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第18話 次の目的地

「「「この度は本当にありがとうございました!!」」」


 街にある診療所の一つ。

 患者が寝るベッドにはミカエルの姿があり、その周りにはウェインとユーリの姿もあった。

 彼らが感謝を述べている相手は、ただのしがない道化師だ。


「これ、お菓子です。お二人で食べてください」


「あらまぁ、ご丁寧にどうも」


 ユーリが渡してきた菓子折りを近所のおばちゃんのような態度で受け取るナナシ。

 今日も今日とて、彼の言動は適当だ。道化師だから仕方ない。

 お菓子を見ながら目を輝かせるナナシの一方で、ミュウリンはウェイン達に話しかける。


「大丈夫〜? 怪我したって聞いたけど」


「僕は軽傷で、ユーリは無傷です。でも、ミカエルが......」


「俺も大した怪我じゃねぇよ。

 腕が一本折れただけだ。冒険者じゃよくある怪我だ。

 それにこうして生きてるだけで、腕の一本ぐらい安いもんさ」


 ミカエルの言葉にナナシはビクッと反応する。

 あ、それ俺の言ってみたいセリフランキング二十三位のやつ! と思うほどには。


「ところで、本当に俺の回復要らない?」


 実の所、ナナシは治療できる回復魔法を持っている。

 しかし、その治療はカエサルに拒否されたのだ。

 そして、それに対する彼の答えがこうである。


「はい、これも戒めってやつです。話すにしてもちゃんと相手を選ばないとって。ですから、気にしないでください」


「ま、無理はしないように。せっかく頼れる仲間がいるんだから」


「はい、わかりました」


 ナナシの言葉にミカエルが元気よく返事をする。

 初心者冒険者にとっては辛い経験だったろうが、それでも前に進もうとしている。


 表情から伝わってくるのだ。目に光が宿っている。

 この三人はもう大丈夫そうだ。きっと大きく成長していく。

 そう思ったナナシは笑みを浮かべた。


「それじゃ、俺達もそろそろ行こうか」


「うん、そうだね。しばらくのお別れになるね」


 ミュウリンの言葉におおよそを察した表情をするウェイン達。

 すると、ウェインはすかさず尋ねた。


「この街を出発するんですか?」


「あぁ、もともとこの街にも長いするつもりは無かったし、僕達の旅は色んな場所を巡ることだからね。

 ある程度の路銀も貯まったことだし、緊急イベントも終わったしでちょうどいいタイミングってだけさ」


「そう、ですか......」


 ウェイン達は寂しそうに顔を下に向けた。

 ナナシ達と彼らとの出会いや関わりは思い返しても、二週間程度しか経過してない。

 しかし、それだけで十分だ――人と縁を繋ぐのは。

 重要なかけた日数じゃない。どれだけ濃い時間を過ごしたかだ。


「君達は変わらず聖地マグストタットに向かうの?」


 ミュウリンの言葉にユーナが頷いた。


「はい。といっても、ミカエルもケガしてますし、旅のお金も実力も足りません。

 ですから、ここでもう少し頑張って成長してから向かうつもりです。

 必ず行きます。これは三人で決めたことですから」


「そっか、応援してるよ~」


 そして、話が終わると、改めて簡単な挨拶をしてウェイン達と別れた。


****


「なんだか寂しくなるね」


「そうだね。でも、きっとまた会えるさ。この世界は案外狭いんだから」


「だね~」


 ミュウリンとナナシは最後に街の中を練り歩く。

 思い残す事が内容に色んなところを隅々と。

 もちろん、ナナシの観光案内つきだ。


 そんな時間を過ごしていると、あっという間に辺りが暗くなり始めた。

 この街で過ごす最後の夜。

 少し寂しいけど、新たな場所へ向かうワクワクもある。

 それが冒険の趣深さというものだ。


 宿屋で同じ部屋で寝泊まりするナナシとミュウリンは一つのベッドに座りながら、これからのことについて話し始めた。


「さてさて、ミュウリン。次はどこに行きたい?

