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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第3章 狼少女の復讐録

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第53話 巷で噂の義賊

 ナナシ達が街に到着した翌日。

 ナナシは周囲を見ながら、さも他人事のように言った。


「いや~、随分と見られてるね」


「そりゃ、テメェが盛大にコケにしたからな。

 それこそ魔族よりもお前のヘイトの方が多いぞ、今は」


 手を傘にしてキョロキョロと見渡すナナシに、レイモンドは呆れながら言った。


 彼女の言う通り、この状況はナナシが魔族に対する怒りを、自分の対するものへとすり替えるために行動した結果だ。


 全員とは言わないが、それでも噂と言うのは拡散力がある。

 今やナナシの目立ち方はミュウリンを上回る。

 もちろん、悪目立ちという意味で。


「ったく、おかげでこっちまで行動しづらいぜ」


「だが、ゴエモン。これはある種俺達は有名人になったと言っても過言ではないんじゃないか?」


「ナナシさん、またお話しする?」


「ごめんなさい。過言でした」


 昨晩、ミュウリンからこってり絞られたナナシはすぐさま謝罪し言葉を撤回した。

 ナナシは思い知ったのだ......普段温厚な人を怒らせてはいけない、と。


 そんなこんなでナナシ達は冒険者ギルドにやってきた。

 当然、そこでも反応は様々だったが、聖女様によるお触書の影響か突っかかってくる人はいない。


 ナナシ達は気にすることなく掲示板へと足を進める。

 掲示板にはたくさんの依頼の貼り出しがあり、その大半は朝のうちに取られる。

 よって、今残っているのはおおよそ低ランク向けの依頼ばかりだ。


「なんか良い依頼ないかな~。例えば、この近くの森のお花畑見て帰って来るとか」


「それはただの散歩だろうが」


「生態調査目的ならイケそうだね~」


「ミュウリンもこのバカの話に乗るんじゃない」


 雑談しながら適当に依頼を探していると、ふと近くの席に座る冒険者達から面白い話が転がってきた。


―――なぁ、どうやらまた出たらしいぜ義賊が。

―――みたいだな。噂によると孤児院に配りに行ってんだろ?

―――あと、スラムの方にもな。ま、こっちに盗みに来ないなら好きにすればいいけどな。


「義賊......要は泥棒だが、最近にも聞いた話だな」


 聞き耳を立てていたゴエモンは、横目で話している冒険者を見ながら感想を零す。

 ナナシは掲示板から一つの依頼を手に取って答えた。


「ここに来る道中でボコった野盗と助けた少女二人だろ?」


「だな。確か、名前はクルミとトゥララだっけか。

 クルミ方はありゃ嘘つけねぇタイプだな。

 こっちが聞き流してたからいいが、ちょっと突けばすぐにボロが出る」


「可愛いよね~」


 レイモンドの言葉に、ミュウリンは変わった捉え方をして答えた。

 そんなミュウリンの反応にレイモンドは「そういうことじゃねぇんだけど」と言いたそうな顔をしたが、可愛かったので黙った。


 一方で、ゴエモンはナナシの依頼を覗き込むように顔を近づける。


「で、大将は何を選んだんだ?」


「何? 俺のこと?」


 急に妙な呼び方をしてきたゴエモンにナナシは困惑した表情をする。

 すると、ゴエモンはサラッと答えた。


「ん? 昨日のお前の行動を見てそう思っただけだ。

 取った手段は褒められたもんじゃねぇが、個人的にあの見事な意識誘導は関心したからな。

 それにこのパーティは大将によって形成されてるようなもんだ。

 つーわけで、敬意をこめてそう呼ぶことにした。嫌だったか?」


「マジ最高。人生で呼ばれてみたい仇名ベストスリーに入ってる」


「んじゃ決まりだな。で、何を選んだんだ?」


「この依頼書に書かれてる住民達の手伝い」


「昨日の今日でならただの嫌がらせじゃねぇか」

 

