第54話 領主からの依頼
場所はドンパッチオ領主が住む巨大なお屋敷の一室。
豪華絢爛なその部屋を一言で言い表すなら、その部屋だけでウン百万ゴールドはかかっていそうなほど煌びやかだ。
無駄に装飾を凝らしたソファ、力を象徴するかのような動物系の魔物の毛皮のカーペット。
壁には金で出来た額縁に、似たような丸みの帯びた歴代領主の顔が並ぶ。
そして、目の前に座る歴代領主そっくりな男の格好もまた無駄に金がかかってそうだ。
その男の名はコマニー=ドンパッチオ。
このドンパッチオを長らく収める子爵家の嫡男である。
運動不足と不摂生な食事が祟ったかのようはメタボボディ。
光沢を帯びた頭でありながら、サイドに僅かに髪を残すタイプのハゲ。
さらには鼻ヒゲが若干横に伸びてるのも特徴である。
「お前があの有名なアトラスジョーカー家の女傑か。
僕ちんの名はコマニー=ドンパッチオ。この街を収めるものだ」
「そりゃどうも。オレは固っ苦しいしゃべり方は苦手なんでな。そのままで話させてもらうぜ」
レイモンドは目の前の男を見定めるように目を細めた。
ふんぞり返る不遜な態度は傲慢故か、はたまた何も知らない無知なボンボンか。
ちなみに、普通の貴族ならアトラスジョーカー家と聞けば、すぐにへこへこと下手に出るか、敬意を持って接し始める。
それはこの街がハイエス聖王国の管轄だとしても同じこと。
アトラスジョーカー家は帝国の貴族の中でもとても有名な侯爵家だ。
その貴族から勇者パーティの一人が排出されたということもさることながら、もとよりアトラスジョーカー家は名だたる武人を数多く輩出する。
その武力はアトラスジョーカー家が総力を持ってクーデターを起こせば、半日とかからずに帝国を奪えるほどの力だ。
それ故に、他貴族はアトラスジョーカー家に決して不敬はしない。
それが他国にも伝わるアトラスジョーカー家との付き合い方だ。
「で、わざわざオレ達を呼びつけるってことは何か用があんだろ?」
レイモンドは率直に尋ねる。
その質問に、コマニーはレイモンドの顔をじっくりと見て、それからミュウリンの方へ視線を移しながら答えた。
「実はここ最近で僕ちんの宝物庫からコレクションが奪われた。大事な魔道具がだ。
それをお前達には取り返してきて欲しい。もちろん、報酬も弾むぞ」
「報酬の話は今はいい。それと、依頼なら後で書類を冒険者ギルドに出しておいてくれ。
話の内容はわかったが、盗まれたものがどんなんか教えてくれないとわからん」
「盗まれた物は言えん。ただ僕ちんの大事な物とだけだ」
「おいおい、それじゃ仮に犯人のアジトを見つけたとしても、何が盗まれた物か分からねぇじゃねぇか」
「中身については言えない。だが、それが入ってる袋は厳重な結界で封をしてあるから、僕ちんにしか決して開けることができない。
逆に、それが僕ちんのある目印になるだろう。それを持って帰って来ればいい」
盗まれた物に関する一切の情報を言わないコマニーに、レイモンドはため息を吐いた。
彼女は「やっぱめっちゃ顔似てる......。遺伝子仕事しすぎだろ」と呟くナナシに声をかけた。
「おい、ナナシ。そういうことだから決して開けるなよ」
「なんで俺だけ名指し......あぁ! 様式美ね! 任セロリ!」
ナナシは大きく頷きサムズアップした。
そんな彼の様子を見ていたレイモンドの横に、メイドの女性が「遅れて申し訳ありません」とお茶を置いてきた。
瞬間、そのメイドの姿にレイモンドは目を見開いた。
なぜなら、そのメイドの格好を一言で言えば、大人のコスプレだ。
意味ありげに開けられた猫マークの胸元、スカート丈はミニスカのようで、全体的に露出面積が高い。ありていに言えばエロいのだ。
メイドの格好は貴族によって若干の差異があるが、それでもここまで異色なのはレイモンドにとって初めてだった。
「ほぅ、えっちだね~」
「ここの格好は随分とまぁ、アレだな」
「えちちコンロ点火!」
ミュウリン、ゴエモン、ナナシがそれぞれ感想を口に出す。
彼らにとってもレイモンドと同じようにこのメイドの格好が衝撃的だったのだ。
黙って無視しようとしたレイモンドだが、さすが格好があまりにも場に相応しくないので、コマニーに尋ねる。
「ここでは随分派手なメイド服だな。初めて見たからビックリしたぜ」
「そうであろう! これは僕ちんが考案した新しいメイド服!
