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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第32話 迷宮探索

「にしても、本当にテメェは俺をとんでもねぇことに巻き込んでくれたな」


「すまんね、俺の理想には少しばかり強引に行動する必要があるのさ」


 引き続き、依頼場所に向かう一行。

 道幅の広い森の中を歩きながら、先ほどの冒険者ギルドでの出来事の続きを話していた。


 ナナシとて、レイモンドを巻き込んだことの大きさを理解している。

 レイモンドは勇者パーティの顔の一人である。

 国家にも等しい武力と影響力を持つ武人。


 その人物が敵対していた魔族と友好的な関係を結ぼうとしている。

 一見すると美談と聞こえるかもしれない。

 かつて争っていた両種族が仲良く手を取り合うというのだから。


 しかし、それを悪く見ようとすれば、絶対的な悪と認識されている魔族に人族としての誇りを売ったと思われる可能性もあるのだ。

 これを簡単に言うのであれば――“レイモンドは人族にとっての敵となった”ということだ。


 「巻き込んだ」と簡単に言うナナシとレイモンド。

 しかし、その実情はナナシがレイモンドの生き方を強制的に決めてしまったことになる。

 芸能人がゴシップ紙に書かれたスキャンダルが、その後の人生にも多少なりとも影響を与えるように。


 レイモンドのミュウリンと一緒に歩く姿は多くの人に見られてしまった。

 単なる噂ではない実際に起きた出来事をしっかりと。

 故に、ナナシの謝罪は本来こんな軽薄で済まされるはずがない。


「今ならまだワンチャン引き返せるかもよ?」


 頭の後ろに手を組みながら歩くナナシはレイモンドに話しかけた。

 その質問に彼女は振り向くことなく答える。


「ハッ、今更になって事の大きさにビビったか。

 ざけんな、こっちがなんの覚悟も持たずにテメェについてきたとでも?

 オレはテメェを見つけてからとっくに覚悟を決めてんだ」


「よくまぁ、俺の勝手気ままな人生についてこようと思うね。

 言っちゃなんだが、随分物好きだと思うよ」


「オレははテメェの盾だ。まぁ、テメェには必要ねぇ盾だとは思うがな。

 それでもこっちだってプライドってもんがあんだよ。

 また勝手に一人で地獄の業火で出来た道を歩こうとすんな。

 もうあんな......テメェに全ての責任を押し付けるような行動はぜってぇさせねぇ」


 それはナナシが勇者時代の頃、仲間達に下した選択。

 選択の余地もない強制的な行動をレイモンド達にさせたのだ。

 その選択はナナシの独断であり、レイモンドが自身を責める筋合いはない。

 しかし、彼女は騎士であり、騎士は“大切な人”を守ることが使命。

 己の使命が果たせなかったからこそ、彼女は今執着しているのだ。


「......そっか。正直、前よりも辛いと思うよ」


「ハッ、上等!」


 それからしばらく、雑談しながら歩いていると目的地に辿り着いた。

 ナナシ達が正面に見るのは一つの洞窟。


 トイリャンセ迷宮――アールスロイスでよく利用される洞窟の一つだ。

 全三十階層とされていて、浅い階層は経歴の浅い冒険者、中層~最下層はベテラン冒険者が挑むのに適しているとされている。


 その迷宮で最下層と思われていた場所にさらに下に続く階層が見つかったとか。

 今回はその階層に何がいるか、どのようなマップになっているかの調査である。

 つまりは討伐や採取と違い、簡単に終われる依頼じゃないということだ。


「おいおい、未知の場所の探索なんて一介の冒険者に頼む内容じゃないだろ。

 確か、ナナシとミュウリンはまだ緑ランクなんだろ?」


 ゴエモンが頭をかきながら質問する。

 その質問にナナシは頷いた。


「そうだね。でもまぁ、そこはレイモンドがいるからって理由じゃない?

