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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第68話 思考の相違

 ナナシはスッと顔の前に手をかざす。

 通り過ぎた手の後からは彼本来の顔が現れた。

 そして、彼は自身の欠けた手を見るコマニーに話しかける。


「それじゃ、早速質問を始めるよ。まずコマニーさんはこの子達をどうして洗脳しようと?」


 ナナシの質問にコマニーは聞いている余裕などなかった。

 なぜなら、メイドのメイサが今度は薬指を口に咥え始めたからだ。


「は、放せこの女! 近づくな!」


 コマニーは空いている手を振りかぶってメイサを殴ろうとする。

 しかし、その腕は別メイドによって止められた。

 加えて、足元からもさらに二人のメイドが這い寄ってくる。

 彼の顔は瞬く間に青ざめたものに変わった。


「お、おい! 早く止めろ! そうそれば、僕ちんがお前にも同じ快楽を――」


「ん~、立場が分かってないんじゃないかな。

 今、そちらさんに一体何の力があるというのか。

 それに良かったじゃない? いつも彼女達を食い物にしてたんだから」


「食い......メイドが僕ちんを労うのは当然のことだ!

 庶民が貴族に敬い尽くすのは当然だろ!」


 ナナシはヤレヤレといったジェスチャーで首を横に振る。


「怖いね~、そういう発想は。相手がしてくれるのが当たり前になってる。

 俺はイチャラブ派なんでね、それが本人の意思であるのなら何も言わない。

 だけど、コマニーさんの場合は違うでしょ?」


「........っ」


「無理やり好意を寄せるように仕向けて、使い勝手のいい玩具のように。

 でも、今は彼女達が望んで愛しの領主様にご奉仕してくれてるんだよ。

 羨ましいね~。なら、貴族の務めとして雇用主は雇用者を労ってあげなきゃ。

 ほら、代わりに食い物にされるぐらいどうってことないでしょ?」


「ぼ、僕ちんがやっていたのは性行為のことだぞ!? こんなことは......」


「あっれぇ~? そうだったのか、ごめんごめん。思考の相違ってやつだね。

 いや~、言葉って言うのは言い回しによって伝わり方が違っちゃうから困っちゃうね。

 ま、でも、それが彼女達が望んでいるのなら、いいじゃないの。で、俺の質問には?」


 飄々としたナナシから出るあまりにも猛毒な言葉にコマニーは怯んだ。

 コマニーは今この瞬間、確かに理解したのだ――どちらが上だということなのかと。


「俺もさ、仲間が襲われかけたってのに黙って許すほど大人になれないのよ。

 でも、殺すつもりは無いってのは、これほんと。

 もちろん、そちらさんが()()であるうちは、だけど。

 でさでさ、早く答えないと――指が無くなっちゃうよ?」


「っ!?」


 痛みを感じない故にコマニーは気が付かなかった。

 ナナシの話に耳を傾けているうちに、メイサによって薬指を食われたことを。

 それだけではない。指先も小指から食われ始めていた。


「もう一度聞くよ。コマニーさんはこの人達をどうしようとしたの?」


 コマニーは全身から冷や汗を大量にかき始め、歯をガチガチと鳴らし始める。

 彼は震えた声でナナシの質問に答え始めた。


「ぼ、僕ちんは貴族だ。何一つ不自由なく過ごしてきた。だが、周りは僕ちんをバカにする。

 太っているとか、浅慮な思考とか、礼節がないとか――」


「質問聞いてた? そんな身の上話を聞きたいわけじゃない。どうしたかった?」


 ナナシの言葉にビクッと反応したコマニーは恐る恐る口を開いた。


「......女は僕ちんの性欲のはけ口にしようとしていた。

 男の方は僕ちんを守るための絶対的な盾にしようとした」


「ふむ、いつからこんなことを?」


「僕ちんが領主になり始めてからそう経たない頃だ。十年前ぐらいか」


 ナナシは腕を組んで背もたれに寄りかかる。


「ハァ~、つまりこの世界が魔族と戦争中の頃からとは。

 豪胆というか欲望に真っ直ぐというか。

 裏でこんな人を勇者達や兵士達が守っていたのかと思うと悲しむだろうね。

 それじゃ、次の質問をするよ。次はこの街で失踪した子供達に関してだ」


 それから、ナナシはクレア達やミュウリン達が集めてくれた情報を話した。

 その話を踏まえた上で彼はコマニーに尋ねる。


「子供達や若い娘達が消えていることにコマニーさんは関与している。

 その証拠もある。だから、言い逃れしよとしたって無理だよ。

 その子供達は今どこにいるのかな?

