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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第23話 法外な値段

「なんか不思議な言い方だったね~」


「そうだな。表情からしても良くない感じが伝わってきた」


 小銭袋を手のひらで跳ねさせながら歩くナナシ。

 彼がミュウリンと共に来ているのは、アールスロイス一番の大通りであるアールス大通りである。


 そこには中心に向かって流れる幅五メートルの水路の両サイドには、様々な露店が連なっている。

 また、中心の女神像の噴水がある場所は多くの人達の待ち合わせ場所だ。


 そんな大通りにやってきた目的は、カティーから頼まれた買い物。

 ただし、その少女からは一つ試して欲しいということでとある助言を貰っており、その助言通りに行動してみるために彼らは八百屋にやってきた。


「へいらっしゃい。珍しいお客だな。今日は何をお求めで?」


「そっちのモカモカの実とロックシードをくださいな」


 ミュウリンが注文したのは、半球の凹凸がいくつもついた果実と石ころがくっついたような葉野菜だ。


「それぞれ百ゴールドと百五十ゴールドだ」


 店員が値段を教えてくれた。ここまでは普通。

 その時、ナナシとミュウリンは一瞬で目配せする。

 そう、例の助言を試してみる時だ。


「よし、これでサイラスさん達も喜ぶな」


「カティーちゃんに褒められちゃうかもね~」


「......サイラス? カティー?」


 ナナシとミュウリンがわざと聞こえるような声で話した瞬間、店主はピクッと反応する。

 直後、手を伸ばし「ちょっと待った!」と声をかけてお金を払おうとする二人を止めた。


「なぁ、もしかしてあんたらはあの親子に頼まれて買い物に?」


「そうだけど?」


「そうか.......」


 ナナシの肯定に店主は途端に眉を寄せる。その顔はとても心苦しそうだ。

 そして、彼は下唇を噛み、拳を握ると言った。


「なら、金額は千ゴールドと千五百ゴールドだ」


「な、なんだって~~~!? 金額が百倍!?」


 コッテコテのリアクションを取るナナシ。

 しかし、彼は実際本気で驚いていた。

 それこそ目が飛び出しそうになるほどの衝撃だ。

 何があったら買おうとしていた金額がそんな倍になるのか。

 そんな衝撃発言に同じく驚いたミュウリンは首を傾げる。


「なんでそんな法外な値段に?」


「......別に俺個人としちゃあの親子を嫌ってるわけじゃない。

 むしろ、クズジヤンに目をつけられて同情してるぐらいだ。

 だが、俺も生活がかかってる。もし味方するような行動を取れば家族を養えねぇ」


 どうやら八百屋の店主はクズジヤンという男に脅されているらしい。

 そのせいでこんな法外な値段になっていると。

 そんな言葉にナナシとミュウリンは顔を見合わせる。

 そして、ミュウリンが再度質問した。


「それってこの店だけ?」


「いや、たぶんここら辺の店はどこも同じだろうな。

 逆らった奴が目の前でクズジヤンが雇った用心棒に店をメチャクチャにされたところを見てるから」


「それって普通は冒険者ギルドがどうにかすんじゃないのか? 街の治安も仕事の一環のはずだが」


 ナナシの質問に対し、店員は首を横に振る。


「さぁな。だが、少なくとも駆け付けたって話は聞いてない。

 恐らく、金で抱き込まれてるんだろうな」


 ナナシとミュウリンは一先ず注文した商品を購入し、次の店へ。

 その店でも同じように試すと、返ってきた反応も同じだった。

 そこからさらに数店舗と試してみたが、サイラス親子の名前を聞いた瞬間どこもそこも値段を跳ね上げる結果となった。


 どうやらどこもサイラス親子に対して法外な値段を強いてるようだ。

 カティーが言いたかったことはきっとこのことだろう。

 答えを言わなかったのは体験してもらった方が早いとでも思ったのかもしれない。


 また、色んな店主から話を聞くにこの街は領主がいながら、実質クズジヤンという男の独裁政権のようだ。

 そんな領主は抱き込まれてるのか、もしくは同じように弱みを握られてるのか。

 それは定かじゃないが全く動かいた話がでない辺りで頼るべきではないだろう。


 故に、クズジヤンには逆らえない。そして、逆らえばどうなるかわからない。

 その結果が八百屋の店主の怯えだったり、サイラス親子の現状なのだから。

 用心棒も冒険者ギルドも繋がってる故と考えて間違いなさそうだ。


「う~ん、これは酷い。どうにかせねば」


 そんな話を聞いたナナシは道化師としての使命感に火がついたように決意した。


****


 とある喫茶店の一角。

