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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第66話 領主の屋敷に突撃訪問

 寝静まる深夜。

 誰もが心地よいベッドの中で、夢を描いている時刻。

 同じような夜を過ごす人々が多い中でもドンパッチオ邸だけは違った。


 その屋敷の夜はむしろ本番ともいえる。

 昼間のうちに研ぎ澄まされ、痩せこけた夜行性の獣が牙を向ける。

 もちろん、相手は使い勝手のいい玩具だ。


 コマニーの寝室では今日も今日とて甘いお香が焚かれていた。

 人族版の情愛香......これから夜のお楽しみをする人にとっては必需品ともいえる。

 さらには玩具にもしっかりと躾が施されている。


 コマニーの前には数人のメイドが立っていた。

 メイドによって格好は多少異なるが、誰もが胴体部分は裸だ。

 これから“致す”というのに余計なものはいらないだろうというコマにーの指示によるもの。


 これぞ貴族だけに許された酒池肉林。

 特に性欲に至ってはことさら食事が足りない。

 故に、コマニーは今日も食事をするだけだ。

 生きるために必要なことだから仕方ない。


「ほれ、近くに来い。僕ちんをもてなせ」


「「「「「はい」」」」」


 キングサイズのベッドの上で腰に預けた枕に寄りかかるようにして座るコマニー。

 その男の周りには寄せ集められた美人、美少女が自意識もないような暗い瞳をしてベッドの上がり込む。


 今日も楽しい宴が始まる、とコマニーがほくそ笑んだその時だった。

 真夜中にもかかわらずムードをぶち壊すような大きな声が響き渡る。


「頼もうー! あれ、聞こえなかったのかな? 頼もうー!!

 牛になってもう一度、頼モオ~~~! コマニー君、あーそーぼ!」


「チッ、誰だ!? 兵士は何をしている!?」


 やかましい声にコマニーは怒りを露わにした。

 その声以外に耳を澄ませてみるが、兵士の止めるような声は一度もしない。

 コマニーは仕方なく裸のままベランダに出て、門に立つ男に声をかけた。


「誰だお前は! こんな時間に人様の迷惑を考えず! 僕ちんが誰か知っての行動か!」


 その声に男は答える。


「我が名はナナシ! 瞬光月下団のアジトよりこの地に来た!

 彼女いない歴イコール年齢で早くも二十年の時が過ぎた!

 そなたの屋敷では夜な夜な淫らなパーティーが開かれるときく。そなたはヤ〇チンか?

