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第170話 僅かなヒビ

「おーい、ゴエモーン!」


 ナナシ達はゴエモンがいるだろう場所に移動すると、案の定姿を発見した。

 そして、ナナシが大手を振って存在をアピールしていると、すぐに強大な魔力気付く。


「ナナシ、か。ようやく来てくれたか」


「悪い悪い。待たせちまったみたいだな。

 それはそうと、そちらの二人はどうしたんだ?

 ザクロと一緒に魔神が一緒くたに縛れてるように見えるけど」


「あーこれな。実は――」


 ゴエモンはナナシ達にザックリとした事情を説明した。


「......なるほどな。ザクロ、君には正直色々と聞きたいことがあるが、今はそれは置いておこう。

 それから、君といた仲間だが、全員無事だ。といっても、眠らせてあるけどな。

 だから、起き次第君から事情を説明してやって欲しい」


 ナナシがそう言うと、ザクロは眉尻を下げ、目線を下に落とした。

 まさにバツが悪いという言葉を体現した表情で、ナナシに聞く。


「どうして......殺さなかったんだ? 俺達だってやったことがどういうことか理解している。

 他人の命を犠牲にしてまで、俺達は俺達が救いたい命のために命を張った。

 殺すんだから当然殺される覚悟も出来てる。ま、俺はこの体たらくだけどな」


 ザクロのやったことは、例え脅されていたとしても許されざれる罪だ。

 それはザクロ自身も理解していることであり、だからこそナナシの言葉が理解できなかった。

 それに対し、ナナシは腕を組むと、自信満々に言った。


「それは俺が道化師だからさ!」


「......は?」


 ザクロはナナシを見て、すぐに首を傾げた。

 そんな視線を気にすることなく、ナナシは言葉を続ける。


「道化師は言わば逆張り的存在なのさ。

 つまり、死にたがってる人がいれば、道化師としては死なせられない」


「それじゃ、生きたがったなら?」


「当然、生かすさ。道化師は都合のいい嘘つきだから。

 それに、俺には宴会の顔見知りの相手を殺すなんざできない。

 ってことで、生かされて勝手に罪悪感で苦しめ」


 ナナシは指をビシッと向け、ザクロに言い放った。

 同時に、ナナシの横ではミュウリンがその言葉に反応し、ナナシの顔を見る。

 ミュウリンはさっきの気まずさが嘘のように、笑みを浮かべた。


「ははっ、勝手に生きて苦しめ、か......そうだな。

 ここで死ぬ方が言わば向き合ってきた命への逃避になるもんな。

 わかった。勝者の意見に従う。それから、仲間達のことは恩に着る」


「お礼なんて言われるまでもないさ」


 ナナシは嬉しそうに、鼻の下を指を横にして擦った。

 そして、ナナシとザクロの会話がひと段落着いたところで、ゴエモンはナナシに声をかける。


「ナナシ、ハイネさんを魔神の状態から人間に戻すことは可能か?」


「問題ナッシング。なんたって俺は凄いからね」


「相変わらずだな。ぜひ頼む」


 ナナシは魔神ハイネに手をかざすと、手のひらに魔法陣を出現させた。

 そして、<神聖浄化>を使い、ハイネの体を浄化する。

 直後、ハイネの体からは黒い煙が排出され、それに合わせて元の人間の姿が現れる。


「よし、これで終わり。もう縄は解いていいよ。

 にしても、まさか角無し魔族だったとは......」


 魔神を浄化して現れた姿に、ナナシは意外そうな顔をした。

 その一方では、拘束から解放されたザクロが、そっとハイネの体を抱き寄せる。

 ハイネの胸が上下していることに気付けば、ザクロは嗚咽混じりに泣き始めた。


「良かった......良かったよぉ......」


 ザクロの目からは大量の雨粒が降ったように、涙が溢れ落ちた。

 その涙が頬を伝い、顎先へまで来ると、いくつか集まった雫が真下に落ちた。


 その雫はハイネの頬にピチョンと落ちれば、王子様のキスで目覚めるお姫様のように、ハイネは瞼を震わせ、ゆっくりと目を開けた。


 ハイネはぼんやりとした視界の中、泣きじゃくる成人男性を見つけた。

 瞬間、おもむろに手を上げ、頬に触れさせると、親指で涙を拭う。

 加えて、泣いている人をあやすような言葉つきで。


「......どうしたの? 泣いちゃってる......怖いことでもあった?

