第59話 補欠合格試験
「で、どうだったよ?」
面接が終わったその日の夜。
一つの部屋にナナシ、ミュウリン、レイモンド、ゴエモンの四人が集まっていた。
ナナシはベッドに座り、その横にミュウリンがいる。
もう一つのベッドの上にレイモンドがカッコよく座っており、近くの小さな机にセットで置かれているゴエモンが椅子を反対向きにして座っていた。
そして、最初に放ったレイモンドの一言目。
その言葉にナナシはビクッと反応した。
ナナシはおもむろに立ち上がり、少し広い場所に移動するとガクッと膝を崩す。
四つん這いの状態になると、そのまま頭を伏せた。
「何の成果も......得られませんでした!!」
「なんとなくだが、そのセリフ言いたかっただけだろ」
レイモンドの鋭いツッコみの後に、ナナシは面接での出来事を話した。
その内容にレイモンドとゴエモンはどんどんと「何やってんだコイツ」と言わんばかりの顔をしていった。
彼らの反応は実に正しいものである。
ベッドに座って事情を話したナナシに対し、レイモンドは横になりながら言った。
「テメェ、これからどうすんだよ。あれだけ大見栄切ってそれは流石にないんじゃねぇの?」
「まぁまぁ、ナナシさんはあくまで自分のスタイルを守ってやりきったんだから。
まずはそこを褒めてあげないとね~。でしょ、頑張ったんだよね?」
「大将に甘いな~」
ミュウリンは慈愛の笑みを浮かべ、ナナシの頭をそっと撫でる。
そのあまりの寛大な優しさにナナシは体を震わせた。
「ミュウリン......いや、ママー!」
ナナシがミュウリンに抱き着いた。さながら母親に甘える子供のように。
このようにナナシが自然とミュウリンに抱き着く時はある程度ふざけている時だ。
ちなみに、ナナシは一パーセントでも童貞故のガチっぽさが出るとやらない。
ミュウリンはナナシが微塵も反省してないことに気付きながら、ノリが良いのでついついナナシの茶番に乗ってしまうのが彼女スタイル。
彼女は頭を優しく撫でながら言った。
「違うよ。ボクはナナシさんのママじゃないよ~。ママにするのはナナシさんだよ~」
「待て、ミュウリン。その言葉の羅列は良くない」
「事情を知らなければ真っ先に事案だな。見た目も相まって」
レイモンドとゴエモンは焦ったようにツッコんでいく。
二人はどうしようもなくそのような空気に駆られたのだ。
ツッコんでギャグとして成立させなければ、と。
ナナシの茶番の気が済んだところで、彼はミュウリンから離れようとする。
しかし、なぜかミュウリンから凄い力で抑え込まれて動くことが出来ない。
一方で、当の本人はナナシをお腹でホールドしながら話を続けた。
「にしても、ナナシさんがふざけちゃった以上どうしよっか~」
「ちょ、ママ? いや、ミュウリン? 痛い、痛いから――」
「どうするか。なんだかんだでこの道化師がキッチリコネを作ってくるもんだと思ってたからノープランだったな」
ミュウリンの柔らかいお腹の肉と強い締め付けによって、ナナシの鼻と口がふさがる。
ナナシはすぐさまミュウリンの肩を叩いた。
「......ぷはっ、ミュウリンさん? 俺のタップに気付いて!?
