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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第2章 異世界温泉復興物語

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第19話 道化師の川遊び

「ここは次の街アールスロイスによく使われるオルデンテ街道だ。

 ここは他の街道と違って近くに川があるから、中々に景色がいいところだよ」


 オルデンテ街道――そこは前まで拠点にしていた街レットロントとアールスロイスを繋ぐ一番大きな街道だ。

 そんな街道の近くを流れるオートル川は透けて見える程透明度が高い。

 また、流速が穏やかなので、よく近くのトースター村から子供達が遊びにやってくる。


 そして現在、ナナシはミュウリンを案内しながら自然堤防の上を歩いている。

 太陽光に反射して輝くキラキラとした川がなんとも綺麗だ。


「気持ちが良い天気だね~。あ、あっちで子供達が川に飛び込んでるよ」


 ミュウリンが指さす方に顔を向けるナナシ。

 すると、川にかかった石造りの橋から複数の子供達が跳び込んでる。

 高さは三メートル程ありそうな高さからだ。意外にも度胸がある


「凄い勇気だね~。ボクが同じ年齢の時にはきっとそんな勇気は無かっただろうね」


「そうかい? やってみたら意外とノリで行ってたかもよ」


 ナナシ達は橋に近づくと、橋の縁から足を投げ出して座っている男に話しかけた。恐らく子供達の保護者であろう。


「こんにちは、元気な子供達ですね」


「お? これはまた珍しい格好の旅人だ。

 そうさな、こう暑い日が近づいて来ると毎年子供達が川に行きたがってな。

 今回は俺が子供達の保護者役って感じなんだ」


「お疲れ様~」


「おーい、トルク! 早く来いよ!」


 子供の一人の声がする方向に二人は顔を向ける。

 すると、川の縁で足を震わせている前髪が長い少年がいた。

 雰囲気的にもとから内気な子供のように思える。


 そして、声をかけた子供は橋の下から声をかけていた。

 子供達の数は四人で中には女の子の姿もある。

 子供の頃の川遊び......そんな経験は無かったな、とナナシはふと羨ましく思った。


「大丈夫、案外イケるって!」

「水の中気持ちいいよー!」

「勢いだ! 勢い!」

「......」


 川から子供達がトルクに声援をかける。

 すると、じっと見ていた茶髪の少年が、川から上がってトルクの横に立った。


「兄ちゃん、やっぱ出来ないよぉ......」


「安心しろ。兄ちゃんも一緒に跳んでやるから」


 トルクの兄は笑みを浮かべると、腕はそっとトルクの肩を組む。

 瞬間、弟は目を大きく開いていき、その言葉が恐怖を乗り越えたように頷いた。


「わ、わかった!」


「よし、行くぞ! せーの!」


 若干兄に引っ張られながらも、トルクは橋を蹴った。

 瞬間、二人は同時に川の中に飛び込んでいく。

 ボチャンと小さな水柱が立ち、波紋が大きく広がる。


「気持ちいい.....兄ちゃん、僕跳べたよ!」


 水面から顔を出したトルクが兄に興奮した様子で言った。

 その様子に兄は顔をくしゃっとする笑みで答える。


「だろ?」


 そんな光景を眺めていたナナシ達。

 ミュウリンは実にいいものを見たという笑みを浮かべている。


「良きかな良きかな。平和って感じでいいね~」


「だな。これも全て勇者様が魔王を倒してくれたおかげさ。

 だから、俺達はこうしてのんびりと暮らせる。

 ま、魔物による農作物の被害だけは一生もんの付き合いだろうけどな」


「.......そっか」


 保護者の男から告げられる何気ない毒。

 そんな言葉にミュウリンはゆっくり目線を落とし、静かに返事する。

 直後、ナナシがそっとミュウリンの頭に手を置いた。


「大丈夫。必ず良くなるよ」


「ナナシさん......そうだね」


 ミュウリンはナナシを見て、すぐにニコッと笑みを浮かべた。

 それが確認できたナナシは橋の下にいる子供達に声をかける。


「おーい、そこの君達ー! 俺も飛び込んでいいかなー?」


「ナナシさん?」


 ミュウリンの懐疑的な視線をよそにナナシは子供達の返答を待つ。

 その言葉に子供達は顔を突き合わせて何かを話し合うと、トルクの兄が言った。


「いいぞー!」


「よっしゃ」


 ガッツポーズするナナシに、保護者の男が話しかけた。


「なんだ? 見てて入りたくなったか?」


「そんな感じさ。道化師は楽しい事大好きだからね」


「そうか。だが、子供達は後先考えずに服で飛び込むが、あんたは旅人だからそうにもいかないだろ? 荷物も持ってない様に見えるし」


