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第174話 戦争をしない未来

「――なるほど、そんなことが......」


 ナナシの口から獣王国での出来事を聞いたシルヴァニアは、腕を組みながら片手を顎に当てた。

 そして、「となると、こちらも万が一の備えが必要ですね」と脳内で考えていることを言葉に漏らすと、下げていた目線をナナシに合わせた。


「それで元勇者様はどのようなお考えで?」


「え、俺?」


 突然の質問に、ナナシは素っ頓狂な声をあげる。

 そんなナナシの反応を見たシルヴァニアは片眉を上げながら言った。


「何変な声を出してるんですか。当然でしょう?

 ミュウリンさんがいる前で言うのはなんですが、これから起きようとしているのはあの時の大戦と同じ。

 いや、魔神が関わっている以上、あの時よりも酷い結果になる可能性があるんですよ」


「それは......うん」


「となれば、それを解決できるのは私達勇者パーティしかいません。

 今ここにいないメンバーにも召集をかけ、これまで以上に戦力を整える必要があるはずです」


 シルヴァニアは腕組みを時、訴えかけるように両拳を机の上に置いた。

 それに対し、ナナシはゆっくりと首を振る。

 そして、言った言葉はこの場にいる全員が耳を疑う言葉であった。


「いや、そこまではしなくていい。なぜなら、戦争つもりはないからね」


「はい?」


 シルヴァニアは首を傾げる。当然の反応だ。

 なぜなら、魔族はすでに半分宣戦布告しているような状態なのだから。

 対応が遅れれば、それだけ人類に甚大な被害が及ぶ。


 それを考慮した上の発言にもかかわらず、こともあろうに勇者が乗り気ではない。

 それはシルヴァニアにとって予想外の展開ではあったが、同時に「何か策があるのか?」とも思った。

 でなければ、こんな危機的状況で戦争をしないという選択肢はでない。


 故に、シルヴァニアは荒げたい声を押さえ、意味不明な発言をしたナナシに対し、冷静に質問する。


「......もちろん、それができたのなら一番いいです。

 ですが、そう言うということは、何か策があるということですよね?

 具体的にどのようなことをするつもりで?」


「内容ね......それは――」


 ナナシがゆっくり口を開けるのを、シルヴァニアはゴクリと息を呑みながら見た。

 すると、ナナシは腕を組んで、キリッとした表情をすると言う。


「これから考える!」


 瞬間、その場にいた全員がズッコケた。

 あれだけ大見得を切るような発言をしておきながら、まさかのノープラン。

 過去のナナシを知っているシルヴァニアからすればありえないことだ。

 そして、シルヴァニアは頬杖をつきながら、酒場のおっさんのようにクソでかため息を吐く。


「ハァ~~~~、あの堅物バカ真面目君がここまでテキトーになるなんて......。

 なんかもういっそドッキリでしたとか言ってもらった方が、まだ納得するレベルですよ」


 そんなシルヴァニアに対し、同じく元勇者パーティのレイモンドは腕を組みながら、首を横に振った。


「残念ながら、オレが会った時にはこうなってた。だから、受け入れるしかない。

 とはいえ、ナナシの気持ちもわからない話じゃない。

 またあの地獄の世界が起きるなんてのは真っ平ごめんだ」


「それはわかりますけど、私だって平和が少しずつ訪れ始めたことで、サボれることも多くなりましたし。

 でもまぁ、一考もしないで考えを破棄するのはまだ早計ですかね......」

 