 一つは温泉が有名な街アールスロイス。

 一つは花畑が広がっている村トンコッコ。

 一つは二つよりも少し離れてるけど、風車が奇麗な街エアーズルーフ」


「う~ん、そうだね~。なんだかどれも魅力的で困っちゃうなぁ」


「そーれ迷え~。どこに行きたいんだ~?」


「ひゃー、迷っちゃう~~~」


 ミュウリンは頭を抱えながら悩み始める。

 しかし、彼女はすぐにピタッと止まると、第四の選択肢を挙げた。


「ボク、聖地に行ってみたい」


「マグストタットに?」


 ナナシはその回答に驚いた。

 なぜなら、聖地マグストタットは魔族嫌いの人間が集まる場所なのだから。

 その場所は勇者が召喚された偉大なる国の王都の名前。

 また、魔族と戦った際に人類の最終防衛ラインだった場所だ。


 捕縛された魔族を回収しているという聖王教会の本部がある場所でもあるため、とにもかくにも魔族が行くことはお勧めできない。


 地獄に興味本位で行く人間はいないだろう。

 殺されに行くようなもので、仲間であるならば絶対に止めるべきだ。

 ......そう、止めるのが普通だ。


「いいね! なになに勇者像が気になっちゃった感じ?」


「感じ~」


 ナナシは止めなかった。止めるつもりも無かった。

 例えそこが地獄の釜であろうともミュウリンが行きたいと行ったのなら、案内するのが自称案内人の仕事であろう。


 そして、ここで大切なのはミュウリンの意志だ。

 行きたいと願ったのなら、有り得ないを叶えてこそプロの道化師というもの。

 それに危険に晒さないようにすればいいだけの話だ。


「止めないんだね」


 言った本人(ミュウリン)が気にしている。

 口に出した願いと、実際に出来るかどうかは別と考えてるのだろう。

 当然の思考回路だといえる。されど、道化師は答えた。


「大丈夫だ、問題ない」


 大切なお客様の願いを叶え、さらに安全を考慮する。

 両方やらなくちゃいけないってのが案内人兼道化師の辛い所だ。


「でも、ここから王都はかなり離れてるから、現時点での最終目標はマグストタットにしてそこまでの道の中でどこの街を寄ってみたい?

 さっきの案の中だと、アールスロイスとトンコッコが近いかな」


「温泉の街とお花畑の村だっけ? ん~、どっちも興味あるね~」


「残念ながら、北方向に行くか南方向に行くかになっちゃうから両方行けないんだけどね。

 でも、行けなかった場所はまた一緒に行こうじゃないか」


「行ってくれるの?」


「もちろん、案内人は必要だろ」


 ミュウリンのキラキラした目がナナシを見つめる。

 不意に熱のこもった視線を向けていたことに気付いたの様子で、小さな相棒は恥ずかしそうに顔を背けたが。

 すると、ミュウリンは腕を組んで考え始める。


 そんな姿を見ながら、ナナシはゴロンとベッドに寝そべった。

 そして、ふと思い出すのは過去の出来事。

 色んな場所を飛び回っていた頃の記憶だ。


 その時にこの世界は今回魔王を倒した勇者以外にも、色んな人間がこの世界に来ていたことを知った。

 ベースは魔法ありきのファンタジーだが、所々覚えのあるものを見かけたこともあった。

 それはもちろん先ほど挙げた二択の場所に関しても。


「温泉か。ミュウリンも浴衣姿が似合うだろうな......」


 ナナシはボソッと呟いた。

 アールスロイスには温泉がある。

 公衆浴場だったり、旅館に設置された温泉だったりと色々。

 そして、それはその昔に異世界からやってきた人間が広めたものとされている。


 瞬間、ナナシの脳内に広がる男としての煩悩、否、本能。

 温泉の浴衣姿......女性の浴衣姿とはかくも男を魅了するものだ。

 濡髪の艶やかな髪、浴衣のラフな構造によるチラリズム、上気した頬。

 やっべ~、見てぇ。超見てぇ~、と叫びたくなる二十二歳児。


「な、ナナシさん?」


「はいはい、どうしたの?」


 ナナシはすぐさま雑念を消してミュウリンに顔を向ける。

 すると、ミュウリンがなんだかモジモジしているではないか。


「ナナシさんは温泉好き......?」


 ナナシは体を起こすと答えた。


「そりゃもちろん。温泉が嫌いな人はいないだろ。

 ここ最近歩きっぱなしだったし、この宿でも汗を流せるとはいえやはり温泉には負けるだろうな」


「なら、温泉にしよう。うん、そうしよう」


 ミュウリンの気合の入った返事。

 本人がそう決めたのなら、それで構わないが――


「俺の意見に流されたりしてない?」


「し、してないよ! あ、いや、ちょっと、ちょびーっとだけ意見は取り入れたよ。

 でも、これはボクの意志だから! そこだけはホント!」


 いつものゆるふわ朗らか~なミュウリンが見せることのない焦りの表情。

 妙に口早だったような気がするが、本人が決めたのなら尊重するが道化師。


「そっか。わかった。なら、次の目的地はアールスロイス! 行くぞー!」


「おー!」


 それから、二人はしばらくしゃべっていたら、仲良く寝落ちした。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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