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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第63話 隠密ミッション

「――とまぁ、これが現状で潜入中の仲間から届いた情報だ。

 今の所動きは見せてねぇようだが、着実に次に動くための準備をしてるみたいだ」


 レイモンドはナナシから聞いた情報元に、義賊の適当な組織構造をでっち上げてしゃべった。

 それで稼いだ時間はおおよそ五分。これでも粘った方だ。


 その話にコマニーは終始興味無さそうに聞いており、昼間からワインを嗜んでいる。

 その姿にレイモンドは今すぐにでも殴りたい衝動に駆られたが抑えた。


「で、潜入中なのは分かった。なら、なぜ未だ目の前に首が並ばない?」


「そいつはまだその組織が全員集まってないからだ。

 瞬光月下団には下部組織のようなものがあるそうだ。

 確かに頭を潰せばしばらく統率は取れなくなるだろうが、それはあまりオススメできない」


 その言葉にコマニーはワイングラスを揺らしながら聞いた。


「どういう意味だ?」


「下部組織が残ってる状態で頭を潰せば、当然下部組織は身を隠すだろう。

 そして、着実に力を蓄えた時に、潰してくれたお礼参りにでもやって来るだろうぜ」


「それはお前達が居てくれれば問題ないことだ」


「あのな、そんなこと連中も分かってるだろうよ。

 だから連中はきっとオレ達が居ないタイミングを狙って襲ってくるだろう。

 オレ達はメトロバニア帝国やハイエス聖王国からの仕事があったら、そっちを優先しなきゃならねぇからな。

 まさかテメェもその帝国や聖王国相手にケンカ売るつもりじゃねぇんだろ」


 一国の王様からの依頼と地方領主の依頼。

 例え、領主からの依頼が継続中だとしても、王様からの依頼を断ることは難しい。

 加えて、王様が出す依頼は大体国に関わることだ。優先度がまるで違う。


 レイモンドの背後に帝国と聖王国に威光があるという脅しには、さすがのコマニーも渋々頷いた。

 彼ももし逆らえばそもそもこの生活を維持できなくなると理解したのだろう。


「.......ハァ、つーことでまだすぐに義賊のアジトは潰すことは得策じゃない。理解してくれたか?」


「あぁ、わかった。なら、当然その間は守ってくれるんだろうな?」


「当然だ。そこに関しては心配するな。それに、テメェに耳寄りな情報もあるしな」


「耳寄りな情報」


「あぁ、その組織にはまだ成人になったばかりの生娘がいるみたいだ」


 レイモンドはコマニーが食いつきそうな情報を出した。

 その瞬間、コマニーがピクッと反応する。

 彼は初めて話に興味を持ったかのように、手に持ったグラスを机に置いて前にのめりに聞く。


「それはどんな相手だ? 人か? 獣人か? 森人(エルフ)か? 鉱人(ドワーフ)か?