―――二時間後


「ふぅ~、めっちゃ嫌な顔された~♪」


「そりゃ当然だろ」


 レイモンドはナナシの言葉にすぐにツッコんだ。


 この二時間でナナシ達は手分けして手伝いしていたが、基本的にナナシが担当した相手は汚物を見るが如く嫌そうな顔をしていた。


 ナナシであることを断れたこともしばしば。

 住民側の立場で考えれば至極当然な反応である。


 とにもかくにも、無事に依頼を達成したナナシ達は歩きながら大通りに向かっていた。

 ナナシが突発的に「ゲリラライブを開こう!」と言い出したからだ。


 当然、レイモンドとゴエモンも強制参加である。

 二人はとても嫌そうな顔をしていたが。

 そんな道中でも道端で耳にするのは話題の「義賊について」。


「やっぱ、瞬光月下団は違げぇな。アイツらは民衆の気持ちを分かってる」


「そうだな。何より義賊ってのが良い。ちゃんとこっちに恩恵あるしな」


 ナナシがたまたま耳にしたのは二人のおっさんの会話。

 実の所、依頼の最中でも度々耳にしていたのだ。

 そこまで噂されているとなれば気になるのは当然。

 というわけで、ナナシは二人に話しかけた。


「ねぇねぇ、今の話詳しく聞かせてくれない?」


「げっ! テメェは昨日の!」


「くっ、ツイてねぇ......」


 おっさんの一人がナナシから視線を外し、チラッとミュウリンを見る。

 その後、レイモンドへと目線を移し、大きくため息を吐いた。


「.......ハァ、わかった。話すよ」


「本気か!?」


「無下には出来ねぇだろ。むしろ、断ったらどうなるか。

 それに単に話を聞きたいってんなら断る理由もないしな」


 そして、おっさんの一人が噂の義賊について話してくれた。

 それは今から五年前、このドンパッチオの住宅街の一角で一人の商人が襲われたのがきっかけだ。


 盗み自体はさほど珍しいことではない。

 スラム街に住む人は生きるために盗みを繰り返すし、ただの悪党だって善良な住人から盗む。


 ただ、その襲われた商人が裏で悪事を働いていると噂されてる人物だった。

 もちろん、最初のそれはただの偶然かと思われた。


 しかし、それが五回以上続けば、偶然は必然と変わる。

 その盗人は悪人から盗んでいるのだと住人は思うようになった。

 実際、そういう噂が立っていた人ばかりが襲われてるのだから。


 加えて、その盗人は盗んだ金品の一部を孤児院やスラム街にばら撒いてるという。

 時には、人通りの多い場所で貴金属がばら撒かれることもあったとか。


 故に、その盗人は“義賊”と呼ばれるようになった。

 加えて、とある目撃者が月夜の下で複数人が、屋根を伝って光の速さでどこかへ移動していくのを見たという話から義賊は複数人らしい。


 そんな住人に味方する義賊は、住人から英雄視された。

 その認識は義賊側にも伝わったのか“瞬光月下団”と名乗るようになったらしい。


「――だがまぁ、今回ばかりは調子乗ったと思うがな」


「というと?」


「今回襲った相手がこの街の領主様だったからだ。

 前々から黒い噂は絶えなかったから、やってくれたことにはスカッとしたが......さすが相手が領主様となるとこっちも被害が被りかねない」


「なるほど」


「ほら、噂をすればだ」


 おっさんが指を差す方へナナシは視線を向けた。

 すると、甲冑を来た兵士がキョロキョロと見渡しながら移動している。


 やがて、複数の兵士達はナナシ達を見つけると近づいてきた。

 おっさん達は身の危険を感じてナナシ達から離れていく。


「突然の無礼を失礼。レイモンド様一行とお見受けします」


 礼儀正しく頭を下げて代表の兵士一人が挨拶した。

 それに対し、レイモンドが返答する。


「あぁ、如何にもオレがレイモンドだ。で、そんな複数の兵士を連れて何の用だ?

 ちなみに、昨日の騒ぎのことならあの道化師(バカ)が悪かったな」


「いいえ、今回はその事ではありません。

 実はレイモンド様に折り入って頼みたいことがあります」


「相手は?」


「ドンパッチオ領主、コマニー=ドンパッチオ様です」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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