第182話 勇者の居場所#2
ヒナをリーダーとしてナナシ捜索を話し合った一行は、最初の地としてアールスロイスに来ていた。
もっと言えば、その街の近くにあるトイリャンセ迷宮である。
本来その迷宮は初心者向けの迷宮として多くの冒険者に知られているが、その迷宮に行って何かと帰らない人が多かった。
その原因をナナシ達が調べると、過激派魔族による魔神復活のための生贄場へと繋がっており、その魔神はレイモンドとミュウリンによって倒された。
故に、何もないとわかっているが、万が一何か見落としがないか調べに来ているのだ。
ただし、その場所に行けるかどうかは別問題であるが。
「確か、ここら辺で転移魔法陣が発動したよな?」
レイモンドはかつて訪れた場所を見渡しながら、一緒に来たミュウリンとゴエモンに声をかける。
その声かけに対し、二人はそれぞれ答えた。
「うん、確かこの辺だった気がする。だけど、特に足元から魔力は感じないね」
「ナナシが先にここに来ていたとしたら、そりゃまぁ消してるよな。記憶改ざんするぐらいだし。
ただ、この中で転移魔法が使える奴がいれば、話は別になるだろうが」
ゴエモンを腕を組みながら、残りのメンバーを見渡していく。
ヒナリータはそんな高度な魔法は使えないことは知っているので、残りはハルとシルヴァニアの二人。
すると、ゴエモンの視線に気づいたハルが首を横に振った。
「私は無理。ここ最近魔法について調べてるからわかるけど、あれは一人でやる魔法じゃない。
それに魔法陣を描こうとも、さすがに教本がないと描けないし」
「そっか......って、アレ? そういえば、獣王国の時にナナシに召喚されてなかったか?
確か、召喚スクロースだか持ってたはずだろ」
「残念だけど、リンクが切れてる。
ナナシが持ってれば、私が持ってる方に魔力を込めて行けるけど......持ってると思う?」
「思わんなぁ......」
ハルの回答にゴエモンはため息を吐きながら頷いた。
するとその時、シルヴァニアが手を小さく上げる。
「私......魔法陣描けますけど」
「マジか!? なら、お願いしていいか!?」
その言葉に、ゴエモンは目を輝かせて反応した。
また、他のメンバーも期待を寄せるように視線をシルヴァニアに向ける。
そんな注目の的であるシルヴァニアは、皆に発動のための条件を聞いた。
「それでは、転移先の座標がわかるものはいらっしゃいますか?」
「転移先の座標?」
「転移魔法は移動に便利な魔法ですが、そんなポンポン使える魔法ではありません。
一回使うだけでも魔力をどか食いするのもそうですが、転移先となる座標が必要です。
だから、使う場合は移動先に先行して印をつけておく必要があります。
でなければ、土や水中に転移して移動死なんてことになりませんから」
「......らしいが、二人は知ってるか?」
ゴエモンがレイモンドとミュウリンに聞いてみれば、二人はすぐに首を横に振った。
そんな反応は想定済みだったのか「そうだよなぁ」とゴエモンはため息を吐く。
「言っておきますが、アイトさんを基準に考えるのはやめた方がいいですよ。
あの人は勇者だけあって色々頭のおかしい性能していて、この世界の平均から逸脱しています。
転移魔法をポンポンと使える魔力を持ちながら、歩きながら座標を記録してるのは、正直言って変態です」
「やっぱナナ兄は凄い」
「さすが私の主」
「ヒナ、ハル、惚気るのは後にしろ~」
ヒナリータとハルが満足そうに笑みを浮かべる姿を横目に見つつ、レイモンドは腕を組むと言った。
「ってこたぁ、ここでのこれ以上の調査は無理か。
前にここの街に居た魔族がいてくれりゃ良かったが......まぁいないものはしょうがねぇ」
「なら、次だね。次となると......あの領主の家!」
「そこまでは私が案内するわ。場所覚えてるから」
ミュウリンが次の行く先を示すと、その言葉に反応したのはハルだった。
