第184話 勇者の居場所#4
ミュウリンが気にした髪飾り。
それは現在ヒナリータが身に着けているカギの形をした髪飾りのことだ。
すると、ミュウリンの指摘にビクトリアが答えた。
「髪飾りはナナシさんが回収していきましたよ。
なんでも特別なカギであるとか言ってました」
「特別なカギ......他にも何か持っていたりしてない?」
「申し訳ありません、そこまでは......ただ他の場所でも回収したようなことは言ってました」
「となれば、恐らくハイバードの城んところだろうなぁ」
ビクトリアの言葉を受け、ゴエモンは腕を組んで推測を立てた。
その推測は他の仲間達の間でも共通の意見であるようで、その言葉を否定する者はいなかった。
その時、シルヴァニアが何かを考えるように顎に手を当てながら、ヒナリータに近づくと、「失礼」と断りを入れてヒナリータの前髪にある髪飾りをじっくり眺め始めた。
そんなシルヴァニアの行動に、ヒナリータは首を傾げながら聞いた。
「どうしたの?」
「いえ、その......カギという言葉に少し引っかかることがありまして。
聖神様の眷属たる精霊様が作り出したカギが何に必要かと思いまして......」
「そんなに凄いカギならやっぱり神様関連のものじゃないの?
それこそ、ナナ兄の持っていた聖剣に関わるものとか」
「そうですね......聖剣......台座......そしてカギ......あ、そうか!」
ヒナリータのヒントにより、シルヴァニアは一つの答えに辿り着く。
そして、ヒナリータから全体に視線を向けると、ハッキリと断言した。
「アイトさんの向かった場所の推測が立ちました。
場所は恐らく聖剣があった”聖なる台地”と呼ばれる場所です。
そこにある神殿にアイトさんの痕跡があるはずです」
その言葉を聞き、レイモンドは拳と手のひらを合わせた。
「よっしゃ、なら早くそこに行ってみようぜ!」
「そうだな。推測でも何でもいい。行けばわかる」
「それに仮にいないとしても、何か痕跡があるかもしれないしね」
「ナナシのニオイでも残っていれば追跡は任せて」
レイモンドの言葉に、ゴエモン、ミュウリン、ハルが同調するように声をあげた。
そして最後に、リーダーのヒナリータが出発の声をかける。
「行こう、ナナ兄に会いに」
それから一週間後、シルヴァニアの案内でヒナリータ一行は聖なる台地にやってきた。
他の場所より高い位置にあるその場所は、勇者が聖剣を抜いた神殿があることで有名であり、故に勇者が生まれた場所という伝えられ方もされている。
そんな森に囲まれた場所で最初に違和感を感じ取ったのは、聖女シルヴァニアであった。
シルヴァニアは周囲を見渡していくと、片眉を上げたまま違和感を口にする。
「なんでしょう、ここも随分と神聖な気配に満ちています。
それこそ、神殿以上に......さすがにここが勇者所縁の地としても少々以上です」
その言葉に同意したのは、ナナシが勇者アイトとして生まれる瞬間を立ち会ったことのあるレイモンドだ。
「あぁ、確かにな。なんかここら辺妙に花が咲いてたりするだろ?
