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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第33話 迷宮散歩

 迷宮に入り、しばらく何も出くわさずに順調な進行をするナナシ達。

 あまりもで魔物とのエンカウントがないのでもはや散歩状態。

 しかし、この状態には理由がある。


 それはナナシ達の総合戦闘力が高すぎるからだ。

 魔物とは“魔力を有する異形の動物”であり、要は動物の一種なのだ。

 ライオンを見つけたインパラが素早く逃げだすように、魔物とて自身より強者を見つければ近づかない。


 動物である以上、優先するべき行動は種の存続。

 自殺する動物など人間以外には存在しない。

 故に、魔物は実に正常な行動を取っているのだ。


 もちろん、自身を強者であると自覚してる花〇薫タイプの魔物は動じない。

 また、縄張りに入って子を守る母熊のように襲ってくる魔物もいる。

 先のアリの魔物なんかは良い例である。


「いや~、ここまで何もいないとせっかくの迷宮攻略が味気なくなるな~」


「せっかくちっこい嬢ちゃんが張り切ったってのにな」


「なんだかあの行動が恥ずかしくなってきたよ~」


 そう言って、首の後ろを触るミュウリン。

 その隣でナナシは暇すぎたので魔法袋からギターを取り出し、演奏しようとし始める。

 本来なら音を出すことは魔物に侵入者の位置を知らせるだけなのだが、この四人に至ってはまず近づいて来ないので弾いても支障はない。


 しかし、さすがにその常識外れの行動はレイモンドが止めた――「道化師であるからって何でもしていいわけじゃない」と叱りながら。

 そこで怒られるナナシの姿に元勇者の威厳はどこにもなかった。


「そういや、旅館でも演奏してたがその楽器はなんだ?」


 誰かが誰かを叱ることによって生まれる気まずい空気。

 それを払しょくしようとゴエモンはナナシに質問した。

 すると、ナナシはギターを見せながら答える。


「ギターって言うんだ。この世界とは別の......俺の住んでいた世界にあったものさ。

 恐らく俺と似たような異世界出身の人がこの世界にもたらした異世界文化(アナザーカルチャー)だろうね」


「それなら俺の故郷にも“和太鼓”ってのがあるぜ。

 あの力強い音が祭りの時には最高に輝くんだ。

 テンションもスゲー上がるもんでさ」


「わかる」


 どうやら思ったよりモノづくりチートがやって来てるらしい、と思ったナナシ。

 もしこの先出会うことがあるようなら異世界初のバンドなんか作れるかもしれないだろう。

 その時、ナナシの脳裏にビビッと電流が流れる。

 それは彼にとって面白いことがひらめいた時に発生するものだ。


「そういえば、レイとゴエモンは何か楽器を演奏できたりする?」


「そうだな、俺が触ったことがあるのは和太鼓とアコーディオン。

 それからなんだろう、アレ。こう......箱みたいなので跨って叩いて音鳴らすやつ」


「カホンか。なかなか渋いね。レイは?」


「オレはいづれ嫁ぐためのアピール要素としてバイオリンを習わされた。

 ただ、今弾けるかって聞かれたら分からねぇ」


 どうやらレイモンドは意外にも音楽に教養があるようだ。

 ナナシの予想では“そもそも楽器に触れたことがない”だったのに。


「なるほどなるほど。これはとても面白そうだ。ミュウリンはどう思う?」


「いいね。面白そう」


 ミュウリンのサムズアップにナナシもニッコリ。

 ボーカルがやる気になってくれなければバンドは成立しない。

 もっとも楽器の組み合わせ的にバンドになるか怪しいが。


「それじゃあ、この依頼が終わったら冒険者ギルドの方で演奏するか」


「ぶっつけ本番でか!?」


「楽器もねぇだろが!?」


 急な無茶ぶりにゴエモンとレイモンドは慌てて叫ぶ。

 しかし、ここは暴走列車ナナシ号。止まることを知らない。

 ナナシは人差し指を左右に振って言った。


「チッチッチッ、ナナシさんを甘く見てはいけない。

 勇者時代の時、助けた人達からのもらい物がたくさんある。

 たぶんその中に二人が演奏できるものがあるだろう」


「おい、レイモンド! こいつマジでやらせる気だぞ!」


「くっ......ミュウリン、アイツを止めろ!」


 レイモンドはミュウリンにナナシの暴走を止めるように指示。

 その言葉に対し、ミュウリンはコテンと首を傾げた。


「え、やらないの?」


「っ!」


 ミュウリンの行動に、レイモンドはビクッと反応した。

 そこにミュウリンに向けてナナシの援護射撃。


「ミュウリン、レイは小さくて可愛いものには目がない!

