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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第71話 弱さの自覚

「えーっと、つまり自分より強い相手と戦って、どのくらいの実力差があるのか知りたいというわけでとっておきのメンバーを連れてきました!」


「前にもいたメンツね」


 ハルが手合わせを要求した翌日、集合場所のアジトの庭でナナシは自慢の仲間達を紹介した。


 ここに来る間でナナシから何も聞かされていなかったミュウリン達は、ここで初めてアジトまで連れて来られた内容を知った様子だ。


「えーっと、ハルちゃんが戦いたいってこと?」


 ミュウリンが確認するように手合わせを提案した本人に確認する。

 その問いに対し、ハルは「そう」と短く返事した。

 今度は聞き耳を立てていたレイモンドがしゃべり始める。


「ま、事情がありそうだっから受けるのもやぶさかじゃない。

 ちなみに、その武器で戦うでいいんだよな?」


「うん、これがアタシの武器。部類としては飛び道具かな」


「だったら、オレは相性が悪いかもな。基本盾で防いでのゴリ推しだし。

 その武器での威力はどのくらいなんだ?」


「そうだね。使う弾は非殺傷のゴム弾だけど、たぶんまともに<身体強化>してないと骨折れる」


「そうか......」


 レイモンドは腕を組んで少しの間考えた。

 そして、一つの回答を出す。


「まずナナシは論外だ。戦いにならない。で、オレは相性が悪いからなし」


「ボクはいけるよ~。基本超近接戦闘(インファイター)だし」


「残念ながらミュウリンもダメだ。ミュウリンの意志を尊重したと所だが、自称プロデューサーとやらがゴーサインだしてないから」


 レイモンドが指さす方向をミュウリンが見る。

 すると、プロデューサー(ナナシ)が胸の前で両腕を使ってバツを作り、首を横に振っていた。


 そんなナナシの対応にミュウリンは頬を膨らませムッとする。

 スタタタとプロデューサーに近づけば、直接抗議に打って出た。


「ナナシさん、ボクはいけるよ。信じてくれないの?」


「っ! え、今の可愛い。ちょ、もう一回首コテンってやつやって!」


「え、こう......?」


「くっ、可愛いいいいぃぃぃぃ!

 ゆるふわで可愛くてちょっとあざと卑しい......なるほど、これが最強か。

 布教だ! この可愛さを布教しろ! 全世界にこの破壊力を知らしめてやれ!!」


「もうナナシさんったら......」


「おい、趣旨から外れて二人でイチャイチャすんな」


 いつの間にか二人で作り出してる楽し気な空間に若干へそを曲げた顔をするレイモンド。

 そんな彼女による注意で意識を取り戻したミュウリンは再びナナシと対立する。

 すると、ナナシはかがんでミュウリンの両肩に手を置くと答えた。


「いいかいミュウリン。骨が折れていいのはゴエモンだけでいい」


「おい、大将。やっぱ俺の扱い雑じゃねぇか」


「だが、消去方でいったらお前しかいないだろ?

 それとも、こんな可愛い幼気な少女を戦闘に送り出すのかい?」


「ナナシさん、ボクは成人済みだよ」


 卑怯にもナナシはミュウリンを引き合いに出して説得を試みた。

 その効果によるものか、はたまた諦めただけなのか、どちらにせよゴエモンは腰に手を当てて大きくため息を吐いた。


「わーったよ。やりゃいいんだろ、やりゃ。悪りぃな、時間かかっちまって。

 木刀二本あるか? なけりゃ木剣でもいいが」


「木剣ならある。トゥララ、持ってきて」


 ハルに支持されたトゥララは二本の木剣をゴエモンに渡した。

 ゴエモンはそれを軽く振り回し、感触を確かめると距離を開けていく。

 彼の行動と同時に、周囲のギャラリーも下がり始めた。


 庭の中央に対峙するゴエモンとハル。

 そんな二人を見ながら、カニ歩きでクレアに近づいたナナシは彼女に話しかける。


「なんだか凄い観客の数だね」


「まぁ、ハルは瞬光月下団(私達)の中で最強の存在だしね。皆気になるのよ。

 それに普段あまりやる気を見せないハルが自ら戦いを申し込んだってのもあるかな。

 真面目に戦闘しているハルが見られるって意味で。

 それで、実際の所どっちが勝つと思う?」


「楽しみを奪っちゃよくないから言わない」


「そっか、残念。ちなみに、私の予想とすれば、ハルが負けるかな」


 まさかの仲間が負ける方を予想したクレアにナナシは驚いた表情をする。

 しかし、彼はその理由を聞かずにこれから始まる戦闘を見届けることにした。


 一方、観客に囲まれながらハルと向かい合うゴエモンは、一つ息を吐いて彼女に話しかけた。


「これから戦いってのはわかるが肩の力抜けよ。肩が僅かに強張ってるぞ」


「ご忠告どうも。あんたはアタシを女だとバカにしないんだね」


「女であろうと子供であろうと戦場に立てば、戦士であり武士だ。

 戦場は武士が生きる道そのもの。

 生半可な覚悟で立っていい場所じゃない」


「.......」


 二人の会話を聞きながら、審判役のレイモンドが両者の間に立った。


「それじゃ、さっさと始めるぞ。準備はいいな?」


「おう」


「えぇ」


「始め!」


―――パァン! パァン!


