第67話 髪型って素晴らしいよね!
「好きな子のタイプ」――それがナナシが一番最初にコマニーに質問した内容だ。
コマニーには聞くべきことが沢山ある中でのそのチョイスに、質問されたコマニーですら驚く始末。
「ちょっと、ナナシ君!? 一番最初に聞くことがそれなの!?」
流石に聞きかねたクレアがナナシに真意を尋ねる。
それに対し、ナナシはサラッと答える。
「そりゃもちろん。だって気になるじゃない、こんだけ侍らせてるんだから。
まぁまぁ、仕事はしっかりやるから、ここは俺に任せてくださいよ~パイセン」
「なんかその言い方凄く腹立つけど......ハァ、わかったわ。ハルもそれでいい?」
「仕方ない。仲間の分全員奢ることで手を打つ」
「ハハハ、それは出費がヤバそうだ......」
ナナシはハルの条件に苦笑いするも、無事に二人から自由に尋問する許可を得た。
その権利をいいことに彼は好き勝手にしゃべりはじめる。
「で、さっきの話なんだけど、どの子がタイプか教えてくれない?
あ、もちろん、手荒なことはしないよ。そこは約束する」
「......なんでそんなことを聞く?」
「さっきも言った通り気になるからさ。でも、やっぱそう簡単に言ってくれないよね。
まぁ、初対面の人に突然自分の性癖を語れって言ってもそりゃ難しいってもんか」
ナナシは腕を組み少し考える。そして、口を開いた。
「信頼の一歩は自分を信用することってよく言うよね。
だから、俺もコマニーさんの性癖を聞く前に自分の性癖を語ろうと思う」
「は?」
「俺ね、昔っからヲタクで好きな漫画やアニメを読んだり見たりすると、次々と推しが増えていくんだけど、その中でもやっぱ個人的に魅力を感じるのが髪型だと思うんだよね」
それからつらつらとナナシは語り始める。その話の一部を抜粋する。
やっぱキャラクターの性格や人となりを作るのは目の印象もそうだけど、髪型が一番なんじゃないかって思うんだよね。
例えば、代表的なのがポニーテールとツインテール。
ポニテはその髪型だけで活発感のある印象を与えるし、ツインテは幼い可愛らしさを伝えてくる髪型だと思うんだよ。
ポニテは後ろから見える揺れる髪と、その隙間から見えるうなじとの対比が素晴らしい。
ツインテはやっぱその髪型からツンデレ属性と相性がいいよね。うん、可愛い。
同じ髪を二つに束ねる髪型でも位置によってまた印象変わってくるのもいいよね。
デフォルトは真ん中だけど、それよりも高い位置だとより幼い可愛らしさが出る。加えて、活発的にも感じる。
だけど、逆に下にしようものなら幼い可愛らしさはそのままなのに、どこか大人しい雰囲気を伝えてくる。実に素晴らしい。
二つ結いなんてのもまた違う印象与えてくるんだよ。髪型って凄くない?
ポニテも同様だね。束ねる位置を下げれば、単純な一つ縛りになるけど、その素朴な感じも見てて眼福眼福♪
あ、単純にロングなのもいいよね。ストレートはもちろんのこと、ウェーブの髪型もいい。
もちろん、髪が短くてもノープロブレム。ボブ、ショート、ベリーショート何でもござれ。
個人的にはボブからミディアムロングぐらいが一番長さ的に好きかな。
ま、結局どの髪型も可愛いからいいんだけどね!
他にも三つ編みもいいよね。
一本でもいいし、二本でもいい。
高くてもいいし、低くてもいい。
ハーフアップっていうのもあるよね。
髪の一部を真ん中で結んだり、ヘアピンで留めたり。
ヘアピンで思い出したけど、小物を使った髪型も悪くない。
カチューシャを使ったでこだしスタイルや、ヘアピンで前髪を分けるスタイル。
前髪の長さも語り忘れてた!
片目隠れや両目隠れも最高!
両目の間に通る長い髪型も良きかな!
