第51話 痒いは辛い
「いや~、皆さん行動が早くてやること無かったわ」
そう言うのは横たわった丸太に座るナナシだ。
そんな彼の言葉にレイモンドが呆れた表情で言い返した。
「だって、お前の気迫ぶっちゃけオレ達よりもヤバかったぞ。
イチャイチャ狂信者かよってぐらい叫んでたからな。
だから、テメェに暴れさせるよかこっちでやった方が良いと思った」
「だって仕方ないだろ!? 男女二人が愛し合う世界にNTRはいらない! 間男も然り!」
「わかる」
「縛ったよ~」
ナナシとゴエモンが友情を確かめ合ってるところで、テキパキと仕事をしていたミュウリンが戻ってくる。
彼らの周囲では、太い木にくくりつけられてる野盗達の姿がある。
その男達は全員が派手にやられたようで顔が腫れ上がってるいた。
ちなみに、やったのは主にミュウリンとレイモンドだ。
その二人の表情一つ変えずに淡々と女の敵をぶちのめす姿はゴエモンを縮み上がらせるほど。
彼は途中から二人の気迫に飲み込まれ、ナナシと一緒に眺めていた。
そんな四人の近くに、助けられた二人の少女が近づいてきた。
一人は茶髪でイヌミミに尻尾がある犬人族の十五歳の少女。
もう一人はその少女よりも若くて小柄な藍色の髪をしたボーイッシュ少女だった。
「助けてくださりありがとうございます。それに治療まで。
私はクルミと言います。この子はトゥララです」
「どうも......」
温和でフワッとした雰囲気のクルミと、少し警戒しているようなトゥララ。
そんな二人の元気な姿を確認したナナシは話しかけた。
「いや~、大事が無くて良かったよ。にしても、どうしてここに?
ボーイハントにしちゃ随分と道半ばの森だと思うけど」
「ボーイハントならこんな野蛮人がいる森なんて行きませんよ。私達は――」
「こいつらも盗人だ! 今すぐ捕まえろ!」
クルミの声を遮るようにして声を発したのは、木に縛られてる野盗達の一人だ。
その男は口早にナナシ達に訴えかける。
「俺達は確かに盗人だが、同じ盗人ならこいつらだけ拘束されてねぇのはおかしい!
こいつらは数日前に俺達から金品を強奪していったんだ!」
「なぁ、ナナシ、なんてギャグだ?」
「センス高いねって言っておきな」
「センス高い~」
「煽るな煽るな」
ナナシの言葉に悪ノリするミュウリンとその行動を止めるゴエモン。
その二人の前のレイモンドとナナシからしても、野盗達の言葉は全く届いていない。
誰から人や物を奪っている野盗が誰かにそれらを盗まれた。そっか、ドンマイ、というのが四人がほぼ一致させている気持ちである。
しかし、一人だけその言葉に反応する人物がいた。
野盗達に襲われていたクルミだ。
「違いますぅー! 私達が盗むのは悪い人達ですぅー!
だから、言い直してください! 私達は野盗じゃなくてぎぞ――むぅ!?」
「クルミ姉、すぐにボロ出すんだからちょっと黙って」
ムキになって言い返すクルミの口を両手で抑えるトゥララ。
その表情は奔放な姉を諫める落ち着いた妹といった感じであった。
そんな小さな仲間のおかげで冷静になったクルミはハッとナナシ達を見る。
彼女の失言に対し、ナナシ達がじーっと見てくる。
クルミは猛烈な冷や汗をかいた。
「は、ははは、なーんちゃって......私、盗賊に憧れててついなりきっちゃったんだよね」
「とのことですので、どうぞご容赦に」
一周回ってトゥララの方が姉らしい。
二人の少女の実質的な上下関係を確認した所で、ナナシは丸太から立ち上がった。
「クルミちゃん、君達の次なる行く先は?」
「え? この先のドンパッチオって街ですけど」
「あ、あったな。その太陽の化身みたいなデフォルメを想起させる街。
確か初めて訪れた時にもボー〇ボ―とところ〇の助みたいな名前もどこかに無いかなって探したことあったっけ」
「なぁ、ミュウリン。時々ナナシの言ってる意味が分かんねぇんだけど」
「フィーリングだよ、ゴエモンさん。考えるな、感じろ」
ナナシ達は両手をパシンと叩くと、何かを決めたように「よし」と呟いた。
そして、彼の足は野盗達の方へ歩きながら、クルミに一つお願いをする。
「クルミちゃん、せっかくだしその道を案内して貰ってもいいかな。
人数もいるからきっと楽しくなると思うよ」
「え、でも......」
ナナシの提案に渋るクルミ。
そんな姉にトゥララは諭すように小声で言った。
(クルミ姉、さっきの女の人達の動き見たでしょ。アレは無理、逃げられない。
こっちに危害を加えることがない以上、大人しくしたがった方が良い)
(トゥララちゃんがそう言うなら......)
