第26話 侮るな、君は可愛い
勇者パーティーの前線の要。
敵の強烈な攻撃の防御やヘイト管理を行いながら、後方との連携を図る。
絶対的な防御を誇る前線の要である盾騎士――それがレイモンドだ。
レイモンド=アトラスジョーカー。
それが彼女のフルネームである。
しかし、真名は別にある。
アトラスジョーカー家は帝国アーデルハイドでも有名な貴族で、先代が冒険者で功績でのし上がった武の一族なのだ。
レイモンドも例に漏れず、武に関することは幼少期から叩きこまれた。
三歳になった時から武器に触れ、鍛錬を行い、自身の得意な獲物の熟練度上げる。
二人の兄がそれぞれ槍や両手剣を選ぶ中、レイモンドが選んだのは盾持ち片手剣だった。
彼女が女の子であったために自身の身を守るために母親が勧めたというのもあるが、彼女自身も騎士イコール誰かを守るが盾であったイメージも大きい。
レイモンドは修行や実践を交え、どんどん強くなっていく。
そして、やがては魔王を討伐する勇者パーティーの一人としての名誉まで上り詰めた。
ただ、それの行動は冒険者としてではない。
先代こそ混じりっけなしの冒険者であり、真の冒険者と言える。
レイモンドも冒険者活動をしているが、貴族として生きる彼女の誇りはむしろ“騎士”にあった。
顔は何かと周囲から恐れられ、二人の兄の影響で口が悪い彼女だが、根は周囲を見て気遣える真面目な人物である。
再度言うが、レイモンドは騎士に誇りを持っている。
誰かを守ること、誰かの助けになること。
それが騎士の本懐にあるに違いないと。
「........っ!」
「おほぉ~~~~! いいね~、二人とも! 超超超良い感じ!
どんな角度からでも様になるね! さすが可愛いどころと奇麗どころ!
このままクルッと一回転してみようか! 大丈夫、サッとやるだけだから!」
ナナシが両手でエアカメラを作りながら、様々な角度からシャッターを切る。
そう、誰かを助けるためにはレイモンドは恥辱にも耐えねばならないのだ。
現在、ナナシ達一行はサイラス親子の旅館に戻っていた。
そこで事情を話したナナシの内容に親子は喜んだ。
そして、今は衣装のお披露目会である。
ワインレッドの髪色に合わせた艶やかな赤い着物を着たミュウリン。
見た目に強い印象がある故に、あえて水色の明るい色で可愛らしさを出したレイモンド。
今二人が袖を通しているのは旅館にあった着物である。
それをたまたま地下倉庫で見つけたカティーが着せているのだ。
少し照れ臭そうにしなたらもノリがよくポージングするミュウリンと、恥ずかしさに顔を真っ赤にするレイモンド。
そんな二人の姿を見ながら、ゴエモンは腕を組み関心そうに呟く。
「ほぉ~、まさかここで故郷の服装が見れるとはな。
やはり日ノ本の服装ってのは誰が来ても似合うもんだな」
その言葉が聞こえていたのか、堪能したナナシがゴエモンの隣が立つ。
「日ノ本ってことは、やっぱゴエモンの服装からしてもその服装を広めたのは日本人か」
「言い伝えだとそう聞いてるな。まだ鬼人族の村だった小さな時に、複数の日本人と語る人族が文化を広めたそうだ」
「その時にその日本人の中に勇者が現れて故郷を救ってくれたのか?」
「いや、その時の勇者の名は確かリチャードって聞いてる。
だから、てっきり末裔なのかと思ったが、どうやら違うみてぇだな」
「まさかの先代の勇者は外国人か。ま、そりゃ本来の異世界転生ってこんなもんか」
ラノベの異世界ファンタジーが日本人に偏るのは、当然作者が日本人だからだ。
生まれ知っている自国の種族をキャラクターとして描いた方が書きやすい。
故に、異世界転生も異世界転移も総じて日本人である。
しかし、現実を見れば、別に転生されるのは日本人に限った話ではない。
当然、どこかの外国からも同じように呼ばれていてもおかしくない。
話を聞けば、この旅館の先代も温泉大好きな黒人だったそうだ。
多種多様な種族が入り乱れる。それは異世界からの住人とて同じこと。
改めて、ナナシはこの世界がラノベと設定が近いようで、違っていると理解した。
それはそれとして、温泉に浴衣を広めてくれたその黒人さん、ありがとう、とも思った。
そんな彼が感謝を込めて手を合わせていると、羞恥心が上限に達したレイモンドが文句を垂らす。
「な、なぁもういいだろ! テメェらもこっちをジロジロ見んな!