 年齢はいくつだ? どんな見た目をしている? 数はどのくらいだ? どうなんだ?」


「きめぇ......」


「ん? 何か言ったか?」


「そこまでは分かんねぇと言ったんだ」


 レイモンドは思わず本音が漏れてしまったことに焦りつつ、なんとか話題の軌道を修正した。

 同時に壁に設置されている時計を見て現在の経過時間を知らせる。


 十五分だ。ここまではなんとか伸ばせたが、ここからはいつ話題が尽きてこの時間が終わるかもわからない。

 それまでに潜入中のミュウリンには是非とも証拠を回収して欲しい所だ。


「頼むぞミュウリン......」


 レイモンドはそう呟き、ミュウリンの活躍を祈った。


*****


 現在、ミュウリンは二階の一室に入っていた。

 そこにはキングサイズのベッドに天蓋がついている。

 まるで一国のお姫様が使うような寝室だ。


「ボクですらこんなに大きいの使ったことないよ~。

 それにこの部屋なんだか甘ったるいニオイがする。

 もしかしてこれ......発情のお香?」


 発情のお香......正式名称は「情愛香」と呼ばれる獣人族で売られるお香の一種だ。

 使う用途は当然ながら夜の営みで、発情期を迎えた時にしか妊娠しない獣人族が強制的に肉体を発情周期にする時に使うのがこのお香。


 本来、それは跡継ぎが欲しい王家や貴族が使うものとされていたが、それに似たような物がいつの間にか民衆に広まり、やがて他種族へ伝わった。


 今回、ミュウリンのいる部屋に充満しているそれは人族版に作られたものだ。

 とはいえ、たとえ種族が違くともその効能は絶大。

 ミュウリンが自身の体が徐々に火照っていくのに気づいた。


「ここで毎晩お盛んだね。トビウサギの繁殖時の方がよっぽどマシだろうね。

 ここに長いするのはあまりよくない。ちゃっちゃと終わらせよう」


 ミュウリンはハンカチで口元を覆い、部屋の中を漁り始める。

 机、タンス、クローゼットと色々見て回ったが証拠らしきものは無かった。

 それどころかモザイクを入れた方が良い物ばかりがゴロゴロと出てくる。


 ミュウリンは冷たい目をしながらそれに目を移す。

 瞬間、それらの玩具を壊して、炎で燃やした。

 彼女の堪忍袋の緒が切れたようだ。


 ミュウリンが部屋を出ようとドアノブに手をかけ、数センチ開けた。

 直後、廊下から歩いてきた声にミュウリンは咄嗟に扉を閉め、扉に寄りかかる。

 すると、兵士達は興味深い会話をしていた。


「そういえば、たまに領主様が地下に行くんだが、アレな何をしてるんだ?」


「さぁ、俺も見たことあるが知らないな。けど、アバルから聞いたところによると、他の領主様と文通してるんじゃないかって」


「文通?」


「あぁ、なんでもある時、領主様から手紙を冒険者ギルドに出してくるように言われたらしくて、その時に誰宛てのものか見たら聞いたことのある領主様だったんだと。

 それに手紙には赤い蝋を使った印もしてあったからたぶん間違いないって」


 そんな話をしながら兵士達は通り過ぎていく。

 ミュウリンはバレない様にこっそり部屋を出ると、すぐさま一階に向かった。

 さっき兵士達が言っていたように地下に証拠があるかもしれないと思って。


 ササッと一階に降りてきたミュウリンはもう一度入念に一階を調べ始めた。

 先ほど見落とした箇所があったかもしれないからだ。


「もう十五分も経過してるし、いつ終わってもおかしくない。

 安全に脱出できるタイミングが来るまでに証拠を集めないと」


 ミュウリンは額に汗をかき始める。

 闇雲に探したって意味がないし、時間がない。

 それは本人も理解している。


「だったら、ナナシさんの真似をしよう。そうすれば位置がわかるはず」


 ナナシは魔力を薄く広く伸ばすことで、常に周囲の障害物を魔力探知で捉えている。


 この世界には全てに魔力が宿る。

 その性質を利用して、魔力の強弱を細かく分けて認識することで、ナナシは疑似的な視力を得ることに成功しているのだ。


 これを使えば一瞬にして建物の構造把握も可能だ。

 しかし、一朝一夕とはいかない。


 これは視界を失ったナナシが常に魔力操作をすることで身に付けた技術であり、視界を失ったという圧倒的なデメリットを解消をするためものだ。


 ミュウリンがそれを見様見まねで習得できる技術じゃない。

 されど、それに近いことは数秒なら真似することは出来る。


 ミュウリンは床で四つん這いになり、その状態で自身の魔力を屋敷全体に広げ始めた。


「魔力を薄く広げて、全体を覆うように。そして、捉えた魔力を持つ部材の輪郭を線で描くように繋いでいく」


 魔力探知で捉えるのは部材が持つそのものの魔力。

 しかし、その対象物を集中すれば、その魔力を持つ物質の輪郭をイメージで形作ることができる。


 それを利用すれば、黒い世界に白い線で輪郭を捉えたような空間はイメージできる。

 だが、その情報量はあまりにも膨大で、使用者に多大な普段をかけることになる。


「ぐっ......」


 ミュウリンは脂汗を大量にかき始め、鼻からはポタッと血が滴った。

 現在、ミュウリンの頭は万力に締め付けられるような激しい頭痛に襲われながら、脳裏に黒い背景に白い線で描かれた屋敷がイメージされている。


 そして、その屋敷の丁度入り口付近の中央階段の裏には隠し階段があることが分かった。


「見つけた」


 ミュウリンは鼻血をハンカチで拭うとすぐさま隠し階段へと向かった。

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