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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第70話 スラム街の日常

 ナナシによる宴が開催された数日後、瞬光月下団のメンバー達は穏やかな日常を過ごしていた。


 その日の天気は青空が澄み渡っていて絶好の散歩日和といえる。

 しかし、いつもならポンタと散歩しているハルはアジトの護衛(るすばん)を任されていた。


 アジトの仲間達は皆揃ってアクティブであり、外へ出払っている。

 そのため現在アジトに残っているのは、コマニーから回収した書類を整理しているクレアのみだ。


 たった二人でのアジトの警備。

 しかし、これでも過剰なぐらいだ。


 アジトの庭先でパラソルの下にビーチチェアでくつろぐハル。

 その時、彼女の耳が遠くから捉えた微かな音にピクッと反応した。

 閉じていた目をゆっくりと開け、二階のクレアへと声をかける。


「クレア! カチコミ! そっちに侵入したの任せた!」


 ハルは用件だけ伝えるとビーチチェアから立ち上がり、大きく伸びをする。

 気だるげそうにジャケットのポケットに手を突っ込むと門の方へと歩き始めた。


「よぉ、今日は随分と景気が良いみてぇじゃねぇか。仲間がいねぇな」


 声をかけてきたのは剣を片手にひっさげた粗野な服をきた男。

 その人物以外にも総勢十五名もの男達が徒党を組んでやってきた。


「誰? あんたら」


「あぁ? 俺達は“ハングリーウルフ”っつーこのスラム街の支配者様達だ。

 でもって、これからお前ら瞬光月下団のご主人様になる。

 女のテメェはこれから俺達に奉仕する毎日が始まるってわけだ」


 ハングリーウルフ――スラム街のあるバーレード区にいる半グレ集団の一つだ。


 瞬光月下団によってスラム街はそれなりに治安が良くなっているが、当然それを良く思わない者達がいる。

 ハングリーウルフはその代表例と言える集団である。


 瞬光月下団は明日生きるのがやっとのスラム街の中で唯一その枠組みから外れた集団であるため、半グレ集団からすれば彼らが使うアジトはスラム街にあるオアシスも同じ。


 そのオアシスを独占したいと思うとともに、それを使っている連中が邪魔で仕方ない。

 そんな思いを持った半グレ集団が定期的にアジトを襲いにやってくるのだ。


「ウルフね......犬人族(ワードッグ)でも希少な狼人族(ワーウルフ)のアタシに向かってそう言うってのは、もはやケンカ売ってるも同じなんだけど理解してる?

 それに誰があんたらの下の世話なんかするか。勝手に果ててろ、気持ち悪い」


「ガハハハッ、この数を相手に女一人に何が出来るんってんだ」


「仲間が出払って人数が少ない時にあんたらの度胸の無さが浮き彫りになるわね。

 女一人にそれだけの数を用意して勝ち誇ってる......心底おめでたい頭してるわ」


「んだとこのクソアマ!」


 ハルは右手をポケットから出すと、そのまま太ももに憑りつけたホルスターからデザートイーグルを引き抜いた。

 そして、その銃口を正面にいる男に向かって向ける。


「これが最後の忠告。クソみたいな自尊心捨てて立ち去るなら見逃してあげる。

 だけど、この中に足を踏み入れようってんなら、タダじゃおかない。

 安心して、ゴム弾だから死にはしない......当たり所が悪くなければね」


 ハルの親切な提案にリーダーであろう男はほくそ笑む。


「忠告......忠告ね。ガハハ、ふざけんな! そんなもんクソくらえだ!