 大丈夫、私がそばにいて守ってあげるから。もう安心だよ。

 だから、悲しいことも寂しいことも何もないよ」


 ハイネは両腕でザクロの頭を絡めとると、そっと胸に引き寄せる。

 その姿はまるで母親が一緒に寝ることども優しく抱きしめるようであった。


 そんな行動をしていると、次第に視界が晴れて安定してきたハイネ。

 今の自分が置かれている状況を理解するために周囲を確認すれば、とある人物で目が留まった。

 そして、驚きは言葉になって表れる。


「え......あれ? ミュウリン様?」


 ハイネがミュウリンを見た瞬間、思考が一瞬フリーズ。

 なぜなら、ミュウリンは倒されたとはいえ現代魔王の娘だ。

 つまり、現存する王族の中でもっとも偉く、高貴な人なのである。

 そんな前で醜態を晒してしまっている。それはハイネにとって恥であった。


「どいて!」


「ぐへぇ!?」


 ハイネは泣いているザクロを突き飛ばし、すぐさまミュウリンの前で跪く。

 その隣では、今この瞬間別の意味で泣いているザクロの横たわった姿があった。


「ミュウリン様、お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません。

 私はハイネ=スタッカードと申します。以後、お見知りおければ幸いです」


 ザクロの様子などお構いなしに、ハイネはミュウリンに挨拶を済ませる。

 そんな畏まった挨拶に対し、ミュウリンは軽い調子で返答した。


「いいよいいよ、今はもうそんなんじゃないしさ~。

 それよりも病み上がりでしょ? さっき凄い姿だったからね。

 というわけで、ハイネちゃんは大人しくしているよーに」


「ハイネちゃんなど、そのような呼ばれ方は恐れ多いです。

 しかし、お気遣いありがとうございます。

 ご命令とあらば全力で休み、一日で治して見せます」


「......」


 ザクロはハイネのよそいきの姿を見て、目が点になった。

 これまで一緒に過ごしてきた中でそんな姿一度も見たことないぞ、と。

 故に、ザクロはここで知る。ハイネがミュウリンガチ勢ということを。


 その時、注目を集めるように、ナナシはパンパンと手を叩く。

 そして、全員の視線が集まった所で、口火を切った。


「よし、とりあえず、今は街の復興や怪我人の手当てなどに注力しよう。詳しい話はそれから。

 後、ザクロはちゃんと仲間達を集め、それからハイネさんを安静にさせること。いいね?」


 ナナシの言葉に、ザクロはサッと姿勢を正し、涙を拭って返答した。


「あぁ、わかった。迷惑かけてすまなかった。

 皆を説得して、これから必ずこのしでかしたことの償いはする」


「うん、頑張ってくれ。また落ち着いたころに俺達はハイネさんを尋ねるとするよ。

 場所はゴエモンにでも伝えておいてくれ。それじゃ、解散」


 ナナシは一回だけ手を叩き、それを合図に全員が動き始める。

 その流れにナナシも乗ろうとした矢先、ミュウリンに手を掴まれた。

 その行動に、ナナシは振り返る。


「ミュウリン、どうしたんだい?」


「いや.......その、やっぱ無理してないかなって......」


 先のナナシの言葉が、過去に自分が言ったことを真似しているような言葉に嬉しくなったミュウリンであったが、やはりナナシと再会した時の空気感が気になった。


 それを確かめるか迷っていれば、体が勝手に確かめるように行動していた。

 だから、ミュウリンは仕方なく聞いたわけであるが、その言葉を受けたナナシは――


「大丈夫。何もないよ」


 その場にしゃがみ込み、ミュウリンを下から見上げた。

 その顔は笑っていた。


「嘘じゃないよね?」


 しかし、ミュウリンはなぜかこの時ばかりは聞き返す。

 いつもなら信じて話が終わるはずなのに。

 すると、ナナシは立ち上がって、ミュウリンの頭を雑に撫でた。


「気にしいだな。大丈夫だよ。さ、行こう」


 ナナシは颯爽と歩き出す。

 その後ろ姿を見ながら、ミュウリンは――


「うんとは言ってくれないんだね」


 そう呟いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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