第171話 これからやるべき事
時は経過し、夜の時間のとある隠れ家。
そこにはベッドに座るハイネ、そばで椅子に座るザクロ、その他ザクロの仲間達の姿があった。
また、彼らと話をするためにナナシ、ミュウリン、ゴエモンの三人もいる。
「あれ? あの漢気のある女性は?」
最初に口火を切ったのはザクロだ。
ザクロはこの場にいないレイモンドのことを尋ねると、その質問に「お前、それ本人の前で絶対言うなよ」と苦言を呈したゴエモンが答えた。
「レイモンドは今王城にいる。一応、現存する勇者一味だしな。
具体的に何してるかは知らないが.......ナナシは何してると思う?」
「まぁ、大方は事情聴取とかだろうけど。
後は他国への救難信号を出して支援を求めてるとかかな。
そう考えると、この場に長居するのは君達にとってデメリットでしかない。
僕達は僕達でさっさと用件を済ませようか」
ナナシは話の流れをさっさと本題へ移すと、早速知っていることをしゃべり始めた。
その内容は主に魔神に関してだ。
これまでのナナシ達の旅は、何かと魔神による襲撃を受けていた。
もちろん、人造魔神であり、それらはミュウリン、レイモンド、ナナシの手によって大きな被害が出る前に対処してきた。
しかし、今回は明らかな大きな被害を出してしまった。
加えて、ナナシは魔族がこれから大きなことをしようとしているのを知っている。
獣王国の地下祭壇の話だ。とはいえ、そのことに関しては、ナナシは話すことはしなかった。
「――というわけだ。これが俺の話している全て。
こういう言い方は良くないかもだけど、ハイネさんはしばらく魔族の過激派連中に加担してたんだよね? そん時に彼らから何か聞いてたりしない?」
ナナシが尋ねると、ハイネはゆっくり首を横に振った。
「私は魔神を復活させるとしか......詳しいことは何も。
せっかく助けてもらったのに、何の見返りも出来ず申し訳ない」
「いいよいいよ。上層部だけで結託して、末端は使い捨てるために極秘情報は流さないなんてことはザラにあることだし」
「そうだね......私は研究員でありながらこんな末路なのだから。
だけど、それでも何か私が気付いてない情報があるかもしれない。
ナナシさんは聡明な人物と思われる。だから、少し話させてくれない?」
そして、ハイネはこれまで自分がやっていた研究の話を始めた。
その話を全て聞き終えたナナシは腕を組むと、自分の情報やこれまでの状況を鑑みて現状を整理した。
「つまり、俺とハイネさんの話をまとめると、一部の魔族は偽神薬を作成し、古の魔神の復活を目論んでいる。
加えて、今回の襲撃で魔神の数が多かった点から、戦力増強を謀っている可能性もある、と」
「それだけ聞いてると、魔族は再び大戦を引き起こしたいみたいだな。
聞いてるぜ。地獄みたいな状況が数年と続いて、人口が激減したってな。
それが今度は偽物とはいえ神が相手となりゃ......情けねぇ話だけど、勝てる気がしない」
ナナシの言葉に、ゴエモンは腰に手を当て、弱音を吐きながらため息を吐いた。
その言葉に同意するようにザクロも続いた。
「今回、俺とゴエモンの二人で相手したのがハイネだったから良かったものの、全く知らねぇ魔神だったらやばかった。
ゴエモンも防戦一方だったし、隙を突いて攻撃しても傷一つつきやしない。
知ってると思うが、ゴエモンは相当の手練れだ。そいつがそうなるってことは......正直、コイツよりも下をどれだけ集めようと犬死させるだけだ」
つまり、ザクロが言いたいのは、このままでは魔族に蹂躙されて世界が終わるといいことだ。
魔王の弔い合戦のつもりなのかどうかは定かではないが、残された時間が少ないのは確か。
しかし、解決策が見つからない。故に、ザクロは腕を組み、悩み続ける。
ザクロの言葉に、しばらく全員がだんまりしていると、ハイネはミュウリンの姿をチラッと見ては、僅かに開けた口を閉じたり開いたり。
そして、意を決してミュウリンに話しかけた。
「話を脱線させて申し訳ないのだけど、今更ながらミュウリン様はどうしてここに?