 旅館で茶番を演じた時だって俺を蹴り止めるもう半分の理由は、自然な理由で君を抱き上げることだったんだぞ!」


「ち、ちげぇ! 変なこと言うな!」


「そうなの?」


「だ、だからちげぇって」


「違うの?」


「ち......がくもないけどさ......」


 ミュウリンの言葉に逐一動揺が隠せないレイモンド。

 先ほどからずっと首の後ろを擦っている。


「フレーフレー!ミュウリン! いけいけミュウリン! 押せ押せミュウリン!」


「耐えろ! レイモンド! 耐えるんだ! 気合いっぱーつ!」


 その二人の後方からはナナシとゴエモンによる応援合戦が繰り広げられている。

 迷宮内で騒ぎまくる光景。非常識極まりない。

 そんな声に誘われて魔物達がなんだなんだと見に来ている。

 ただし、決して近づかない様子だが。


 レイモンドの顔をじーっと見つめるミュウリン。

 小さくとろんとした目から送られる熱視線。

 その視線に彼女ははサッと顔を背けた。


「し......しゃあねぇな! 負けだ。オレの負け」


 レイモンド陥落。

 敗因、ミュウリンの可愛らしさに当てられ。


「よっしゃあああああ!」


「レイモンドおおおおお!」


 ガッツポーズするナナシと、四つん這いになるゴエモン。

 両者の正反対の感情がこれほどまでにわかりやすく表れていた。


 ナナシはミュウリンを両手で掲げると、持ったままグルグルと回転し始める。

 二人で喜びを分かち合うと、次なる標的へ。

 しかし、その人物にはもはや選択肢など無いだろう。


 ナナシはミュウリンを降ろし、悲しみに暮れるゴエモンに近づく。

 目線を合わせるようにしゃがみ、肩にポンと手を置いた。


「安心してくれ。別に上手さを求めてるわけじゃない。

 自由に演奏して、俺達の曲と歌に心重ねて演奏してくれ」


「そもそもやらないって選択肢は......」


「無いよ。わかってること聞くなよ」


「クソおおおおぉぉぉぉ!」


 悲しみに暮れ崩れ落ちるゴエモンを放置し、ナナシはスキップしながらミュウリンの隣へ。

 すると、ミュウリンと一緒に歌リストについて話し始めた。

 そんな二人で先を歩く姿を見ながら、一人ゴエモンに近づくレイモンド。

 そして、彼女は気まずそうに手を差し出した。


「悪かったと思ってる。だが、無理だ。アレは」


「お前がそこまで可愛い物好きとは知らなかったぞ」


「これまではそれよりも優先すべきことがあったからな。だが、たぶん反動が来てる」


「お前、すげーこと言ってるぞ」


 レイモンドはゴエモンを引っ張り起こし、頭をかきながら言う。


「とりあえず、いち早くこの状況を理解して適応しろ。それが一番楽だ。

 それにたぶんこれは始まりに過ぎない。どうせこの先も付き合わされるぞ」


「......だな」


 そして、(強制的に)レイモンドとゴエモンのメンバー入りが決定した所で、一同は先を目指した。

 それからしばらくして、彼らはとある空間に辿り着く。


 ナナシ達の一メートルほどの段差の下に見えるのは、一軒家が収まりそうな縦にも横にも広い空間だった。

 そこには四匹のオーガと思わしき屈強な角の生えた魔物がいる。

 そのうち三匹は赤色をしてこん棒を持ち、もう一匹は黒色をしてトゲ付きこん棒を持っていた。


「アイアンオーガ......まさか亜種がいるなんてな。

 アレは赤ランクが最低四人以上のパーティで挑む魔物だ。

 加えて、今回は取り巻きがいる......それでもやるのか?」


 レイモンドはミュウリンに尋ねた。

 すると、ミュウリンは頷き、キリッとした表情でサムズアップ。


「もち」


「ミュウリン、くぁっこ可愛いいー!」


「ナナシさん、うるさい」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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