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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第5章 獣王国襲撃

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第161話 家族との再会

 ナナシが女性陣と一つのベッドで寝た翌日。

 ナナシ達はヒナリータの家にやってきていた。

 ヒナリータの家はスラム街に近い少し閑散とした場所にあり、その地区の住人が不思議そうな顔で彼らを見る。


「ヒナちゃん、行くよ?」


 ナナシはヒナリータに声をかけた。

 すると、コクリと頷くヒナリータ。

 そんな顔には喜びと不安が入り混じったような表情だ。


 彼女の反応も当然のものだろう。

 小さい女の子が長い間行方不明となれば死んでいると思われてもおかしくない。

 加えて、この世界では人がある日突然いなくなるということは日常茶飯事だ。


 また、子供にとって親に迷惑をかけるというのは非常に恥ずかしい行為なのだ。

 単純に悪い行いを怒られるのが嫌だったり、親に心配させるのが嫌だったり。

 ヒナリータの顔にはその気持ちが浮かんでいる。


「大丈夫」


 ナナシはヒナリータの肩にそっと手を置く。

 すると、俯ていたヒナリータの顔がナナシの方に向いたので、ナナシはニコッと笑う。

 そこにそれ以上の言葉はなかったが、それだけでナナシの言わんとすることはヒナリータに伝わったようだ。


「うん」


 ヒナリータは小さく深呼吸をする。

 そして、両手で頬を強く叩き、顔をシャキッと前向きにさせる。

 それを確認したナナシは目の前のドアをノックした。

 コンコンコンと木製の扉から音が三回なる。


「はーい、どちらさまでしょうか?」


「どうもどうも、初めまして。俺はナナシというしがない道化師でございます。

 そして、実はあなた様にお届け物ならぬお届け人がいましてね。そちらをご覧になって欲しいのです」


「お届け人?」


 ヒナリータの母親――ミルフェールは首を傾げた。

 しかし、すぐに何かを思い出したように顔をハッとさせる。

 ナナシはその反応を見てそっと身を引き、代わりに後ろにいたヒナリータの背中を押した。

 それによって前にでたヒナリータは緊張した様子でもじもじとしながら、そっと顔を上げた。


「.......ただいま」


「ヒナ......ちゃん? ヒナちゃん!」


 ミルフェールはすぐさましゃがみ、ヒナリータを抱きしめた。

 そして、ミルフェールは泣き始める。

 その母親の感情がヒナリータに伝わったのか同調するように泣いた。

 親子の鳴き声がユニゾンし、それがその場一体に響き渡る。


 数分後、落ち着いたミルフェールによってナナシ達は家に招かれる。

 小さなリビングにある机は四人掛けのものであり、ミルフェールとヒナリータ親子の目の前にナナシとミュウリンが座った。

 その彼らの後ろにレイモンドとゴエモンが立つ。


 最初に口火を切ったのはミルフェールだ。


「娘を助けてくださり、そしてここまで送ってくださり本当にありがとうございます。

 この恩に何をして報いればいいのかよくわかりませんが、それでもこの人生持てる全てを持ってお礼をさせていただきます」


「いえいえ、そんな覚悟を持ってもらうことの程ではないですよ。

 このぐらい俺達にとっては朝飯前なので、気にしなくて結構です」


「ボクたちは当たり前のことをしただけだからね」


 ナナシとミュウリンは謙遜したように発言する。

 いや、実際二人にとっては本当に大したことではないのかもしれない。

 その恩人の言葉にミルフェールは渋々といった様子で頷いた。


「そう、ですか.......であれば、これ以上の言葉はかえって失礼になりますね。

 では、せめてのお礼としてお昼ごはんぐらいはごちそうさせてください」


 その提案にナナシは「それぐらいなら」と受け入れた。

 そんな具合で前置きの話が済むと、ミルフェールは話を切り出した。


「あの、できればでいいので娘がいなくなった経緯を教えてくださいませんか?」


 その言葉にナナシは隣にいるミュウリンと顔を見合わせる。

 すると、レイモンドがミルフェールに声をかけた。


「それは互いにとっても何の得にもならねぇ話だぜ?