 今すぐその済ました顔を恥辱に染めて、俺達専用の肉便器にしてやるからな!」


 リーダーの男の言葉にハルはため息を吐いた。

 そっと目を瞑り、独り言ちる。


「......ハァ、これならあのうるさい男の言葉を聞いてた方がよっぽど心穏やかに居られるわ」


 ハルは大きく息を吐き、短く息を吸った。

 瞬間、彼女の纏うオーラが一気に冷たいものへと変化していく。

 おもむろに開いた目はオーラ同様に冷たく、瞳孔が収縮する。


「忠告はした。その後のあんたらの負う痛みの一切は、あんたらが決めた選択肢による結果。

 その選択による後悔を全身に刻め」


 ハルが戦闘モードに入ったと同時に、リーダーの男達が「かかれ!」と号令をかけた。

 ハングリーウルフのメンバーは一斉に武器を掲げてハルに襲い掛かる。


「おい、絶対に殺すなよ! アイツは俺のペットなんだからな!」

「ふざけんな! 俺のに決まってるだろ!」

「今からでもあの強気な顔が涙目で睨むことしか出来ない顔になると思うとそそるぜ」


「キモ」


 ハルは淡白に呟き、デザートイーグルの引き金を引いた。

 その銃の特徴は威力と引き金を引くだけで連続で弾が発射される自動拳銃である。


 拳銃としては破格の威力を放つため、弾が発射された際には相当な反動が来る。

 しかし、獣人族は人族よりも強靭な肉体であり、膂力も獣人の小学生ほどの少女で人族の一般男性を負かすほどだ。


 つまり、彼女は反動を気にせず撃つことができ、強靭な肉体と膂力はデザートイーグルの銃口をブレさせない。


 彼女は慣れた手つきで銃口を横にスライドさせていく。

 連続で発射されたゴム弾は瞬く間に前方から迫る男達に迫り、太ももに直撃した。


「がっ!」

「だっ!?」

「あぁああああああ!」

「いぎっ!」


 デザートイーグルは本来大型獣などを相手にする時に使う拳銃だ。

 一般人に向けたら即死は確実。

 例え、弾が非殺傷のゴム弾になろうと相手の動きを止めるには十分すぎる威力だ。


 四人の男達が足を抱えて地面に転んでいく。

 それによって後続が足を引っかけて転んでいった。

 しかし、ハングリーウルフのメンバーはまだまだいる。


「とっ捕まえろ!」


 外側から回り込んできた数人の男達がハルを取り囲む。

 そんな危機的な状況でもハルは冷静に左手を左ふとももに伸ばし、二丁めのデザートイーグルを取り出した。


 彼女は両手に持つそれぞれの銃を左右に向けると、互いの腕を正面方向に移動させながら引き金を引く。


 それぞれの手から連続発射されたゴム弾は寸分違わず接近してきた男達の手に直撃する。

 骨にヒビが入ったり、最悪折れててもおかしくな威力の弾によって、男達は一斉に武器を落とした。


「っ!」


 ハルの前方からトゲ鉄球が飛んで来る。

 彼女はそれを後方に避けると、今度は後隙を狙ってボウガンの矢が飛んできた。

 

 複数の矢を地面を転がって避けていくハル。

 彼女は咄嗟に近くに落ちていた剣に目を移すと、それを足で空中に蹴り上げ、さらに柄頭を蹴ってボーガン男の一人に飛ばす。


 同時に、彼女は蹴った剣を追いかけるように走り出し、飛んできた剣にビビッて腰を抜かしたボーガン男に膝蹴り。

 そのまま耳をピクッと動かし、後方に向けてノールック射撃をして後ろから来た男をけん制。


「クソアマ、いい加減大人しくしやがれ!」


「嫌なこった」


 ハルに向かって再びトゲ鉄球が飛んできた。

 彼女は左手の銃をホルスターにしまい、それに手を伸ばす。


「練金加工」


 ハルの左手からバチッと青白い紫電が走った。

 直後、トゲ鉄球は瞬く間に姿を変えて一本の槍と化す。

 彼女はそれを掴んで、槍を引っ張った。


 槍にくっついていた鎖を伝い、武器を振り回していた大柄な男を引き寄せる。

 そして、近づいてきた顔に右手の銃のグリップで顎を殴り払った。


 大柄な男が地面に気絶して倒れる。

 それを機にハングリーウルフのメンバーはハルという人物に恐れを抱き始めた。

 なぜなら、戦闘が始まってから瞬く間に半分ほどが戦闘不能になったからだ。


「ま、待て、わかった。もうお前達を襲わない。だから、見逃してくれ」


 リーダーの男が戦意喪失した様子で懇願する。

 しかし、彼が踏んでしまったのは虎の尾ならぬ狼の尾だ。


 生死を賭けた生き残りが日常のスラム街において、散々ケンカを売ってきて無事で帰れるなんて虫のいい話はない。


「ゴム弾は少し作るのが面倒なのよ。

 それを消費させたあんたらを見逃すはずないでしょ。

 それに忠告はした。それを無視したのはあんた達。

 女のストレス発散ぐらい付き合いなって。

 さっきみたいな気概をもってさ」


「ヒッ! やめろーーー!」


 その後、ハルによる一方的な蹂躙が始まった。

 銃声が鳴り終わった頃、アジトの庭にはハングリーウルフのメンバーは全員が地面に伏せていた。


「ハル、終わった?」


 アジトのドアから出てきたのは一人書斎にこもっていたクレアだった。

 そんな彼女の右手にはまとめられたウィップがある。


「クレアも大丈夫そうね」


「こっちは数人だったからね。それよりも、この数を一人でやったの? それも完勝で。

 ハァ~~、相変わらず強いね。よっ、さすが瞬光月下団最強の女!」


「褒めたって何も出ないわよ。それにアタシは結局師匠に勝てなかった。

 そんなアタシがこんなザコ相手にイキったって仕方ない。

 せっかく手がかりを見つけたってのに、アタシはもっと強くならなきゃいけないのに」


 ハルは右手に持ったデザートイーグルを見つめた。

 優しく持っていたグリップをギュッと強く握る。


「お、何々? 乱闘パーティ? 略して乱パってね」


 その時。アンニュイな表情を浮かべていたハルの空気をぶち壊すように、一人の道化師がアジトにやってきた。

 しかし、逆にそんな彼の登場がハルを決心させた。


「ナナシ、あんたと手合わせさせて」


「.......え、ホント何?」

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