第181話 勇者の居場所#1
現在、教会の応接室では六人の人物が集まっていた。
机の周りに座るのはヒナリータ、ミュウリン、レイモンド、シルヴァニアの四人。
そして、四人がそれぞれ向かい合う机の横に並ぶのが、ゴエモンとハルだ。
「――なるほど、つまり私達はナナシによって記憶を改ざんされてたと。
で、それは私達に限らず、世界規模で行われていて?
たまたまナナシから防御術式が付与されていたペンダントを?
受け取っていたヒナちゃんだけが間逃れていたと......ふむ」
シルヴァニアはペンダントの紐部分を持ち、ぶらぶらと揺らしながら聞いた情報を呟く。
そして、整理が終わると紐を引っ張り、手の内にペンダントを掴み、握りしめた。
「全然懲りてねぇなアイツ。一辺殺すか」
もはや悪鬼のようなオーラを背後から放つシルヴァニア。
そんなシルヴァニアに、同じくナナシに対して怒りを抱いていたゴエモンは、すぐに目の前の恐怖存在に委縮し、近くにいたレイモンドに聞いた。
「お、おい、なんか口調変わってねぇか? それに聖職者が一番言っちゃいけないこと言ってるし」
「オレ達の中じゃシルヴァニアが一番怒らせちゃならねぇ人間なんだ。
実際、魔王戦でナナシが一人突っ走った時もキレ方が凄まじかったし」
「だけど、その怒りは正しい。私だって怒ってる。よりによって親父と同じことしやがって」
シルヴァニアの怒りに同意を示したのは、ハルであった。
それこそ、ハルはナナシの現状が過去とリンクしており、その怒りはシルヴァニアに勝るとも劣らない。
そんな男であるゴエモンでも怯む空気の中、率先してしゃべり出したのは小さな勇者であった。
その勇者ヒナリータは机をバンッと叩き、全員の注目を集めると言った。
「シル姉、ハル姉、ゴエ兄に集まってもらってのは他でもない。
これから、ヒナ達がやろうとしているナナ兄の捜索に協力してもらいたい」
その問いかけに、呼びかけられた三人はすぐさま言った。
「「「もちろん!」」」
全員の意見が一致したところで、ヒナリータ達は早速行動を開始した。
まず最初に行ったのはナナシが行きそうな場所の情報を皆で話し合う事であり、その司会進行はヒナリータが務めた。
「ナナ兄の捜索と言っても、闇雲に始めても時間を浪費するだけ。
だから、まずはナナ兄が行きそうな場所を絞っておく必要がある。
そのためには、ナナ兄をよく知るレイ姉、シル姉、ミュウ姉の三人の力が必要」
「おっけ~。なら、まずはボクから言おうか」
最初に情報提供をし始めたのはミュウリンだ。
ミュウリンは腕を組み、過去のことを思い出しながら話始めた。
「まず最初に考えられるのは、ボクとナナシさんが過ごした村。
だけど、あそこは正直言って何もない。ただ戦いに怯えた人達が暮らす村だよ。
それに、村がある場所は魔の森の中心近く。
今じゃ過激派魔族が魔王の跡目を狙って戦いが繰り広げられてると思う」
「となると、ナナシはその方向には行ってない可能性があるな。
なんなってアイツは魔族と再び戦争を回避しようとしていたわけだし。
下手に介入したら戦争の火種になりかねないからな」
レイモンドの言葉を受け、ミュウリンは「じゃあ次ね」と次の情報を出した。
「そしたら、ナナシさんと最初に訪れた街かな。
あそこで初めてボクが魔族だと打ち明けたから」
そう言った瞬間、頬杖をついていたシルヴァニアが反応する。
「あ~、その話なら知ってますよ。
その街のギルドマスターからアイトさんらしき人物がいると聞いた時はビックリしました。
まぁ、どこかで生きてると思っていましたし、そこまで大きいものではなかったですけど」
「で、確かその街の近くに穴があったはず。とっても大きな穴が。
あの街で行きそうな場所と言えば、あそこぐらいしか思いつかない」
「ダイダロスですね。神話から語り継がれるこの世界にある巨大な穴。
でも、その神話なんて所詮たまたま現実に似たような光景がありましたから、それになぞらえて伝わってるだけです」
