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第160話 別れの夜

「さーてやってまいりました! ヒナちゃんの故郷の~~~獣王国ドルマルド! パチパチパチ!」


 ナナシは相変わらず道化師という設定を活かしテンション高く叫ぶ。

 その態度にもはや無反応を決め込むミュウリン、レイモンド、ゴエモンの三人。

 一方で、いつもなら嫌そうに反応するヒナリータが珍しく静かであった。

 ナナシはそんなエンジェルに首を傾げる。


「あれれ~? ヒナちゃんどうしたの?

 せっかく帰ってこれたのに随分とテンション低いじゃん。どったの?」


「別に、なんでもない」


「......ま、それならいいけど」


 レイモンドは二人のギクシャクとしたやりとりをじっと眺めていた。

 しかし、それに触れることはなくナナシに質問する。


「で、これからどうすんだ?」


「そりゃもちろん、ヒナちゃんの親御さんにヒナちゃんを送り届けるのさ。それが俺達の役目だからね」


「っ!?」


 瞬間、ヒナリータの耳がピンッと立った。同時に、体がビクッと震えた。

 そして、一目散に獣王国ドルマルドの正門へと走り出した。

 すると、ミュウリンが「ヒナちゃん!」と呼んで後を追いかけ始め、「まぁそうなるよな」とレイモンドがさらに追いかけ始めた。


「いいのか? 追いかけなくて」


 ゴエモンは女性陣を見ながら隣にいるナナシに声をかける。

 その質問にナナシは苦笑いを浮かべた。


「いいんだよ、これで。俺が行っても火に油を注ぐ結果になるだけだし。

 それに多少薄情な方が別れるに丁度いいのさ......たぶんね」


「......そんな簡単な話じゃないけどな」


―――一方、その頃の女性陣


 ヒナリータは獣王国ドルマルドに入国し、大通りをただひたすらに走る。

 そんな少女を追いかけたミュウリンはやっとのことで、ヒナリータの肩を掴んだ。


「ハァハァ......意外と速い。捕まえるのに苦労した。

 それはそうと、急に走り出してどうしたの~?」


「......ない」


「ん?」


「この気持ちがわかんない! ヒナはお母さんに会いたくてここまで来たのに、今はナナ兄、ミュウ姉、レイ姉、ゴエ兄と離れたくないと思ってる! なんで、なんでこんなに苦しいの!?」


 ヒナリータは目に涙を浮かべ、肩を震わせていた。

 その姿を見てミュウリンは「少しお話ししよっか」と近くの喫茶店に誘った。

 数分後、二人は向かい合って座り、そこにレイモンドが到着したところで、ミュウリンはしゃべり始める。


「ヒナちゃん、さっき家族に会いたくて、でも私達との別れたくないって言ってたよね?