トゥララの意見に従ってクルミは答えた。
「わかりました。それがお礼ということなら引き受けます」
「それは良かった。それじゃ、こっちにも細工しちゃおっかな」
野盗達の目の前に立ったナナシは目線を合わせるようにしゃがみ込む。
そして、手を軽く掲げ、そこに白い魔法陣を作り出した。
その魔法陣を目にしたナナシの目の前にいる野盗の男は冷や汗をかきながら尋ねる。
「な、何をする気だ......?」
「まぁ、言うなれば試練だね」
「試練だぁ?」
「そ、俺も男だからね。尊厳は大事にしたい。
でも、その尊厳で女性を傷つけようとしたんだから、これぐらいの罰は受けて然るべきってね」
ナナシはちょちょいと指を動かす。
「よし、これで全員にセット完了。呪いみたいなものだから、永続効果だよ。
消したかったら解呪方法を頑張って見つけてね。簡単には解けないけど」
「おい! 俺達に何をした! 答えろ! おい!」
ナナシは野盗達の言葉に答えることなく立ち上がる。
踵を返し、クルミ達の方を歩き出した。
「それじゃ、行こうか。あ、ちなみに、歌とか好き?
こういう旅とかでピッタリな曲があって『さ〇ぽ』って言うんだけど」
「え、あ、はい......」
ナナシに話しかけられドモりながら歩くクルミと、クルミについていくトゥララ。
その後ろをついていこミュウリン達。
しばらくして、野盗の男達が見えなくなった辺りで、レイモンドが先ほどのナナシの行動について聞いた。
「なぁ、ナナシ。あのままで良かったのか?
そのまま殺っちまっても問題ないと思うんだが」
「野蛮だね~。何も命を奪うことないよ」
「だが、テメェ、さっき魔法陣を展開してる最中、もう片方の手でロープに斬り込み入れたろ。
常人には見えない動きだが、俺には残像だが見えた。
あんなの数人が身じろぎすれば切れるじゃねぇか」
実際、レイモンドの言っている事は本当のことだ。
ナナシは魔法陣でとある仕掛けを施してる最中、こっそりともう片方の手を高速で動かしてた。
ナナシの行動に怪しむレイモンドに対し、彼は「大丈夫、大丈夫」と言ってわけを話した。
「彼らが問題なのは盗むという行動、暴力、そして女性に対する乱暴狼藉。
だから、それらの行動を検知した時、俺の麻痺魔法がデリケートゾーンで発動するようになってる。それも耐えがたいほどにね。
デリ〇アエ〇ズがないこの世界じゃ相当辛いと思うよ」
その言葉に反応したのは同じ男であるゴエモンだ。
「おま、ゾッとするようなことするなよ。
なんかこっちまで痒くなってくるじゃねぇか」
「ちなみに、精神を落ち着かせる鎮静魔法のレジスト付き」
「うわぁ~~~~」
ゴエモンはナナシの割と鬼畜な所業に若干引いている。
ナナシがなぜそんなにも堂々とサムズアップできるのか彼には分らなかった。
そんな男同士にしか通じないような会話に入ってきたのはクルミだった。
「そんなに辛いんですか?」
「クルミ姉!?」
まさか食いつくと思わなかった姉の行動にトゥララは驚きを隠せない。
一方で、クルミに質問されたナナシはそっと空を見上げた。
「なぜかダニに刺されて応急処置でム〇使った時はヤバかったなぁ.....」
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