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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第43話 手加減という優しさ

「本気の一割? 僕が殺す気でやってその程度ですか?」


 ナナシから告げられた言葉。

 仮面の人物は苛立ったように語気を強めた。

 それに対し、ナナシは変わらず肯定する。


「当然! 君がどうしようと俺は殺す気はない。

 だから、一割でいいのさ。もちろん、これは正当な評価だよ」


「......なら、今に全力を出させてあげますよ!」


 仮面の人物は地面をへこませるほどの踏み込みで飛び出す。


「がっ!」


 瞬間、仮面の人物は自身が進むべき方向とは逆方向に体が移動していることに気付いた。

 同時に、腹部に大きな衝撃と痛みを感じながら。


 仮面の人物は地面を転がり、やがて止まった。

 お腹を手で押さえ、痛みに数秒だけうずくまる。

 せき込みながら、なんとか四つん這いの体勢になった。


「な、何が......起きた? 僕は前に進んだはずなのに、体は後ろに動いて、カハッ」


 仮面の人物は顔をゆっくり上げる。

 そして、目の前で見たナナシの姿に息を呑んだ。

 全くやる気を見せない道化師が右足を上げてることに。


 その時、仮面の人物は気づいた。

 自分は蹴られていた。それも認識も出来ずに、と。


「ごめんごめん、あまりに速くて咄嗟に九割出ちゃったよ。

 でもほら、これで力量差が分かったことだし終わりに――」


「嘘ですね。あなたは九割も出していない」


 仮面の人物はお腹を押さえながら立ち上がる。

 そして、再び戦闘態勢に入った。


「僕は確かめたいんですよ。あなたが()()()に足る人物か!」


 仮面の人物は再び動きだす。

 ナナシの背後に回ると大きく体を捻り、右腕を横に払った。

 しかし、それはナナシの背後数センチ手前で出現した土壁によって阻まれる。


「っ!」


 直後、壁を突き破るようにナナシの長い足が飛び出してきた。

 仮面の人物は地面と平行になるほど体を逸らし、躱していく。


「光鎖」


「ぐっ!」


 仮面の人物はその体勢のまま、ナナシの足に攻撃しようとする。

 しかしその前に、両腕に光の鎖が絡みつき、そのまま地面に引っ張られてはりつけにされた。


「炎蛇咬合」


 仮面の人物が正面を見ると、天井の代わりに炎で出来たヘビが大きく口を開けていた。

 それが獲物を捕食するように襲ってくる。


風蹴突(エアシュート)


 仮面の人物は右足を上げると、足先に風を収束させた。

 その足を炎の蛇ではなく、地面に向けて叩きつける。


 瞬間、仮面の人物の体は反動で逆立ちのようになり、さらにその勢いは<光鎖>が刺さっていた地面を引っぺがすほどだった。


 それによって、仮面の人物は<光鎖>という紐で地面を背負った状態で立ち上がった。

 元居た場所には炎の蛇が地面に溶けていく。


「ヒュー♪ やるぅー。よくさっきの魔法でヘビを蹴らなかったね」


「あの炎の蛇、よく見ると胴体部分が内部で渦巻いてました。

 だから、蹴ったと不味いと思い、無理やり移動しました」


 実際、仮面の人物は正しい選択をした。

 魔法には多少相性があり、炎だったら水が、水だったら雷がなど、戦闘結果に直接結びつくわけではないが、それでも魔法の効果が半減されたり増幅されたりなどの影響は出る。


 今回の場合、風は炎に対して相性はあまりよくない。

 なぜなら、炎は空気を燃焼してその火力を強めていくから。

 また、魔法自体の強さによる影響もある。


 その強さとは、魔法を使用した際に込める魔力、無詠唱か完全詠唱か、発動魔法自体のレベルと主にこの三つが挙げられるが、仮面の人物はその三つのうち二つが完全に力が下回っていた。