ちなみに、ここ最近のブームはサイドテール。
アレ凄いよね、誰が考案したんだろ。
とりあえず天才って全力で褒めたいよね。
以下、このような言葉がかれこれ五分ぐらい続いた。
狂信的限界ヲタクが相手の態度も考えず布教活動をするように。
胸やお尻、脚といったよくあるフェチを語らない辺りが余計に生々しい。
離してる本人は実にイキイキとした様子の一方で、その話をずっと背後で聞いていたハルとクレアはほんのり頬を赤く染め、羞恥と嫌悪が入り混じった目でナナシを見ていた。
女性陣二人にとってはナナシの語る話は、二人にも関係する話だから。
言ってしまえば、ナナシは二人の髪型を見て内心ではニヤついてたということになる。
胸やお尻、脚をジロジロ見られていたわけではないのに、実はそう見られてましたなんてことを目の前で明言されているのだ。
それほど恥ずかしいことは無いだろうし、聞いてしまっては妙に意識してしまう。
加えて、髪なんて女性の命のようなものであり、それを隠すことなんて決してできない。
故に、二人が出来ることは気持ち悪い人を見るような目しかないのだ。
「うむ、わからない話ではないな」
ナナシの話に唯一共感するのはコマニーだった。
変態と道化師の心が通じ合った瞬間だった。
「僕ちんはお団子ヘアーがいいな。アレは実にメイドって感じがする」
「ほうほう、確かに。俺はお団子二つにチャイナ福来てもらった姿を見たいところだけど。
ってことは、もしかして前に一度来た時に紅茶を入れてくれたメイドさんがそう?」
それはレイモンドが主導となってコマニーからの依頼の話を聞きに行った日。
コマニーとレイモンドが話している最中に紅茶を出したメイドのことだ。
あの時はコマニーの趣味によるメイドの衣装に目が行きがちだったが、実はあのメイドの髪型がお団子ヘアーだったのだ。
「そうとも! 相手が相手故に僕ちんもそれなりの敬意を持って、一番のメイドに紅茶を入れさせたってわけだ。
本当は僕ちんの身の周りしか世話させないようにしてるから、本当に特別だったのだぞ」
「なんと! それはそれはコマニー領主から直々にそのような計らいがあったことに気が付かずに申し訳ない」
ナナシは座ったまま頭を下げた。
その低姿勢の姿にコマニーは拍子抜けしたように緊張の糸を解いた。
「ちなみに――」
ナナシは頭を下げたまましゃべり始めると、ゆっくりと体をもとの位置に戻した
「その女性ってこんな顔」
「っ!」
ナナシが顔を上げた瞬間、彼の顔はコマニーのお気に入りの女性の顔にすり替わっていた。
その突然の変化に意表を突かれたコマニーはビクッと体を震わせる。
「な、なんの真似だ!?」
『なんの真似って、それはもちろんコマニー様を喜ばせるためですよ』
「ヒッ!」
コマニーの首筋からスッと白い肌が伸びてきた。
優しくとろけるような言葉を出すのはコマニーお気に入りのメイド。
「ど、どうしてお前がここに!? 捕まったんじゃ!?」
「そりゃもちろん、サプライズゲストとして呼んだんですよ。どうです? お気に召しました?」
ナナシの微笑をコマニーが睨んでいると、メイドが領主にちょっかいを出してくる。
『コマニー様、こちらを見てください♡』
「おい、サラ! 甘えてる場合ではない! 早く僕ちんを助けろ!」
『えー? 今日ってそういうプレイじゃないんですか?』
「っ! メイサ!? お前もここに!?」
コマニーが少しサラに気を取られていると、いつの間にか四つん這いになっているメイサと呼ばれるツインテールのメイドが愛しの殿方のもとへにじり寄っていた。
そして、メイサは領主の手を取り、顔に近づけると指を舐め始めた。
指先から指の間まで丁寧に。
やがて中指をパクッと口の中に放り込んでいく。
「メイサ、今はそんなことをしてる場合ではッ!........ん?」
メイサの積極的なご奉仕に少しだけ感じていたコマニーだったが、直後に手から違和感を感じた。
口に咥えられた中指から一切の感触を感じなくなったからだ。
唇の柔らかさも、ヌルヌルとした唾液も、少しだけザラついた舌の感触も、吐息の熱すらも何もかもが中指が感じない。
メイサはゆっくりと顔を引いた。
成人したばかりの少女は恍惚な笑みを浮かべて言う。
『領主様って美味しいんですね』
「う、うわああああああああぁぁぁぁぁ!? ぼ、ぼぼぼ、僕ちんの指が、ゆび、指が!」
コマニーはメイサから手を引き戻す。
そこには中指だけ欠けた自身の手があった。
しかし、なぜか血がダラダラと流れているのに痛みがない。
その状況にコマニーが困惑している中、一部始終をずっと見ていたナナシはようやく本題に乗り出す。
「では、素敵なアイスブレイクも終えたことだし、そろそろ始めようか――尋問を」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