 ヒナちゃんが抱いてる気持ちね、全然変じゃないよ。

 それが正しいかどうかはボクには判断できないけど、少なくともボク達は嬉しい言葉」


 ミュウリンは机の上に乗せた両手を組む。

 そして、じっとヒナリータを見ながら言葉を続けた。


「ヒナちゃんと出会った最初の頃、ヒナちゃんは悪い大人達に捕まって酷いことされて、大人という存在を誰も信じられなくなっていた。

 それでも家族と会いたいという気持ちだけで、ボク達大人と一緒になることを我慢してここまでやってきた。

 だけど、これまでの旅でヒナちゃんの気持ちに、我慢による辛さ以外に気持ちが生まれたんだと思う」


「どんな気持ち?」


「たぶんね、大人も悪くないって気持ちかな」


 ミュウリンの言葉に、レイモンドは腕を組んでしゃべり始めた。


「単純な話だ。人間色々。悪い大人もいれば、良い大人もいる。

 ま、自信持って”オレ達は良い大人だ”なんて言える大人はオレ達にはいねぇが、少なからず良い大人であり続けようとした。

 その結果、ヒナは心を開いてくれた。それこそこんな風に思ってくれるぐらいにな」


「......ヒナはどうすればいいの?」


 その問いかけに、ミュウリンとレイモンドはすぐに答えることができなかった。

 しかし、その質問の答えを放棄することもなかった。

 少しして、最初に答えたのはミュウリンだった。


「ボクは家族と一緒にいて欲しいと思う。血の繋がりはかけがえのないものだから。

 それにヒナちゃんの親御さんもヒナちゃんにに会いたがっていると思うから」


 レイモンドは腕を組み、考えながら答えた。


「別れは辛いだろうが、生きている限りまた会える。

 もし、一人で行動しても大丈夫になった年齢になった時、そん時でもオレ達に会いたいと思ったなら会いに来い。オレ達はいつでも大歓迎だ」


 レイモンドの言葉に、ミュウリンはコクリと頷く。

 その反応にミュウリンは嬉しそうに笑った。


「それじゃあさ、今からでも思い出作らない?」


「......うん、たくさん欲しい」


 そして、三人はナナシとゴエモンと合流すると、残りの時間を全て使って過ごし始めた。

 五人はたくさん食べて、たくさん色んなものを見て、たくさん色んな話をした。

 それこそこの一日を、ヒナリータとの最後の日を一番の思い出にするように。


 そして夜の時間。ナナシとゴエモンの部屋にヒナリータがやってきた。

 ヒナリータは扉をドカッと開けるとナナシを見る。


「ど、どうしたのヒナちゃん?」


「ナナ兄、来て」


「え、どこに?」


「いいから」


 ヒナリータは有無を言わさぬ迫力でもってナナシを呼び出す。

 ナナシはチラッとゴエモンを見るが、彼は何も知らなそうに首を振るだけ。

 ナナシがヒナリータに近づけば、彼女に手を取られどこかに連れていかれる。


「えーっと、ここは......」


 ナナシはすぐに目的地に連れてこられた。

 徒歩三歩。ナナシの部屋の正面の部屋である。

 そして、そこには女性陣が止まってる部屋である。

 道化師でありながらモラルを守るナナシは立ちすくんだ。


「ヒナちゃん、なんでここに.....って有無を言わさず開けた!?」


 ヒナリータはナナシの手を引き、部屋に入る。

 当然ながら、ベッドにはミュウリンとレイモンドの姿がある。

 薄着であり、寝る準備は万全といった様子だ。


 ナナシはその状況に苦笑いした。しかし同時に、何かがおかしい。

 いつもなら何か言うはずのレイモンドがずっと静かなままだ。

 顔を真っ赤にして、体の線を隠すように両腕で隠し、基本下を向きながらも時折様子を伺うようにチラッと見る。


「えーっと、これは......? それになんでベッド一つ?」


 ナナシは困惑する頭の中でさらに困惑させることがあった。

 それがなぜか女性部屋にキングサイズのベッドが一つだけという状況。

 それが意味するのは――


「もしかして、俺、ここで寝る?」


「うん、そう。ヒナが二人を説得した。だから、何の問題も無し」


「みたいだね......え、ゴエモンは?」


「ゴエ兄は横もデカいから入ったら収まらない。ということで、お留守番」


 なんと可哀そうなゴエモンであることか。

 いや、それよりもこの状況はさすがに色々と不味いのでは?


「ナナ兄、今日、ヒナがいる最後の日。明日にはお別れ。この意味わかる?」


 ヒナリータは強い眼差しでナナシを見る。

 ナナシの額にダラダラと冷たい汗が流れ始めた。

 つまり、ヒナリータの言いたいことは――ナナ兄に拒否権はない、である。


「ヒナちゃん、ませちゃったね」


「なんとでも言え」


「......ヒナちゃん、マジ?」


「大マジ」


「「.......」」


 ヒナリータはナナシの後ろに向かい、僅かに開いていたドアを完全に閉めた。

 そして、彼女は固まったナナシの手を引くと、ベッドの前に立たせ、体を押した。

 ナナシは背中からベッドに倒れ、ファラオ像のような形になる。


 ナナシの右隣にヒナリータ、左隣にミュウリンが横になる。

 レイモンドはヒナリータの隣に寝てナナシに背を向けた。

 その状況に、俺、明日死ぬかもしれない、とナナシは思った。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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