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第176話 二人のお出かけ#2

 ナナシがレイモンドと出かけた翌日。

 ナナシは新たに一人の少女を呼び出していた。

 すると、狼の獣人である少女は珍しくおめかした服を着て、頬を赤く染めながら声をかける。


「......おまたせ」


「やぁ、ハル。その服装......どうやら張り切ってる様子だね。

 普段のボーイッシュな格好もいいけど、その服装も素晴らしい。似合ってるよ」


「なら良かった。それじゃ、早速いこっか」


 ハルは緊張しているようであり、固い口調でそう言うと一人先に歩き出す。

 そんな可憐な少女の後ろ姿を追うナナシは、少し笑みを浮かべると、隣に並んでいく。

 そして、二人が最初にやってきたのは本屋であった。


「本屋か。てっきりハルのことだから錬金術に関する魔導書かと思ってたけど。

 こういう本屋には普段来るのかい?

 こういうとなんだけど、あんま本を読んでるイメージが無いからさ」


「読むよ、一応。といっても、クレアから感想を語り合いたいとかで読んだ本に限るけど。

 けどまぁ、最近は積極的に読むようにはしてるかな」


 ハルは近くの本棚から一冊の本を取り出し、開いて冒頭部分を試し読みした。

 その隣では同じように、ナナシが積まれた本の一番上にある本を手に取る。


「何か心境変化でもあった?」


「うん、個人的なことでね。もう少し色々知識を身につけないとダメだと思って。

 このままじゃずっとおんぶにだっこになってしまう。

 頼ってはくれているけど、深い部分までは見せてくれないみたいだから」


「なら、今の行動はもし色んな知識を蓄え頭が良くなれば、深い部分を見せてくれるかもしれないからってこと?」


「そうだよ。じゃないと、置いてかれそうな気がするから」


 ハルは本を閉じると、隣のナナシの顔をまじまじと見た。

 しかし、ナナシが首を傾げる様子を見ると、「ハァ」とため息を吐いて本を棚に戻した。

 そして、背後にある本へと視線を向けると、適当にタイトルを流し見ながらしゃべりかける。


「とりあえず、興味あるものから読んでみてるけど、なんかあんまり刺さるものなくて。

 なんか面白そうな本を見つけるコツとかある?」


「コツか......そう言われると難しいな。

 具体的なアドバイスを返せるわけじゃないけど、最初はそれでいいと思うよ。

 自分が興味あるもので本を読む習慣をつける。好きな本なら苦痛も少ないしね。

 で、そうした本の中にきっと気になる言葉とかが出てくるはずさ」


「気になる言葉?」


「例えば、ハルだったら錬金術に関するワードとか。

 そして、それを調べていくうちにそれに関連する情報が出てくる。

 その連鎖を続けていけば、きっとハルは沢山の知識を身に着けてるはずさ」


「なるほど、そういう読み方はしたことなかった」


「もちろん、目的が見つかれば、そのジャンルについて傾倒すればいい。

 今はそのための繋ぎって考えればいいんじゃない?」


「そうね、そうするわ」


 そして、ハルは店の中にある本棚を眺めながら、少しずつ歩き出す。

 それから少しすると、ハルはナナシの所に戻ってきたが、その手は空であった。

 ハルの耳もしょんぼりと折りたたまれている。


「いいの見つからなかった?」


「うん、なんかピンと来なくて」


「本との出会いも一期一会だからね。そこまで気にしなくていいと思うけど。

 う~ん、そうだ! せっかくだし、お互いが気に入りそうな本をプレゼントしてみない?」


 その時、ハルの耳がピンと立った。

 直後、ハルはナナシを見る。その目は輝いていた。


「ホント!?」


「あ、あぁ、ホントホント。さっきタイトルだけで判断してたでしょ?

