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第186話 全てを賭けた選択#2

「二年前......? それはどういう意味だ?」


 リュリシールの提案した言葉に、誰しもが反応できず固まる。

 その中で、戸惑いながらもいち早く反応を返したのはレイモンドだった。

 リュリシールはレイモンドの方を見ると、ありのままの意思を伝えた。


「私はアイト様が命を賭して作ってくれたこの世界にとても感謝しております。

 ですから、本来ならば神として一人の命と引き換えに世界を選ぶことにします。

 それがアイト様の願いでもありましたから。

 その意思を引き継ぐのが彼をこの世界に召喚し、邪神と戦わせた私の責任だと思っています」


「だけど、その言い方だと違うの?」


「はい、そうですヒナリータ様。

 私はこの結果を喜ばしく思いながらも、同時に非常に心苦しくも思います。

 それこそ、アイト様にもこの世界で生きて欲しい。

 もう勇者の使命も何も忘れて、自分の幸せを追求して欲しい......そう思うのです」


 世界の創造神たるリュリシールがたった一人の人間に固執している。

 それはある種異常な行動であると言えた。

 なぜなら、それは一人を救うために、神自らが世界を否定していることと同じだからだ。


 人間であれば、ある種当然の反応かもしれない。

 人間が両手で救る命は、その人の能力次第で数はあるがそれでも限りがある。

 多くてもせいぜい数えられる程度だろう。


 勇者であれば世界規模であるが、普通の人はそうではない。

 だからこそ、大抵の人は知らない赤の他人を切り捨てても、自分の身内を救うことを選択する。


 しかし、それが世界を作った神であるならば?

 世界は神の所有物であり、それこそ生かすも殺すも自由自在。

 人を救える数は当然勇者以上であり、だからこそ神はあえて干渉しない。


 世界は人々が住むための箱庭であり、そこに神が介入しすぎれば世界のバランスが崩れるから。

 故に、神は勇者という世界の救世主を召喚し、世界を救う使命を与える。

 それが創造神としての仕事である。


「それが先程の言葉と関係があるの?」


「はい、率直に言いましょう。

 私はあなた達にこの二年の月日を無かったことにして欲しいのです。

 全てはアイト様を救うために。幸せになって欲しいと思うからこそ」


 にもかかわらず、今のリュリシールはその仕事を放棄しようとしている。

 世界が刻んだ二年間を捨て、全ては一人の男を救うために。


 故に、そのリュリシールの行動は、神を崇拝する代表者のシルヴァニアにとって、あまりにも衝撃的な光景だった。

 

 シルヴァニアは目を疑った。

 神という存在が、人を超越した存在が、あまりにも人間くさいことを言っている。

 理性よりも感情的に、人が復活することを心から望んでいる。

 その姿はまるで一人の男に恋した乙女のようで。


「ふふ、神様も案外こちら側なんですね。なんだか親近感が湧きました」


 シルヴァニアはリュリシールの意外な一面を見て、嬉しそうに笑った。

 そして、同じく一人の男を救いたいと願う者として聞いた。


「リュリシール様のお言葉、しかとこの身で受け止めました。

 つまり、私達のこれまでの時を戻す......ということでよろしいですか?」


「はい、それが現状アイト様を救うための唯一の方法です。

 創造神の権能で使う”時渡り”......戻せても直近数日の時空魔法の上位互換であり、今の私なら二年の月日を戻すことが可能です。

 ですが、その行為は同時にデメリットもあります」


「と言いますと?」


「”時渡り”というのは、あらゆる事象において例外なく時間を戻すのです。

 つまり、アイト様は復活しますが、アイト様が作り出したこの世界は無くなり、また邪神も復活することになります。

 また、この力は”世界渡り”同様に非常に多くの魔力を使い、使えば最後私はアイト様のアシストが出来なくなります。

 加えて、この方法は出来て今回の一度限り。一発勝負です」


 その言葉に、全員が目を大きく開いた。

 彼らには邪神という存在がどういう存在なのかはわからない。


 しかし、見ただけで人を動けなくさせるオーラを放つ創造神と相反する存在であり、リュリシールの協力がありながらもナナシが相打ちでしか仕留められなかった相手となれば、どれだけ強大な存在であるか理解できる。


 つまり時を戻したならば、そんな相手にリュリシールのアシスト無しに、ナナシは戦う事になる。

 それもチャンスは一度切り。ナナシが負ければ最後、世界は終わりを迎える。


「もちろん、私はそれだけで皆様に、ひいてはアイト様に任せるつもりはありません。

 ”時渡り”で使った残りの魔力を使い、一人に私の加護を与えます。

 そうすれば、私の代わりにアイト様と一緒に邪神と戦うことができるでしょう」


 その言葉に、ヒナリータ達は各々仲間達に視線を向けた。

 その言葉が表すのは、この中でナナシについていけるのはたった一人。

 全員の困惑した表情を捉えたリュリシールはそっと言葉を加えた。


「すぐに決めろとは言いません。

 アイト様について行くことを決意された方は、出発前に私の像に祈りを捧げ、私の意思へと意識を繋がて下さい」


「わかりました。その際は、一度私がリュリシール様に連絡をします」


 シルヴァニアは自分の使命を確認すると返事をした。

 一方で、その返事を聞いたリュリシールは改めて全員に問う。


「私が皆さんにお願いするのは以上の理由からですが、”時渡り”をする前に改めて皆様の意思を確認しておきたいのです。

 この魔法を使ってしまえば、あなた達はこれまでの二年が無くなります。

 それこそ、親友との思い出も、家族との記念も、助けた人々も何もかもすべて。

 それを捨てる覚悟が、ただ一人の人間を救うためにその非情な決断ができますか?」


 その問いに対し、最初に応えたのは元勇者パーティの二人レイモンドだった。


「そうですね、リュリシール様の言い分は最もだと思います。

 オレだって、家族、友、そしてオレを慕う人達がこの二年でたくさんの物を与えてくれました。

 それが今のオレを構成し、こうして生きています」


 そう言って、レイモンドは脳裏に思い出を浮かべる。

 しかし、レイモンドはこうも続けた。


「ですが、オレが騎士として胸を張れるのは勇者がいてこそ!