 この街にいないことだろうことは予想付いてるから、それ以外の回答をしてね」


「......っ」


「ほぉ、ここでだんまり? もうすぐ全部の指が消えちゃうよ。

 正直さ、自白させる系の魔法だったり、他者の記憶を読み取る魔法だったりがあるからさ。

 それを使うのが一番手っ取り早いんだけど、出来れば使いたくないんだよ。

 なんたって、他人が繊細な脳内に直接働きかけるんだから、廃人になったっておかしくない」


 ナナシは椅子から立ち上がり、コマニーの前に立つと目線を合わせるようにしゃがんだ。


「俺にそんな人殺しをさせないでくれよ。

 守ってきた人達を殺すってのは泣けてくるからさ」


「......し、知らない」


「何にも?」


「あぁ、本当だ! 僕ちんは何も知らない!

 ただ、ハイバードの奴から手足のつかない子供が欲しいと言われた! それだけだ!」


「若い娘を攫ったのは?」


「小遣い稼ぎのついでだ。子供達を送る際に奴隷商が欲しがっていたから、適当に捕まえて売ってやっただけだ」


 コマニーが少しだけ余裕そうな笑みを浮かべた。

 長時間の拘束と痛みがない事で逆に冷静になったのだ。

 彼の中で今の状況は幻を見てるとでも思い始めたのだろう。

 彼の言う言葉が少しだけ強気だった。


 それに対し、ナナシはそっと人差し指をコマニーの額に当てた。

 直後、その指先から一つの白い魔法陣が浮かび上がる。


「もしかして、これが俺が見せてる幻術だと思ってる?

 冗談! 可哀そうだから痛覚を切ってただけだよ。

 だから、スイッチを切って上げた。直に痛みが来るよ」


「ハッ、魔法でそんな細かい芸当が――がああああああぁぁぁぁぁ!?」


 コマニーが言葉を言い切るよりも先に、両手両足から伝わる激痛にコマニーは体を震わせた。

 失った指先からジンジンと伝わる熱、血が流れて体温が冷えていく感覚、徐々に痺れが出始めるのも。


 ナナシは再び額に人差し指を当てた。

 すると、コマニーが感じていた痛みは一瞬にして消え去る。


「理解したかな。これは現実で嘘じゃない。

 その上で質問するよ――お前は正真正銘のクズのゲス野郎だな?」


「...........は、はい」


 コマニーは今の状況が現実だと悟ると、顔を青ざめてナナシの言葉を肯定した。

 その回答にナナシはニコッと笑みを浮かべる。


「よくできました」


 ナナシがコマニーの顔の前で一度手を叩く。

 パンッと大きな音が響き渡った瞬間、コマニーは白目を剥いて泡を吹いて倒れた。


 コマニーが気絶しただけなのを確認すると、ナナシは立ち上がる。


「ねぇ、さっきのあのデブの慌て様.....ずっと何してたの?」


 背後からジャケットのポケットに手を突っ込んだハルが近づいてくる。

 そして、これまでのナナシのコマニーに対する尋問に対して質問した。

 ナナシは振り返ると答えた。


「わかってるでしょ、幻見せてただけ。少しリアルな幻術をね。もちろん、俺は何もしてないよ」


 クレアは腕を組んで怪訝な顔をする。


「それは見ててわかってるけど、あの叫びようはまるで本当に痛がってるみたいだったよ?

 いくら幻術でもなんというか......あれぐらいが普通なの?

 私、魔法にはあまり詳しくないんだけど」


「まぁ、人によるよ。コマニーが叫んだのは単なる恐怖心から来るプラシーボさ。

 あ、そういえば、トルソーの方はどうしたの?

 あっちも乗っ取りを計画してたみたいだけど」


「あっちは別の舞台によって確保に動いてもらってる。

 あの面接の時に見せた実力が嘘なら、今頃仲間によって捕まってるだろうし」


「そっか、それじゃあ。俺達はコイツを縛って帰ろうか。後はレイが何とかしてくれるし。

 よっしゃ、帰ったら宴だ! 宴! 俺の本当の実力を見せちゃうよ!」


 そして、三人は気絶したコマニーを簀巻きにすると撤収した。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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