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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第38話 魔神像#1

 ナナシとゴエモンが別の場所で心臓に辿り着いた一方。

 離れ離れになったレイモンドとミュウリンもまたとある空間にやって来ていた。


 直径五十メートルほどはありそうな円柱の空間。

 まるで意図的に整備されたようなフラットな地面。

 二人が歩いてきた場所とは対照的な位置に次に続くような入り口はない。


 その空間には何もなかった。

 最初こそ、二人ともまた転移魔法陣のように地面に魔法陣の罠があるのではと警戒した。

 しかし、その警戒はミュウリンが見つけた存在によって上書きされていく。


「ねぇ、見てアレ......」


「なんだ? あのバカでかいのは......像?」


 ミュウリンが天井へ指さす方向をレイモンドも視線を向けた。

 そこには天井から逆さに生えた上半身の巨象がある。


 大きさは二十メートルはありそうだ。

 肩甲骨からいくつもの腕を千手観音のように生やし、肩から伸びる両腕は胸の前で手を合わせている。


 全体的に黒みがかった鈍色をしている。

 鼻はないが口があり、閉じた目が三つある。

 腹部の辺りにも大きな口があった。


 レイモンドは兜だけを外し、その像を睨むように目を細めて見つめる。

 彼女が持つ人類史でもあのような存在は聞いたことが無かった。


「アレは魔神像だね」


「っ! 知ってるのか!?」


 ミュウリンの言葉にレイモンドはすぐさま耳を傾ける。

 ミュウリンは続けて説明し始めた。


 魔神――それを一言で言い表すのなら、神格化された人である。

 多くの人達に支持されたり、暴れ川を沈めるために身を沈めたりなど、周囲の人達に多大な影響を与えた人は時として神のような信仰心を向けられる。


 想いが形となるように、その信仰心は偉大なる人物を神へとまで昇華させる。

 そして、同時に信仰心を向けられた人は偶像へと生まれ変わる。

 それがレイモンドとミュウリンが見た像であった。


「確か、魔族では人が神格化されたのを魔神と呼び、魔族を作った最高神を邪神と呼ぶんだ~。

 人族の場合は、人神と聖神だったと思う」


「あぁ、そうだ。にしても、自分達を作ったとされる神を“邪神”なんて呼び方するんだな」


「詳しいことは分からないけど、人が何かを食べて生命へと消費しないといけない時、その消費された物質の魂は例えそこに悪意がなかろうと“命が破壊された”って考えなんだ」


 この世界は二対の神のバランスによって成り立っているとされている。

 生命を作り出し、繁殖させ、繁栄をさせる慈愛を与えた聖神。

 生命を破壊し、土へと還元させて、次の命の礎を作る慈悲を与えた邪神。


 創造と破壊という相反する絶大なる力。

 それを神はそれぞれ司る分野を二つに分けた結果、生まれたのが聖神と邪神。

 つまり、この世界はこの二人の神の力の循環で成り立ってると考えられている。


「ん? さっき邪神が魔族を作ったって言ってなかったか?

