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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第34話 迷宮の罠

 眼下に見えるオーガの群れ。

 その姿を捉えたミュウリンは他の三人に言った。


「それじゃ、あの魔物はボクがやるよ。争わずに行けたらそれが一番だけどね」


「そうか。わかった。だが、万が一に備えてオレ達はここで待機してる」


「うん。ピンチの時はよろしく~」


 レイモンドの頼りになる言葉を受け、ミュウリンは一メートルほどの段差を降りた。

 そして、彼女は一人オーガの群れに向かって歩いていく。

 そんな姿を見ていたゴエモンはレイモンドに尋ねた。


「よく止めなかったな。可愛い物好きのお前さんならまず止めると思ってたんだが」


「その言い方はやめろ。それに根拠はある。だから、問題ない。

 ただ、何が起こるのが分からないのが戦いだ。用心しとけ。

 ナナシ、テメェも聖剣ぐらいだしとけ」


「あぁ、アレね。森で落とした」


 サラッと答えるナナシの衝撃発言にレイモンドは声を荒げた。


「ハァ!? 森で落とした!?......いや、そういや、捜索隊が森で拾った聖剣をハイエス聖王国に保管してるって言ってたな」


 レイモンドはすぐに過去の記憶を思い出したことで自制心を取り戻した。

 さもなくば、今頃ナナシを殴っていたところだろう。

 それほどまでに、聖剣と勇者の関係性は深い。

 言わば、戦闘力を半分削ってるようなものだから。

 ちなみに、それが現在も続く勇者失踪事件のキッカケである。


 ナナシ達は入り口の縁に座ってミュウリンを観察した。

 ミュウリンはオーガ達に話しかけてる様子だが、オーガの怒った反応からして失敗のようだ。


 すると、赤いオーガの一匹がミュウリンに攻撃を仕掛けていく。

 ミュウリンはそれを後ろに下がって避け、両手に黒いガントレットを装着した。


 そこから四匹のオーガが一斉にミュウリンに襲い掛かり、それを彼女が小柄な体を活かした俊敏な動きで翻弄、迎撃していく。

 一方で、そんな光景を見ていたナナシ達は話をし始めた。


「そういや、ドラゴンと龍人族って近縁種とかドラゴンが人の形になったとか言われてるけど、オーガと鬼人族にもそういうのってあんの? ほら、額から角出てるし」


 ナナシの素朴な質問にゴエモンは腕を組みながら呻る。


「う~ん、そうだな......民族研究家みたいな人の本を読んだことあるけど、そういう説もあるらしい。

 ただ、龍人族と違って尻尾も、縦に伸びた瞳も、ドラゴンになって空を飛ぶようないくつもの共通点は鬼人族(俺達)とオーガの間にはないからな」


「角はあるけどな」


「レイモンドよ、角があるだけでそう判断されても悲しいだろ。

 それにオーガは弱いものをいたぶる性格があると聞く。

 それだけで俺は鬼人族(俺達)と違うって宣言するぞ」


「ま、それはそうだよね~」


 たまたま似通った特徴があるから、そうではないかと疑われる。

 よくある話であり、根が深い話でもある。

 それは家族の一人が犯罪を犯したとしたら、血縁者も全員犯罪者と誹られるようなものだ。


 現状のミュウリンの立場もまさにそれと言える。

 彼女が当事者でなくても、同じ種族が人類に対して牙を向いた。

 であれば、同じ種族である彼女も同じ罪であると。


 ナナシの夢はこの考えを払しょくすること。

 完全でなくても、それが人類と魔族が手を繋ぐ架け橋になればいい。

 あわよくば、実際に手を取り合うまで行くのが望ましいだろうが。


 ちなみに、レイモンドとゴエモンはこの考えは知らない。

 しかし、これまでのナナシのミュウリンに対する行動で二人はある程度推測は出来ていたようだが。


 そんな中、レイモンドはナナシに対して今まで抱えていたがあえて聞かずにいた質問をぶつけた。


「......テメェは本気で人類と魔族との融和を狙ってんのか?」


 ナナシはレイモンドの質問の意図を正確に理解していた。

 ナナシは元勇者であり、勇者は戦火の最中で魔族をたくさん殺してきた。

 人類から英雄と呼ばれようと、魔族からすれば殺戮者。


 そんな人物が魔王まで殺しておいて、魔族との和平を望んでいる。

 あまりにも虫のいい話でしかない。

 そんな質問にナナシは未だにオーガと優勢で戦ってるミュウリンを見ながら答えた。


「そりゃ当然。でなきゃこんなこと言わないし、行動もしてないよ」


「それはあまりにも夢を見すぎだとは思わないのか?」


 レイモンドの指摘に「かもな」とナナシは笑う。

 しかしすぐに、彼女の方へ向いて言葉を続けた。


「けど、道化師こそ道化(ゆめ)を言ってなんぼだろ?

