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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第22話 お客様をフィッシング

 急遽ナナシとミュウリンを雇う事になったサイラスとカティー。

 そんな親子は早速仕事に入ってもらいたいと考えたが二人は素人だ。

 ということで、この旅館にとって一番大事なことをまずは覚えてもらうことに。


「お二人には掃除を覚えてもらいます。

 この旅館は広く、部屋数も多いですから、大変時間がかかります。

 ですが、それも全ては泊ってくれるお客様を大事にする思いから!

 埃一つ残してはいけません! いいですね?」


「「あいやいさー!」」


 人が変わったように仕事人モードに入ったカティーと、敬礼して誠意を見せる新米二人。

 そして、鬼上司はすぐさま二人に指示を出す。


「それではまず廊下の水拭きから! この廊下を水拭きしてください!」


 カティーが指示したのは二十メートルはありそうな長い廊下だった。

 すると、彼女はすぐに雑巾がけの体勢を取る。


「えーっと、俺、魔法使えるからそれでやればもっと楽出来――」


「魔法で誠意が伝わりますか! 真心は手から! いいですね!」


「「は、はい!」」


 カティーの気迫に押されるナナシとミュウリン。

 鬼上司が廊下を走り出すと瞬く間に数メートル移動していく。

 その後ろに続いていく新米二人。

 あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。


 そして、なんとか廊下という廊下を雑巾がけで走破した。

 それだけで新米二人はクタクタだった。

 魔法を使ってないのもあるがなにより足がつらい。

 太ももが着火したように熱を持ち、足が重たくなっていく。


「さ、次は部屋の掃除です!」


 そして、カティーのスパルタ具合。

 息切れ一つしていない鬼上司の指示に従うまま、数えるのも面倒な数の部屋を隅から隅まで奇麗にしていく。


 魔法を使えば絶対楽なのにな、とナナシは何度思ったことか。

 口に出さなかったのは気配を察した仕事の鬼が睨んでくるからであるが。

 ちなみに、これは朝五時の出来事である。


「い、一日が長い......」


()かれた~。もうクタクタだよ~」


 背中合わせになりながら座り込む二人。

 旅をしている二人だが、普段あまり体力を消費する場面がないので今までにない疲労感を味わってる。


 特にミュウリンに至っては、村にいた頃の休日は日がな一日中家の中でゴロゴロしてるほどだ。

 実はミュウリンは家でまったり派のインドア魔族である。


「お二人ともお疲れ様です。従業員として入ったからには、これは毎朝するのであしからず。

 本来なら、ここからは朝食の仕込みとか、お帰りになられるお客様が利用した部屋の片づけとかあるのですが......まぁ、見ての通りドラバードの声が良く響くような惨状なんで」


 ドラバードが良く響く――閑古鳥が鳴くの意。

 そんなカティーが視線を向ける廊下はあまりにも人気を感じない。

 それもそのはず、今この旅館に泊まっている宿泊客はゼロ。赤字もいいところだ。


 看板娘は寂しそうに目を細める。

 そこにはかつて一日が短くなるほどの忙しさと賑やかさがあったのだろう。

 それも今となっては遠い過去のようなものだ。


 ナナシとミュウリンはそんな彼女の様子を察して、同時に顔を見合わせた。

 どうやら互いに考えてることは同じらしい。


「はいはい、鬼上司。ここは集客を俺達に任せてくれないか?」


「誰が鬼上司ですか!.......って本当ですか!?」


「もちろん、絶対ではないと思うけどね。でも、やってみて変わることもあると思うから」


 カティーは迷いの表情を見せた。

 しかし、やがて自分の中で踏ん切りがついたのか拳を握って答える。


「.......わかりました。それではよろしくお願いします!」


*****


「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 楽しんでらっしゃい!

 ここはこのアールスロイスの中でも老舗中の老舗!

