第183話 勇者の居場所#3
「ついたここが精霊国の入り口」
数週間後、ヒナリータ達はオートリオ平原の近くにある森にやってきていた。
そして、ヒナリータが指さすのは木のうろ。そこが精霊国との入り口である。
すると、ヒナリータは木のうろに手をかけ、空洞に顔を突っ込むと叫んだ。
「ヒナが来た。少し用がある。入らせて欲しい」
そう言うとしばらくして、その空洞から一体の手のひらサイズの精霊が飛び出した。
そして、その精霊はヒナリータを見ると、興奮した様子でしゃべり始める。
「勇者様! お久しぶりです! ビビアンです! 覚えてますか?」
「もちろん。それで早速で悪いけど、確認したいことがある。中に入れて欲しい」
「もちろんです! 見慣れない方もいますが、まぁ勇者様のご友人なら問題ないでしょう。ささ、入ってください」
ビビアンに促されるままに、ヒナリータ達はうろの中に入っていく。
虹の中を移動しているような流れを光景を見つつ、しばらくして地上から一メートルほどの高さに現れ、そのまま着地していく一行。
すると、ミュウリンは自分の体を見て気づいたことを呟いた。
「おや、姿が変わらないね~」
「そういや、元の姿のままだな。なんかここで普通の格好だと妙に落ち着かないな」
「後半普通に馴染んでたしな」
ミュウリンの声に、レイモンドとゴエモンが懐かしそうに自身の体を見つめる。
そんな彼らに、ビビアンは不思議そうな顔で言った。
「ん? 確かに、そうですね。こんなことは初めてです。
まぁ、もしかしたら、勇者様達がこの国を救ってくれたからかもしれませんね」
勝手に疑問に思いつつも、勝手に答えを出して一人納得するビビアン。
そんなビビアンに、ヒナリータはドライに「城に案内して」と声をかけ、ビビアンの後ろを歩き始める。
しばらくの移動後、城の前で迎えてくれたのは精霊国の女王ビクトリアだった。
ビクトリアは隣に立つ側近のサトリンと一緒に恭しく頭を下げると、口を開いた。
「遠路はるばるこの地まで、どうぞお越しいただきありがとうございます。
あの日からバビューンと二年が経ちましたね。
あぁ、あの日を思い出すとズシャーッと涙が溢れ出そうです」
「久しぶり。だけど、ごめん。再会の喜びはまた今度にして。
今日は用があってここに来た。とっても大事なようのために」
「大丈夫です。もうビビーンと把握しています」
その言葉に、ヒナリータは首を傾げた。
「どういうこと? もしかしてここに来たように気付いてる?」
「そうですね......根拠を挙げるとすれば、ここに我が主たる聖神リュリシール様の巫女がいるからでしょうか」
ビクトリアはシルヴァニアを見てニコッと笑った。
その態度に対し、一方でイマイチ状況を掴めないシルヴァニアは頭にはてなマークを浮かべるばかり。
いや、シルヴァニアに限らず、ヒナリータ達全員が状況を読み込めていなかった。
「見てもらった方が早いですね」
ビクトリアはそう言うと、早速城の方へ先導するように歩き出した。
その道中、ビクトリアの発言が気になったのか、突くようにレイモンドが尋ねる。
「なぁ、さっきの発言についてもう少し教えてくれ。
ヒナが言った辺りのことだ。お前はこっちの用事を知ってるのか?」
「はい、知っています。あなた方はこの場にいないナナシさんを探しに来たのですよね?」
「「「「「っ!?」」」」」
その言葉に全員が驚き、そしていち早くヒナリータが追及した。
「ナナ兄がここに来たの!? いつ!? 今、ナナ兄はどこにいるの!? 教えて!!」
「では、順に回答をしていきます。
まずナナシさんがここに来たのは、一年ほど前でしょうか。
我が主と一緒に訪ねてこられまして、私がとある場所まで案内しました」
「我が主......? え、リュリシール様と来られたんですか!?」
ビクトリアの発言に驚いたのはシルヴァニアだ。
シルヴァニアは聖女であり、聖神リュリシールに平和の祈りを捧げるのが仕事だ。
