第167話 城の地下に潜む者#1
ゴエモンはザクロを一緒くたにすることで魔神ハイネを確保することに成功した。
これでハイネがもう暴れることはない。
後はハイネを直せる可能性があるナナシを待つだけ。
一方で、ザクロはこの状況が分かっていないのか、首を傾げ続ける。
どうしてハイネが暴れないのかわかっていないという様子だ。
仕舞には、そのことをゴエモンに尋ねた。
「なぁ、何でハイネは止まったんだ?」
「ハァ、お前はわかんねぇのか? どうしようもねぇ奴だな」
ザクロの言葉に、ゴエモンは変顔するかのように呆れ顔を見せた。
そして、鈍感な親友にため息を吐くと、ハイネを見ながらしゃべり始める。
「ハイネさんは見た目が変わろうとも、中身は変わってなかったってことさ。
この人は俺とお前とで戦い方がまるで違った。
俺に対しては容赦なく殺そうとしてくるのに対し、お前には必ず投げ技だった」
ゴエモンは数分前の戦いのことを思い出す。
ハイネが理性を失っているとすれば、止めるために攻撃してきたザクロを殺すタイミングなどいくらでもあった。
しかし、それをしなかったということは、ハイネはザクロを認識していたことになる。
「もちろん、最初は気のせいかと思ったさ。
だが、二回も同じ行動が続けば、そうじゃないかって気持ちの方が強くなる。
んで、極めつけがお前を盾にした時に攻撃を止めたこと。
要するに、ハイネさんからすりゃ、お前を守るために敵である俺を排除しようとしたってことさ。泣ける話じゃねぇか」
「な、なるほど......そうだったのか」
ゴエモンの説明により、ザクロは理解したように頷いた。
そして、そのことが嬉しそうに口の端を緩める。
しかし、すぐに周囲にいる魔物が視界の端にはいると、笑うのをやめ、ゴエモンに聞いた。
「で、これからどうすんだ? 俺は見ての通り動けないぞ」
「それなぁ、幸い魔神のオーラの影響かなんかわからないけど、魔物は近づいてこない。
が、魔物以外にも敵がいれば別だ。ハイネさんのような魔神が一体とも限らない」
ゴエモンは腕を組み、眉にしわ寄せて瞑目すると、困窮する状況にため息を吐いた。
「とはいえ、このまま放置しておくこともできねぇしな。
なんらかの原因でハイネさんが解放されたら不味いし。
捕まえようにもさっきと同じ手が通じるとおも思えないしな」
一応捕まえる際の他の策も考えてみるが、ゴエモンは今以上の最適解が見つからなかった。
加えて、元悪ガキゴエモンは悪知恵が働いても、こういう作戦を作るような頭を使うことには向いていない。
結果、考えることを止めた。
「ハァ、申し訳ねぇけど、とりあえず見える範囲の魔物は相当するが、残りは他の連中に任せるしかねぇな。
あれだけの魔法陣を空中に作り出したんだ。他の冒険者も気づいて街に戻ってきてるかもしれねぇし」
「そうか。俺はこんな身だし、お前がそう決めたならそういう方針に任せる。
それはそうと、ナナシって奴は強いと聞いてたが、それでも向かった先に、ここと同じように魔神がいたら大変だ。大丈夫そうなのか?」
「あぁ、それに関しては問題ない。アイツは特別製だから」
とはいえ、ゴエモンも仲間として信頼していても気にならないわけではない。
ゴエモンは空を見上げると、ボソッと呟く。
「アイツは今頃なにしてんだか」
******
―――少し時は遡り
丁度、ゴエモンがザクロと戦闘を始めた頃、ナナシは城の中に入っていた。
城のエントランスホールに入れば、転がっていたのはメイドや執事、兵士らしき死体の数々。
相当強い敵が城内に侵入したのか、魔物の死体は一つもなかった。
その光景に、ナナシは両手を合わせた。
ナナシは元勇者であるが、神のように万能な存在じゃない。
失った左腕や両目を取り戻せないように、死んだ人を蘇生させることはできない。