だが、これは聖剣を抜く勇者の儀の時には、こんな色とりどりの花なんか咲いてなかった」
「気のせいじゃねぇか?」
ゴエモンがそう聞けば、レイモンドは首を振ってハッキリ否定する。
「確かに、多少ならその線はあった。だが、向かっていく道中で増えてってる。
まるでこの先に一面の花畑があるとでも言うかのようにな。
この場所は、聖王国によって立ち入りが規制されてる場所だ。
だから、誰かがこんなに花を植えたってのはありえない」
「せめて種類がある程度統一されているならわかるんですけどね。
砂漠の地方に咲く花や、一年を通して暑い場所に咲く花など、とにかくバラバラなんですよ」
そんなシルヴァニアの言葉を受け、ミュウリンは何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、教会に住まわせてもらっている時、神話に関する本を読んだことあったっけ。
で、そん時にあった話で、聖神様が降臨した時、大地が生まれ変わるように活性化して、歩けば周囲に色とりどりの花が咲いたとかそんな話があった」
「確かに、そのような話はありましたね。
そして、アイトさんはリュリシール様を傍らに連れていたという話をビクトリア様から聞きました。
となると、これはリュリシール様の影響?......にしても、妙な違和感がありますが」
そんな会話をすること数分後、ヒナリータ達の正面に神殿が見えてきた。
見えたのは一部壊れている階段や半壊した柱であるが、それらの特徴としてまるで張り巡らされたようにツタが伸びており、そのツタから花が咲いていたり、壊れた個所の隙間から花が咲いていたりしていた。
そのツタをシルヴァニアが触れば、そこから漂う神聖なる気配に片眉を上げた。
そして、他の箇所のツタも触っていくと、その違和感の正体に気付いたのかしゃべり始める。
「......わかりました、私がずっと抱いていた違和感の正体が」
「ん? シル、どういう意味だ?」
「ここまでくる道中で花が咲いていたと思いますが、あれらが発していた神気と呼ばれる神の気配が、私がよく知っているものとは違ったんです。
私はリュリシール様の巫女であり、リュリシール様とは会話を通じて神気がどういうものかは知っています」
「なら、誰のだ?」
シルヴァニアの話を聞き、ゴエモンが疑問を口に出す。
直後、その問いに答えたのは、しゃがんで花を見つめていたヒナリータだった。
「決まってるナナ兄だよ」
ヒナリータは立ち上がると、階段の上の方を眺めた。
「ナナ兄に決まってる。それにこの先からニオイがするし」
「確かに、ナナシのニオイだ。けど、他にもニオイが混じってる気がする。これは.....血?」
瞬間、ハルの言葉を受けたヒナリータは血相を変えて階段を駆け上がる。
そんなヒナリータに、他の仲間達もついていく。
そして辿り着けば、呆然と立ち尽くすヒナリータに気付き、ヒナリータが見つめる先に視線を移せば、瞬間誰しもが目を見開いた。
所々亀裂が入り浮かんだり、床石が無くなった神殿。
その神殿の両端には壊れ方のバラバラな石柱が等間隔に並び、中央には一つの台座があった。
その台座の側面にはいくつかのペンダントがはめられており、その中にはオオカミのペンダントもある。
また、その台座の真上の平の部分には、ヒナリータの髪飾りと同じようなカギが刺さっていた。
問題はその台座にもたれかかるようにして座る鎧の男だ。
その男は力なくぐったりしており、もはやその体からは生気を感じない。
その姿はまるでハイバードの城の地下にあった死体や、精霊国の宝物庫の死体と同じ。
「......ナナ兄?」
ヒナリータはその姿を見て、一目で人物を特定した。
この世界で母親を覗けば、誰よりも好きと呼べる人物――ナナシ。
そのナナシが動かない。まるで死んで――
「ナナ兄!?」
ヒナリータは叫びながら走り出し、ナナシに駆け寄るとしゃがみこんで肩に触れた。
他の仲間達もナナシの名前を叫びながら近づき、ヒナリータの行動を見ながら様子を伺った。
「ナナ兄.....返事をしてよ。ナナ兄!」
ヒナリータはナナシの肩を揺さぶり、声をかけるがぐったりとしたまま応答がない。
次第にヒナリータは涙を流し、それを拭うことなく、声が枯れるまで声をかけ続ける。
しかし、何度も何度も何度も繰り返しても変わらぬ結果。
時間経過で伝えられる現実に、レイモンドは目元を手で覆い、ゴエモンは愕然とし、ミュウリンは膝から崩れ落ち、ハルは呆然と涙を流し続け、シルヴァニアは涙を流しながら口を両手で覆った。
「ナナ兄、起きてよ!.......起きてよ」
次第にヒナリータの肩を揺さぶる動きが小さくなる。
突きつけられる死という現実がヒナリータの力を奪っていったのだ。
その時、突如として彼女ら六人に声をかける人物が現れた。
「皆さんが来るのをお待ちしていました」
その声に全員が振り返ると、そこにいたのは光で構成されたような女性。
その女性から溢れ出る神気に、全員は確かめるまでも無く本能で理解した。
この女性こそが聖神リュリシールであると。
「皆さんにお話があります」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)