 創造を司る神が聖神なら、魔族だって作られたのはその神の手によるものだろ?」


「実際のところどうかわからないけど、一説には魔族は邪神によって生み出された破壊の使者とされてるんだ~」


 人類側と魔族が相いれないというのは、根本を辿ればここに帰結する。

 宗教観の歴史における善と悪の対立。

 神話の歴史を語る人物が今でも生きているわけではないのに。


 レイモンドとミュウリンは空間の中心に向かって歩いていく。

 目的地に辿り着けば、逆さに作られてるその像を首が居たくなるような角度で見上げた。


「ま、オレもこの世界の歴史は学んだが、今を生きてるならさしてどうでもいいな。

 別にそれを知ったところで、魔族だからって絶対に悪ってわけじゃねぇだろうし。

 せっかく会話ができるってのに、それだけで悪と断定したならそれこそ悪だろ」


「......ふふっ、もっと仲良くなれたらいいよね~」


「ま、どうにでもなるだろ――ん?」


 巨象を見上げながら話していたレイモンドは何かに気付いた。

 それは見ていた巨象から僅かに魔力のような意志を感じたからだ。


―――ゴゴゴゴゴッ


「「っ!」」


 突如として、地面が揺れ始めた。地鳴りも大きく響く。

 天井からはパラパラと土の欠片が落ちてくる。

 その瞬間、猛烈な気配が二人を襲った。


 レイモンドとミュウリンは頭上を見上げる。

 視線の先に移る巨象の三つの目が開き、真っ直ぐ下を見下ろしていた。

 直後、巨象の腕の一本が二人に襲い掛かる。


「アブねっ!」


 レイモンドはミュウリンを抱え緊急脱出。

 先ほどまで彼女達がいた位置には五十センチほど凹む地面と、引き上げる拳があった。


 突然の事態にレイモンドは冷や汗をかきながら、ミュウリンに魔神について尋ねた。


「なぁ、魔神って生きてるもんなのか?」


「さすがにそれはないよ~。

 神格化した時点で世界への干渉は出来なくなるはずだから。

 もし、干渉するんだったら仲介人の巫女が必要になる」


「つまり、動くと思ってなかった魔神の像が、攻撃意思を持って動いてるって異常事態に陥ってるわけだな」


 レイモンドは状況を理解すると、一つ大きく深呼吸した。

 呼吸を整え、目的を明確にする。

 相手が攻撃することを躊躇わないのなら、こちらも反撃を躊躇わない、と。


「ミュウリン、一つだけ確認する。あの像を攻撃しても構わねぇか?」


「魔神は人々に愛され、信仰された存在だよ。

 つまり、その信仰心に反する言動はたとえ神であっても許されることじゃない」


「人は神に上がれ(なれ)ても、神は人に下れ(なれ)ない.....だっけか教会の教えでは。

 神が落ちたら堕神となり、創造と破壊の輪廻も関係ない殺戮者となる。

 要は戦って止めりゃいいってことだ」


 レイモンドは腰から剣を引き抜き、左手には盾を召喚する。


「出番だ――剛壁盾アルバラン」


 魔障盾マルダートの魔力で作られた半透明な盾とは違い、アルバランは光沢のある金属の盾だった。


 この二つの盾の違いとすれば、マルダートが魔法に耐性が強く、アルバランが物理に強い。

 また、マルダートの方が魔力消費が少なく、アルバランは消費が大きいという点だ。


 レイモンドは無数の手を持つ巨象を見て、物理に強化した方が得策だと考えたのだろう。


「ミュウリン、基本的にヘイトは俺が買う。折を見て攻撃しろ。

 ただし、危なくなったらオレの近くにこい。必ず守ってやる」


「りょ~」


 ミュウリンは両手にガントレットを装着する。

 そして、レイモンドの隣で身構えた。


「最初にオレが出る」


 レイモンドは兜をかぶり、一言だけ残して走り出した。

 彼女の頭上からは逆さの巨象から拳の雨が降り注ぐ。


 拳一つの大きさは五メートルはあるだろう。

 それが天井を隠すように接近してきた。


 レイモンドは周囲の拳の僅かなタイムラグを確認する。

 そして、拳が地面に着地する順番を確認しながら、蛇のような動きで躱していった。


「何も盾で受けるばっかが盾役(タンク)じゃねぇよ。回避だって同じこと」


 レイモンドは近くに落ちた腕に向かって跳躍。

 他にも伸びている腕を利用して壁キックの要領で上ると、一つの腕に向かって攻撃した。


大獣断頭(バスタード)


 レイモンドは大きく振りかぶった剣を薙ぎ払う。

 剣を覆うノコギリのようなギザギザした魔力の刃は、巨象の腕を一本斬り落とした。


 切断した腕はゴトンと地面に落ちる。

 切断面からは赤黒い血がボタボタと落ちた。

 その事実にレイモンドは首を傾げる。


「あぁ? 神ってのはなったその瞬間から人の肉体(うつわ)を捨てて、世界と同じになる......つまりは、魔素で構成された肉体になるって聞いたんだが。

 お前、バリバリ普通に肉体持ってんじゃねぇか」


 瞬間、レイモンドがかぶとの奥でニヤリと笑った。


「なら、テメェはただの図体デカい魔物だな」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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