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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第42話 仮面の人物

 しばらくミュウリンをギュッと抱きしめていたレイモンド。

 その姿は外に出歩く時も人形を抱える幼き少女のようであった。


 そんなミュウリンからしか摂取できない癒し(えいよう)を補填し終えると、レイモンドはそっとミュウリンを降ろす。


「さて、成り行きで戦いになっちまったが、まだ本来の問題を解決してねぇ」


「ここからどうやって出るかだよね」


 ミュウリンの言葉にレイモンドは頷いた。


「あぁ、オレ達は脱出の糸口を探ってあの通路を通ってきた。

 しかし、あいにくここには次の場所に行けるような入り口はどこにもない」


()になっちゃうね~。だけど、ここで泣き言を言っても仕方ない。

 さーて、ここはボクが人肌脱ごうからな」


 ミュウリンが肩を回しながら、そんなことを言った。

 その様子にレイモンドは腰に手を当て尋ねた。


「お、なんか良い方法でも閃いたか?」


「うん、掘ろうかなって」


「思ったよりも脳筋発想だな。つーか、最終手段だろそれ」


「いや、そうでもないよ」


 ミュウリンが妙に自信ありげに首を横に振る。

 その態度に色々思うことを感じたレイモンドだったが、一先ず話を聞くことにした。


 そして、彼女が聞いた内容を簡単に要約するとこうだ。

 ミュウリンの作戦! 名付けて「人間ドリル作戦」!


 その一、ミュウリンが両手にガントレットをつけて、タケノコのポーズを取ります。

 その二、ミュウリンの体に螺旋状に紐を括りつけます。

 その三、レイモンドがミュウリンを投げ飛ばすと同時に、巻きつけた紐を引っ張ります。


 その四、ミュウリンは空中で回転しながら天井に向かい、やがて突き刺さった土を掘削していきます。


 その五、その一からその四を繰り返します。

 その六、無事脱出やったね! わーいわーい!