当然、着ているのは今の給仕だけではない。ここに住む全員だ」
「......なるほど、そいつは酷でぇや......」
レイモンドはこの時点でコマニーの人物像を評価し終えると、「話が脱線したな」と言って話題を戻した。
「回収物の話は理解した。なら、後は犯人だが......あいにくここに来たばっかだからこの街には詳しくない。
テメェは犯人について心当たりはあるか?」
その質問にコマニーはピクッと反応した。
半分ほど飲んだ紅茶を皿にガチャンと手荒く置けば、語意を強くして言った。
「僕ちんの大事な魔道具を盗んだのは絶対“瞬光月下団”とかいう盗人に決まってる!
それしかありえない! えぇ、絶対にありえない!」
「興奮してるとこ悪りぃが、その義賊の話なら着いたばかりのオレ達も少し聞いたぜ。
確か、その義賊は悪党だけをターゲットにしてるって聞いたんだが?」
「勇者パーティの一人に選ばれた人物がまさかそのような愚民どもの戯言を信じるのか!?」
「オレは聞いた話を言ってテメェに聞いてみただけだ。
それに案外民衆の声はバカに出来ねぇもんだぞ?
火の無い所に煙は立たねぇとも言うしな。
まさかとは思うが、何かそう思う心当たりがあるのか?」
「あ、あるわけないだろ! 義賊であろうと何だろうと盗人には変わりない!
お前達は黙ってその盗人達の首を揃えてくればいいんだ!」
「今のご時世に物騒な言い方だな......ハァ」
レイモンドは今日一番大きなため息を吐いた。
彼女は実に今すぐ帰りたそうな顔をしていた。
するとその時、コマニーは思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、噂で聞いた話だが、その盗人達は定期的に仲間を集めているらしい。
もし、その噂が本当なら、その時に潜入してぶっ殺してくればいい」
「へいへい。了解しましたよ」
もう話すのが面倒になったレイモンドは適当に返事をして話を切る。
そして、差し出された紅茶を飲み切って帰ろうとしたその時、肩をポンポンと叩かれた。
「あ? なんだよナナシ?」
「スマイル。レイの表情はさらに魅力的になると思うぜ」
「.......ハァ」
レイモンドは適当に返事するとグイッと紅茶を飲んだ。
そして、ソファから立ち上がる。
「んじゃ、帰るわ。安心しろ、依頼は受けてやる。後は報告を待っとけ」
「おぉ、そうか!......って、待て、何かおかしい」
「あぁ? 何がおかしいって?」
引き止められて少しだけイライラしているレイモンドが振り返る。
その鋭い目つきから放たれる眼光はコマニーに突き刺さり、彼は「なんでもない」と委縮しながら答える。
その直後、ナナシがおかしなことを言い始めた。
「あ、アレ? 体が熱い......あら、やだ、なんて素敵な殿方」
ナナシはサッとコマニーの肩にもたれかかる。
そして、妖艶な女性のように軽く肉厚なコマニーの顎下を擦った。
「ねぇ、今日の夜しっぽりとした時間を過ごさない? もちろん、ふ・た・り・き・り」
「ひぃっ! 違う、お前じゃなあああああぁぁぁぁい!」
コマニーの雄叫びは屋敷中にこだましたという。
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