 レイモンドの合図とともハルが両手のデザートイーグルからゴム弾を発射した。

 ハルからゴエモンの距離は五メートル程。

 その弾の弾速は凄まじく、ゴエモンに届くまで余裕で一秒は切る。


 ゴム弾が向かう先は太ももだ。

 相手の機動力を奪うのが目的だろう。

 その刹那の時間で反応できる者はほぼいない――相手がゴエモンでなければ。


 ゴエモンはゴム弾が太ももに辿り着く前に、両手に持っていた木剣を太ももの上で滑らせるようにしてゴム弾を受け流した。


「っ! 初見で見切るのね」


 この勝負、ハルの初撃の二発がゴエモンに直撃していた時点で勝負は決まっていた。

 しかし、そうはならかなった。

 その攻撃が平然と防がれたことにハルは目を大きく開く。


「あっぶねぇ......ちょっとでも角度ミスってたら木剣折れて直撃してた。

 ぶっちゃけ今のでもうヒビは入ってるし」


 ゴエモンは右手の木剣を順手に持ち替え、軽く振った。

 ヒビの影響が特にないことを確かめるとハルへと視線を向ける。


「それじゃ、今度はこっちから行くぜ」


 ゴエモンは<身体強化>で肉体を強化すると、ハルに向かって走り出した。

 彼の行動にハルはすぐさまゴム弾を発射するが、それを躱されてゴエモンに間合いを詰められる。


「今度はこっちの間合いだぜ!」


 ゴエモンが右手の木剣を振り下ろした。

 ハルはそれを左手のデザートイーグルで防ぎ、右手のデザートイーグルを向ける。

 咄嗟に引き金を引く彼女だったが、その射線はゴエモンの左手の木剣で邪魔されて外れていく。


 ハルは咄嗟にバックアップで距離を取り、二丁のデザートイーグルからゴム弾を連続反射。

 しかし、それらの弾は全てゴエモンに躱されるか、受け流されるかのどちらか。


――カチッ


 ハルの左手のデザートイーグルのマガジンが空になった音がした。

 そのことに彼女は冷や汗をスッと流し、口元を歪める。


 ハルすばやく左手のデザートイーグルから空のマガジンを取り出しつつ、腰に太ももに取り付けているマガジンホルダーから新しいのと取り換えようと動いた。


「っ!」


 瞬間、ゴエモンが左手の木剣をハルに向かって投げた。

 ハルはすぐさま右手のデザートイーグルからゴム弾を一発放ち、木剣を弾く。

 同時に、左手のデザートイーグルをホルスターにしまって木剣に走り出した。


 ハルはそれを左手で手に取り、<練金加工>で薙刀のように刀身を伸ばしながら、横薙ぎに振るう。

 しかし、それはゴエモンが右手の木剣で弾かれた。


「くっ、錬成変換(カスタマイズ)――威力向上(アップグレード)弾丸準備(セットアップ)完了(オーケー)


「っ!」


 ゴエモンの目の前では青白い紫電を走らせるデザートイーグルを構えたハルがいた。


「エンジェル――」


「ハル、ダメ!」


 クレアの制止も虚しく、ハルは銃口をゴエモンに向けた。

 しかし、その向けられた殺意に動じることなくゴエモンは近づき、左手で銃身を掴んだ。


 そのまま銃口を素早く真上に向け、同時に右手の木剣を順手に持ち替えると振りかぶる。

 木剣は吸い寄せられるようにハルの首筋に向かい、数センチの所で停止した。


「はい、二人ともそこまで」


 ナナシが手を一回叩き、二人の間に歩いてくる。

 ナナシが現れたことでハルは勝負がついたことを悟った。


「いや~、見どころある戦いで終始楽しませてもらったよ。

 ただそれはそれとし、ハル、追い詰められて咄嗟に危険な技を使おうとしたでしょ」


「.......」


 ハルはそっと顔を背けた。図星だったからだ。

 ナナシは肩を諫めて言葉を続ける。


「ま、何を焦ってるのか知らないけどさ。

 これはあくまで試合なんだから命の取り合いは無しよ。

 それに真面目な話、たぶん今の攻撃でも当たってたとして、ゴエモンには致命傷にはならないと思うよ。でしょ?」


「いや、さすがに左腕吹っ飛ばされたら結構でしょうよ」


「左腕が吹っ飛ばされるだけで済むのね。さっきのアタシの本気が」


「あくまで脳裏に過ったダメージ予想だけどな」


「でも、それはこれまでの戦いに基づく情報による導きでしょ? 勘ってのは存外間違わないわ」


 ハルは右手に持っているデザートイーグルを見つめた。

 そして、それを胸に当てると、何かを決心したような表情でナナシに言った。


「ナナシ、これからアタシの復讐にどうか力を貸して」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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