第61話 義賊からの依頼
「皆さん、どうも初めまして! そしてこれからお世話になるナナシです!
特技はギターを弾くこと! 宴会ではステキな演奏をすることをお約束しよう!」
瞬光月下団アジトの舞踏会場。
そこでは瞬光月下団に所属するメンバーが集まり、新人のお披露目会が行われていた。
多くの新人が子供でありながら、やはり異色なのは唯一大人のナナシであろう。
実際、瞬光月下団の中ではナナシが最年長になる。
そのためかナナシの加入には困惑した顔をする人がほとんどだった。
ナナシの自己紹介に対しても、コソコソと話し声が絶えない。
そんな場を収めたのはリーダーのクレアだった。
「はいはい、静かに。確かに気になる点はあると思うけど、これは決定事項だから。
それにこの人の加入に関してはハルの推薦だから。そこんところ理解してね」
「ハルさんの推薦ってマジ!?」
「あのハルさんが認めたんだ......」
「どんだけヤベェ奴なんだ? 確かに見た目は派手だけど」
クレアの言葉に再びメンバー間でざわつき始める。
クレアは困惑の理由を理解しながら、新人に対して簡単な共同生活の説明をし始めた。
そんな彼女の言葉を聞きながら、ナナシは横にいるハルに話しかける。
「君ってそんなに凄かったんだね」
「この中じゃね。でも、あんたが入ったことで強さの序列は変わった。
例え、他の人には上手く隠し通せていてもね」
「そんな謙遜なさらずに。ささ、靴でも磨きましょうハル様!」
「やめて。あんたにそう呼ばれるのは気持ち悪い」
ナナシがハルからの拒絶にしょげていれば、いつの間にかクレアの説明が終わる。
「――ってことで、これからよろしく。で、ナナシさん、君には少し話がある」
「え? いきなり教育的指導ですか!?」
「違うよ。単純に頼みたいこと」
―――リーダー書斎
元が大商人の屋敷であるために、その中には立派な書斎があった。
その書斎を利用しているクレアはナナシとハルを呼びだすと、二人を座らせる。
ハルとクレアが隣り合って座り、ナナシが向かい合う形だ。
「それで何々? いきなり俺だけ呼び出すなんて。
もしかして期待のルーキーだから早速、特別任務が与えられる感じ?」
「一気に口数が増えてうるさくなるわね。でも、特別任務っていうのは勘が鋭いよ」
「え~.......マジで」
「急にやる気失くすじゃんこの人」
クレアは空気を振り回すナナシにため息を吐きながら、一枚の紙を机の上に置いた。
それをナナシが手に取って内容を見る。
「どう? 内容理解できた?」
「ふむふむ、なるほどわからん」
即答で返答するナナシに対し、ハルは肩を諫めた。
「適当に返答しないで。読めば理解できる内容のはず。
それに書いてあるのはこの街の住民の名前。
そして、一緒に書いてあるようにその人達にはある共通点があるの」
「子供及び娘が突然失踪した人達......」
ナナシの読み上げた言葉に対し、クレアが説明を始めた。
それは今から一年ほど前、この街で突然増え始めた事件だ。
もともと領主がコマニーなので、誰かが夜道に襲われるという事件は度々あった。
スラム街に人々に住むいざこざだったり、痴情のもつれによるものだったり。
そういった事件で攫われる人物は色々と訳ありが多かったのだ。
そんなある日、子供が攫われるという事件が起きた。
しかも、複数人は同時的に。
攫われたという子供の親同士は面識があるようで、攫われたのは仲良く遊んでいた子供達とされた。
その大きな事件はその時限りではなく、また二か月後には同じように事件が起きた。
今度は子供だけではなく、若い娘が攫われた。別の場所で同時にだ。
この人攫い事件は住人達に恐怖と不安を募らせ、街から住処を移す人も続出する事態となった。
しかし、最初の事件が起きてから半年後、その事件は突然終息を迎えることとなった。
「――へぇ~、その事件をあのコマニーのおデブちゃんがね」
「えぇ、だからその時は住人の間では『お、意外とこの領主やる時はやるやん』みたいな反応になったんだけど、その時から活動していた私達としてはこれはマッチポンプなんじゃないかって考えてるの」
