまま起きてハーレム気分を味わうのも――」


「いいからとっとと寝ろ!」


 ナナシはレイモンドにお尻を蹴られ、しょんぼりした様子で男子が雑魚寝している馬車に入って行った。


***


 そんな情けない後ろ姿を見ながら、レイモンドとミュウリンは焚火を囲って座る。

 四人の中で最初に口火を切ったのはミュウリンだ。


「ハルちゃんは寝なくていいの~?」


「せっかくだしもう少し話したらにする。

 こうして顔を突きわせて話す機会もあまりなかったし」


「ふふっ、そっか。ならさ、ナナシさんについてどう思った?」


 ミュウリンの質問にハルとクレアは顔を見合わせた。

 そして、意図せず口を揃えて答える。


「「道化師は似合わない」」


「だよなぁ~」


 二人の意見に同意を示したのはレイモンドだ。

 彼女は胡坐をかき、頬杖を突きなながら口を開いた。


「アイツ、もともとあんなキャラじゃないのにな」


「前はどうだったの?」


 ハルの質問にレイモンドは微笑む。


「クソ真面目の頑固者だよ。一応、人の意見を聞き入れちゃくれるが、オレ達に頼らず一人で先行する節がある。

 さっき話してたなら明らかなテンションの違いがわかったろ?」


「そうだね。めっちゃ真面目で誠実そうなお兄さんキャラみたいな感じだった。

 ハルや私にこれからの戦いに対する覚悟を聞いてくるぐらいだし。

 二人が来た瞬間に突然ふざけたことを言い出したけど」


「ふふっ、それも頑張ってやってると思うと可愛く見えるよね~。

 ナナシさんは面白おかしく行動するのを見て、真面目にキャラを守ってるんだなって可愛く思いながら見守るのがいいんだよ」


「そんなレベルの高い楽しみ方をするのはミュウリンぐらいだと思うぞ」


 ナナシがいない場で赤裸々にナナシでの楽しみ方をレクチャーするミュウリン。

 一見すると少しお姉さん味のある幼女体形のゆるふわ少女から出た言葉に、周りの三人は意外そうな顔をした。


「ねぇねぇ、レイモンドさん! ナナシさんに関するエピソード聞かせて!」


「アタシも興味あるわ」


「そうか。しゃあねぇな、それなら秘蔵のエピソードを――」


「あ、前にナナシさんから昔レイちゃんにお風呂に連れ込まれたって聞いたけど......それってホント?」


「ちが、それは昔の話で!? くっ、ナナシの野郎、余計なことを話しやがって!」


 僅かに雲がかかった月が届かぬ夜の森。

 どこかで魔物が耳をそばだててるかもしれないそんな中。

 しばらくの間、四人の姦しい話声が響き渡った。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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