 心も体も癒される温泉があなたの挑戦を待っている!」


「どーんと大船に乗って癒されに来るといいよ~。期待は裏切らせないよ~」


 ナナシとミュウリンは大声で通りを歩く人に呼び掛ける。

 両手にそれぞれ宣伝用看板を持ちながらの練り歩き。

 しかし、噂の方が強いのか中々人は集まらない。


 ちらほらと客が来たかと思えば、まるで滑り止めの滑り止め高校に受かった中学生のように絶望した顔でそれはそれは仕方なそうに入っていく。

 それから、二人は一生懸命呼びかけたが、結局勤務一日目の総客数は八人だった。


―――勤務二日目。


 朝からハードなノルマをこなしたナナシは新たな作戦を考えた。

 その名も「二人はハピキュア作戦」。

 ナナシが変身魔法を使って容姿を少女のものに変えていく......黒衣のを纏って。

 ついでに、ミュウリンの服装も白っぽくした。


 二人の少女が元気よく宣伝する。

 なぜ宣伝活動でよく女性が起用されるのか。

 それほど魅力的で興味を引くからに他ならない。


 “釣り”は立派な集客行為だ。

 宣伝しても興味を持ってもらわなければ客は釣れない。

 客を釣るのに一番楽な方法は何か。

 簡単な話だ――色仕掛け(KAWAII)である。


 ナナシとミュウリンはそれはもうキャピキャピした。

 そこに恥も何もない。堂々たる姿勢でもって。

 道化師が恥じた時点でそいつはもう道化師ではない。

 それほどの覚悟が道化師にはあった。


 二人はキャピキャピと宣伝を続ける。

 そんな二人に目が留まる男性客はさながら光に集まる蛾のよう。

 フィッシングサイトがなぜあるか。

 出会い系詐欺がなぜあるか。

 極論、“釣れればこっちのもんじゃい”精神だからだ。


 もちろん、犯罪行為は良くない。

 だが、少女二人が旅館の集客のために働いていることに対して悪いことは何もない。

 大儀は我にあり! さぁ、釣って釣って釣りまくる!

 結果、二日目の集客数は昨日の三倍だった。


―――勤務三日目。


 二人は同じ手は使わない。次なる作戦を考えた。

 やることは簡単。こちらの得意分野で宣伝するのだ。

 それ即ち、ストリートライブで日銭稼ぎをしていた経験を活かすこと。


 ナナシが自前の魔法袋から引き出したギターを弾き、曲に合わせてミュウリンが歌う。

 小さな相棒の美声が通りに響き、耳障りのよい音で誘っていく。

 さながら花粉を運ばせるためにミツバチを引き寄せる花の如く。

 ストリートライブに集まってきた人々に場が温まってきたところでナナシは告げる。


「さぁ、お集まりのお客様! 我々の歌を楽しんでいただきありがとうございます!

 実は、俺達この老舗旅館にて一部をお借りして夜にライブを開こうと考えています」


「ボク達、この旅館が気に入ってね~。

 このお店が寂れていくのは勿体ないと思ったんだ。

 だから、歌で盛り上げていこうと思うんだ。

 もちろん、よく聞く悪い噂も知ってるよ。

 だけど、それはただの噂なんだって思うほどにはいいお店だったんだ」


「我が相棒の素晴らしい言葉をご清聴していただき誠にありがとう。

 今宵、歌姫がこのお店で再び降臨する。泊ってくれなんていいやしない。

 ただ、一緒に楽しもうじゃないか!」


 昨日と方針を変えたことは無理に旅館に泊まるよう促さないこと。

 そもそもの話、旅館にはサイラス親子とナナシとミュウリンだけだ。

 泊ってくれることが一番だが、従業員は四名。

 これ以上客が不得手も対応が難しくなり、サービスの低下に繋がる。


 ナナシとミュウリンが魔法を使って高速移動しても、狭い旅館の中では移動速度にも限界がある。

 後二人でも動ける従業員がいれば別だが。


 よって、ナナシ達は泊ってくれなくとも、食事処として利用してもらうよう方針を変えたのだ。

 結果、ナナシ達の活躍もあり、その日の夜はいつになく旅館が賑やかだった。


―――そして迎えた勤務四日目。


 その日はちょっとしたトラブルが起きていた。


「不味い、食料が尽きた!」


 深刻な表情をするサイラス。

 しかし、ナナシとミュウリンからは何がそんなに問題なのかわからない。

 普通に買いに行けばいいのでは? と思うのは至極当然だ。

 そんな二人の気持ちを察したカティーは神妙な面持ちで言った。


「お二人は知らないですよね。丁度いい機会です。

 買い物に行ってきてくれませんか? 買える範囲でいいんで」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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