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自称道化師の喜劇道~異世界出身のお調子者と魔族の相棒の陽気な珍道中~  作者: 夜月紅輝
第5章 獣王国襲撃

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第157話 友との語らい

「なぁ、お前はこれからどうするよ」


 そう声をかけるのは黒に近い青色の髪をした一人の男。

 長い髪を後頭部で束ねたその人物は爽やかイケメンの見た目をしており、額からは鬼人族を示す一本の角が生えている。

 また、遠くに目を移せば国が一望でき、空からは風に揺られた桜が舞い落ちる。


「どうするって何が?」


「町一番の荒くれ者が今や城お抱えの武士になったんだぜ? 友人としても鼻が高いってもんよ。

 でもさ、何事にも目標がないとやっていけねぇだろ?」


「だから、これからどうするってことか。目標を作れってことか?」


「別に無理して作れって意味じゃないけどさ。あった方がいいかなって。

 ま、今すぐ作れって話じゃねぇし、これから考えておけばよくね?」


「逆にお前はなんかあんの? 目標ってやつ」


「そうだなぁ。この町でのんびりしてるのもいいけど、俺はこの国を出てもっと世界を見てみたい――」


****


「――っ!」


 ゴエモンはパチッと目を覚ます。懐かしい夢だった。

 まだ自分が故郷にいた頃、一番の悪友と話した他愛もない会話の内容。

 これまで夢で思い出すことはなかったのに。

 ナナシ達に話したことがキッカケで思い出したのだろうか。


「確か、あの話の後って――」


 そばからパチパチと音が聞こえた。

 暖かい焚火の炎があたりを照らしている。

 時刻はまだ夜空が暗い頃。

 つまり、夜番をするために先に寝ていて、その順番が来たことを体が覚えていたようだ。


「お、起きたのかな。もう少し寝てても良かったのに」


 声をかけてきたのはミュウリンだった。

 今この時間帯は彼女が夜番をしているようだ。

 ゴエモンは起き上がると、大きくあくびする。


「そういうわけにはいかないさ。

 女に仕事を代わってもらうのは俺の気持ち的によくない。

 だから、気持ちだけ受け取っておくさ。それに懐かしい夢で目が覚めちまったしな」


「ザクロってお友達の名前?」


 その言葉にゴエモンはピクッと反応した。

 そして、頭を掻きながら恥ずかしそうに笑って答える。


「あー、もしかして寝言で言ってた?」


「聞くつもりはなかったけど、聞こえちゃったしね。

 それに午後の時間帯でゴエモンからちょっとした話も聞いたし。

 あ、でも、そこまで変なことは言ってなかったよ。

 その人の名前を呼んで、楽しそうに笑ってたぐらいだから」


「いや、それ十分に恥ずかしい奴じゃん。っていうか、寝顔なんか見てないでくれ。

 こんなひげの生えたおっさんなんて見てたって面白くないだろ」


「そんなことないよ~。大抵寝たふりするナナシさんよりかは面白いかな。

 あ、でも、ゴエモンって既婚者なんだよね。これって浮気になっちゃうのかな?」


「縁起でもねぇこと言わないでくれ。うちの嫁は怖いんだから」


 ふいに感じた身震いにゴエモンは身をすくめた。

 そして、そっと差し出した両手から焚火の熱を感じていく。


「......ザクロは俺の最高の悪友って感じだな。

 俺さ、生まれはひでぇスラム街でよ。言うなればゴミ溜めみたいな場所だったんだ。

 顔に傷が入ってる大人が平気で子供から何もかもを巻き上げる世界。

 そんな世界で子供が生きていくには容易じゃなかった」


「なんだか想像もつかないや。そういう世界は知ってるけど、ボクの生まれた環境からは程遠いからね」


「だろうな。なんたってお姫様なんだろ?」


「元だけどね」


「ま、そういう環境で生きるには腕っぷしが必要だった。

 だけど、子供のうちは大人一人や二人なら未だしも、徒党を組まれれば殺されかねない。

 だから、仲間が必要だった。その時に最初に出会ったのがザクロだったんだ」


「そっか。大切なお友達なんだね」


「あぁ、そうだな。本当に。だからこそ、今どこで何してんだか」


 脳裏に思い浮かべるは懐かしの友の顔。

 いつまでも色褪せずに鮮明に思い出せるのはきっと嫁を除けばザクロだけだろう。


「いつか必ず会えるよ」


―――数日後


 今日も今日とて獣王国に向かって歩いていると、ナナシ達一行で一番聴覚が鋭いヒナリータの耳がピクッと反応する。


「あっちの遠くから騒がしい声がする。あと、何か固いものがぶつかり合う音も」


「誰かが魔物と戦ってるのかもな」


「だったら、確認しに行くぞ」


 レイモンドの声に小高い丘を登っていくと、そこから見える百メートル先に数人の冒険者らしき人物が魔物相手に戦っていた。

 その人物達の服装の中にゴエモンは既視感を感じた。あの和装......まさか!?