 願わくばどのようにしてそれほどモテるのかご指導していただきたい!」


 訳の分からない言葉をつらつら並べるナナシ。

 その言葉を聞きながら、コマニーにはその男に対してハッキリと見覚えがあった。

 なぜなら、その男は危うく息子を捧げそうになった男だからだ。


 コマニーの視界が夜の暗さに慣れていく。

 彼が門の周りを中止すると、門番の兵士二人が静かに座っていた。


「チッ、使えない連中め! クソ、仕方ない。今夜は中止だ! 今すぐあの男を止め――」


「止め......何だって?」


 コマニーが振り返り、メイド達に指示を出そうと振り返ったその時。

 彼の言葉を遮るようにして、彼の眼前にカチャッと月光で光沢を見せるデザートイーグルが現れた。


 そのマグナムを構えるのは瞬光月下団のハルだ。

 彼女はマグナムをいつでもぶっ放せるようにトリガーに指を引っかけたまま、コマニーに話しかけた。


「あまりにも杜撰でお粗末な警備ね。

 操ってるせいで動き出しが遅いし、自意識が薄いから抵抗力も弱い。

 もう少し手荒になるかと思っていたけど、拍子抜けもいいとこだわ」


「くっ、なぜお前らがここに......あの男はレイモンドの仲間だったはず。まさか!」


「そのまさかよ。今のあんたに仲間はいない。生死の決定権もこちらが握ってる。

 太っているし、汚いし、思ったより毛深い.....ふっ、加えて、短小の粗チンとか」


「お前!」


 ハルに好き勝手言われたことがコマニーの怒りの導火線に火をつけた。

 火は瞬く間に爆弾へと着火し、コマニーは両手を広げて遅いかかる。


―――バンッ


「......っ」


 直後、鼓膜を破るかのような破裂音とともに、コマニーの動きは固まる。

 彼の頬からは擦過傷によって出た血がスーッと顎先へ流れていく。


「今の一発はサービス。ほら、男って玉遊び好きでしょ? 大人しくついて来い」


 ハルはコマニーの両手を挙げさせたまま、先を歩かせる。

 コマニーが夜の大運動会を開こうとした場所も、今や大勢の瞬光月下団のメンバーがいて、メイド達を保護していた。


「なぜ情愛香が効いてない?」


 コマニーの部屋にはお香タイプの媚薬が煙となって充満しているはずだ。

 その部屋には当然ハル以外の女性メンバーもいるが、誰一人顔色が変わっていない。


「あんたがベランダに出たから大半のニオイが外に流れたってのもあるけど、それ以上にこういう事を想定してある程度耐性をつけてる。

 今だと割とお手軽に魔法に関して学べるし、状態異常なんかは特に必修させてる」


「チッ、だからか!」


「これが豪華な暮らしに堕落した者と、貧困の暮らしの中で生きる術を学んだ者の知識の差よ。

 さ、さっさと歩けこのうすのろデブ。いつまでもあんたの汚い背中なんて見たくない」


 彼の背中に銃口を突きつけながら、二人は移動を開始した。


 やがてコマニーが連れて来られたのは屋敷の中にあるダンスホール。

 それは昔、コマニーの先祖が社交ダンスが趣味ということから作られた部屋だ。

 もっとも、今の当主はベッドがメイン会場であるが。


 コマニーは依然として裸のまま部屋に入ると、直後に背後から蹴られて前のめりに転ぶ。

 普段運動もしないから受け耳ままならず、加えて太っているため動きも鈍い。


 コマニーは大胆に顔面を床にたたきつけ、その衝撃で鼻血を流した。

 顔面を抑えて痛がる彼の背後では、クレアが他所の部屋から持ってきた豪華な椅子を設置していた。


「これでいいんだっけ?」


「うん、そのはず。にしても、この椅子を何に使うのか」


「座るだけだよ。だって、椅子だもの」


 クレアとハルの言葉にこの場にいない誰かが答えた。

 その声にビクッとした彼女達はすぐさま周囲を警戒する。

 しかし、その二人は声に聞き覚えがあったため戸惑っていた。


「暗闇からニュルッと参上! これぞ疑似トー〇ルーフってね。どうも皆の道化師ナナシさんです☆」


 直後、設置された椅子の目の前からナナシから生えてきた。

 それこそ床から現れたかのように。

 その登場の仕方にクレアとハルは呆れたため息を吐く。


「ハァ、出てくるなら先に行ってよ」


「心臓に悪い」


「ハハッ、ごめんごめん。登場の仕方に拘る派なんで。

 でも、如何にも強者って感じでカッコよくない?

 魔法を教えてあげるからやってみない?」


 ナナシの誘い言葉にハルは首を横に振る。


「いいわよ、別に。そういう移動系の魔法ってのは、移動距離に比例して魔力をドカ食いするって師匠が言ってた。

 だから、短距離で不意打ちに使うなら未だしも、登場の仕方で使うようなバカはあんたで十分よ」


「おいおい、褒めたって何も出ないぞ。今度美味しいスイーツ奢ってあげる」


「なら、大通りのバレシモンって店......ってのは後でいい。サッサと始めて」


 危うくナナシのペースに乗りかけたハルは自分の行動を自制し、ナナシに尋問を促した。

 ナナシは仕方なさそうに「はーい」と答えると、自身の背後にある椅子にドカッと座る。


 足を組んだナナシに、窓辺から丁度良く月光が差し込んできたタイミングで彼は言った。


「それじゃ、楽しい楽しいお話の時間と行こうじゃないか。

 実は俺はずっとあなたと話してみたかったんだ」


「話す? 僕ちんがお前に話すことなんて何もない」


「またまた~、色々あるでしょ? 子供達を攫ってどうしてるのとか、レイやミュウリンに媚薬入り紅茶を飲ませ、俺とゴエモンに洗脳系の魔法を使って何しようとしてたのか。

 ってことで、早速一つ目の質問するね――ねぇ、ぶっちゃけあのメイド達の中でどの子がタイプだった?」


「「「は?」」」


 ナナシの質問にクレア、ハル、コマニーの三人揃って首を傾げた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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