とても良いニオイはするんだけど――ぐあっ、腰に鈍痛が!?」
「悪りぃ。蚊が止まってたもんで」
「ナナシさん、ちょっと静かにしてようか~。ほら、ママの膝の上で寝てていいから」
「いや、これ違う意味で寝る......やば、息が――」
「これを羨ましいと見るかなんと見るか」
ついに動かなくなったナナシに対し、その最後の事のあり様を茫然と眺めていたゴエモンが苦笑いしながら呟いた。
膝枕してもらいながら気絶するナナシと、その頭を優しく撫でるミュウリン。
その光景は少しだけ狂気じみていた。
ナナシの魂が口から漏れているのを見ながら、レイモンドはミュウリンに尋ねる。
「で、なんでテメェはそんなことを? 任務に失敗したからか?」
「そんなことでボクは怒らないよ。
ただ、こうでもしないとナナシさんてば熟睡しようとしないから。
知ってる? ナナシさんって目隠ししてるのを良い事にずっと周囲を警戒してるんだよ」
「......そういやそうだったな。
それに関しては今に始まったことじゃねぇよ。
コイツはなんだかんだ理由をつけて夜番をしてる奴だ。
確かに、昔もコッソリ卒倒睡眠薬を盛ったことあったっけな」
レイモンドの発言にゴエモンは少しだけ引いた。
「怖い事してんな」
「ナナシの場合だと普通の睡眠薬じゃ効かねぇんだよ。
ま、要するに優しさって奴だ。手段はアレだけどな」
「ふふん、ボクは優しいんだ~。手段はアレだけど」
「自分で言ってちゃどうしようもなくね?」
―――翌日
ナナシ、起床。
いつもより心地よい目覚めに、体を起こして伸びをする。
寝ぼけた頭で寝た要因を思い出そうとしたが、すぐに体がゾッとした感覚に襲われたので、思い出さないことにした。
彼は隣のベッドで腹をかきながら寝ているゴエモンを起こさないように、窓際へと移動していく。
「ん~、今日も良い天気だ。さてと、デイリーミッションをこなしていきますか。
ミュウリンに近づく悪い子はいねぇか.......ん?」
ナナシが宿屋の周りに魔力を飛ばすと、その魔力がとある一つの魔力を捉えた。
その魔力は宿屋の中に入って、ナナシ達の部屋がある二階に上ってくる。
「こんな朝から客人とは」
ナナシは入り口に向かった。
ドアノブを掴むと手前に引いていく。
同時に、廊下側からドアノブを押す手が見えた。
「やぁ、昨日のクールビューティさん。おはよう」
ナナシの目の前には、昨日義賊のアジトで話したハルの姿があった。
ハルは革ジャケットのポケットに手を突っ込むとすぐに背を向ける。
「話したいことがある。ついて来て」
それから、ナナシがハルの後ろを歩いてついていくこと数分。
やってきたのは人通りの少ない路地裏だった。
建物に囲まれて日差しが入らないそこは内緒話にはピッタリな場所だ。
「どうしたのかな? こんなとこに連れてきて。
なるほど、そうか俺も童貞を卒業する時が来たのか......」
瞬間、ハルは太ももにつけていたホルスターからマグナムを取り出した。
「その粗末なものぶち抜かれたい?」
「ごめんなさい。にしても、随分と珍しい武器を持っているね。
まるでこの世のものと思えない」
当然ながら、ナナシが生きるこの世界に銃という現代武器は存在しない。
あるとすれば、転移者や転生者が作ったか、何らか方法で武器を与えられたか。
この世界に銃があるという事実は少なからずナナシに衝撃を与えた。
「この世のものと思えない、ね.......」
ハルは小さく言葉を呟くと、今度は彼女がナナシに話しかけた。
「ナナシでいいんだっけ? あんたの名前」
「あぁ、スマートクレイジープリティービューティフルボーイとはこのナナシ――すみません、お願いですからトリガーに指をかけないでください」
「微塵も脅しにならない癖によく言う」
「その武器を知る者としては反射的に恐怖しちゃうものなのさ」
ハルは一つ息を吐くと、マグナムをホルスターにしまった。
革ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、本題に入る。
「あんたをここに呼んだのは、あんたが私達のメンバーとしてやっていけるか試すため」
「お? まさかのまだワンチャンある?
てっきり昨日の低評価の時点でダメかと思ってたけど」
「確かに、あの時面接してた子達じゃ落としてたでしょうね。
だけど、アタシに見いだされたことであんたは首の皮一枚繋がったってわけ。
それに個人的にもあんたがアタシ達にどんな影響を与えるか興味ある」
ナナシは腕を組んだ。
「とはいえ、君の一存で怪しい俺を入れるわけにはいかない。
そこで、皆に納得させるために有用である実績を作れってことね」
「話が早くて助かる。それで早速だけど、あんたにやってもらいたいことを言うわ。
あんたにはトルソー=クラットについて調べて欲しい」
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