 それに興味本位で聞きたいだけなら、それはヒナのトラウマを抉る行為だ。

 オレ達にとってもヒナは仲間だ。傷つける話なんざ簡単にできるわけねぇ」


「わかっています。ですが、聞いておきたいのです。

 娘が背負った重い過去を知らずに、自分一人だけのうのうと生きていくことはできません。

 母親であるからこそ娘のことはしっかりと知っておきたいのです。

 ですから、どうかお願いします!」


 ミルフェールはナナシ達に深々と頭を下げた。

 その態度から彼女の真剣さがナナシ達に伝わっていく。

 しかし、レイモンドは態度を変えず、その言葉の向きを指摘した。


「......だとしたら、聞く相手が違げぇ。

 オレ達はヒナの許可なしに勝手に話すことはできない。

 聞きたいなら例え親子であろうとも筋は通せ」


「っ!......そう、ですね」


 ミルフェールはレイモンドの言葉にハッとし、視線を隣にいるヒナリータに向ける。

 ヒナリータの体はトラウマを思い出したように小刻みに震えていた。

 その手にミルフェールは自身の手を重ねていく。


「ヒナちゃん、どうか聞かせて。私は何もできなかった愚かな母親だった。

 けれど、ヒナちゃんの過去に無責任でいられるほど愚かでいたくないの。だから、お願い」


 ミルフェールはヒナリータに頭を下げる。

 その誠心誠意の気持ちが伝わったのかヒナリータは「わかった」と返事をし、ゆっくりと自分の過去について話始めた。


 ヒナリータの口からは当時の感情がダイレクトに溢れ出た。

 その時の恐怖、辛さ、苦しさ、飢えはヒナリータの体に仕草となって現れる。

 声のトーン、体や声の震えなどがヒナリータから溢れ出る。

 ミルフェールはそんな娘の話を全て聞き終えると、そっと娘を抱きしめる。


「ヒナちゃん.......生きて帰ってきてくれてありがとう」


「うん......うん!」


 ミルフェールは改めてヒナリータとの再会の喜びを嚙みしめる。

 そして、しばらくその時間が流れた後、落ち着いたミルフェールはナナシ達に体を向き直した。


「すみません、人目もはばからずに.....」


「なんのなんの、むしろ感動の再開をこの目で見れただけでもラッキーですよ。

 それに今の話じゃヒナちゃんを語るには少しだけ物足りないんですよね」


 ナナシの言葉にミルフェールは首を傾げる。


「といいますと?」


「実はヒナちゃんの成長エピソードを語るにはかかせない、とある世界での大冒険の話がありましてね」


「大冒険、ですか?」


「ナナ兄!?」


 ヒナリータはナナシの行動を察したのか暗い顔をパッと切り替え、途端に焦り始める。

 そんな彼女の顔には「嫌な予感しかしない」と書かれてあるようだった。

 しかし、ナナシはヒナリータの制止を無視してしゃべり始める。


「実はここまでくる道中にとある森で――」


「ナナ兄~~~~!」


 ナナシは道化師という設定を存分に活かし、勇者ヒナリータの活躍をこれでもかというほどに語る。

 ナナシから雄弁に語られる話に、ヒナリータは恥ずかしくなったのか顔を両手で覆った。


 そして、ナナシが全てを語り終えると、ミルフェールは感動したように拍手を送る。

 その一方で、ヒナリータは恥辱にナナシを恨みがましい涙目で見ていた。

 そんなことをしていると、時刻はあっという間に正午となり、ミルフェールは昼食を作り始める。


 昼食づくりにはヒナリータも参加し、ナナシ達が雑談していると料理が出来上がった。

 ミルフェールとヒナリータがいた位置にレイモンドとゴエモンが座り、振る舞われた料理に舌鼓を打つ。


 ナナシ達とヒナリータの別れは着実に時を刻んでいった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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