「その事件の決着がついた後、攫われる子供達の数は変わらなかったと?」
「えぇ、狙う対象がこの街の人達から身寄りのない子供達に変わったの。
この街にも数か月前には最後の孤児院があったんだけど、コマニーからの要求を無視できなくってついに......」
クレア曰く、元々その孤児院を経営していたシスターはコマニーという人物を信用していなかったそうだ。
コマニーが“子供達を養子に欲しがってる貴族がいる”という要求に対しても、ずっと要求を突っぱねていたらしい。
しかし、その抵抗も長期間とはいかなかった。
孤児院のシスターと街の領主、その二人の力関係は一目瞭然だ。
やがて孤児院は取り壊され、子供達は養子として貴族に送られたらしい。
だが、コマニーを信用していないシスターは、その言葉が信じらないのでとある人物達に依頼を託してこの街を去った。
その相手こそが瞬光月下団だったのだ。
「シスターがわざわざ義賊に頼み事するなんてよっぽど切羽詰まってたと思うよ。
だけど、この街の冒険者ギルドもコマニーの支配下だろうからってことで、こっちに頼んできたみたいだよ」
クレアの説明にナナシは腕を組みながら頷いた。
「前に一度コマニーの屋敷を襲ったのってそれが理由か」
「そう。ま、他にも金品の強奪とかも目的としてあったけどね。
けど、結局成果はゼロ。上手く隠されてるみたい」
「審議は定かじゃないが、冒険者ギルドがあのおデブちゃんの支配下って線は可能性としてある。
俺が君達のアジトに来たのも、コマニーに依頼されたからだ。
だけど、その依頼してきた当人がこっちを洗脳しようとしてきた。
男の俺に対しては洗脳系の魔法、女性に対しては媚薬類のなんかだろう」
「うぇっ、マジでキモ」
ナナシの言葉にクレアはすぐさま口を手で覆って嫌悪感を示した。
彼女の眉は強く中心に寄っている。
対して、表情をあまり変えないハルはナナシの発言について尋ねた。
「あんたはそこまでぶっちゃけていいの?
今ここでアタシ達の敵であること明かしたけど」
「だったら、君の場合はすぐに手が出るタイプでしょ?
そうじゃないってことは、少なからず俺という人物を信用してくれてるってことさ。
それに俺個人としても仲間に変なことをしようとした相手の頼みを、律儀に聞いてやるほど出来た人間じゃないんでね」
「.....ま、それもそっか」
「あとあと、俺も一度はこういう立場になってみたかったのさ。
カッコいいじゃん? 裏で暗躍するとか」
「ただ単に表立って育ってこなかっただけよ」
ハルは組んでいた足を組みかえると、窓の方へ目を向けた。
窓からは日差しが差し込んでいて、その光を眩しそうに眺めている。
春の様子を横目で見ながら、今度はクレアがナナシに話しかけた。
「そういえば、他の人達はどうだったの?
ほら、メイドとか兵士とか。その人達も漏れなく全員?」
「そうだね。正直、見た目から嫌悪感を示してもいいコマニーに対し、兵士があまりに従順過ぎた。
最初に話しかけてきた兵士も目があまりに曇りなかったし。
加えて、メイドさんの方は可哀そうだけど、アレはおもちゃにされてるね。
メイドの服がこんな風に胸元が開いてて、パンツが見えそうなほどスカート短かったし」
ナナシはそう言って魔法袋から二人分のメイド服を取り出した。
それを「気持ち悪い......」と呟きながら見るクレア。
対して、なぜか二人分あることに気付いたハルがナナシに聞く。
「ねぇ、なんでそのメイドが来てた服が二つあるの?」
「呉服屋に作ってもらっちゃった♡ 上司の二人にプレゼントしようと思って」
「その内情を知ってて、それを送るって相当なイカレセンスしてるよ」
「ハハッ、道化師なもんで。それはそれとして、男としては可愛い女の子が可愛い服を着飾る姿を見たくない者はいるか! 否、いやしない! ってことでよろしくお願いします!」
「「絶対に嫌」」
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