領主の家――つまり、かつての復讐相手ハイバード=ロードスターが住んでいた城だ。
その場所はハルにとっては忘れたくても忘れられない苦い思い出の場所。
「それじゃ、行きましょう」
そして数週間後、ほぼ一年中雪が降っている街バレッツェンにやってきた。
全員がモコモコの温かい服装に身を包み、ふかふかの雪道を切り抜けて向かった場所は無人の城。
「......」
「ハル、どうかしたか?」
「いえ、何でもないわ。先に行きましょう」
少しだけ過去を耽っていたハルが、レイモンドに声をかけられ歩き始める。
城の中に入ると、そのまま地下の方へと直行していく。
彼らの目的は地下室にいた白骨死体である。
その死体を見た直後、ナナシはその場で体調を崩した。
世界最強の勇者が見ただけで。
つまり、その死体が関わってることはほぼ間違いない。
「ここだよな。相変わらず、死体があるってのに神聖な気配がするよな。
いや、俺だけか? 聖女様やヒナちゃんはどうだ?」
ゴエモンがそう聞くと、ヒナリータは尻尾をゆらりと揺らし、シルヴァニアは深呼吸して答えた。
「ヒナ、初めてここに来たけど、なんか安心する感じがする。
でも、骸骨があるのにそう思うって変な感じ」
「そうですね、例えるなら教会内の雰囲気に近い感じでしょうか。
ただ、そのような魔法がかけられてるわけではないみたいです。
となると、この遺体から発せられてるわけで.....そうなると人神様の遺体になるのですが?」
「聖人様って?」
ミュウリンがその単語に首を傾げると、シルヴァニアは得意げに答えた。
「聖人様は言わば人を超えた存在......つまるところ聖神様ですね。
ただ、通常の聖神様と違い、この世界に生まれ出でた方が聖神様に功績や徳を認められ、人間の上位種となったのが人神様です。
ミュウリンさん側で言えば、魔神と同じ立ち位置と思ってもらえれば十分です」
「なるほど、それならこの雰囲気も納得だね」
「......無くなってる」
その時、死体を見つめていたハルが呟いた。
その言葉に全員がハルに視線を向け、レイモンドが代表するように聞いた。
「何が無いんだ?」
「ペンダント。オオカミのデザインが入ったペンダント。
皆で一緒に見た時、最後に私が持ってて日が空いたけど、途中返しに来たんだよね。
で、ここは隠し通路の奥にある地下室だから、早々人に気付かれる場所じゃない」
「つまり、あるはずのものが無くなってるってことか」
「この場に来て、今いないのはクレアだけだけど、クレアが持ってるとは思えないし。
可能性だけを考えれば、ナナシが持ってる可能性が高い」
その言葉を聞いたレイモンドは、ハルに向けていた視線をミュウリン、ゴエモン、ヒナリータへと順に向けていった。
その視線が言わんとすることは、同じような状況が精霊国でも起きてるかもしれないということ。
「となりゃ、次は精霊国に行ってみるか。
だが、あの場所ってもう一度行けるのか?」
顎に手を当てながら首を傾げるゴエモン。
すると、そのことにヒナリータが自信を持った様子で答えた。
「それに関してはたぶん大丈夫。
ヒナは精霊国で勇者として国の危機を救い、褒美にこのカギの形をした髪留めを貰ったから」
そう言ってヒナリータは自身の前髪についてる髪留めを指さした。
すると、それを見てミュウリンがハッと何かを思い出す。
「そういえば、ヒナちゃんが持ってるその髪留め.....確か精霊国にあった死体にも同じものがあった」
「それは本当かミュウリン!?」
「うん、覚えてる。あの時は凄く衝撃を受けてたから。とはいえ、今の今まで忘れてたんだけど」
そう言って申し訳なさそうに頬をかくミュウリン。
しかし、リーダーのヒナリータは特に責めることなくアクティブに話を進めた。
「でも、これで繋がりが見えたのは確か。それじゃ、行こう精霊国ヴィネティアへ」
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