 依然頬杖をつきながら、人差し指で円を作るように手遊びをするシルヴァニア。

 その時、二人の話を聞いていたミュウリンは、何かを考えるように顔をうつ伏せに刺せながら、ポツリポツリとしゃべり始めた。


「ボクもこのまま行けば戦争は不可避になると思ってる。

 だけど、もしほんのわずかな可能性があるなら、出来ればボクも戦争は避けたいかな。

 だって、なんだかんだ言ってもボクの同族だしね。救える命は救いたい」


「確かに、これ以上は殺しだなんだってのはうんざりだしな。

 それに......何度経験してたって血のニオイはやっぱり慣れない」


「となりゃ、同時並行で進めていくしかないな。

 あまり悠長なことを言ってられないが、それでもまだ時間はあると思う」


「わかりました。では、私とレイちゃんは兵力増強策を練りましょう。

 他のお三方は、戦争回避の方法を考えてください」


 ミュウリンの言葉により、ゴエモン、レイモンド、シルヴァニアが立ち上がる。

 一方で、そんな三人の反応を見たナナシは、「俺と反応違がくね?」と呟きながらも、下手に追求するのはやめた。


 それから話が終わり、皆が一時解散したところで、ナナシはシルヴァニアに声をかけた。


「シルさシルさん、ちょいとお話よろしいか?」


 その呼びかけに、シルヴァニアは肩越しに振り返ると、じーっとナナシを見ながら質問を質問で返した。


「普段からその態度でやってるんですか?」


「道化師は一日にしてならず。日々の積み重ねが大事なんだよ」


「道化師っていうより、ただの気違いのようにも思えますが......まぁいいでしょう。

 それで? この私に何か用ですか?」


「女神様と直接話がしたい」


 ナナシが急に真面目な顔つきでそう言った。

 その瞬間、シルヴァニアも顔つきを変え、体もしっかりナナシに向ければ、あえて聞き返した。


「リュリシール様にですか? どうして急に?」


「ま、帰って来た挨拶とか近況報告諸々含めて伝えようかなって。

 ほら、こういうのってやっぱり直接言うのが大事じゃん?

 だから、話したいんだけど、女神様と交信できるの聖女であるシルだけじゃん」


「そういうことでしたか。なら、早い方が良さそうですね」


 そして、シルヴァニアはナナシを連れ、聖堂の方へ向かった。

 たくさんの長椅子がある聖堂の中心奥には女神リュリシールの像があり、その像は右腕に知恵を意味するフクロウを乗せており、また左手には力を意味する武器を持っていた。


「相変わらず立派な像だね。とはいえ、見たのは随分と昔だけど」


「今更ながら、両目を布で覆っているのにどうして見えてるんですか?」


「魔力で視界を確保してるんだよ。だから、今の俺は死角がない。

 なんなら、魔力の範囲を広げれば、女子風呂だって覗けてしまう。

 ま、モラルのある道化師ですから、そのようなことはしないけどね」


「つまり、見られたと思ったらナナシさんを疑えばいいんですね」


「それは冤罪が過ぎない?」


 そんな雑談をしながら、シルヴァニアは像の前に辿り着くと、その場に正座する。

 そして、胸の前で両手を組むと、早速祈りを捧げ始めた。

 直後、その像にどこからともなく神々しい光が差し込まれる。


 そんな光景をナナシは物珍しそうに見ていると、祈りを終えたシルヴァニアが振り返った。


「準備が出来ました。リュリシール様といつでも話ができます」


「ありがとう。ちょっと話してくるね。

 あ、ちなみに、これってシルにも話の内容が聞こえてたりする?」


「いえ、特に聞こえたりしませんが......え、何を話すつもりですか?」


「そりゃもう......男の子の秘密ってやつだよ」


 ナナシがモジモジしながら言うと、シルヴァニアは体を引きながら答えた。


「リュリシール様に変なこと言うの止めてもらえます? 神様ですよ?」


「でも、一応全知全能の神様であるわけだし、答えを聞くには最適な神様じゃない」


「一応じゃなくて完璧に全知全能の神様です。ハァ、いいからさっさと話してください」


 そして、ナナシはシルヴァニアの横に座ると、祈りを捧げる。

 そんなナナシの姿を、シルヴァニアが横から眺めていれば、ナナシの祈りは数秒足らずと終わった。

 

「ふぅー、話せた話せた。スッキリしたよ」


「なんというか、祈りをこう客観的に見るとこんなに早いんですね。

 さっきナナシさんのためにやった祈りの際も、少しリュリシール様と雑談したのに」


「これが下界と神界の時間の流れの差ってやつよ。

 んじゃ、俺は用が済んだし帰るね」


 ナナシはその場で立ち上がると、颯爽と歩き始めた。

 その淀みない動きを見たシルヴァニアは、どこか魔王戦に挑む前のあの日を思い出し、口をついて聞いた。


「......また何か隠してませんよね?」


「隠してないよ。なんたって今の俺は勇者じゃなくて、道化師だからね」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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