「どうやらナナシの言ってることが正解みたいだな」


「なら、加勢しに行く?」


「そうだね。ヒナちゃんは無理せず動きを見てて――ってゴエモン?」


 ゴエモンは誰よりも先に走り始める。心が衝動的に体を動かしたのだ。

 あの服装は鬼人国特有の武士の服装だ。加えて、あの背中の桜の家紋。

 間違いない。俺と一緒に作ったものだ。なら、アイツは――


「ザクロー!」


「その声は.......まさかゴエモン?」


 桜の家紋を背負った一人の武士が振り返る。

 その人物にすぐさま駆け寄ったゴエモンは喜ぶ犬のように肩をガシッと掴んだ。


「ザクロ! ザクロだよな!? 生きてたのか!? 俺だ、覚えてるか!?」


「お、おう、ゴエモンだろ? 覚えてるって! つーか、今そんな場合じゃないだろ!?」


「お、おう、そうだったな......なぁ、お前少しやつれたか? 頬こけてるっていうか」


「あぁ、少しな.....ってだから世間話すんじゃねぇ!

 今ここら辺じゃ見ないデカい魔物が徒党を組んで現れて――」


「あぁ、それなら気にすんな。すぐに終わる」


 そう言ってゴエモンは立てた親指を後ろに向ける。

 直後、その背後ではナナシ、レイモンド、ミュウリンの三人による瞬殺劇が起きた。

 その光景にあんぐりと口を開けるザクロに対し、ゴエモンは苦笑い。


「ま、その反応になるよな。だけど、そういう強さを持った奴らだから気にしなくていい」


「あ、あぁ、強さはよくわかる......」


 呆然としているザクロにゴエモンはガシッと肩を組み告げる。


「それよりもさ、これまでのこと話そうぜ。積もる話もあるだろうしな」


「......ハァ、その強引さは久しぶりだなぁ。いいぜ、話そうか」


 それからというもの、少しばかり早い酒盛りが始まった。

 話題の中心と言うべき立ち位置にいるゴエモンは早速友を仲間に紹介する。


「こいつが同郷の親友のザクロだ。俺と同じくらい腕が立つ。

 そして、大の女好きで気が付けばどこかの女を囲っている色男だ」


「おい、その紹介はなんだ無意識に悪意をばらまくな。

 俺は別に好き好んで囲っていたわけじゃねぇ。勝手に好意を持たれただけだ」


「すいません。そのモテる秘訣を教えてもらぁぁぁぁあああああ! 痛たたたたたっ!?!?」


「ごめんねぇ~。人のこと言えないこのおバカさんがナナシさんって言うんだ。で、ボクがミュウリンだよ~」


「そんでもってオレがレイモンド。この子がヒナリータだ」


「どうも」


「ま、退屈しない愉快な奴らって感じで覚えてもらえればそれでいい」


 酒をグイッと飲みながら、赤らめた顔で仲間を自慢するゴエモン。

 そんな友人を見たザクロはクスッと笑って言った。


「みたいだな。雰囲気でその感じは伝わってくる。どうやら良き旅仲間に恵まれたみたいだな」


「あぁ、そうかもしんねぇな。そんで? そっちはどうなのよ?」


「こっちは男所帯で臭っせぇもんだぞ。同性って観点では気を遣わずに済むんだけどな。

 で? お前の方はどうなのよ? どっちの子と仲が良いんだ?」


「仲はどっちともいいぞ。だけど、お前が気にするような仲じゃないな。俺、嫁いるし」


「は? え、は!? 嘘、お前に嫁!? どこの物好きだよ!?」


「お前の妹」


「お、マジか......いや、まぁ、可能性は無くはなかったが、まさかお前酒の勢いに任せて!?」


「違う、逆だ」


 ゆっくりと顔を横に振ったゴエモンに対し、ザクロはそっと口を手で覆う。

 自分の身内の衝撃的な内容に驚きが隠せていない様子だ。


「だから、俺は責任取ったってわけ」


「お前、男だなぁ」


「そんなことより、お前のこっちでの旅を教えろよ。つーか、生きてるなら教えてくれよ」


 ゴエモンは何気なく話を振った。

 その瞬間、わずかにザクロの顔が暗くなる。


「......あぁ、いいぜ。つまんない内容だけどな」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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