第50話 許せないもの
「今までありがとうございました!
旅館を救ってくれただけではなく、旅館の手伝いまでしてくださって」
「ハハハ、これぐらいどうってことないさ。こちらも貴重な経験をさせてもらったしね。
なにより、女の子の和服姿が見れたってのが一番大きい」
場所は旅館前、旅立つ準備を済ませたナナシは、サイラス親子と別れの挨拶を済ませようとしているのが今だ。
感動的な場面でナナシが性癖を暴露したのに対し、珍しくレイモンドが黙っていた。
よく見れば彼女の目が遠くなっているので、ふざけた道化師の言葉を聞かなかったことにしてるのだろう。
「うん、あんな格好は初めてしたけど可愛かったから良かったよ~。
それに何よりボクもこの旅館が気に入ったからね。
活気が溢れるようになって良かった」
「鬼人族の国ではこういうタイプの宿が多いんだが、こっちの本土ではまず見ないからな。
珍しくゆっくりくつろげたと思う。今度は家族で来るとするわ」
ナナシに続き、ミュウリンとゴエモンも感想を述べる。
そして、最後にレイモンドがカティーの前に立ち、言葉を並べた。
「......まぁ、なんつーか、オレはこういう湿っぽいのは苦手だ。だから、パッと終わらすぞ。
温泉も料理も最高だった......それに着物もな。また今度来るぜ」
「はい、それまでに着物の可愛さを布教しておきますね!」
「テメェもだいぶナナシに毒されたな」
レイモンドは苦笑いしながら、そっとカティーの頭を撫でた。
そして、四人はサイラス親子に大きく手を振りながら、その場から去って行った。
―――トロール街道
アールスロイスから次なる街に続く大きな街道である。
その街道に名付けられたトロールというのは、大型の人型魔物の名前だ。
名前の由来は、その魔物と一緒に街道として整備したことから、感謝の意を込めてその名がつけられたらしい。
そんな街道の上をナナシ達は馬車で移動――ということはせず、ピクニックするかのようにナナシ達は歩いている。
もともとナナシとミュウリンにとっては当てもない旅だ。
そのため、二人が急いで移動する理由も無い。
また、レイモンドもナナシの確保という目的が見つかった以上、目的を見失った。
ゴエモンは目的こそあるが、急いではないということでこのような形になった。
アールスロイスから数日が経過した。
ナナシは頭の後ろで両手を組みながら歩いていく。
そんな彼の口から飛び出した言葉は、たまたま話題で転がっていた彼ががいない頃の人類に関してだった。
「そういや、凄い今更なんだけどさ。俺がいなかった二年ぐらい、俺のことってどうなってた?」
「どうってどういう意味だ?」
「ほらさ、俺ってば聖剣を森に置いてきたまま今に至るわけだし。
レイがこうして探してきてるのなら、たぶん他の人も探してんじゃないかって。
特に聖王教会辺りがさ。そこら辺の話聞いておこっかなって」
ナナシの質問の意図を理解したレイモンドはザックリと説明し始めた。
勇者が魔王城にて魔王を倒した後、彼はすぐに帰ってくるとばかり思われた。
しかし、一向に音沙汰だないことに痺れを切らした勇者パーティが魔王城付近で捜索に向かった。
それでもすぐには見つからなかったので、聖王教会の力も借りて範囲を拡大。
それからしばらくして、聖剣を持つ魔物の存在が聖王教会の者によって報告された。
勇者パーティがその情報を頼りに例の魔物の所に向かうと、九本の蛇のような尻尾を持つ五メートル近くの大きさの猫の魔物が勇者の聖剣を持ってた。
加えて、その近くには白骨化した人間の死体もあった。
勇者パーティは魔物から聖剣を回収するも、その死体が勇者のものではないかという噂はすぐに広まった。
その後、聖王教会によって勇者は死んだものとされ、勇者の国葬が行われようとしたが、それに待ったをかけたのがレイモンドだった。
レイモンドは聖女シルヴァニアの力も借りて、その国葬を中止させた。