 そこにはこの街では珍しい額から角を生やした鬼人族の男と全身を鎧で覆った人間がいた。


 鬼人族の男の名はゴエモン。

 黒みがかった青色の短髪に茶色い瞳をしている。

 顎に僅かなヒゲ。服装はまるで江戸の侍ようなデザインだ。

 ちなみに、老け顔のこの男は今年で二十六歳だったりする。


「レイモンド、店の中ぐらいその頭を外したらどうだ?」


 レイモンドと呼ばれた鎧の人間。

 もともと白に近かったであろう鎧は今や汚れの落ちない灰色となっている。

 加えて、その鎧は何度も修理されたように所々傷跡が残っていた。

 ちなみに、兜から伸びるブロンドの尻尾は地毛だったりする。


「.......」


 レイモンドは何も答えない。

 ただ頬杖を突き、じっとしているばかり。

 そんな態度は今に始まったことではない。

 故に、ゴエモンは弄り方も心得ている。


「そんなに会うのが気まずいんだったら会わなきゃいいのに」


 レイモンドの頬が手からズルっと滑る。

 そして、その人物はすかさず言い返した。


「ふざけんな! オレがビビってるとでも言いてぇのか!?」


「いや、実際そうだろ。ここに来るまでの道中ずっと外してたのに。

 この街に入った瞬間被ったじゃん。どう考えても意識してんだろ。

 ま、長年探し続けてやっと手がかりとなった情報を手に入れたんだ。もう少し喜べよ」


 ペラペラと言葉を述べるゴエモン。

 それに対し、レイモンドの威圧が強まっていく。

 すると、テーブルの水の入ったコップや近くのガラス窓がガタガタと震えだした。


「調子に乗るなよ、ゴエモン。オレがアイツに会う理由はただ一つ。

 アイツの裏切りに対して問い詰めるためだ。

 アイツはオレ達の信頼を裏切った。オレは絶対許さねぇ」


 怒気のこもった声。どうやらその相手は相当恨みを買っているらしい。

 そんなオーラに周囲の客がレイモンドの放つ圧にビビっている中、目の前に座るゴエモンだけは飄々として返答した。


「いや~、それで今の今まで探してきてるんでしょ? 愛じゃん。超ラブじゃん――」


「あぁ?」


 レイモンドは素早く机に立てかけていた剣を抜刀。

 成人男性の丈はありそうな大剣だ。

 それを悠々と片手で持ち、ゴエモンの首筋で寸止めした。


「すんません、調子乗りました」


 ゴエモンはすぐさま謝罪する。誠心誠意の幸福宣言である。

 これ以上調子に乗って怒らせたら本気で首が飛びかねない、と彼はすぐに理解したのだ。

 そんな両手を頭の横に上げて白旗ポーズをする男にレイモンドは「次はねぇぞ」と剣をしまった。

 ちなみに、このセリフも出会ってから十二回目ぐらいだったりする。


「いいか、オレはアイツをぶん殴らなきゃ気が済まねぇ!

 あの時、オレを置いていったことを後悔させてやるんだ!

 そして、アイツの口から言わせんだよ!

 『ついてきてください。お願いします』ってな!」


「いや、お前それってもう.......ハァ」


 ゴエモンは口には出さなかったが、絶対空振りに終わるだろうな、とは思った。

 なんせこんな言葉からも負けん気が伝わってくるような相手を裏切った人物だ。


 その相手は相当のキレ者か、もしくはレイモンドが心底絆された人物しかないだろう。

 そして、このゴテゴテの鎧を着た相棒を裏切った相手などロクな人物ではなかろう。


「ほら、行くぞ。これ以上いても店に迷惑かけるだけだからな」


「へいへい」


 会計を済ませ、店を出た二人は大通りの中を歩いていく。

 中々見ることのない鬼人族とその男よりも鎧の人間の組み合わせは、当然周囲の目を引いた。しかし、二人は全く気にすることない。

 なぜなら、今はレイモンドが探している人物の話をする方が大事だからだ。


「で、その男はどんな姿をしてるんだ?」


「そうだな。アイツはこの世界では数少ない黒髪で男ながらに長い髪を三つ編みにしてる。

 身長はテメェより少し小さいぐらいだろうな。それでも百七十八センチはあるか。

 あとは仲間だったオレにしかわからない魔力......そう今すれ違った女みたいな」


 瞬間、レイモンドは立ち止まる。

 そして、丁度すれ違った少女に対し、背を向けたまま声をかけた。


「ちょっと待て、そこの女。三つ編みのテメェだ」


 レイモンドの声に白髪の髪に途中から黒髪の三つ編みを伸ばした少女が振り返る。

 その少女は目元を黒い布で覆っていた。

 隣にはワインレッドの髪に角を生やした少女の姿もある。

 瞬間、鎧の人物は振り返り、大声で叫んだ。


「それで騙せると思ったか――アイトォ!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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