第173話 元勇者パーティとの再会
「ナナシさん、ミュウリンさん、レイモンドさん、ゴエモンさん。
改めて、娘を助けてくださり、そしてここまで送ってくださりありがとうごさいます」
そう感謝の言葉を述べ、恭しく頭を下げるミルフェール。
そして、顔をあげると、さらに言葉を続けた。
「このご恩は一生忘れません。もし、またこの国に訪れる機会がありましたら、会いに来てくださると娘も喜びます。
その際は、もちろん心からのおもてなしをさせていただきます。本当にありがとうございました」
そして、もう一度ミルフェールは頭を下げた。
そんなミルフェールの姿に、ナナシは首を横に振り、軽い口調で答える。
「いやいや、関わる人も関わらない人も全てを笑顔にするのが道化師の仕事だから。
これぐらいのことは感謝されることじゃない。当たり前のことさ」
「ふふっ、それは素晴らしい仕事ですね。
ですが、もう少し素直に感謝を受け取ってくれても、述べた側としては嬉しいものですよ」
「......なるほど、それもそうか。なら、あなたの感謝をしかとこの胸に」
その言葉を最後に、ナナシとミルフェールの言葉は終わる。
ナナシはサッと背中を向け、玄関のドアノブに手をかけると、背中越しに「それでは、またの機会に」と言って外へ出た。
その後ろを、ミュウリン、レイモンド、ゴエモンも続き、それぞれミルフェールに簡単な挨拶だけ残して同じく外へ出る。
すると、四人はすぐに家の壁に寄りかかるヒナリータの存在に気付いた。
先程までは恥ずかしがって外に出ていたはずのヒナリータであるが、今は今にも溢れ出そうな涙を我慢し、地面を見つめている。
「ヒナちゃん.....」
「待って」
何かを察したミュウリンは声をかけようとするが、それを止めるようにヒナリータは言葉を投げかけた。
そして、両手をギュッと握ると、壁から背中を離し、ナナシ達向き合う。
そんな少女の目は、もはやただ姉達に守られてるだけの存在の時とは違った。
家路に着くまでの間で、たくさんのものを見て、聞いて、触れて、時には戦った。
嬉しいことや楽しいこともあれば、悲しいことも辛いこともあった。
それら全ての経験を得たヒナリータの顔は、同年代の子と比べても大人びている。
例えるなら、未だ周りが親鳥から餌を貰う雛である中、たった一匹だけは早くも空を飛び出そうとしているような。
もちろん、飛び出しはしない。ヒナリータもそのぐらい理解している。
自分の弱さも、脆さも、何もかも。しかし、それをそのままにしておくつもりも毛頭ない。
目の前にいる四人はいつか辿り着くための目印。
そして、辿り着いた時、また一緒に冒険できるように。
また、今度こそこの秘めた想いを伝えられるように。
故に、伝える言葉はたった一言でいい。
「......行ってらっしゃい!」
その言葉に、あらゆる気持ちが詰まった言葉に、ナナシ達は笑って返事した。
「「「「行ってきます」」」」
―――数日後
馬車なら数日とかかる獣王国バントリオンからハイエス聖王国までの道のりを、三日で制覇したナナシ達は、すぐさま聖都マグストタットの教会本部にいる聖女に会いに行った。
「おっす、シル久しぶり」
ナナシは聖女シルヴァニアに会うなり、まるでコンビニ帰りにたまたま会った同級生に声をかけるような軽さでもって声をかけた。
そんなあまりの軽さ、そして不敬さ、加えて一緒にいるレイモンドの存在、魔族ミュウリンの存在とで、シルヴァニアの周りにいるシスター達はザワザワと騒ぎ始める。
そんな中、シルヴァニアは久々に帰って来た友人に大きくため息を吐いた。
場所は移動して、教会の応接室。
シルヴァニアに対し、向かい合うようにナナシとミュウリンが座り、その後ろにレイモンドとゴエモンが立つ。
そして、最初に口火を切ったのはシルヴァニアだ。
「なんというか、驚きを通り越して呆れって感じですよ。
まぁ、生きてることは信じてたし、結局驚かなかったと思いますけどね?