「どうよ?」


「うん、やっぱ詳しく聞いても脳筋解決法だったわ」


 自信満々にドヤ顔するミュウリン。

 レイモンドはその表情を「可愛い」と思いながらも、作戦に対しては非協力的だった。


 というより、レイモンドはそんな作戦を立てなくても助かるのではないかと自信すら持っていた。

 それは今この場に居ない頭のおかしな道化師とオマケのヒゲがいないから。


―――ゴゴゴゴゴ


 突如として、二人の足元の地面が揺れ、同時に地鳴り響く。

 地面の揺れは時間が経過するごとに強くなり、やがてその正体は現れた。


 地面に穴を開けて現れたのはモグラだった。

 ただし、その大きさは頭だけで二メートルはあり、さらに土で出来ている。


「来たね」


「だな」


 突然の珍客にもかかわらず、ミュウリンとレイモンドは冷静だった。

 それどころか安心したように頬に笑みが浮かんでいる。


 二人の目の前のモグラは突然頭部がパカッと開いた。

 さながら水筒の蓋を開けた時のように。

 そこから現れたのは予想通りの人物二人組。


「迎えに来ましたよ、プリンセス達! さぁ、帰りましょうか!」


「よう、無事みたいだったな」


 ナナシとゴエモンの二人だ。

 二人はレイモンドとミュウリンに近づいていく。

 最初に口火を切ったのがナナシだ。


「大変だったみたいだね。すぐに治療しよう」


「必要ねぇ。魔法袋に入れてある回復ポーションを飲んだ。

 これは血が乾いて跡が残ってるだけだ。

 にしても、随分と遅いご到着じゃねぇか。どこで油売ってた?」


「ちょっと地下に珍しいものを見つけてしまってね。

 でも、心配はしてなかったよ。信じてたからね」


「あぁ、オレにとっちゃそっちの方がありがたい」


 レイモンドは右手に作った拳をコツンとナナシの胸に当てる。

 そして、歯を見せるほど大きく笑ってみせた。


 そんな二人の友情を見届けたゴエモンは一つ咳払いすると本題に入る。


「それじゃ、帰るとするか。ナナシよ、もう一度さっきの頼めるか?」


「そうだな。なら次は趣向を凝らしてミミズ――っとすまない。忘れ物をした」


「忘れ物?」


 ナナシの突然の言葉にミュウリンとゴエモンは首を傾げる。

 レイモンド一人だけは目を細めて腕を組んだ。


「そうそう。ここに来るまでにずっと何か足りない気がしてたんだが、それがなんだか思い出してね。

 ここで待ってるのも申し訳ないし、先にギルドの方へ報告済ませて欲しいかなって」


「ナナシ......いや、()()()。それは本当なんだな?」


 レイモンドはナナシを睨む。

 ナナシは口元に笑みを浮かべながら、二秒ほど黙った。

 それから、説得するように口を開く。


「本当だ。だから、信じて。()()はちゃんと戻る」


「......そうかよ。言質は取ったからな。

 それに、また繰り返そうと俺はまた探すだけだ」


「今度は首輪でも繋がれそうだな」


 ナナシは三人に集まってもらい、互いに手を繋いでもらった。


「それじゃ、先に行ってて」


 ナナシは三人から少し離れた。

 直後、三人の足元には見覚えのある同じ魔法陣が浮かび上がる。

 転移魔法陣だ。


 三人は白い光に包まれ、一秒も満たずに光が収まった頃には、すでに姿はない。

 今頃、ナナシがこっそりと設定していた迷宮の入り口にでも戻ってる頃だろう。


「さーて、俺も一仕事しますかな」


 ナナシは両手の指を絡ませ、両腕を大きく頭の上に伸ばした。

 ぐーんと伸びをすると、一気に脱力。

 そして、この空間にある唯一の入り口の方に目を向けた。


「出てきなよ。用があるんでしょ?」


 そう声をかけると、入り口の影から人が現れた。

 フードを被ったロングコートで全身を覆い、仮面をつけている。

 その人物はゆっくり歩きだし、ナナシの数メートル手前で止まった。


「いつから気付いてました?」


「ここに来たタイミングで。ほら、俺ってば目がこんなんだから、探知系の技能を鍛えまくったんだよね。

 そしたら、探知で捉えたものが視覚情報のように脳内に流れてくるようになったもんで、非常に日常生活でも便利でさ。

 さすがに色まではわからないけど、それでもモノクロまでいけてるからたぶんできんじゃないかなーと思ってんだよね」


 ナナシが仮面の男が聞いてないことまでペラペラと話し出す。

 まるで目の前の人物が既知の存在であるかのように。


 もちろん、彼にこんな怪しげな友人はいない。

 一方で、仮面の人物も冷静に言い返す。


「おしゃべりは結構です。それよりも、僕はあなたがどのくらいの実力か試しに来ました」


「実力を試す? また面白いことを。あ、ここの魔神ってもしかして君の?

 ダメだよ、あんな倫理にも道徳にも世界の理にも干渉したような存在作っちゃ。

 ここはナナシさんが名誉ある道化師おじさんとしてお灸をすえ――」


「おしゃべりは結構と言ったでしょう!」


 仮面の人物は右腕を軽く振る。

 すると、袖からスッと刃が飛び出してきた。

 それは手の甲に沿うように装着されている。

 同時に、その人物はナナシに突っ込んでいく。


「ちょ、ちょ話し合い......を!」


 仮面の人物が袈裟斬りに振り下ろした刃を、ナナシは背後に下がって避けた。

 直後、仮面の人物が追撃とばかりに左腕の袖から出した刃で突きをする。


 ナナシは全身で英数字のCを作るように避けた。

 それからも、仮面の人物が連撃を企てるが、ナナシは紙一重で避けていく。


「なぜ、戦わない!」


 攻撃を仕掛けながら、仮面の人物は問う。

 ナナシも避けながら答えた。


「いや、戦う理由ないでしょ?」


「僕にはあるんですよ!」


 どんどん後退していくナナシ。

 その時、魔神像の千切れた手の指に足を引っかけた。


「あっ――ぐふっ!」


 ナナシが崩した一瞬のバランスを逃さずに、蹴りを入れて吹き飛ばす仮面の人物。

 ナナシは地面の上をゴロゴロと転がっていく。


 寝転がるナナシの真上から仮面の人物が降ってきた。

 ナナシは横に転がって、突き攻撃を躱す。

 そして、すぐさま体を起こした。


「ちょっと、アレは当たれば死ぬ――よっ!」


 ナナシは仮面の人物が問答無用で放つ突き攻撃を首を傾けて躱した。

 すると、ナナシが首を傾けた方向に腕を薙ぎ払ってくる。


 ナナシは咄嗟に仮面の人物の攻撃する腕を掴んで止めた。

 直後、仮面の人物の回し蹴りがナナシの顔面を捉えた。


 ズサーッと数メートル地面を引きずられながら吹き飛ぶナナシ。

 少し息を切らしながら仮面の人物が歩いて近づいた。


「先の直撃した二発の蹴り。

 アレは確実に常人だったら致命傷になってもおかしくない威力で打ち込みました。

 ですが、あなたはそれをまともに受けてもなお無傷」


「......さすがに防御魔法かけてるからね」


「だとしても、耐久値がおかし過ぎる。

 あなたが僕の刃だけ確実に避けるのも、攻撃を受けたくない――ではなく、僕の武器を壊したくないからでしょう?」


 仮面の人物の問いにナナシは答えない。

 しかし、その沈黙は肯定も同じだ。


「どうやったらやる気になってくれますかね?」


「......そうだな。少なくとも殺気も帯びてない攻撃で真面目にやれって言われてもな」


 ナナシは体を起こし、立ち上がる。

 お尻の砂を払い落とすと言葉を続けた。


「俺は道化師であると同時に冒険者。

 戦いに関しては多少はプライドを持っている。

 君が全力で来るのなら、俺は敬意を表して一割の本気を出してやろう」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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