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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第41話 守りの騎士

 レイモンドとミュウリンは天井を見上げる。

 そこには天井から上半身を生やし、ぶら下がる魔神像。

 その敵は残り四つとなった腕を下に向けて構えている。


「ミュウリン、テメェは好きに暴れろ。テメェの攻撃は全て俺が弾いてやる」


「そっか。わかった。なら、遠慮なくやらせてもらうよ!」


 ミュウリンは数メートル走ると、魔神像目掛けて真っ直ぐ跳躍した。

 そんな愚直な行動に魔神像は拳でもって迎撃する。


「させるかよ!」


 魔法で身体強化したレイモンドは、地面をへこませるほどの踏み込みでミュウリンの後を追い跳躍。

 その後、ミュウリンよりも上に行き、左手の盾で巨大な拳を受け流す。


「来い、ミュウリン!」


「うん!」


 レイモンドは右腕を伸ばした。

 直後、ミュウリンは彼女の腕に手をかけた。


「オラッ!」


 気合一発。レイモンドは右腕を振るった。

 その勢いによってミュウリンは空中から加速。

 一気に魔神像へと直行した。


 魔神像は更なる拳を繰り出す。

 しかし、その攻撃はミュウリンにひらりと交わされた。

 それどころかミュウリンによって腕を足場にさらに登られる始末。


「黒龍拳――打破」


 ミュウリンは小さな拳で魔神像の顔面に殴り掛かる。

 魔神像はすぐさま両腕をクロスさせるが、直撃した一本は折れ、もう一本は風圧で吹き飛ぶ。


 反動でミュウリンも吹き飛んでしまった。

 その僅かな隙を狙うように魔神像は拳を振るうが、伸び切った腕はミュウリンに直撃する前に止まった。


―――ザンッ


 ガンッと天井に剣が突き刺さる。レイモンドの持っていた剣だ。

 それは進行方向上でミュウリンに迫る魔神像の腕を斬り落としたのだ。

 巨大な腕が地上に落下していく。


「ガアアアア!」


「ごめんね、静かにしてて――黒刺弾」


 ミュウリンは両手の爪を立て、さらに手首でくっつける。

 それを魔神像に向けると、指先から黒に近い紫色をした魔力弾が放たれる。


 まるでその十本の指からマシンガンが放たれてるかのように断続的に。

 その魔力弾は一発一発が針のように尖っていて、魔神像の顔面に突き刺さる。


「ボゥオッ!」


 魔神像は顔面に黒い破片が突き刺さったまま、口を大きく上げた。

 その口には短く空気が座れていく。

 その吸引力は十数メートル離れたミュウリンを引き寄せるほどだった。


 魔神像は大きく膨らませた口を一度閉じる。

 そして、体を少し逸らすと今度は前に突き出すように斜めになり、口に溜めた息を吐き出し――


「ガッ!」


「お届け物だ、デカブツ」


 その直前、千切れた腕を抱えたレイモンドが魔神像に現れる。

 そして、握り拳を作った腕で魔神像の開けた口を塞いでしまった。


「今だミュウリン!」


「ラジャー!」


 落下しかけているミュウリンはすぐさま右手で拳を握る。

 それを背後に向かって放とうとする。


「っ!」


 しかし、ミュウリンはすぐにその拳の向きを真下に変えた。

 それによって生まれた衝撃波の反動によって、天井へ上昇していく。


「ガアッ!」


 ほぼ同タイミングで魔神像は口に溜めた息を吐きだした。

 レイモンドが塞いだ腕は空気砲のような吐息でもって、吹き矢のように飛んでいく。

 それはミュウリンを狙う位置だったが、彼女が上昇したために当たらなかった。


 ミュウリンは吹き矢ならぬ吹き腕が作り出す風で吹き飛ばされる。

 しかし、レイモンドが天井に突き刺した剣を掴んで壁に叩きつけられることを防いだ。


「レイちゃん!」


 ミュウリンは剣を引き抜くと、それを落下しているレイモンドに投げ飛ばす。

 レイモンドは剣をキャッチすると、すぐさま見上げた。


「レイちゃんのカッコいいとこ見てみたい」


「......ったくしゃあねぇな」


 レイモンドはニヤッと笑った。

 そしてすぐさま、口で剣の柄を噛み、真下に手を向ける。


駆け抜ける突風(ウィンドジェット)