それに、急に魔族を保護するとかなんとかの手紙を出してきたし」
「それに関しては本当に助かったよ。俺達だって戦いを望んでたわけじゃないしね。
とはいえ、実際に顔を合わせるのは数年ぶりなんだから、号泣するぐらい欲しかったな」
「.......なんか、本当にあのかつてのアイトさんなんですか?
最初の気軽な愛称呼びもそうでしたけど、まさかあの硬派のバカ真面目のアイトさんがこんなフランクになるなって......うぅ、アイトさんも成長できるんですね。あ、ちょっと涙が......」
「ちょっとちょっと? 俺が望んでたお涙頂戴ってそういう事じゃないんだけど?」
シルヴァニアはホロホロとウソ泣きを始め、その姿を見たナナシは「結局泣いてないんかい」とツッコむ。
すると、ウソ泣きを止めたシルヴァニアは一つ息を吐き、僅かに口角を上げると、改めてナナシに向かって言った。
「勇者様、お帰りなさい。再び会えることを心よりお待ちしてました」
「あぁ、ただいま。そして、迷惑とか心配とか諸々かけてごめん」
ナナシは頭を下げ、シルヴァニアに謝罪した。
そんなナナシの姿を見ながら、シルヴァニアは満面の笑みを浮かべ――
「はい、許しません」
「シルヴァニア.........ん? 聞き間違いかな。今、許さないって言った?」
ナナシは頭を下げた状態で、顔だけ上げてシルヴァニアを見る。
そして、聞き返せば、シルヴァニアはさらっと肯定した。
「はい、言いましたね」
「なんで!?」
「むしろ、あれだけの心配と迷惑をかけて、あまつさえ名前も姿も偽った状態でさらに私に対する無茶ぶりの数々。
なんで、帰って来た感動とさっきの謝罪ごときで清算できると思ったのですか?」
「......」
ぽかーんと口を開けるナナシ。
てっきりこのまま感動的な話が進むかと思いきや、その願いはあっさり断ち切られた。
それどころか、帰りが遅い夫に刃物を向けるような昔に居そうな鬼嫁のような態度でもって、ナナシを正面から論破する。
この展開は毛ほども予想してなかったナナシは、すぐさま助けを求めるようにミュウリンを見る。
すると、ミュウリンは――
「ボクも聖女様の立場なら同じこと思うから、ナナシさんの擁護はできないかな」
「そ、そんな!?」
ナナシが次に見たのはレイモンドだ。だが――
「行っとくがここまで付き合ったオレですら、お前のことを全て許したわけじゃないからな。
色々あったことは察するが、それはそれ。ってことで、諦めろ」
「ご、ゴエモンはわかってくれるよな?」
ナナシは最後の希望を見出すように、背後に立つゴエモンを見る。
しかし、腕を組んでいるゴエモンの顔は渋く、瞑目しながら答えた。
「ノーコメントだ。だが、これでナナシも理解しただろ。
身内の女を本気で怒らせるのはヤバいって。
正直、俺だってザクロを探すために何年も家をほっぽってる立場だからな。あぁ。帰りづれぇ」
「.......」
ゴエモンの顔から如実に表れる苦悩しわ。
あのゴエモンですらたった一人の身内にこれほど肩身の狭い思いをしている。
では、それが三倍のナナシはどうか。もはや語るべくもない。
ナナシはついに言葉も出さなくなり、怒られるのを待つ子供のようにプルプル震え始めた。
そんなナナシを見て、シルヴァニアは「本当に変わりましたね」と呟くと、自ら作り出した空気に終止符をつける。
「ま、またあとでたっぷりとお説教タイムと行きましょう」
「出来れば二度と来ないことを願う」
「それはそれとして、もうすでに私の耳にも入ってますよ――獣王国で起きたこと。
とはいえ、詳しいことはまだわかりません。ですので、聞かせてくれませんか?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)