その際、何かと遠慮のない彼女はフランクにリュリシールと会話することが多いのだが、当然その会話先は天界にいる存在だと思っていた。
しかし、実はいつの間にか外にいて、それもナナシと一緒にほっつき歩くとは思いもよらなかっただろう。
「まさかいつの間に顕現していたなんて......」
「顕現という大層なものではありません。
顕現はあくまで生身の肉体での地上への進出。
今回は私達と同じように聖霊体の姿でいらっしゃいました。
ですがまぁ、それでも十分大事なんですが」
「リュリシール様っていやぁ、この世界の創造主だろ? 俺でも知ってるぜ。
にしてもまぁ、その創造主と一緒に行動するなんて、いよいよもってナナシは常識外れだな」
「一応、ナナシは勇者で、その勇者を呼び出したのがリュリシール様だ。
だから、切っても切れない関係とは言えるが......まさかここに来てその神の名を聞くとはな」
すると、その話を聞いてからシルヴァニアが「そうか」と何かに気付く。
その言葉を耳をピクッとさせて気づいたハルは、横目でシルヴァニアを見ながら聞いた。
「どうしたの?」
「そう言えば、二年前に皆さんから獣王国での出来事を聞いた後、アイトさんからリュリシール様と直接話したいとの申し出を受けたんです。
それで、冬至の私はその申し出を受け入れたんですが......たぶんあの時には話をつけてたんでしょうね。
リュリシール様との会話は体感で一時間経過したとしても、現実世界では数秒ですから」
「ってことは、ナナシは獣王国の事件後からずっとこうすることを決めてたってことじゃん。
なにそれ、超ムカつく。飼い犬を愛でることを忘れてたらどうなるか教えてやらなくちゃ」
「そのためにも今はナナ兄の居場所を突き止めなきゃ。それでナナ兄の場所は知ってる?」
ハルの苦言を聞きつつ、ビクトリアへ話を投げるヒナリータ。
すると、その質問にはビクトリアも首を横に振った。
「いいえ、我が主から『危ないからついてこないように』と言われましたので。
もちろん、我が主が危険な場所に向かうならお供したい所でした。
ですが、私達眷属は我が主の命には逆らえませんので」
「そっか」
「そろそろ着きます。サトリン、扉を開ける準備を」
「ハッ、直ちに」
サトリンは駆け足で先に進むと、宝物庫の取っ手に手をかけ、ゆっくりと開けた。
そして、ヒナリータ達が入ると、そこにはかつて見かけた白骨死体の姿が。
しかし、ハイバードの城で見た時のもとは違い、その死体は足先や指先をゆっくりと光の粒子に変え、消えている最中であった。
その死体の消え方は本来ありえないことだ。
アンデッドの魔物のスケルトンですら、倒れた後骨は残り、その骨が消えるとしても長い年月による風化による現象。
にもかかわらず、その死体は最初からスピリチュアルな存在であるような消え方をしている。
「これは......?」
ヒナリータが疑問を口に出すと、ビクトリアが答えた。
「これはその死体の持ち主の魂が消えようとしている時に起きる現象です。
まず通常では起こり得ない現象であり、起こる人物は人でありながら神となった人神様か、我が主からの多大なる恩寵を携わった勇者様」
「っ! それじゃ、今ナナ兄は死にそうになってるってこと!?」
「落ち着いてヒナちゃん。ナナシさんは死んでないはずだよ。
だって、ボク達は初めてここに訪れた時、一緒にこの遺体を一緒に見たでしょ?」
「そ、そっか......そうだよね」
ミュウリンの言葉に、ヒナリータはホッと息を吐いた。
しかし、不安の気持ちは消えてないのか依然として眉尻を下げたままだ。
そんなヒナリータの頭を撫でつつ、ミュウリンは視線を死体に向けた。
「それよりも......やっぱりだ。ここにあるはずの髪飾りがない」
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