あの時はミュウリン様の姿に動揺して聞けなかったのですが、ここにいるのは危険ではないのですか?」
ハイネが聞きたいのは、人魔大戦終結後に未だ人類の魔族に対する恨み辛みが残っている状態で、魔族の、それも王女が人類圏で堂々としているのは危ないということだ。
いくら魔王の娘で数多の魔族や人類よりも圧倒的強者とはいえ、地雷原の上でタップダンスするような行動はあまりにも軽率すぎる。
そんな質問に、ミュウリンは相変わらずのほほんとした様子で答えた。
「大丈夫なんだよね~これが。今は勇者パーティの庇護下もとい監視下のもとで行動してるから。
それに、ボクは目的として人類と魔族の共生の夢を掲げている。
であれば、影響力の強いボクが率先して動かないと、多くの意見に主張を届けられないよね?」
「それは......そうですが.......」
ハイネは眉をひそめ、渋い顔をする。
そんなハイネに、ミュウリンはそっと近づき、両手を取った。
そして、向けるはニッコリスマイル。
「何事もリスクはつきものだよ、ハイネちゃん。
それこそより大きなことをしようとすれば、当然リスクも大きくなる。
だけど、それに臆してちゃ何も変わらない。だから、ボクは変えるために臆さない」
「なんという強靭なメンタル......さすが魔王様の娘......感服いたします」
ハイネはミュウリンの目を、尊敬の眼差しで見た。
年齢的にはハイネの方が上であるが、もはやそこに年齢差は関係ない。
王の器......それを感じ取ったからこそ、ハイネは感動したのだ。
そんな二人の一方で、話にひと段落ついたのを見計らってゴエモンがしゃべり始めた。
「ともかく、だ。現状、色々問題が山積みな状況で、ヤベーことが起きそうなのは確かだ。
そんな不味い状況ならば、取り急ぎ聖王国にいる聖女とやらに伝えた方がいいんじゃないか?」
「確かに、ゴエモンの言う通りかもな。聖女は女神教の頂点に位置し、唯一神通力が使える人物だ。
最悪、女神からの適切なアドバイスを受けられるかもしれないしな」
そう言うと、ナナシはパンと一回手を叩き、そこで今回の話に区切りをつけた。
「んじゃ、俺達は明日にでも早々に出発するとしよう。
ってことで、ザクロ、ハイネさん、それから他の皆さんも元気でな。
ただし、ちゃんと罪は償う事いいね?」
その言葉にザクロとハイネは頷いた。
「あぁ、当然だ」
「私の研究は医学にも通ずるところがある。だから、今度はその力で多くの人を助けて見せるよ」
「よし。それじゃ、今日は解散。良い夢を!」
ナナシは元気よく別れを告げて出ていき、その後ろにミュウリンとゴエモンが続いた。
そして、隠れ家からある程度距離が取れたところで、ゴエモンは改めてナナシに感謝した。
「ナナシ、今回はありがとな」
「ん? 何が?」
「何がって......ザクロやハイネさん、他の皆もだけど、助けてくれたことさ。
普通は、国でこんなことをしたなら、国家転覆罪で極刑ものだ。
例え、やむを得ぬ事情があったとはいえ、この罪は消えることはない」
ゴエモンはそっと目線を下に向ける。
「理屈じゃわかってるんだ。赤の他人なら極刑になろうと自業自得だってな。
けど......けどさ、相手が親友だとわかったら、途端に感情的になっちまってよ。
死んでほしくねぇって思っちまった。
悪いことをしたけど、情状酌量の余地はあんじゃねぇかって」
「そう思うことはいいことだよ。友を大切に出来てるってことだ。
けど、感情が優先されれば、そこはもう法もルールもない無法地帯になる。
だから、然るべき罰を受ける.......本来はな」
ナナシはくるっと回転すると、後ろ向きに歩きながら話を続けた。
「けど、更生の余地があるなら、俺はその希望にかけたい。
それに、幸いにも彼らは全員誰も殺しはしてないわけだからな。
ま、殺しをさせる前に眠らせたってのが正しいんだけど」
「ナナシ......」
ゴエモンはピタッと歩みを止め、真っ直ぐナナシを見た。
そして、丁寧な所作でしゃがみ、正座すると、最終的に土下座した。
「本当にありがとう。この恩は一生忘れねぇ」
「大袈裟だな。俺はゴエモンの友達、ならゴエモンの友達も友達さ。助けるのは当たり前。
それに俺も人類では勇者と呼ばれる人間だけど、魔族からすれば殺戮者だ。
そんな俺がこんなのうのうと生きてるんだから、彼らの方がまだ救いがある」
「ナナシさん.......んっ」
ミュウリンがナナシの方を向けば、ナナシにくしゃっと頭を雑に撫でられながら押さえつけられる。
その行動はまるでミュウリンに顔を見られたくないようであった。
「よし、それじゃ帰ろう! レイも待ってるだろうしね」
そして、再びくるっと回転し動き出すナナシの後ろ姿を、ゴエモンとミュウリンはそれぞれ違う面持ちで見つめた。
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