こんな男見てぇな女を見たって良いことなんて何もねぇだろ?」
レイモンドは片腕を抱くように抑えながら、目線を下に向けた。
アトラスジョーカー家では男として育てられてきた彼女にとって可愛いは恐怖なのだ。
口調が悪い言動も、専ら鍛錬に趣味を置くことも、少年が好むような服や鎧に目を輝かせることも、全て本来の女性とはかけ離れてるような気がしているのだ。
唯一、ポニーテールにしてる髪型だってレイモンドにとっては精一杯だ。
もっとも、この髪型だけは彼女にとって絶対的なアイデンティティだが。
一方で、ナナシは腕を組みながら首を傾げる。
それは彼女の言っていることが何一つ理解できないに他ならないから。
「レイモンド、良く聞け」
ナナシはレイモンドの前に立つ。
そして、ガシッと両肩に手をのせると真顔で言った。
「いつから君は自分を可愛くないと錯覚していた?」
「え.......えぇ!?」
ナナシからの突然の言葉。
レイモンドは顔を赤くさせて動揺する。
そこから続くかつての勇者もとい道化師からの猛口撃。
「レイモンドは十分に可愛い。確かに、どちらかというと美人寄りの可愛いであることは認める。だが、可愛いことには変わりない」
「え、何言ってんだ......オレなんか」
「ふむ、それは誰かに言われてそう思っているのか分からないが、自分でそう思っているならお門違いもいい所だ。
俺は君が仲間であることを抜きにしていても、見た目の凛々しさと相反する内包的な可愛さを持っていることは十分に知っている」
「も、もういいから! わかったから! 前のテメェなら絶対に言わないのに......」
「そうだな。昔の俺なら思っても口に出さないだろう。
しかし、今の俺は道化師。思ったことがペラペラ出てしまうのが特徴的でね。
だから、断言しよう君は可愛――げぼらぁ!」
「もうやめろっつってんだろうが!」
レイモンドに思いっきり殴られて店の外まで吹っ飛ぶナナシ。
しかし、彼は流した鼻血をそのままにサッと起き上がり、スタスタとレイモンドの目の前にもう一度立つ。
「暴力系か。俺がいたご時世じゃもう好かれないだろうが、俺は好きだ。親愛の裏返しってね」
「す......!?」
レイモンドがゆでだこのように顔を真っ赤にして固まった。
目をかっぴらいたまま思考停止しているように動かない。
さすがのナナシもここまで恥ずかしがるのは想定外だったようで、いくら呼びかけても反応がない。
ふとナナシが同意を求めるようにミュウリンを見ると、彼女が自分に向けて親指を立てていた。
そして、すぐさまビビッと以心伝心。
ナナシはミュウリンを猫のように持ち上げ、レイモンドにミュウリンと顔を見合わせる。
「ミュウリン吸いどう? 落ち着くぜ」
「吸いな」
おかしなことを言うナナシと、最大限カッコよく言うミュウリン。
この二人に敵わぬものなし。
思考が正常に働いてないレイモンドはコクリと頷いた。
そして、ミュウリンをそっと抱き寄せ、ギュっとする。
まるでお人形を大事に抱える少女のようだ。
そんなレイモンドを見てまたもや良からぬことを考えてるだろうナナシは顎に手を当てた。
それから、ニヤッと笑みを浮かべると、おもむろに指をパチンと鳴らす。
「なんでしょう、プロデューサー」
サッとナナシの背後に跪くカティーが現れた。
その素早い動きにゴエモンはギョッとする。
ちなみに、プロデューサー呼びはナナシ案である。
「あと、他のデザイン何着ある?」
「私の母や祖母の含めると十着ほどかと」
「そうか。なら、さらに似合う物......見繕えるな?」
「ハッ、お任せあれ」
動き出すカティー。
瞬間、カティーに強化魔法をかけるナナシ。
カティーはミュウリンを抱くレイモンドを抱えると廊下の奥へと走っていた。
「よし、今日も良い一日になりそうだ」
「俺、お前に勝てる気がしねぇわ」
「娘が今までにないほど活き活きしてる......」
一連のナナシの行動を見ていたゴエモンとサイラス。
二人のナナシを見る目は尊敬な眼差しだったとかないとか。
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