 でも、タイトルではピンと来なくても読んでみれば面白いものもあるしさ。

 とはいえ、全部の本を試し読んでみるのは時間がかかり過ぎる。

 というわけで、互いに興味持ちそうな、もしくはおススメな本を見せ合おうかなって」


「それいい。今やろう。すぐやろう。探してくる」


「あ、うん......ごゆっくり」


 ナナシが提案した瞬間、ハルは本棚に齧りつく勢いで眺め始めた。

 そんなハルを見ていたナナシはというと、提案した時点ですでに目星をつけており、それをカウンターに持って行ってタイトルが見えないように包装してもらう。


 それから数分後、ハルも同じように本を買うと、二人は揃って店を出た。

 そして、互いに持っていた本を交換していく。


「はい、これ」


「包装してある......開けていい?」


「今はダメ。どうせなら楽しみは家で取っておいてゆっくり読むべきさ」


「ケチ」


 そうスネた態度を取るハルであったが、その表情とは反対に本を嬉しそうに抱きしめ、尻尾を激しく揺らしていた。

 そんなわかりやすいハルを隣で見つつ、ナナシは歩き出しながら、ハルの貰った本のタイトルを読み上げた。


「それはそうと、ハルの選んだ本は『輝く星のもとに』、ね。

 タイトル的に恋愛小説みたいな感じかな?」


「うん、私にしては珍しくクレアにおススメされた以外で初めて読んだ本。

 なんか気に入ってね......せっかくだしナナシにも読んで欲しいと思って」


 そんな可愛らしいことを言うハル。尻尾はぶんぶんと揺れていた。

 そんな彼女の隣で、ナナシはタイトルの名前を少しなぞりつつ、「懐かしいな」と呟く。

 瞬間、その声に反応したハルがナナシの方を向いた。


「え? 今何か言った?」


「恋愛小説を読むのが()()()()()って。

 なんというか、立場上色んな知識を必要としていたからさ。

 基本的に読んでいたのが学術系ばかりだったんだよね」


「そっか。あの頃でナナシの立場ならそうなるんだね」


「もちろん、俺が使命感でやってたのが大きい。

 だからさ、こういった大衆文学に触れるのは随分と久しいんだ」


「......私はてっきり本を読んだことあるのかと思った」


「無い無い、読んだこと無いよ。()()はね」


 それから、ナナシとハルはしばらく雑談しながら歩くと、近くの広場で演劇をしているのに気付く。

 たまたま場所が空いていたので、二人一緒に鑑賞することにした。


 そして、全てを見終わった頃には、すっかりお昼時。

 ナナシは立ち上がると大きく伸びをし、劇の感想を呟いた。


「いや~、面白かった。役者さんの演技力には脱帽だよ」


「でも、やっぱ劇って感じだった。史実とは違う」


 ハルがそう語るのは、劇の内容が”勇者が魔王を倒しに行く物語”だったからだ。

 その内容では勇者パーティが全員で協力して魔王に挑む話が披露されていた。

 そんなハルの感想に、ナナシは歩きながら花時始める。


「劇は基本的にお客さんのための物語だから。

 お客さんが楽しんでくれればそれでいい。つまり、盛ってなんぼってもんよ」


「けど、事実とは違うことが伝えられるって悲しくない?」


「そりゃね。でも、勇者パーティとして活動したあの旅の嬉しさ、楽しさ、悲しさ、辛さの思い出は、俺達だけがわかっていればそれでいい。誰かに同情されるものじゃない」


「そっか......そうだよね。変なこと聞いてごめん」


「いいよ。気にしてないから」


 そうは言いつつも、ハルがだんまりになり少し気まずい空気が流れる。

 そんな状況を敏感に察したナナシは、すぐさま空気を変えるように話題を振った。


「ところで、今ハル達に家を貸してるけど、皆元気にしてるかい?」


「うん、それに関しては大丈夫。皆元気過ぎて困るぐらい。

 それもこれもナナシが助けてくれたおかげ」


 ナナシのこれまでの優しさに感謝し、優しい笑みを浮かべるハル。

 しかし同時に、急な話題でもどうしてその話題なのか気になった。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「別に、大したことじゃないよ。強いて言うなら、雇い主として知りたかっただけ」


「ふ~ん、そっか」


「それよりもさ、ハル、次はどこに行きたい? お兄さん、どこでも連れてっちゃう」


「なら、裏路地」


「え、そこ行って何する気?」


 そんなナナシの反応を見て、ハルは「冗談」と笑うと、次なる目的地を告げた。

 そしてその後、レイモンドの時と同様にに、夜遅くまで遊び続けた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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