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第190話 選ばれた二人

―――天上界


「――つまり、ミュウリン達を”時渡り”で二年前に返した影響で、リュリシール様は疑似顕現する魔力を失ったということですか?」


「はい。ですので、ミュウリンさん達の誰かにアイト様について行くようにお願いしたのですが......それでミュウリン様がついていく形でよろしいのですか?」


 現在、レイモンド、ゴエモン、ハル、ヒナリータ、シルヴァニア、ミュウリン、ナナシの七人は教会の女神像の前に祈りを捧げ、天上界へと意識を繋げていた。


 そして、ナナシがミュウリンが言った言葉に対し、リュリシールに聞いてみれば返ってきたのが今の返答である。

 その質問に対し、最初に応えたのはレイモンドだ。


「正直、ついて行きたいのは山々ですけど、これはナナシの独断の時の魔王城決戦とは違いますからね。

 本来人間がいけない場所にリュリシール様の力を借りて行く......それがナナシの他に一人しかつれていけないってんなら、適任はミュウリンしかいない」


 その言葉に続くように、シルヴァニアも言葉を発した。


「これは元々ミュウリンさんのお父様が始めた物語。

 だとすれば、志半ばで倒れてしまったお父様の為にも、親の仇を討つためにもミュウリンさんが行くべきだと思います。レイちゃんの考えに異論はありません」


「他の皆さんも同じような考えですか?」


 リュリシールがそう言って発言していない人物にも目線を飛ばせば、その人物達も揃って異を唱えることなく頷いた。

 全員が納得していることを確かめると、リュリシールは改めて口を開く。


「では、私の代わりにミュウリンさんにこの世界の命運を任せたいと思います。

 どうかお二人ともよろしくお願いします」


「元からそのつもりだから」


「任せて!」


 リュリシールの言葉に、ナナシとミュウリンは力強く返事した。

 そんな二人にリュリシールは頬を緩めると、「では、忘れないうちに」と言いながら、ナナシに魔力を飛ばした。


「今のは?」


「アイト様の視力を復活させました。ついでに腕も。

 これで視力に魔力を補うことなく、思う存分魔力が震えるはずです。

 まぁ、ここは精神的な繋がりでしかないですから、肉体へ戻った時に確認ください

 それでは皆さんの準備が揃った時にお声かけ下さい。

 すでに転送の準備は行っておりますので」


―――教会


 ナナシは意識が戻ってくると、すぐに目に違和感を感じた。

 そして、目元の黒い布を外してみると、何年ぶりかの色鮮やかな世界が広がった。

 教会の内装、女神像のくすみ、ステンドガラスの色とそこから差し込む光。

 明暗、明度、そして彩度のどれもがナナシの目に戻ってきていた。


「ナナシさん、左腕が......」


 ミュウリンに指摘され、ナナシは左腕を見てみる。

 すると、そこには本来の左腕があり、同時に床には義手が落ちていた。

 どうやらリュリシールが直したというのは本当らしい。


 ナナシは左手を握ったり開いたりして感触を確かめる。

 問題なく自由自在に動かせるし、動かすこと自体に違和感を感じない。

 つまり、この腕はナナシの一部そのものということだ。

 となれば、ここまで来てやることは一つ。


「最終戦に向けて準備するぞ」


 そして、ナナシは急いで装備の準備をし始めた。

 もちろん、格好はありし日の勇者の姿である。

 白金色の甲冑に身を包み、腰には聖剣が収まった鞘。

 違う点があるとすれば、ナナシの髪が三つ編みを除いて白いことだろうか。


「お~、これがナナシの勇者時代の姿か。さすがに様になってるな」


「だろ? 伊達に勇者やってなかったんだぜ」


 ゴエモンの感心するような声に、ナナシは左手で右腕を押さえながら力こぶを作った。

 また、そのような感想を漏らすのはゴエモンだけではなく――


「これが勇者の姿なのね。いつか見た勇者像よりも全然様になってると思う」


「ナナ兄カッコいい......!」


 ハルとヒナリータも瞳を輝かせ、勇者に見惚れていた。

 そんな二人に、ナナシは「今だけの特別公開だからな。目に焼き付けとけ」と、いつかの道化師テンションでもって返答していく。

 そして、そのまま視線をミュウリンの方へ移動させた。


「ミュウリンは準備できた?」


「うん、いつでも大丈夫だよ。ま、逆に言えば、ボクは元々準備するものもないんだけどね。