 故に、仮にあの時仮面の人物が炎の蛇に向かって蹴った場合、攻撃は防げるが突風の勢いで渦巻く炎が拡散されるだろう。


 しかし、突風を受けてもなお魔法自体の強さによって、炎の蛇は目標に向かって進み続ける。

 さらに、風によって拡散された炎が火炎旋風として襲い掛かることになっていた。


 それらの総合的な理由から、仮面の人物は判断は正しかったと言える。

 もっとも本人は目の前に見える炎の蛇から自身の死相を感じ取っただけかもしれないが。


「あの状況でも冷静な判断......案外場慣れしてるんだね」


「そうでもないですよ。本当は蹴ろうと思ってましたし。

 でも、足が動く前に危機意識みたいのが働いて避けただけです。

 自分が水系統の魔法を使えるのが一番最適でしたけど、あいにく使えませんし」


「それが冷静って言うんだよ。その危機意識も培われた経験からしか導かれないものだから」


 ナナシはパチンと指を鳴らした。

 その瞬間、仮面の人物に纏わりついてた<光鎖>が消える。

 それによって、その人物が背負っていた地面の一部もゴトンと落ちた。


「どうする? まだやる?」


「もう少しだけおつきあいください!」


 仮面の人物はナナシに近づき、右手の刃で突く。

 しかし、ナナシに顔を傾けられて避けられる。

 続いて左手でも突くが、それも半身になって避けられた。


 ナナシは腕を組みながらサッサッサッと躱し、反撃はしない。

 仮面の人物が高速で繰り出す攻撃でも汗一つかかずに余裕そうに。

 それどころか仮面の人物に話しかけていく。


「なんというか、不可解なんだよね。

 最初は俺達をここに呼んで罠で陥れ何かの生贄に捧げてるんだと思った。


 仮面の人物は右足で下段蹴り、中段蹴りと仕掛ける。

 しかし、それはナナシの左足で受け止められた。

 ナナシは話し続ける。


「ほら、俺ってば恨まれることが多い人生歩んできたからさ。

 復讐で襲われるってことも普通に考えられるんだよね」


 仮面の人物は左手の刃を袈裟斬りに振るう。

 ナナシは半身になって躱した。


 仮面の人物は左腕を振った勢いを利用して、後ろ回し蹴りを放つ。

 しかし、それもナナシに上半身を逸らされて避けられた。

 ナナシは後ろに下がっていく。


「でも、君はその考えとは違う」


噛暗後(カムバック)


 直後、仮面の人物の足元の影がナナシの背後まで伸びる。

 そのまま伸びた影は立体的な形となり、砂地に潜る魚が油断している獲物に襲い掛かるように、鋭利な牙をした口で襲い掛かった。


「おっと危ない」


 ナナシは咄嗟に背後に振り向き、同時にバックステップ。


「風螺転」


 直後、仮面の人物は自身の前に両手を合わせた。

 刃は一つの大きく鋭利な存在となる。


 仮面の人物はバキッと地面を踏み込み、直線方向に跳んだ。

 さらに体の捻りで回転を加えることで、自身体をドリルのようにしていく。

 そして、それでナナシを背後から貫いた。


「やった!」


 仮面の人物は喜ぶが、それも束の間すぐに気づいた。


「手ごたえがない......まさか」


 仮面の人物が背後を振り向くと、貫いたナナシは揺らめいて消える。

 どうやらこれまでずっと相手していたのは幻影だったようだ。


「いつから......?」


「君が炎の蛇を見てる頃だよ」


 仮面の人物は声がする背後に再び振り向く。

 すると、土で作った椅子と丸テーブルで頬杖をつくナナシがいた。


 ナナシはそう言うが、仮面の人物は納得できなかった。


「それはあり得ない! 俺の攻撃をずっと避けてたならまだわかります!

 ですが、あなたは俺の攻撃を二度も止めた! その事実は変わらない!」


「あぁ、それね。ほら、そこはタイミング合わせて土魔法でちょいちょいっと。戦闘で視野が狭くなってるし、冷静に考えれば出来そうでしょ?

 なんたってこっちは、そちらさんの動きに合わせて魔法を発動させればいいだけだからさ」


「なら、俺はずっと幻影を相手に......」


「念のために幻影の足元に闇魔法で影を演出してたけど、よく見ればその影がずっと形を変えてなかったから気付く要素はあったよ。

 ま、戦ってる手ごたえを感じちゃったり、攻撃に集中しちゃうと中々難しいよね。わかる。

 スマ〇ラの対人戦での読みあいとかマジ意味わかんねぇし」


 仮面の人物は一つ息を吐くと脱力した。

 殺気を解き、両手の刃を袖にしまっていく。

 その行動にナナシは喜んだ。


「おっ、もしかしてやっと止める気になった?

 やっぱ、争いごとは無しが一番だよね」


 ナナシは立ち上がり、スキップしながら仮面の人物の前に近づいた。

 その姿をじっと見ながら仮面の人物は一つのお願いをする。


「あの、もしよろしければ力の一端を見せてくれませんか?」


「いいよ。色々理由がありそうだし、少しだけサービスしてあげる」


 ナナシは右手に光の剣を作り出し、そのまま右腕を伸ばした。


「この右腕をじっと見てて」


 仮面の人物が言われた通りにじっとナナシの腕を見つめた。

 瞬間、ナナシの腕が僅かにブレたような気がして、同時に強い風が発生する。


「あの、何を......」


 仮面の人物がナナシの方を向けば、当然腕は止まっている。

 そして、ナナシからは上を向くよう指でジェスチャーされていた。

 再び指示通りに上を向く仮面の人物。


「っ!」


 仮面の人物は息を呑んだ。

 天井いっぱいに「ナナシ、参上!」と文字が刻まれてたのだ。

 随分と強い主張だが、問題はそこではない。


 仮面の人物がそれを行っていた動作を見ていたにも関わらず、ほとんど腕が動いていないように感じたことだ。


 つまり、ナナシの剣の振りが視認していたのに、()()()()()()()()のだ。


 もし、それで攻撃を加えられていたのなら、幾度もの斬撃に切られた本人は斬られたことも知らずに、わけもわからず死んでいただろう。


「......本気を出さないって優しさなんですね」


 仮面の人物はしみじみと理解した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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