だから、できることは死後の冥福を祈ることだけ。
「これはまた暴れちゃって」
変わっているのは死体があることだけじゃない。
所々破壊されたようなオブジェクトが至る所に存在していた。
例えば、一部狭く深く凹んだ壁だったり、クレーターが出来た中央階段だったり、バキバキに割れて地に伏すシャンデリアだったり。
それから察するに、その敵は高い機動力を持ち、なおかつ怪力だったのだろう。
そう、言うなれば、ブースターを搭載したゴリラのような――
「グガアアァァ!」
その時、二階の物陰からキランと目が光り、二つの赤い光が尾を引きながら、大きな影がナナシに迫った。
「う~ん、ナル〇クルガかな?」
特徴的な目の光を見たナナシは、かつての好きだったゲームに想いを馳せながら、人型をした影の拳を顔面で受ける。
「グガ......っ!?」
ナナシに攻撃を当てたことに、人型の影もとい魔神は醜い笑みを浮かべた。
しかし、すぐにそれが通じていないことがわかると、目を剥いた表情をする。
一方で、ナナシは死角のない魔力による視界から冷静に魔神を分析していた。
「人型か。しかも小型......これは前に会ったフェズマという人物が何かしたのか?
もしくは、似たような研究者による改良版か。
攻撃力は以前より少し下がっているが、それでも小型化した分で上がった機動力は厄介だな」
ナナシは魔神の顔面を裏拳で殴り飛ばす。
魔神はあっという間に吹き飛び、上半身がズガッと壁に刺さった。
「ま、それでも俺の相手じゃないけど。後でまとめて直してあげるから、しばらくそこでお眠り」
ナナシは魔神から視線を外すと、今度は天井方向に移動させる。
「他にもお仲間さんが居そうだね。ちょっくら挨拶しに行ってきますか」
ナナシはポケットに手を突っ込むと、優雅に二階に続く中央階段に向かって歩き出した。
それから数分後、ナナシはエントランスホールへ戻って来た。
そして、周囲の地面には最初に襲ってきた魔神と同じ存在が数体。
「髪型や髪の毛の色で多少の差別化ができるな。
ってことは、やっぱこの被検体は人間......いくら魔神の血を取り込もうとも、もともとの肉体は神に認められたことにより変質した器じゃない
どれだけ取り込もうとも、出来上がるのは邪悪な怪物さ」
ナナシは両手を広げる。そして、下に向けた両手の平に魔法陣を作り出した。
「神聖浄化」
ナナシは<浄化系>の魔法でも最上位の魔法を行使した。
それは本来神によって呪われた呪物を浄化する際のもので、人間相手に行使するためじゃない。
しかし、それを使うということは、魔神化した人間はそれほどまでの呪いを受けていることを意味する。
「過ぎたる力を持つということは、それは一種の呪いだからね。
それこそ魔神の血なんてもってのほかだろ。もうその苦しみを味わうことはない」
ナナシの両手から光の粒子が舞い落ちる。
それは魔神の体を包み込むと発光し、体からは呪いが抜けるように黒い煙が排出された。
同時に、魔神の肉体が元の人間の形に戻っていく。
「これでよし。うん、イケメンや美人さんばっかりだ。妬けるねぇ」
ナナシは彼らを風魔法で浮かすと、近くの壁の方へ移動させ座らせた。
「魔神は治したでしょ? 助けられた王族はベッドに眠らせてるでしょ?
亡くなった方達は、身元判別のためにあえて残すべきだし.....うん、これで全部かな」
出来ることを全てを助け終えると、最初から気づきあえて放置していた最後の仕事に取り掛かる。
それはこの城の地下らしき場所から感じる強烈な魔力。
そこには恐らく魔神とは比較にならないとんでもない奴がいる。
「さて、そろそろ向かいますか」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)