「あぁ、さすがに脱ぐよ。ま、見ててみ」


「男の着替えを見る趣味はねぇな」


 保護者の男は苦笑いを浮かべていたが、すぐに眉を寄せて見ることになった。

 なぜなら、ナナシが全く脱ぎ始める素振りを見せなからだ。


 ナナシは大きく胸を張り、深呼吸を繰り返す。

 そして、一際大きく息を吸い込むと、そのまま背筋を丸めるように全身に力を入れ始めたのだ。


 そこに依然として一切服に手をかける素振りを見せない。

 保護者の男は困惑し、ミュウリンも首を傾げていた。


「ふんっ!」


 瞬間、ナナシの両腕にビリッっと縦に袖が避ける。

 その裂け目からサッと真上に飛び出し、服のすぐ横に立った。

 その光景に保護者の男は驚いた。そして、口から零れるは見たままの感想。


「ふ、服が立ってる......!?」


「ふっ、驚いたか。俺はかつてアンチェインとか呼ばれたかった男だ」


「全然何言ってるかわからねぇ......! そんでもって呼ばれてねぇのかよ!?」


 服の横に立つナナシの裸体。

 均整の取れた肉体にはいくつかの傷跡が残っていた。

 そんでもってパンイチである。

 突然、目の前で起こった訳の分からない光景に保護者の男はあんぐり。


 対して、ミュウリンはナナシの行動に「ほぉ~」とパチパチ拍手を送る。

 彼女からすれば、またなんか頭に思った面白いことを実現してみたかったんだなぁ程度の賞賛だ。

 ちなみに、彼女の考えは大正解である。

 ナナシは川に飛び込むよりもそれを口実にこれを見せたかっただけだ。


「んじゃ、ナナシさん、とっておきを見せてやろうかな......とう!」


 ナナシは橋を蹴って大きく空中に飛び出す。

 卓越した身体能力による跳躍は、あっという間に橋から五メートルの位置に達した。

 そして、はすかざす体を折りたたむ。頭を下にして上下反転。さらに膝を抱え込んだ。


 その名も――ポテト。

 もはやその飛び込みなどナナシしか知らないだろう。

 なぜなら、その飛び込み方はナナシがいた世界にあったやり方なのだから。


 しかし、そんなことは関係ない。

 誰が知らなかろうともただ気持ちが赴くままに楽しいことをしただけだ。

 その結果、ある種の人間には懐かしさがこみあげて来るその技が出てしまっただけだ。


 跳躍による五メートルからの飛び込み。

 総重量七十二キロの塊が水面に落ちていった。

 瞬間、大きな水柱が出来上がる。


―――バシャーン!


「「「「「うおおおおおぉぉぉぉ!」」」」」


 近くにいた子供達は興奮したように声を上げた。

 少し待っていれば、ナナシが浮上してくる。


「ぷはーっ! どうだい俺の飛び込みは?」


「凄かった!」

「めっちゃ高かった!」

「はいはい、それやり方教えて!」

「わたしも知りたい!」

「僕も!」


 我先にと反応する子供達。

 ナナシはそっと首を横に振った。


「ざんねーん、これは俺の世界に伝わる秘伝の飛び込み。門外不出なのだ。

 ってことで、別の方法なら教えてあげるけどどうする?」


 子供達は顔を見合わせるとすぐに答えた。


「「「「「やる!」」」」」


―――数分後


「これが俺達の永久不滅の飛び込み! 俺に続け――時かけ!」


「「「「「時かけ!」」」」」


 まるで走り出したまま飛び込んだように片膝を突き出したままの飛び込み。

 さながら某時を渡る少女の有名なシーンだ。

 そんな風に子供達に混ざって遊ぶ大人を見ながら、保護者の男はミュウリンに声をかけた。


「なんつーか、大変なんだな。嬢ちゃんも」


「ん? 何が~?」


「だってよ、大人ってんなら子供の前では多少なりともカッコつけるものなのによ。

 あの(あん)ちゃんはむしろ率先して遊んでるぜ?

 ってことは、嬢ちゃんが普段面倒見てんのかなって」


「ううん、違うよ」


 ミュウリンはゆっくり首を横に振る。

 なぜなら、彼女にはわかるのだ、ナナシの言動が。

 だって、相棒は笑顔が大好きな道化師だから。


「あんな感じで良いんだよ、ナナシさんは。

 いつだって率先して前に出てしまう......そんな気質は変わらないけどね」


 ミュウリンは橋の下から、子供達とワイワイするナナシを見つめた。

 一人だけパンイチだからどうにも視線が向きそうになるが。

 すると、そんな小さな相棒の言葉を聞いた保護者の男は何かを感じ取ったのかそっと呟く。


「そっか。それが二人の距離ってわけか」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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