 冒険者ギルドもクズジヤンとズブズブって聞いてるし」


「嫌だね~」


「ま、大したことねぇだろ。このメンツなら」


 ナナシの後にミュウリンとレイモンドが言葉を続けた。

 各々感想を零すが、その中で臆している人は誰一人としていない。

 まるでこのような未知との遭遇は慣れているかのように。


「んじゃ、まずは最下層にレッツゴー!」


「「「オーーー!」」」


 ナナシの突き上げる拳に反応する形で、三人も拳を突き上げる。

 そして、洞窟の中に入っていった。


 洞窟の中は薄暗い感じだが、壁には魔光石という空気中の魔素を吸収して光る洞窟があり、比較的明るい感じであった。

 最初から魔光石によって照らされてる洞窟はあまり多くないので、見通しのよいこの狭い空間が初心者が冒険者が洞窟で戦う練習に適してる理由である。


 ナナシ達が歩いていると、遠くからカサカサと何がか向かってくる音がした。

 やがて魔光石の光によって照らされて現れたのは大きさ七十センチほどの黒いアリの群れだった。


 数は十数匹ほどで、どのアリも太い牙をガチガチと噛み合わせている。

 そんな敵であるがナナシの前では造作もない相手だ。


「待て、ここは俺に行かせてくれ」


「オレも行く」


 ナナシがサッサと済ませようとしたその時、ゴエモンとレイモンドが前に出た。

 それぞれ武器を引き抜き、戦闘態勢に入っていく。


「どうしたのさ急に?」


 ナナシの質問に答えたのはゴエモンだった。


「これからよろしくやってくってのに、互いの戦い方(こと)を何も知らないってのはなぁ。

 レイモンドからお前さんは『オールマイティだから好きにさせとけ』と言われたが、それはこっちの動きを知ってからの方が良いと思ってな」


「なるほど。レイも同じような理由か。ミュウリンに教えるために」


「あぁ。だから、見とけ」


 理由が分かったナナシはサッと二人分の椅子を土魔法で作るとその椅子に座っていく。

 さらに隣に座るミュウリンに話しかけた。


「ミュウリン、レイを見ときな。レイがさんざん言ってた“盾”の意味が分かるから」


 観察する二人の一方で、その視線を感じながらレイモンドはゴエモンに声をかけた。


「俺は盾役(タンク)だ。テメェは後ろから続け」


「了解!」


 レイモンドはサッ地面を蹴る。

 一歩で数メートルの距離を稼ぎながら、右手に持つ自身の下半身程の長さの大剣を振り下ろす。

 瞬間、一撃で一匹のアリが頭部から一刀両断。

 すると、その攻撃直後を狙って他のアリが飛び掛かってくる。


「魔障盾――マルダート」


 レイモンドは左手の甲をサッと向ける。

 直後、その左手には半透明な魔力で構成された盾が形成された。

 これはレイモンドが持つ五つの盾の内の一つである。


 飛び込んできたアリはその盾にぶつかり、弾かれる。

 その隙をレイモンドは剣を突き立て、素早く刺殺した。

 彼女に向かってアリが集団で襲い掛かる。

 その攻撃に対し、彼女は盾を薙ぎ払って蹴散らすが、吹き飛ばされたのは僅か。


「しゃがめ!」


 ゴエモンの叫び声とともにレイモンドはしゃがむ。

 そして、その背後からは両手に太刀を持ったゴエモンが斬りかかった。


「双炎刃」


 二本の刀に纏わせた炎はアリ数匹をまとめてクロスに切断した。

 その後はあっという間の掃討戦。

 時間にして一分も経過していない。


「終わりだ」


「ま、こんな感じだな」


「おぉ~凄い~」


 二人の演武とも言えるような無駄のない動きに、パチパチと拍手するミュウリン。

 彼女はサッと土の椅子から降りると、二人に近づいた。


「強いね、これなら安心して後ろを任せられるよ」


「ま、こんぐらいじゃ当然だよな。にして、後ろを任せられるってことは、お前さんその身長(なり)で前衛なのか?」


 ゴエモンの疑問は最もだ。

 百五十センチにも届いていない身長で前衛。

 体格差でのリーチが物を言うその世界ではあまりにも不利。

 そんな疑問に対して、ミュウリンは「ふっふっふっ」と笑った。

 ニヤッとした自信に満ちた顔で答える。


「見ててよ。ボク、これでも結構やれるよ?」


「決め顔可愛いー!」


「ナナシさん、うるさい。今いいところ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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