 あ、でも、シルさんから加護が付与された服は貰ったかな」


「そっか。でもそれじゃ、俺が知ってる邪神なら少し心もとないな」


 そう言うと、ナナシはヒナリータに近づいて、目の前で跪く。

 すると、その状態のままヒナリータに話しかけた。


「ヒナちゃん、実はお願いがあるんだ。そのペンダントをミュウリンに貸してあげて欲しい。

 邪神は基本的に魔法攻撃に呪いが付与されていて、俺は避けるか多少の呪いなら自力で回復できるけど、邪神相手じゃミュウリンのリカバリーはできない。

 だから、そのペンダントがあれば、邪神の攻撃を防げるんだ」


「いいよ」


「もちろん、一度ヒナちゃんにあげた以上無茶なことを......っていいの?」


 ヒナリータは首に下げていたペンダントを外すと、それをナナシの前に掲げた。

 そして、ナナシが手のひらを差し出すと、そこに垂らすように置いた。


「......え、本当にいいの?」


「いいに決まってる。世界の危機が迫ってる時に、ヒナのワガママなんて言ってられない。

 それにミュウ姉はヒナにとっても大切な人。

 だから、このペンダントでミュウ姉が守られるなら、それに越したことはない」


「そっか、ありがとうヒナちゃん」


 ナナシは立ち上がり、今度はミュウリンに視線を合わせると、ミュウリンに後ろ向いてと指示をして、ミュウリンの首にペンダントを取り付けてあげた。

 すると、ミュウリンはそのペンダントを見ながら、ヒナリータにお礼を述べる。


「ボクからもありがとう、ヒナちゃん。

 これなら、ヒナちゃんが一緒に戦ってるも同然だね」


 瞬間、その言葉を聞いたレイモンド、シルヴァニア、ゴエモン、ハルもこぞって自分の手元にあるものを探し出し、ナナシとヒナリータに渡した。


「ミュウリン、これ」


「レイちゃん、これって髪留めだよね? いいの」


 レイモンドが渡したのは自身の髪を縛っていた髪留めのゴムであった。

 そんなミュウリンの問いに、レイモンドはうなずく。


「あぁ、これでいい。これがいい。持ってってくれ」


「わかったありがとう」


「では、私からはこのブレスレットを」


「シルさんもありがとう~」


 ミュウリンはレイモンドから貰ったゴムで髪をしばってポニーテールにし、シルヴァニアから貰ったブレスレットを左手に装着した。


「んじゃ、俺はナナシの方にすっかな。ほれ、この短刀を預ける。

 年期は入ってるが手入れは欠かしたことはねぇ。いざって時に使え」


「私はこの弾丸を。銃は親父の形見だから渡せないけど、代わりにこの弾丸をお守り代わりに」


 一方で、ゴエモンとハルはそれぞれ短刀と一発の弾丸をナナシに渡した。

 それらを受け取ったナナシは「ありがとう」と言って亜空間にある自身の宝物庫へとしまう。


「......よし、これで良さそうかな」


 これにて全ての準備は完了した。

 やや急ではあるが、邪神を回復させないためには、早ければ早い方がいい。

 故に、挑むなら覚悟の決めた今しかない。


「リュリシール様、準備できました」


 ナナシが女神像に向かってそう言うと、ナナシとミュウリンの二人の足元に魔法陣が浮かぶ。

 それは時計の時刻のように一本の針が動くと同時に、灰色の魔法陣に虹のような色が浮かび上がった。

 つまり、この針が一周した時、それ即ち決戦の時。


 そんな二人との一時的な別れが迫っているのを感覚的に悟ったのか、レイモンド達五人は最後に声をかけていった。


「ミュウリン......このバカを頼んだぞ」


「ミュウリンさん、このアホをどうかよろしくお願いします」


「ミュウリン、ナナシが無茶しないように見張っとくこと」


「ミュウ姉、ナナ兄を必ずつれて帰ってきてね」


「.......まぁそのなんだ、ナナシ、ミュウリンに迷惑かけんじゃねぇぞ」


「誰一人俺の応援してくれない!」


「ふふっ、ありがとう皆。ボク頑張ってくるよ~」


 直後、魔法陣の針はあっという間に一周した。

 つまり、魔法陣による転送の準備が整ったという事。

 魔法陣から光が溢れ、ナナシとミュウリンの二人の姿を覆っていく。

 そして最後の最後で、レイモンド達は声を揃って言った。


「「「ナナシ(アイトさん、ナナ兄)! 頑張れ!」」」」」


「おう! 任せろ!」


 そして、二人の姿は消えた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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