 手のひらから作り出される風魔法を示す緑色の魔法陣。

 それからレイモンドの体を持ち上げるほどの強い風が発生する。


 レイモンドは体勢を立て直し、剣を右手に持って魔神像の顔面目掛けて突進した。

 だが、魔神像もおいそれと敵を近づけやしない。


 魔神像は残り二本となった腕の一つを振るった。

 それはレイモンドを捉え、殴り吹き飛ばすと彼女を壁へ叩きつける。

 彼女の半身が壁にめり込んだ。


「レイちゃん!」


 落下中のミュウリンが叫ぶ。


「ハッ、いいのか? そんなに殴っちまってよォ!」


 ミュウリンの心配をよそに、レイモンドは不敵な笑みを浮かべる。

 彼女は壁を勢いよく蹴り跳躍、伸び切った腕を足場にして魔神像に接近する。


 魔神像がすぐさまレイモンドが乗る腕を引き、同時に逆の腕を振るった。

 しかし、レイモンドはタイミングよくジャンプして飛び移ることで攻撃を回避した。


 レイモンドは跳躍し、魔神像の眼前へ。

 左手に持つアルバランの特性を生かし、右手の武器に魔力に変換された力を流す。


 剣は魔力によって赤色に輝き、同時に火傷するような熱を持った。

 レイモンドは右腕を全身を使って引く。


「これで終わりだ――大錐牙突撃(メガホーン)!」


 弓が弦を弾いて大きくしなるように。

 全身を弓のようにしならせ、それを開放する反動で放つレイモンド大技の突き攻撃。


 それは魔神像の顔面に直撃し、頭に巨大な風穴を開けた。

 頭を貫かれた魔神像はついに動かなくなり、だらんと腕を真下に向かってぶら下げる。


 切断された腕や折れた腕からボタボタと赤い滴が流れ落ちていった。

 それは締め方の甘い蛇口から水がチョロチョロと流れ出すように。

 真下には真っ赤で大きな水たまりを形成していた。


 レイモンドが落下してくる。

 スタット着地すると、彼女のそばにミュウリンがやってきた。


「レイちゃん、やったね」


「あぁ、そうだな。しかし、こればかしでここまでダメージを負うとは修行不足だな」


「そんなことないよ。逆にボクはレイちゃんのおかげで無傷なんだから。

 えへへ、ありがと~。守ってくれて」


「それが騎士としての役目だからな」


 恥じらうこともなく言ってのけるレイモンド。

 そんな彼女に対し、ミュウリンはそっと両腕を伸ばした。


「レイちゃん、サービスだぜ」


「......ありがたく受け取っておこう」


 レイモンドはミュウリンをギュッと抱きしめ、吸った。


*****


―――ジュウゥゥゥゥ


「......」


 ゴエモンは泥人形のような黒い人型を相手にしながら、燃えた地面の消火活動を行っているナナシを見ていた。


 いや、正確に言えば、ナナシが水で作り出したとある生物の形か。

 それは竜のような形をしていて、口から水ブレスを放っている。


「ナナシ、なんだそりゃ?」


「ん? ブルーア〇ズホワ〇トドラゴン」


「聞いたことのない竜の名だな。勇者時代に戦った竜の名前か?」


「戦ってたのは俺の友達だね。この竜を召喚して戦ってた。

 俺はただこのキャラを知ってるだけ」


「お前の友達スゲェな!」


 もちろん、ナナシが話してるのはどこぞのカードゲームの話だ。

 しかし、場所は異世界。現地民(ゴエモン)に話が通じるわけも無し。

 リュートもそれが分かっているように追加で説明することは無かった。


 そもそもこの二人がほぼゼロ距離爆発で生きていることも不思議だが、それはナナシの水のドームによって守られた結果である。


 そして爆発に助かった現在、ゴエモンは襲い来る泥人形を切り倒し、ナナシが消火活動を行っているのだ。


 ゴエモンは次々と襲い掛かる泥人形を切り伏せるが、その行為は焼け石に水。

 本体である巨大な心臓を倒さなければ、泥人形はずっと溢れ続ける。

 ただ疲労が蓄積されていく一方だ。


 それこれも全てはナナシの巨大な心臓が張っている結界を破るための解析待ちなのだが、かれこれニ十分が立っているが一向に吉報がない。


 たまらずゴエモンはナナシに声をかけた。


「なぁ、ナナシ。解析はまだ終わんねぇのか?」


「あぁ、アレね。もうやってないよ」


「ハァ!? どういうことだ!?」


 ゴエモンは大きく口を開けて驚いた。

 無理もない反応だろう。

 対して、ナナシはサラッと答える。


「もちろん、真面目にやってたさ。だけど、途中俺の言語理解能力を超えた人智の届かない領域? 的なやつにぶち当たってさ。これ以上やっても意味なくてやめちゃった」


「おいおい、ならサッサと言ってくれよ」


「そうだね。十五分前に言えば良かったね」


「戦い始まってから五分後には終わってたのかよ!」


 ゴエモンの叫びにナナシはてへぺろとお茶目に反応。

 ゴエモンは無性に殴りたい怒りに駆られた。

 しかし、彼は大人だ。そこまでしない。

 それよりも目の問題を解決する方が先だ。


「それじゃあ、心臓(アイツ)はどうすんだよ?」


「大丈夫じゃない? たぶんもうそろそろ決着つくと思うし」


 ナナシは上を見上げる。

 彼の視線を追ってゴエモンも視線を移動させるが、そこにあるのは土の天井のみ。


「3、2、1.......バン」


 ナナシは右手を指鉄砲のように変えて、心臓に向かって銃弾を放つ。

 直後、心臓が張っていた結界はパリンと音を立てて割れた。


「なっ! 結界が! お前さん、何したんだ!?」


 驚くゴエモンにナナシは首を横に振る。


「俺は何もしてないよ。偉大なる騎士が誇りを示しただけさ。さ、MVPを迎えに帰ろうか」


 ナナシはそう言って、心臓に向けて水で作られた竜のブレスを放った。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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