 それにオレはアイツのそばにいるって約束したんです。

 もう二度とあんな思いを感じるのはごめんなんでね。

 それに......オレ、アイツなしじゃ生きられなくなっちまったみたいですから。

 なので、オレは世界よりナナシを......アイトを選びます」


 レイモンドの次にしゃべり出したのは、同じく元勇者パーティのシルヴァニア。


「私もレイちゃんと同じ気持ちです。

 魔王城前でのあの嘘には、例え私達を思っての行動だとしても酷い嘘でした。

 リュリシール様の前で言うのもなんですが、まだ私としてはまだその清算が済んでいません。

 なので、その清算のためにもアイトさんには生きてもらわないと」


 次にしゃべったのはゴエモンだ。


「俺はナナシとは付き合いは短いが、それでもアイツの凄さを目の当たりにしてきた。

 その時点ですでに敬意自体はあったが、やはり決め手というか......アイツは恩人だ。

 親友を、親友の恩人を救ってくれた。それだけで俺は世界を賭ける理由足りえる」


 その次にしゃべったのはハルだ。


「私にとってナナシは最初軽薄な人間だと思った。

 でも、奇行の裏には必ず理知的な理由があって、勇者でありながら復讐を手伝ってくれた。

 そんなナナシを好きになって、同時に親父と同じことをするナナシが嫌いになった。

 でも、嫌いになりたくないから止める。今度こそ死なせない」


 その次にしゃべったのはヒナリータだ。


「ヒナは最初、ナナ兄はヒナの嫌いな大人の男だった。

 大人の男はヒナの大好きな人達を苦しめ、殺してたから。でも、ナナ兄は違った。

 しつこく絡んできたのはウザかったけど、そこに悪意がないのはよくわかった。

 そして、精霊国の冒険を通じて、ナナ兄の勇者としての苦労と偉大さを痛感した」


 ヒナリータは拳を握ると、決意の目でリュリシールを見る。


「ヒナはそんなナナ兄のことが好き。

 ナナ兄にどんな思いで、どんな苦労をしてきたかはヒナにはわからないけど、それでもナナ兄が死んでいい理由にはならない。

 ヒナは好きな人を助けたい。それに思い出ならこの胸にあるから」


 最後にしゃべったのはミュウリンだ。


「ナナシさんとの旅は、ナナシさんが村に来て始まった。

 出会いは決していい形とは言えなかったけど、それでも同族を救うためにやったナナシさんの行動を悪とは断定できなくて。

 それ以上に、敵である魔族を、ボクの父親である魔王を殺したことに酷く罪悪感を感じている様子で、それをボクも同じく苦しく感じて、ナナシさんを救いたくて、またボクも救われたくて......とまぁ、そんなこんなでボク達の旅は始まった」


 ミュウリンは過去の村でのことを思い出しながら、それでもなお立ち止まらずに進んでいく。


「ボクもヒナちゃんと同じ気持ちです。

 私達が作ってきた、もらってきた二年間の思い出は確かになくなっちゃうのかもしれない。

 ボク達が行動を変えれば、当然その思い出を作った時の気持ちは生まれない。

 でも、それらは全て(ここ)にある。ボク達が忘れない限り、思い出は消えない。

 だから、ボクは進みます。ナナシさんともっと一緒にいたいから」


「.......皆さんの意思、この私がしかと受け取りました」


 全員の言葉を受け取ったリュリシールは微笑んだ。

 そして、言葉を続ける。


「正直、時を戻した場合アイト様がどのタイミングで行動に移すかわかりません。

 加えて、皆さんの行動に感づかれた場合、行動を速めて逃げようとするかもしれません。

 なので、くれぐれも捕まえる時は慎重に、そして確実に説得してください」


 リュリシールは両手で三角形を作るように手のひらを向ける。

 その手には強大な魔力によって眩いほどの光が周囲を照らす。


「今から皆様を二年前のあの日......皆様が記憶を改ざんされる前に戻します。

 戻った際は、しばしの間記憶の継承で意識が混濁するかもしれませんが、命に別状はありません」


 その時、リュリシールはミュウリンの方へ視線を向ける。


「ミュウリン様、意識がハッキリしましたら一度私を訪ねに来てください。

 ミュウリン様にお伝えしておくべき情報があります。

 それがアイト様の命を落とした原因であり、同時に説得するカギでもありますから」


「......わかりました」


 ミュウリンの返事を聞くと、リュリシールは改めて全員に言った。


「それでは、これから皆様を二年前にお送りします。

 皆様のご活躍を心より願っています。

 どうかアイト様をよろしくお願いします。

 では参ります――時空を渡り運命を変えよ! 時渡り!」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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