そして、彼女が自ら勇者が生きていることを証明するため、勇者を探すたびに出た。
結果、無事に勇者を見つけたのが今というわけだ。
「なるほどね。それじゃ、レイが止めてくれなかったら、今頃俺は死人だったわけか」
「ナナシさんが現実に化けて出てるってね」
「未練たらたらのナナシさんは怖いぞ~。
勇者の頃に行ってみたかった風俗街も未だ行けてないし」
瞬間、ナナシはお尻と横っ腹に衝撃を受ける。
レイモンドにお尻を蹴られ、ミュウリンから横っ腹を殴られたのだ。
それでも、ナナシは何事も無かったように言葉を続ける。
「それに他にもやりたいこといっぱいあったしね。オシャレな酒場とかも行ってみたい」
「今度良い場所連れてってやるよ。つっても、綺麗なママがいる酒場だけどな」
「マジ!? 異世界でバーデビューしちゃう!? いや~、今からでも心が躍るぜ!」
ゴエモンの言葉にひゃっほいと喜ぶナナシ。
そんなテンションが高い道化師を見ながら、ミュウリンはこっそりレイモンドに近づく。
「ナナシさんって昔からこうだったの?」
「いや、ガチガチの童貞だ。思春期特有の興味はあったらしいが、勇者の使命と天秤にかけて耐えてたらしい」
「らしい?」
「オレもシルヴィー......一緒に勇者パーティ組んでた聖女の話を聞いただけだ。
胸元の空いた衣装を着ると見える谷間に目が泳いだらしい」
レイモンドはその言葉を言った直後、自身の胸に目線を向けた。
同じようにミュウリンも目線を下に向ける。
「「.....」」
二人とも無いわけではないないが、誇張してあるとも言えるほどではない。
そして、思春期のナナシが反応したのは谷間が出来る巨乳だったそうだ。
二人は無性にナナシに対する怒りが沸いた。
「え、何!? なんか女性陣から妙な圧を感じるんだけど!?」
「まぁ、テメェの行動は良くも悪くも好意を持つ相手を振り回すからな」
結婚という一歩先を言ってるゴエモンは苦笑いしながら言った。
彼に限ってはこの中で誰よりも男女の関係を知っている。
女性に尻に敷かれる経験も。
ゴエモンはナナシの肩にポンと手を置くと、慈愛の笑みを浮かべて言った。
「拗らせて背後から刺されるようなことになるなよ?
俺は刺されこそしなかったが経験者だからあの経験はマジで怖いぞ」
「重みがパネェっす先輩......つーか、何があったか超気になる」
―――誰かーーーー! 助けてーーー!
「「「「っ!?」」」」
突然の叫び声。方角は森の中だ。
ナナシ達は顔を見合わせると頷き合い、声のする方へ直行した。
彼らが現場へと辿り着くと、そこには野党が軽装備をした少女二人を襲っていた。
内一人は腕に怪我をしてる状態で拘束され、もう一人は口元を抑え地面に組み伏せられている。
周りには何人もの臭そうな野党の男達が囲んでおり、数人がかりで女性を拘束し、服を剝ごうとしている光景がそこにはあった。
「胸糞悪い光景だな。潰すか」
「賛成だな。斬っても問題ないだろ」
「女性の敵は世界共通」
怒りに顔をしかめるレイモンド、ゴエモン、ミュウリン。
しかし、それ以上に怒りを持つ者がいた――ナナシだ。
彼のの怒りのボルテージはすぐに限界を突き破り、その怒りは言葉となって現れる。
「守護すべきはイチャイチャ!
レイプ、凌辱、触手ものそれらは殲滅対象!
その他、悪や犯罪に付随する全て駆逐してやる!!
守れ、我らがビューティフルイチャイチャワールド!!
俺達冒険者パーティ――イチャイチャ守り隊の出番だ!!!」
「「「そんな冒険者パーティ名は聞いてない」」」
ナナシの言葉に他三人は即座に突っ込むが、気持ちは概ね同じだった。
目の前で行われる犯罪及び尊厳のはく奪行為。
それらを見過ごせる彼らではない。
「野盗狩りじゃあああああぁぁぁぁ!」
「「「おぉー!」」」
ナナシの号令で三人は草場の茂みから一斉に野盗へ襲撃した。
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