「そうなの?」
ミュウリンが首を傾げれば、シルヴァニアはサラッと答えた。
「だって、アレ、ナナシが作ったものですしね」
「そうなの!?」
「そそ、とあるドラゴンを倒すために魔力を溜めに溜めて放った一撃で出来た穴。
その穴を見た地元住人が状況を理解できなかったから、神話でもって設定を作っただけの話です」
「そうなんだ~、残念。何か手がかりになると思ったのに」
ミュウリンはガックシと背中を丸めながら、「これで終わり」と宣言した。
すると今度は、レイモンドがしゃべり始める。
「オレの場合は勇者時代も含めるととてつもない候補地になる。
だから、それに関してはシルに任せて、オレはミュウリンと出会ったその後を話そう。
ゴエモン、もし記憶に誤りがあったら補完いてくれ」
「了解だ」
「まず、オレとナナシが出会ったのはアールスロイスという街だ。
その街で当時権力を握ってた宿屋の主人が難癖をつけ、オレ達にダンジョン探索と称してダンジョンに向かわせ罠へと嵌めた。
その際、オレとミュウリンは魔神と戦った」
「魔神ですか。まさかアールスロイスにもいたとは.....」
「ま、上半身だけだったがな。とはいえ、かなりデカかった」
シルヴァニアの反応に応えつつ、レイモンドは話を続ける。
「で、次にナナシに異変があったのは、ハイバードの城での地下でのことだ。
これはハルも覚えてると思うが、あの時ナナシは地下にいた白骨死体を見て、異常な苦しみ方をした」
「うん、覚えてる。ナナシは魔神化したハイバード相手にも飄々としていたのに、白骨死体には真逆の反応.....忘れるはずがない」
「で、次がヒナリータを連れて精霊の国に訪れた時だ。
あの時も、最後に同じような白骨死体を見てナナシは苦しんだ。
理由はわからん。唐突にひとりでにとしか言いようが無かった。
そして、最後は獣王国だが――」
そう話始めようとしたその時、レイモンドの言葉を奪うように、ミュウリンが手をあげた。
すると、レイモンドは話す権利を渡すように、あごをクイッと動かし許可を出す。
そしてようやく、ミュウリンはしゃべり始めた。
「獣王国の城から出てからナナシさんの様子はずっと変だった。
考えられるとしたら、獣王国の.....恐らく祭壇の場所で何かを目撃したか聞いたんだと思う。
でなきゃ、あんなずっと思いつめたような顔をしないと思うから」
「ちなみに、現状で獣王国の地下に行くことってできるか?」
レイモンドがそう聞くと、シルヴァニアは眉を寄せながら首を横に振る。
「地下の祭壇は獣王国にとって王族とごく僅かしか知らない神聖な場所。
もっと言うと、神様の遺骨と命の結晶があるとされる特別な場所。
そして獣王国襲撃事件にて、その命の結晶が奪われてしまった。
とてもよそが入れる状況ではないですね」
「つまり、無理に入れば国家間の問題になりかねないということか。
それはさすがに遠慮したいな。そのせいで時間を取られるのは不味い。
なんせ、オレ達は現状でも二年もの時間を過ごしちまってるわけだしな」
「えぇ、もうすでに十分に遅れてしまっている。これ以上時間を奪われはいけません」
シルヴァニアの反応を聞いた後、レイモンドは「オレからは以上だ」と告げる。
そして、最後にシルヴァニアの番になったが、シルヴァニアは何かを考えるように顎に指を当てると、全員に言った。
「私からすれば勇者に関連する場所は一つしかありません。
ですが、その前にこれまで出た場所を巡って確かめてから結論付けたいと思ってます。
ヒナちゃん、申し訳ないけどまだ言えません。それでもいいですか?」
「.....わかった。なら、まずはこれまで出た候補地に向かってナナ兄の手がかりを掴む。
それじゃ、明日にも出発するつもりで。各自、準備を整えて」
「「「「「了解」」」」」
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