 それにそんな世界が来たら、きっと面白いと思わないか?」


 直後、レイモンドはキョトンとした様子で数秒固まった。

 その後、ゆっくり口角を上げて答える。


「......なんつーか、変わったな。色々と。ミュウリンのおかげか?」


「あの子はキッカケに過ぎないよ。決めたのは俺。これは誰にも譲らない」


 その言葉を聞いたレイモンドはナナシを見る。

 瞬間、彼女の視界に映る今のナナシの姿に昔の堅物時代の面影が重なった。


「変わらねぇものもあるみてぇだな......」


 レイモンドは小さく呟き、ニヤッと笑った。


「なら、改めてこっちからテメェの夢に巻き込ませろ。

 テメェの描く面白い世界、オレにも見せろよ」


 その頼もしい言葉にナナシは嬉しそうに笑う。


「そっか。それは心強い。これからよろしくな、レイ」


「おう! どんと任せろ!」


 ナナシとレイモンド、二人の友情が感じられるやり取り。

 その会話を空気になって黙って聞いていたゴエモンは一人感動していた。


 そんなこんなしている間に、ミュウリンの戦闘は終わったようだ。

 慌ただしい物音が聞こえなくなったのでナナシ達が広場を見てみれば、得意げにピースしているミュウリンの姿があるではないか。


「ミュウリ~~ン!」


 ナナシ達はミュウリンのそばに寄ると、全員で彼女を褒めていく。

 その時の彼女は照れていたが、緩んだ口元で笑っていた。


 それから、一同は更なる階層へ向かって行く。

 道中、ナナシのツアーガイドがありつつ、進んでいくと再び開けた空間が見えてきた。

 しかし、先ほど違いその空間には何もない。


「なんかゲームクリア後に暇つぶしにボス部屋戻ってきたみたいな気分だ」


「言ってることがサッパシわからねぇ」


 レイモンドに突っ込まれながら、ナナシは周囲に魔力を飛ばす。

 彼の<魔力探知>による視界の中では何も見つけられなかった。

 しかし、全員が反対側の入り口に向かおうと歩きだし、丁度中心に差し掛かったその時――変化は起きた。


―――ゴゴゴゴ


 突然、地鳴りが鳴り響いた。

 ナナシは上から異様な魔力を感知する。


「上だ!」


 天井からはまるで土壁の中を泳いできたかのように、頭だけで二十メートルはありそうなワニの口が出てきた。


 ワニは大きく口を開けていて、そのままナナシ達を飲み込んでいきそうな勢いだ。

 瞬間、レイモンドは咄嗟にミュウリンの前に立ち盾を構え、ゴエモンは刀を抜いてワニに接近する。


斬躯散砕(ザックバラン)


 ゴエモンは両手の刀を振るった。

 そのコンマ数秒後、天井から生えたワニの頭はバラバラに崩れる。

 直後、彼はそのワニの異変に気付いた。


「全部......岩!?」


 ゴエモンの周りにはいくつものブロック状の岩が降り落ちる。

 どうやら先ほどのワニは土魔法で作られたゴーレムの一種のようだ。


 空中へ躍り出たゴエモンは落下の最中無防備。

 その瞬間を狙ったように両サイドの壁から挟み込むように十メートルほどの拳が襲ってきた。


「風牙」


 ゴエモンが拳に挟撃される直前、ナナシが同じ高さまで跳躍し、魔法を放った。

 風は狼の顔を具現化し、乱流の鋭い牙で拳の岩をかみ砕く。


―――キィィィィイイイイン!


「なんだ!?」


 突然聞こえた耳障りな音。その音に反応したレイモンドが床を見る。

 すると、空間全体の床には魔法陣が浮かび上がり、眩い光を放ち始めたのだ。

 ワニのゴーレムでもなく、土の拳でもなく、床に設置された魔法陣。

 どうやらこれがこの空間の罠の本命であるようだ。


「これは懐かしいな......」


 ナナシは真下(じめん)に見える魔法陣に懐かしさを感じるようで笑みを浮かべる。

 それは今から数年前の彼がこの世界に来るキッカケになった魔法陣――転移魔法陣。

 そして、地面から放たれる太陽の如き白い光はその場にいる全てを包み込んだ。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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